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《精鋭部隊が防げなかったトランプ銃撃》警備の“最大のミス”――なぜ犯行現場の建物屋上に警察官を配置できなかったのか。シークレット・サービスの警備計画に不備?

集英社オンライン / 2024年7月17日 18時52分

〈突き上げた拳だけでない〉「特徴的なのは眉、横に広がった唇、支持者に目線がいくと表情が変わり…」銃撃直後のトランプ氏の”心理状態”を分析。一方、会見でのバイデン大統領は覇気がなく…〉から続く

7月13日(日本時間7月14日)朝に米ペンシルベニア州バトラーで起きたドナルド・トランプ前大統領銃撃事件。右耳を負傷したものの九死に一生を得たが、なぜ白昼に大勢の群衆の前で要人が撃たれるという悲劇は起きてしまったのか。警備上のミスをジャーナリストの黒井文太郎氏が解説する。

なぜ危険な屋根に警備を置かなかったのか…問われる警備の不備

発砲を防げなかった最大のミスとは

トランプ前大統領が助かったのは、まさに「運が良かった」の一言に尽きます。

犯人のトーマス・クルックスが使用したとされるDPMS製AR-15/5.56㎜ライフルは、連射機能がないだけで軍用の自動小銃と同等の性能・威力があります。有効射程は400ⅿ以上で、今回の犯人はトランプ前大統領からわずか130ⅿという距離から狙撃しています。

訓練を積んだ軍人などでなくとも、それなりに練習すれば充分に当てられる可能性が高い距離と言っていいでしょう。実際、クルックスは銃の所有者である父親と一緒に、しばしば地元の射撃場で練習していたことがわかっています。

そこで警備上の今回の最大のミスは、なぜそんな場所に銃を持った犯人をやすやすと行かせてしまったのか? ということになります。

米国では大統領は退任後も、生涯にわたって国家機関から警護を受けます。それを担当するのは、国土安全保障省の隷下の「シークレット・サービス」という組織です。今回もトランプ前大統領の警護計画を統括するのはシークレット・サービスの役割です。

ただ、シークレット・サービスは人員が限られていますので、警備に地元警察に協力を要請します。州警察、郡警察などです。そして、シークレット・サービスが主導して警備計画を検討・作成します。

通常、集会の会場内はシークレット・サービスが警備し、会場外は地元警察が警備します。今回も会場内はシークレット・サービスが警備しましたが、犯行現場の建物およびその周辺は地元警察が警備を担当しました。

集会はペンシルべニア州のバトラー郡という地方都市で行われたのですが、今回の警備では、バトラー郡警察の精鋭部隊のSWATチームはすべて会場内でシークレット・サービスの補佐に投入されており、犯行現場周辺の警備には、通常の警察署の警察官が投入されていたようです。

なお、シークレット・サービスは当然、会場を事前にチェックして警備計画を立てますから、まさにうってつけの狙撃ポイントである犯行現場の建物屋上に、警備の警察官を配置しなかったことが問題視されています。

それに対し、シークレット・サービスのキンバリー・チートル長官は7月16日、米ABCテレビで「その建物の屋根には傾斜があったので、危険なために警察官を配置していなかった」と説明しました。

しかし、これには批判が殺到しています。たいした傾斜でなかったからです。実際、会場の演壇後方でシークレット・サービスの狙撃手が待機していた建物の屋根より、ずっと勾配は小さいです。おそらくこの「狙撃最適ポイントである危険な屋根に警備を置かなかった」のが最大のミスです。

命取りとなった数秒の遅れ

シークレット・サービス主導の警備計画により、その代わりに当該の建物の内部に、隣接するビーバー郡の警察のSWATチームが配備されました。しかし、狙撃犯は外壁から屋根に上っていますので、警備チームは屋根および建物周囲に配置されなければ、効果的な警備はできません。

実際、現場で撮影された動画を米国の各メディアが検証したところ、犯人を最初に見つけたのは一般人で、その場で警察官に通報していますが、反応は鈍いものでした。

その警察官は服装などから地元の一般の警察官とみられ、さほど緊張感がなかったのが見て取れます。その後、目撃情報を得た建物内のSWATチームから不審者報告が上層部に伝えられました。その間の時間が無駄になっています。

なお、この地元警察からの情報がどういった経路で、どのくらいの短時間でシークレット・サービスに伝えられたかは、今後の検証を待つことになります。

日常的に連携行動していない複数の組織が絡んでいるため、迅速に情報が伝えられたか否かは重大な問題になります。

さて、こうして情報を受けたシークレット・サービスは、会場後ろの建物屋上で待機する「対狙撃班(CS)」の狙撃手チームに対応を指示します。

このCS(コードネームは「ヘラクレス」)はシークレット・サービスの大統領警護部門である「警護作戦室」の部局「特殊作戦部」の制服部隊の特殊チームで、会場での警備を統括する「大統領警護部」の黒スーツの特別捜査官チームとは組織が別系統ですが、ここは日常的に連携しているので、情報伝達にとくに支障はなかったものと思われます。

そして、CS狙撃手は犯人の発砲の前から犯人方向に照準を合わせていますが、すぐには狙撃していません。犯人の発砲があり、そこから急いで照準し直して狙撃し、犯人を射殺しました。

この数秒の遅れを批判する声もあるのですが、そこで何があったかは、正確にはやはり今後の検証を待つことになります。CSの主任務は遠距離狙撃なのですが、今回、想定外に近距離の標的だったので、対応が微妙に遅れたのではないかとの指摘もありますが、まだわかりません。

田舎の小さな町だからこそ起きた油断

また、報道されているかぎりでは、犯人に気づいた地元警察官がひとり、屋根に上ろうとして犯人に銃で脅され、上れなかったという経緯があったそうです。

屋根に上るために両手が塞がれていて、銃を持てなかったとの話もあり、やむを得なかった可能性もあります。シークレット・サービスの狙撃手は、そうしたやりとりを見て狙撃が遅れた可能性もありますが、それもまだ検証を待つ段階です。

今回の事件後、シークレット・サービスの幹部が「会場外の警備は地元警察の担当」と発言したことで、責任逃れだとの批判が湧きましたが、後にチートル長官は「全責任は自分にある」と発言しています。

ただ、警備計画の杜撰さはあるとしても、地元警察も会場外の危険性について、かなりの油断があったことは否めない印象です。

会場外の警備に緊張感がまったくなかったのは事実でしょう。米メディアの現地取材では、事前に地元警察が周辺住宅などの警戒パトロールをほとんどしていなかったことも明らかになっています。田舎の小さな町だからといって、やはり油断があったということでしょう。

なお、犯人の発砲直後のシークレット・サービスの動きはとくに問題はありません。大統領警護部の黒スーツ(特別捜査官)たちがトランプ前大統領を警護し、会場から速やかに避難しました。

さらに、重装備の「対襲撃班(CAT)が素早く会場内の警戒にあたってます。CATも特殊作戦部所属の特殊チームですが、彼らは制服部隊ではなく、特別捜査官の訓練を受けた精鋭部隊です。

文/黒井文太郎

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