トップ交代でラーメンチェーン「幸楽苑」大復活の衝撃…奇をてらわない原点回帰で客数が回復
集英社オンライン / 2024年7月24日 8時0分
〈ローソンついに非上場化…共同経営体制に移行する三菱商事・KDDIの狙いとその行先は?〉から続く
3期連続の営業赤字で沈みかけた幸楽苑ホールディングスが大復活を遂げている。2024年3月期に営業利益率0.1%というギリギリの黒字転換を実現すると、今期は2.3%まで高める計画を立てている。客数の回復も目覚ましい。2024年6月の既存店客数は前年同月比で1割増となった。
【図を見る】1年間で差がなくなりつつある「幸楽苑」と「日高屋」の客数の比較
同社では昨年6月に新井田昇氏が社長を退任し、父親の新井田傳氏が会長兼社長に就任したが、早くもトップ交代の効果が出ているようだ。
巧みなマーケティングで業績は回復するが…
幸楽苑の代替わりが行われたのは2018年11月。当時、幸楽苑はお子様セットのラーメンに従業員の「指の一部」が混入した問題からの回復が遅れており、さらにドミナント戦略を外れる遠隔地への新規出店や、「いきなり!ステーキ」とフランチャイズ契約をして店舗の転換を図るなど、経営は迷走気味だった。
2018年3月期に21億円もの減損損失を計上。32億円を超える純損失を出している。
実質的な二代目の新井田昇氏が社長に就任してからは、期間限定商品を毎月投入。テレビCMやSNSを活用したマーケティング策を駆使し、立て直しを図った。
2019年3月期の売上高は前期比7.0%増の412億6800万円、16億3600万円の営業利益(前年同期は7200万円の営業損失)を計上。滑り出しは上々だった。ただし、前期で巨額の減損損失を出していたため、代替わりによる黒字転換は半ばお膳立てされていたとも言える。
ここからが試練の連続だった。2019年の台風19号の水害で工場が操業停止に追い込まれ、240店舗が一時営業休止となったのだ。そしてその翌年に新型コロナウイルス感染拡大という悪夢に苛まれることになった。
2020年3月期の売上高は台風の影響で7.3%の減収、2021年3月期は3割もの減収に襲われた。
コロナ禍で幸楽苑はサービスの幅を広げた。「幸弁」という弁当の販売に踏み切り、カレーの提供を開始。ラーメンや餃子など店内で食べられる全商品をテイクアウトができる体制を整えた。さらにドライブスルーも開始。お粥などの朝食メニューの販売も行った。
外食を取り巻く環境が激変する中、あらゆる需要を獲得しようとしてラーメン店としての芯の部分を失うことになる。
トップ交代後の客数の劇的な変化
幸楽苑は郊外のロードサイド店が主軸の店舗展開を行っている。都市部や繁華街が中心の日高屋と比べて立地面では有利だった。ロードサイドへの出店に強いすき家は、吉野屋、松屋よりも回復が早かったし、同じ理由でコメダ珈琲店もドトールやサンマルクなどと比較して客数減の影響は限定的だった。
だが、幸楽苑の回復は遅れていた。2022年3月期は5.8%の減収、2023年3月期はわずか1.8%の増収だった。ところが、経営のかじ取りを父親の新井田傳氏が行うようになってからの立て直しは早かった。トップ就任は2023年6月。
2023年1月からの幸楽苑、日高屋の客数の推移を見ると、2023年初頭には日高屋の集客力は回復して前年を10~40%程度上回っている。一方、幸楽苑は前年の客数すら回復しない月が目立つ。
それでも幸楽苑は8月以降、ほぼすべての月で前年を上回った。2024年に入ってからは前年の10%増という好調ぶりだ。
消費者が選択しやすい価格帯とは?
復帰した新井田傳氏が手始めに着手したのがメニューの再構成だった。
幸楽苑の主力商品は490円の味噌、塩、醤油ラーメン。原材料や光熱費、人件費の高騰が続く中でも主力商品の値上げは行わず、セットを強化。好みのラーメンにギョーザやチャーハン、チャーシュー丼が付けられるメニューを設けた。単純に注文するよりも80円~150円ほど割安になるが、利幅が高いために値引きはしやすい。
また、ラーメンの価格はそれぞれ590円、690円、790円、890円の中に収まっていれば、商品を選びやすいなどの原理原則があるという。それを踏まえたうえで、味噌バターコーンや塩バターコーンを760円から690円に改めている。
830円だったプレミアム醤油も760円に改定。原則から外れている中途半端な価格帯のものを思い切って値下げした。
新井田昇氏が社長に就任してからは、季節ごとに変化する新メニューの投入、新型コロナウイルス感染拡大によるメニュー構成の変更、物価高を背景とした一部商品の値上げなどを行った。
これらはいずれも創業当初の原理原則から外れていたものだった。幸楽苑の迷走ぶりを象徴したメニューがある。2020年に期間限定で発売したチョコレートラーメンだ。
醤油ラーメンをベースにカカオオイルを加え、チョコレートとショウガをトッピングしたというもの。その味については賛否が分かれるとして、この商品がバズを狙ったマーケティング先行のものであることは明らか。
確かに話題になったのは間違いなく、その後も期間限定で発売されている。しかし、幸楽苑の客層はロードサイド主体という特性上、トラックドライバーやタクシー運転手、現場作業員などがメイン。リピート利用を度外視した商品の投入には疑問が残る。
その点、価格のお得感を全面に出し、満腹感が味わえるセットメニューを強化したトップ交代後の幸楽苑の方がファンの信頼度は高まるだろう。
幸楽苑の代表的なメニューである「中華そば」はかつて290円だった。現在は490円だ。値上げによって客離れを引き起こしたとする報道もあるが、その価格に見合う価値が提供できている限り影響は限定的なはずだ。
家計調査によると、コロナ禍以降で消費者は外食にかける金額を増やしている。その代わりに外食頻度が減っているのだ。安いことだけがアピールポイントの時代は終焉を迎えた。
幸楽苑は価格先行から質重視の新たなフェーズに入ったように見える。
取材・文/不破聡
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