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「宝くじ2億円当選」するも、食べ歩きに全つっこみ! 1日10軒以上、5年間で全額使い切った若者が20年後にたどり着いた、美味しさの先にある“究極の料理”

集英社オンライン / 2024年7月24日 17時0分

大学生だった20歳のとき、宝くじで2億円の高額当選。そのお金で10代から続けていた“食べ歩き道”を加速させ、著書「美食の王様」シリーズを出版。それから「美食の王様」として活動を続ける来栖けいさん。現在は自身がオーナーを務めるレストラン「Bon.nu(ボニュ)」で1日3組限定のオリジナル料理を提供しているが、“食の本質を極めた”調理法は超絶シンプルかつ異次元。「僕の真似は誰にも絶対にできない」と言い切る食哲学はとんでもなく深かった。

【画像】1日10キロ以上食べ続けた男が振る舞う料理とは…

1日10キロ以上食べ続け、「異常な量を食べ歩く変なヤツがいる」と有名に

──宝くじ2億円が当たった瞬間、どんな気持ちでした?



来栖けい(以下同) 
夜、当選がわかったんですが頭は真っ白(笑)。とりあえずその日は寝まして、朝起きてもう1回確認し、宝くじ1枚だけなのに、カバンをマトリョーシカのように何重にもして銀行に行きました。

そこで“高額当選者の心得”みたいな話をレクチャーされ、無駄遣いをしないように諭されましたが、僕は当たる前から食べ歩きをしていたのでお金の使い道に迷いがなく、それ以外に使うっていう発想はまったくなかったです。

当時は1円単位で切り詰めて外食していましたけど、これで金額を気にせずなんでも食べられるなと心が躍りました。

──なぜそこまで食に興味が?

子供のころから特別な日は近所のフレンチレストランに行くとか、食が好きな家庭環境だったんです。あと僕自身、興味のあることは中途半端にできない性格で気になるものは全部食べようって思っていました。しかも、食べる量が異常なんです。1日10キロ以上食べちゃいますから。

──10キロ以上!? 何軒ぐらい回るんですか?

まず朝はパン屋を何軒もバーっと回って、そこからケーキ屋、ラーメン屋。で、昼はレストランでランチを食べて、そのあとまたラーメンとかパンとかケーキを食べる。夜はレストランを2軒ぐらいはしごして、最後はまたラーメンでしめるみたいな。そんだけ食べてもお腹がいっぱいにはなりません。結果、1年間に4000万円ずつ、2億円を5年間で使い切りました。

──特異体質……。

それもあるから、僕の真似は絶対できないと思いますよ(笑)。

──そのころは大学生で親御さんから、仕送りをもらいながら食べ歩きをしていたわけですが、当選金2億円のことは言わなかったんですか?

言わなかったけど、2004年に『美食の王様』って食べ歩きの本を出したときバレましたね。内容がどう見ても仕送りで行ける額じゃない。なにか悪いことしているか宝くじが当たったんだろうなって思ったらしいです(笑)。

料理には「旨味」の料理と「香り」の料理がある

──「異常な量を食べ歩く変なヤツがいる」とマスコミ関係者の耳に入ったことから、『美食の王様』の出版につながり、ヒット。来栖けいの存在はいろんなメディアでも話題になりました。その後、自らレストランをオープンし、“食べ手”から“作り手”にシフトしたのはなぜでしょう?

“食”の世界に疑問が出てきたからです。メディアで、やたらと料理人が持てはやされることも、それをめちゃくちゃ浅いレベルで評論する風潮もなんか違うなと。で、誰にやれって言われたわけじゃないけど、勝手な使命感で食べ手をやめて作り手に回り、食の本質を伝える料理を出していこうと思ったんです。

──食の本質を伝える料理とは?

前提として、まずみんな美味しいものを作ろうと思いすぎ。美味しいものっていうのはパズルと一緒でピースを当てはめていく、要は足りない味を補っちゃえば簡単に作れます。だから僕のなかで美味しさは最低条件。大事なのはその先で、素材の持っているものを生かし、伝えきれているかってことに僕は徹しています。だから基本素材は組み合わせない。

例えばおいしいトマトがあっても、そこにウニを合わせたら個性が半減して、トマト本来のよさが薄まってしまう。もっというと、トマトは畑でもぎたてを食べるのが1番美味しいんです。でも、それはただの素材で料理ではない。

なので調理によって採れたてのトマトよりもいかにおいしく仕上げるしかない。うちはそこに徹しているので、どこにもない料理になるんですよ。

──それって自然の美味しさを超えた美味しさを素材から引き出すってことですよね。どうしたらそんな料理を作れるんでしょう?

料理には鉄則があって、素材の香りのない料理って美味しくないんですよ。でも世の中の料理の9.5割は旨味の料理で、さっととった一番出汁のお椀なんかはまだ香りがあるけど、最近のほとんどの和食は旨味だけで香りが残っていません。

フランス料理も1日かけて作ったコンソメスープとか、材料を全部仕込んじゃうから旨味は出るけど香りはなくなってしまう。

香りづけにハーブを使ったり薪で焼いたりした料理も、それはハーブや薪の香りであってメインの食材の香りじゃありません。旨味と香りって反比例しちゃうんですよ。

じゃあ、香りの料理を作るためにはどうするか。まず短時間で作らないと無理なので、うちはオマール海老のビスクは5分で作ります。作り方はオマール海老をぶつ切りにして、フライパンで焼いて、ミキサーに入れて、水と塩だけで回してこして、完成。それだけです。

──究極の“シンプル”料理ですね。

ここまでやって初めて「素材を生かしてシンプルに」といえるのであって、みんながいうシンプルとは意味合いがまったく違うんです。例えばお出汁を張ったお椀にポンと松茸が入ったものをシンプルっていうけど、これはカツオと昆布の出汁で味つけをしていているので、めちゃくちゃ複合的な構成で全然シンプルじゃないんですよ。

2億円が当たらなければ、ここまで深いことはできなかった

──おいしいものの“完成形”をイメージできるのは、やはり2億円をつぎ込んだ食べ歩きの成果でしょうか?

2億円がなくても結局、同じようなことをしていたと思うけど、ここまで深いことはできなかったと思います。何万軒も食べたからいいって問題じゃないけど、やっぱり10軒しか外食していない人と2000軒行った人とは全然違う。ある程度の軒数、ある程度の経験をしないと見えてこないものはあります。

誰にもできない経験だという自負もあって、だからこそ食に関してどんなことも言い切れちゃうんですよ。

──そんな来栖さんから見て、現在の日本の食文化はどうですか?

まだ遅れているかなと。例えば高級品だからってウニとキャビアとサーロインをあわせて「すごい」って持てはやすとか意味がわからない。だって全部濃厚な食材なのにあわせて出す時点でおかしいって普通はわかるじゃないですか。でも、それを「美味しい」と思ってしまう。

そういう感覚で食を捉えている人は、僕と見ている世界が全然違うんだなと思います。

──来栖さんが考える「食の本質」を“来栖流派”として広めるつもりはないんですか。

僕のやり方を広めるというより、自分の料理を通して「本当の食ってこういうことじゃない?」ってことを伝えたいと思ってやっています。お客さんは1日3組だけですが、そこからちょっとでもいいから、枝葉が広がっていけばいい。そんな地道なことを日々コツコツやっていますね。

取材・文/若松正子 撮影/わけとく

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