〈華麗なる一族、親子トップ2人が辞任〉報告書で暴かれた小林製薬のヤバすぎる製造管理体制…従業員が異変を報告も品質管理担当者は「青カビはある程度は混じる」記者会見は開かず逃げ切りか?
集英社オンライン / 2024年7月23日 20時6分
〈〈紅麹・死亡調査対象は100人〉増え続ける死亡報告は「過去最悪レベル」グダグダの調査報告に厚労相は「もう任せてられない」健康被害を訴えた消費者は「購入履歴がホームページで確認できない」〉から続く
サプリメント「紅麹コレステヘルプ」を摂取した人に健康被害が続出している問題で、小林製薬は「消費者への注意喚起や製品回収の判断が遅れた。公表(が遅れたこと)は適切ではなかった」と不備を認める調査報告書を発表した。その上で小林章浩社長と父親の小林一雅会長がいずれも引責辞任すると発表した。だが、報告書には消費者の健康に直結する重大情報を無視したという驚くべき実態が記されていた―。
日本のビバリービルズと呼ばれる芦屋にある”小林家”とずさんな管理体制について詳述された小林製薬発表の報告書
「ドン」の辞任も今後の影響力は維持?
小林一雅会長はアイデア製品を次々と生み出し同社の規模を拡大し、「中興の祖」「ドン」と呼ばれている。最近まで息子の章浩社長よりも大きな力を持つとみられていた。その一雅氏は「特別顧問」の名誉職に、章浩社長は補償担当取締役に就き、後任社長には8月8日付で山根聡専務が就任する。
ただ一雅氏は同社の大株主で、実際に経営に口出ししなくなるかどうかは不透明だ。同社は小林父子の人事は健康被害に関する行政への報告や公表が遅れた責任をとるためだと明言。山根氏にも責任があるとし、章浩氏とともに6カ月間の役員報酬の一部を返上させると公表した。
サプリの健康被害は3月22日に同社が発表して明らかになったが、サプリ自体の安全性とともに発表までの同社の対応も強い批判を浴びてきた。
「小林製薬は1月15日にサプリを飲み腎疾患で入院した人が出たとの報告を医師から受け、さらに2月27日までに6人が入院したことを確認していたのに使用中止を呼びかけなかったのです。発表するまでの間に摂取を続け重症化した人がいる可能性は高いとみられています。
にもかかわらず、これまで会社が公表の遅れの不備を公式に認めたことはありませんでした」
そう話す在阪記者はその理由を解説する。
「3月29日の記者会見で小林章浩社長は、同社のガイドラインは“製品と健康被害との因果関係が把握できれば製品を回収する”と定めていると説明しました。しかし、原因が特定できなくとも、自社製品を口にした人の中で健康被害が出ていることが疑われれば、まずそのことを公表し回収を始めるのが常識だと思うのですが。
小林社長は『一番大事なのは因果関係。(健康被害の件数が)4、5件あったが(サプリとの)因果関係はわからなかった』から、回収判断をすぐに出さなかったことはやむを得なかったと主張しました」
ちょうどこの会見のさなか、厚生労働省が紅麹コレステヘルプや原料から青カビの天然化合物である『プベルル酸』が検出されたとの報告を小林製薬から受けたと公表し、それまで会見の中でこの事実を口にしなかった小林社長らはさらに突き上げられることになった。
「プベルル酸は厚労省の分析で腎障害を引き起こすことが確認されました。プベルル酸は紅麹から生まれることは考えにくい物質ですが、同社の大阪や和歌山工場の製造ラインから青カビが検出され、この青カビを培養するとプベルル酸が生成されました。工場の衛生管理の不徹底による異物混入が原因とみられています」(社会部記者)
問題を深刻化させた小林製薬の自己解釈
結局、小林製薬は4月に東京地裁所長などを務めた大物弁護士らによる事実検証委員会をつくって調査を開始。同委が7月22日にまとめた調査報告書を基に、23日に取締役会を開き、報告書に沿う形で会社の立場を表明した。問題を組織的に隠蔽しようとの意図はなかったとしながらも、
①健康食品の安全性に対する意識が不十分
②今回問題発生後、行政への報告は「因果関係が明確な場合に限る」と考えて原因究明に注力し健康被害発生・拡大防止を最優先に考えることができなかった
ことなどで消費者への注意喚起や製品回収の判断が遅れたと認めている。
その上で今回の問題に「適切な対応を行えなかった」として被害者らに「心より深くお詫び申し上げます」と謝罪した。3月29日の会見での小林社長の主張や会社の対応を間違いと明確に認めた形だ。
「大きな流れでは当然の結末ですが、報告書にある同社の具体的な対応を見ると、製造から問題への対処まで、驚くようなことが明らかになりました」
そう話す在阪記者が報告書を読み解く。
「1月15日の最初の報告は九州の病院に勤めるA医師からのものでした。透析治療中の患者が昨年12月初旬から問題のサプリを摂取し始め、2 週間程度で急性腎不全を起こしたとの内容でした。
連絡を受けた会社のお客様相談室は医師による重篤性の高い報告であるため安全管理担当者に連絡をしています。
A医師は1月17日には、摂取からの時間を考えれば急性腎不全と関係があるのはこのサプリしかない、と伝えましたが、安全管理担当者がA医師に会いに行ったのは2月29日になってから。
その場でA医師は、患者は尿細管間質性腎炎で、重篤度は『生命を脅かすもの』だと強い危機感を訴えています。この時から発表まで、さらに3週間以上かかっているのです」
2月1日には日大学医学部腎臓高血圧内分泌内科の阿部雅紀主任教授のチームが日大板橋病院(東京都板橋区)で昨年12月以降に紅麹コレステヘルプを摂取した3人が急性腎障害を起こし治療を受けているとの情報を会社に報告している。
このとき病院側が小林製薬に「過去に『紅麹コレステヘルプ』を服用して同様の腎障害が起きた患者さんがいないか」と尋ねたが、同社は「特にそういった報告はないようです」と回答し、ここでも適切な対応はなされなかった。(#4)
この日の会社の行動について調査報告書は、「安全管理部長」と「信頼性保証本部長」らがこの情報を知りながら「因果関係が不明であるため現時点で行政報告は不要」との方針を共有したと指摘している。
「因果関係がわからないうちは行政への報告も回収もしない、というこのナゾの“指針”はその後も会社の行動を縛り続けます。食品健康被害が発生したときの国の報告のガイドラインにはそのような基準はどこにもないのに、小林製薬は勝手に解釈してこの指針を守ってきていたと調査報告書は指摘しています」(在阪記者)
報告書で明らかになったずさんな管理体制
じつは同社は2月27日に医師兼弁護士のB氏に、3 月13日には弁護士のC氏に行政報告の必要性などに関して相談もしている。両氏は調査の継続はすべきと指摘しながらも、「現時点では行政報告を行う条件は整っていないのではないか」(B氏)、「(会社の報告基準に照らせば)報告対象にあたらない」(C氏)と意見を述べ、会社の姿勢が変わることはなかった。
「結局、小林製薬が公表やむなしと考えたのは、3月15日に行った成分検査で問題のロットのサプリに『意図しない成分』が含まれているとの分析結果が出たからです。
この物質が健康被害と因果関係があるのかは依然分かっていませんでしたが“関連する可能性を否定できない”との判断から、3月22日に公表することが3月18日午前に決まりました。
ところが翌3月19日の会議で、準備に時間がかかるとの理由で公表時期は3月26日午後に延期されることが決まったんです。
結局、3月22日午前に小林会長も出席したミーティングで、同日午後5時に発表することに落ち着いたと報告書に書かれていますが、このあたりのバタバタの経緯には釈然としない部分もあります」(社会部デスク)
ここまでが発表が遅れた内幕だが、報告書の後段にはさらに恐ろしい内容が書かれている。
「サプリの製造体制に関する記述です。大阪と和歌山の工場が恒常的に人手不足の状態にあり、問題のサプリの原料である紅麹の製造ラインでは『品質管理を含めた業務については、現場の担当者にほぼ一任されていた。
そして、通常業務においては、何か異常が生じない限り、当該担当者から工場長も含めた上司に対して特段の情報共有はなされていなかった』と報告書は指摘しています」(在阪記者)
さらに、報告書では今回の原因になったかどうかはわからないとしながら、大阪工場の従業員への聞き取りで、
①2022年11月上旬の問題の原料ロットの製造時、乾燥機が壊れ原料ロットの紅麹菌が一定時間乾燥されないまま放置されていた
②紅麹を培養するタンクの蓋の内側に青カビが付着していたことがあり、品質管理担当者に伝えると『青カビはある程度は混じることがある』と言われた
③乾燥工程の設備の一部である排気ダクトの深奥部が目詰まりしているのが見つかり、適切に排気ができていなかった可能性がある
との証言を得たというのだ。
しかも小林製薬は3月22日の公表までに、製造担当者に製造過程の問題を尋ね実態を把握するということをしてこなかった、とも指摘している。
紅麹コレステヘルプの摂取が原因で死亡した可能性があるとして調査中の人は100人に上り、過去最悪レベルの食品健康被害事件になる恐れが出ている。
このサプリを飲み続けた末、腎臓機能が低下し今も検査を受け続けているという女性は「会長と社長の退任のニュースを聞いて複雑な心境です。解任なのか、辞任なのか。どちらにせよ、最後まで責任を全うすべきです」と話した。
小林製薬は23日、報告書や役員人事について「記者会見を開く予定はない」と説明している。これだけの健康被害を生みながら、それで済まされるのだろうか。
※「集英社オンライン」では、今回の「紅麹」をめぐる健康被害について情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(Twitter)まで情報をお寄せ下さい。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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