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〈パリ五輪バスケ〉「レブロン、ヤバイです」八村塁が即答…オリンピック直前の親善試合でレブロン・ジェームズが見せた覚悟と代表ヘッドコーチが滲ませた自信

集英社オンライン / 2024年7月27日 11時30分

〈パリ五輪〉バスケ男子アメリカ代表はNBAのスターだらけ。その合宿先で見た金メダルの可能性とは…松井啓十郎が直撃取材「足元をすくわれる可能性があるのではないか」〉から続く

7月28日、いよいよ登場する金メダル筆頭候補のバスケットボール男子アメリカ代表。金メダル奪取の確率は? アメリカ代表の合宿を見学、カナダとの親善試合を観戦した松井啓十郎が語る。

【画像】レブロン・ジェームズのシュート練習の様子

アメリカは憧れの存在ではなく、倒すべき存在へ

「今は1992年ではない。世界のチームや選手は進化している。ワールドカップやオリンピックで勝つのは簡単ではない」

2023年のワールドカップ、準決勝でドイツに敗れた際のアメリカ代表HC(ヘッドコーチ)、スティーブ・カーの敗者の弁だ。



カーがアメリカ代表のHCに就任したのが2021年12月。初めて指揮した国際大会で大きな屈辱を味わっている。

1992年、バルセロナオリンピックでアメリカ代表“ドリームチーム”は平均得失点差44点で圧勝。対戦国の選手が試合前後にサインや握手を求める姿は、もはや勝負ではなくショーだった。

しかし、カーの発言通り時代は変わった。

1992年以降、オリンピックでこそアメリカ代表は2004年のアテネオリンピックで銅メダルに終わったものの、それ以外の大会では優勝している。

しかし、8度あったワールドカップでは、NBA選手を派遣したにもかかわらず、3大会しか優勝できていない。

近年のNBAでもレギュラーシーズンMVPには、アメリカ籍以外の選手たちが顔を並べている。

1992年、世界がドリームチームの背中を追いかけ始め、いよいよ追いつこうとしている。もはや、アメリカは憧れの存在ではなく、倒すべき存在となった。

アメリカ代表の少しの油断も致命傷になりかねない。

しかし、アメリカ代表の練習を見る限り、油断は皆無だった。

スタープレイヤーたちが中学、高校生のやる基礎練習を黙々と

練習内容は、ある意味で退屈。基礎の徹底と国際ルールへの対応にほぼすべての時間が割かれていた。

片足を軸足としてフロアに固定、もう一方の足を動かすピボットの練習。状況に応じパスを左右どちらの手で出すかの反復。ディフェンスにおけるポジショニングの確認。国際ルールとNBAルールでトラベリングの判定は微妙に変わるため、笛を吹かれないためのドリブルの初動の確認など。

中学生や高校生がやっていてもおかしくない練習が、幾度となく繰り返された。そんな派手さとは無縁の練習を年収何十億のスタープレイヤーたちが黙々と取り組んでいる。

さらに驚いたのは、練習中に最も声を張り上げているのが、2008年の北京、2012年のロンドンで金メダル獲得に貢献し、3大会ぶりにアメリカ代表に戻ってきた、今年40歳になるレブロン・ジェームズだったことだ。

その表情や額に刻まれたシワは確かに年齢を感じさせる。しかし、その鍛え抜かれた肉体はアメリカ代表のどの選手よりも分厚く、若々しかった。

完璧に体を準備して合宿に参加する姿勢、練習でも一切手を抜かない桁違いのストイックさに驚き、思わず日本代表の八村塁にメールをした。レブロンは普段から、これほどストイックなのかと。ロサンゼルス・レイカーズでレブロンとチームメイトであり師弟関係でもある八村からの返信は素早かった。

「レブロン、ヤバイです」

レブロンのキャプテンシーに、より驚かされたのが7月10日に行われたカナダ代表との親善試合だった。

カナダ代表もスターターはNBAのスター選手が並ぶ。

初の親善試合にアメリカ代表はバタバタした一面も時折見せたものの、86—72で勝利。

試合後、アメリカ代表の選手が仲のいいカナダ代表選手と和気あいあいと握手を交わしていた時だった。カーが用意してくれたゴール裏の最前列の席からはっきり見えた。

レブロンの「握手は後だ」と言わんばかりの険しい表情で、チームメイトを大きなジェスチャーで集める姿が。ハドルを組むとレブロンは言った。

「勝つには勝った。だが過去最悪の内容だった。ここから這い上がろう」

FIBAランキング26位・日本代表も可能性はゼロではない

幸運なことに、僕は田臥勇太、渡邊雄太、八村塁という3人の日本人NBA選手と日本代表としてともにプレーする機会に恵まれた。その世界がどれほど厳しいのか、彼らを通して垣間見た。そんなNBAの頂点にいるのが、このレブロン・ジェームズと言う男だ。

もちろん、カーの「世界のチームや選手は進化している」という言葉は、日本にも当てはまる。

日本人選手がNBAのコートでプレーする姿は、もはや日常となった。NCAAディビジョン1でプレーする日本人選手も毎年のように増え続け、日本代表の富永啓生のように身長190センチに満たないながらシューターとして大活躍する選手も出現した。

大学からアメリカに挑戦した富永のみならず、アメリカでのプレー経験のない河村勇輝までもが、先日NBAチームとエグジビット10契約を結ぶことが決まった。

この契約は無保証だが、シーズン開幕前にNBAと下部組織であるGリーグのチームを一定期間行き来できる。本契約までの道のりは険しいが、渡邊雄太が同契約から本契約を勝ち取ったように、間違いなくNBAへと続く第一歩となる。

アメリカの大学から、Bリーグから、さまざまなルートでNBAを目指す日本人選手は、今後も増え続けるはずだ。

もちろん、世界各国の成長速度は日本以上に著しい。パリ五輪に出場する12カ国は強豪ぞろいだ。

2023年のワールドカップ優勝国のドイツ。オーストラリア、カナダ、フランスなどの主力選手はNBAの所属チームでエースクラスが揃っている。

特にフランスは昨季のNBAでルーキーオブザイヤーを受賞した224センチのビクター・ウェンバンヤマがいる。“エイリアン”と呼ばれるウェンバンヤマは、今までのバスケの常識を全て覆しかねないポテンシャルを秘めている。

さらに、チームの総合力では一段落ちるものの、ギリシャはヤニス・アデトクンボ、セルビアはニコラ・ヨキッチと、個の能力でアメリカ代表を打ち破る能力を秘めるエースがいる。

7月21日の親善試合ではFIBAランキング33位の南スーダンがアメリカ相手に100−101とあわやの接戦を演じた。どの国もアメリカ相手に、ビッグアップセットを起こして不思議ではない。もちろんFIBAランキング26位の日本代表もその可能性はゼロではないはず。

借りは倍にして返さなければ気が済まない男

合宿4日目、再びカーと話す機会があった。忙しいカーにできる問いは、ひとつかふたつ。これからパリオリンピックが終わるまで、何百、何千回と聞かれるであろう「優勝できそうか?」という問いは飲み込んだ。

日本からのお土産を無事渡すことができたので満足しようかと思ったが、再会した日に「家族は元気かい?」と聞かれ僕の家族のことは話したが、カーの家族のことは聞いていないことを思い出した。

「スティーブの家族は元気?」

見たことないほど目尻に深いシワを刻みながら、カーは嬉しそうに「先日、孫が生まれたばかりなんだ」と教えてくれた。そして続けた。

「パリには家族を連れて行くんだ」

その表情と言葉にカーの自信を垣間見た気がした。

現役時代、練習中にジョーダンと本気の殴り合いをしたエピソードを持つカー。ジョーダンにシュート力よりも先にその負けん気を評価された負けず嫌いが、愛する家族の前で、うつむく姿を見せるつもりなどないはずだ。

ラスベガス滞在を終え帰国。

再会の喜び、そして練習や親善試合を特等席で見学させてもらえたことのお礼のメールをカーに送った。その返信がとてもカーらしかった。

「昔、東京でおもてなししてもらったお返しができてよかったよ」

カーが忘れたはずはないだろう。東京でカーと出会った1996年。その年の冬、僕は家族でカーが住むシカゴの自宅を訪問し手厚く歓迎してもらっている。

ブルズの練習場のコートにも立たせてもらい、フィル・ジャクソンHCのサインがもらえるようにも取り計らってもらった。日本でもてなしたお礼など、28年前に十分すぎるほど返してもらっている。

それどころか、38歳になった僕がキャリア最終盤にいることは間違いないが、カーとの出会いがなければ、これほどのキャリアを歩めなかったことは間違いない。お礼をいくらしても足りないのは僕の方だ。

最後におもしろみの欠片もないパリオリンピックの優勝国予想をして、この文章を終わりたいと思う。

競る試合もあるだろう。ケガやファールトラブル、思いがけないアクシデントも起こるかもしれない。それでも、8月11日に行われるバスケットボール男子決勝後、表彰台の一番高い場所に立っているのはアメリカ代表だ。

アメリカ代表を率いるのは、昨年のワールドカップ準決勝で敗れた苦い経験を持ち、借りは倍にして返さなければ気が済まない男、スティーブ・カーなのだから。

取材/松井啓十郎 構成/水野光博

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