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グローバル経済はまだまだ続くのか? 世界を直接、支配をせず「秩序」を作ったアメリカが、変貌する可能性はあるのか?

集英社オンライン / 2024年7月27日 17時0分

不穏な兆しが漂うグローバル経済。それは一時の変調なのか。いや、そうではない。米国が主導してきた「秩序」、すなわちグローバル化した「世界」の終わりなのだ。そのように主張する『「世界の終わり」の地政学 野蛮化する経済の悲劇を読む』より一部抜粋、再構成してお届けする。

【画像】アメリカが第二次世界大戦後に世界支配しなかったワケ…

ここでは、第二次世界大戦が終わり、唯一の戦勝国となったアメリカが、世界支配ではなく、グローバル化という「秩序」をもたらす道を選んだ理由を分析する。

第二次世界大戦後にアメリカが同盟国にもちかけた取引とは?

アメリカが真に本領を発揮したのは、第二次世界大戦が始まってからである。3年に及ぶ猛烈な軍事動員を経てアメリカは、史上最強の遠征能力を持つ国となったばかりか(複数の作戦区域で、統合された大規模な軍事行動を同時に展開することができた)、終戦時にはすべての敗戦国を占領した唯一の参戦国となった。



それだけではない。ローマ、ベルリン、東京へと進軍する間に、3つの大陸と2つの海盆における経済、人口、物流の重要拠点を掌握した。また、他国への武器貸与や陸海空軍共同の直接攻撃により、西半球[南北アメリカ大陸]と東半球[ユーラシア・アフリカ大陸]の間にある重要な攻撃拠点をすべて確保した。

戦時中の巨大な海軍力も相まって、アメリカは知らぬ間にヨーロッパやアジア、金融や農業、工業や貿易、文化や軍事の問題を決定づける存在となった。

ある大国が、新たなローマ帝国として世界を支配する歴史的瞬間があったとすれば、このときが、まさにその瞬間だった。新しい帝国の候補を募るべき正当な理由もあった。ドイツで砲火が止んだ直後から生じた、核をめぐるソ連との競争である。

だが、そんな世界支配は起きなかった。

その代わりにアメリカは、戦時中の同盟国に対して、ある取引をもちかけた。アメリカは自国の海軍(戦争を生き延びた唯一の大規模な海軍)を使い、世界中の海洋を監視し、あらゆる交易を保護しよう。

またアメリカは、自国の市場(戦争を生き延びた唯一の大規模な市場)を同盟国に開放し、あらゆる国がアメリカへの輸出で富を取り戻せるようにしよう。アメリカがこの戦略であらゆる国を包み込めば、その仲間は2度と他国からの侵略を心配する必要がなくなるだろう、と。

ただ、そこには1つだけ問題があった。アメリカは冷戦を引き起こそうとしており、各国はどちらかの側につかなければならない。安全を確保し、富を増やし、好きなように経済や文化を発展させたければ、アメリカを支持し、ソ連からアメリカを守らなければならない。

つまりアメリカは、世界規模の帝国を築く代わりに、賄賂を贈って同盟を結び、ソ連を封じ込めようとした。この協定は、ブレトンウッズと呼ばれる。ノルマンディ侵攻直後にアメリカがこの取引を初めて提案したニューハンプシャー州のスキーリゾート地にちなんだ名称だ。

こうして、第二次世界大戦後の自由貿易時代が生まれた。要するに、グローバル化の時代である。

なぜアメリカは世界支配のチャンスを手放したのか?

だがこれは、一種の逃避のように見えないだろうか? アメリカは勝利を目前にしながら、世界を支配する帝国になるチャンスをなぜ手放したのか?

まず、数の問題があった。1945年当時の西欧の人口は、アメリカの人口とほぼ同じだった。これはソ連の人口とほぼ同じでもある。人口の多い東アジアや南アジアを別にしたとしても、終戦時のアメリカには、それだけの領土を維持できる力がなく、単純に計算してみればわかるように、世界規模の帝国を運営できるほどの占領軍を招集することもできなかった。

距離の問題もあった。アメリカ海軍の力をもってしても、大西洋や太平洋は巨大な堀のようなものであり、いわば諸刃の剣だった。水平線の数千㎞彼方に守備隊を常駐させるのは、物流面から見ても範囲という点から見ても、とても現実的ではなかった。

アメリカがその後の数十年間で気づいていくように、現地の人々が望んでいない場合、地球の反対側の国を占領下に置くのは難しい。朝鮮半島、ベトナム、レバノン、イラク、アフガニスタンなど、一度に一か所ずつしか管理しようとしていなかったにもかかわらず、たいていは対処しきれなかった。

ドイツやフランス、イタリア、トルコ、アラブ諸国、イラン、パキスタン、インド、インドネシア、マレーシア、日本、中国(および韓国、ベトナム、レバノン、イラク、アフガニスタン)をすべて同時に占領すればどうなるかは、想像するまでもない。

地理の問題もあった。ソ連は巨大な大陸国家であり、大規模で動きの遅い陸上部隊を備えている。それに対してアメリカの軍事力は、同盟国のなかでは最大だったかもしれないが、その力は主に海軍力だった。アメリカの軍事力の大半は水を必要としており、最寄りの友好国の港から1600㎞も離れた陸地で戦うことを想定していない。そのため、ソ連の兵士と一対一で戦うという選択肢はありえなかった。

文化の衝突という問題もあった。アメリカは、近代世界初の民主主義国家だった。民主主義国は、自国を守り、独裁を打破し、真実や正義などのために闘う。それなのに、現地の人々から搾取することを明確な目的として、長期にわたり占領するというのはどうだろう?そんなことはなかなか受け入れられないに違いない。

組織的な性質のミスマッチという問題もあった。アメリカが連邦国家(州政府が中央政府と同程度の権力を行使する)なのには、それなりの理由がある。この国では、安全保障上有利な地理的条件と、豊かな経済をもたらす地理的条件とが相まって、連邦政府がするべき仕事があまりなかった。アメリカ史の最初の100年ほどの間、連邦政府が常に担っていた仕事と言えば、道路の建設や移民の規制、関税の徴収ぐらいだった。

このように歴史の大半にわたり統治を必要としてこなかったため、アメリカには卓越した統治の伝統がない。それを考えれば、アメリカの2倍もの面積がある外国の領地を管理することなど、とてもできなかったに違いない。アメリカ人は統治が本当に苦手なのだ。

ソ連に対抗する帝国をつくりあげられない(あるいはそのつもりがない)のであれば、アメリカは同盟国をつくる必要があった。十分な効果を生み出せるほど数が多く、アメリカからの距離を縮められるほどソ連に近く、アメリカの海軍を水陸両面で補強できるほど陸上戦闘に熟達し、自国の防衛費をまかなえるほど裕福で、自国の独立を維持するために必要とあらば血を流す覚悟のある同盟国である。

自国の領土にアメリカの占領軍が駐留し、自国の企業の役員室にアメリカの税関職員がいるような状況では、そのような同盟国を確保することはできない。

グローバル化という「秩序」

だが、アメリカが世界規模の帝国を求めなかったいちばんの理由は、アメリカがすでに帝国を1つ持っており、それ以上の帝国を望まなかったからだ。アメリカが北米大陸に持っている有益な土地は、かつてのいかなる帝国の土地よりも高い潜在力を備えている。

終戦時にはまだ、アメリカはそれを利用し尽くしてはいなかった。それを利用し尽くすには、さらに数十年は必要だった。人口密度を考慮すれば簡単に、現在でもなお利用し尽くしてはいないことを立証できる。

それなのになぜ、息子や娘を海外に派遣し、現地の人々と毎日流血の戦闘を繰り返し、地球規模の帝国を維持する必要があるのか? デトロイトやデンバー周辺の道路の建設現場で働けば、そんな兵士と同じ程度の給与を手に入れられるというのに?

アメリカは従来の国際政治から決別して、戦後に勝者が戦利品を奪う慣行を放棄しただけではない。人間の存在の質にまで影響を及ぼし、人間の生活条件を根本的に変えた。

終戦時にアメリカは、ブレトンウッズを利用してグローバル化という「秩序」を生み出し、ゲームのルールを一変させた。同盟国や敵国を従属させるのではなく、平和と保護を提供した。それまでいがみ合っていたほとんどの帝国(数世紀にわたり、立場を変えながら過酷な競争を繰り広げてきた国々)を同じチームに引き入れ、地域の地政学を変化させた。

それにより、帝国間の敵対関係が、国家間の協力関係に置き換わった。ブレトンウッズの参加国の間では軍事競争が禁止されたため、かつての帝国もその植民地も、もはや陸軍や海軍や国境地帯に力を注ぐ必要はなくなり、インフラや教育や経済発展に全力で取り組むことが可能になった。

食料や石油を求めて戦わなければならない時代は去り、どの国もグローバルな貿易に参加する権利を手に入れた。帝国を撃退しなければならない時代は去り、どの国も自治と安全を手に入れた。

それまでの1万3000年の歴史に比べれば、これは願ってもない取引だった。しかもこの取引は、みごとに機能した。ブレトンウッズはわずか45年で、ソ連を封じ込めるどころか、ソ連を窒息死させることに成功した。そして、人類史上最長にして最大規模の経済成長と安定の時代を生み出した。

少なくとも災難が訪れるまではそうだった。アメリカが勝利するまでは。

「1990年代は、大半の国にとって快適な10年間だった」

1989年11月9日、ベルリンの壁が崩壊した。それから数年の間に、ソ連は中欧の衛星国に対する支配力を失い、ロシアはソ連に対する支配力を失い、モスクワは一時的ではあれロシア連邦に対する支配力を失った。アメリカの同盟国では至るところで、祝典やパーティ、パレードが行なわれた。だがその一方で、新たな問題も生まれた。

ブレトンウッズは、従来型の軍事同盟ではなかった。アメリカがソ連に対抗するために、海洋における優位性や経済的に恵まれた地理を利用して、同盟関係を「購入」したのだ。アメリカはその見返りに、グローバルな貿易を可能にし、同盟国が輸出できる底なしの市場を提供した。

だが、敵がいなくなったいま、ブレトンウッズは存在理由を失った。戦争が終わったのに、同盟関係を維持する費用をアメリカが支払い続ける理由がどこにあるというのか?それではまるで、住宅ローンを完済したのに、まだ支払いを続けるようなものだ。

1990年代は、大半の国にとって快適な10年間だった。アメリカが提供する強力な安全保障のおかげで、大規模な国際紛争は一つも起きなかった。世界規模の貿易が、かつてのソ連圏にも、冷戦の終結をひたすら待っていた国々にも深く浸透した。

アメリカが提供する監視や市場アクセス維持にまつわるコストは着実に増えていたが、平和と繁栄が支配する環境のなかでは、それもすべて管理できると思われた。

ドイツは再統合された。ヨーロッパも再統合された。アジアの虎と呼ばれる国々が急成長を遂げた。中国が本領を発揮して、消費財の価格を押し下げた。アフリカやラテンアメリカ、オーストラリアなどの資源産出国は、世界各地の工業化に貢献して莫大な収益をあげた。地球規模のサプライチェーンにより、デジタル革命が可能になるどころか、当たり前のものになった。そんなすばらしい時代を経験して、私たちはみな、それが普通だと思うようになった。

しかし、それは決して普通ではない。

冷戦後に平和と繁栄の時代が生まれたのは、地政学的な対立を抑止し、グローバルな「秩序」を支援する国際安全保障の枠組みに、アメリカが長期にわたり関与したからにほかならない。

だが冷戦が終わり、安全保障環境が変わったいま、そのような政策は、もはやニーズに合わない。私たちがみな普通だと思っている時代は実際のところ、人類史上最もいびつな時代である。そんな時代は信じられないほど、もろい。

実際、それはすでに終わっているのだ。


文/ピーター・ゼイハン

「世界の終わり」の地政学
野蛮化する経済の悲劇を読む 上

ピーター・ゼイハン
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ISBN: 978-4-08-737004-1

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☆概要
すでに不穏な兆しが漂うグローバル経済。それは一時の変調なのか。いや、そうではない。米国が主導してきた「秩序」、すなわちグローバル化した「世界の終わり」なのだ。無秩序の時代には、経済も政治も、文明そのものも野蛮化していく。しかも世界中で人口が減少し、高齢化していくなかで軌道修正も困難だ。そのなかで生き残っていく国々とは?
地政学ストラテジストが無慈悲な未来を豊富なデータともに仔細に描き、全米を激しく揺さぶった超話題作!

★おもな内容
・いよいよアメリカが「世界の警察」の役割を捨て、西半球にひきこもる。
・脱グローバル化で、世界経済に何が起きるのか。
・今後、大きなリスクにさらされる海運。製造業がこうむるダメージとは?
・過去七〇年の成長を支えてきた、豊かな資本。それが、世界的に枯渇してしまう理由。
・世界的な人口減少。日本人が見落としていた壁とは?
・世界のモデル国・日本を、他国が見習うことができないのはなぜ?
・エネルギーや資源の調達は、今後も可能なのか?
・グリーン・テクノロジーでは未来を支えられない、その理由。
・日本が食糧危機から逃れるために、すべきこと。
・「アメリカの世紀」のあと、覇権を握る国はどこなのか。

【上巻・目次】
第1部 一つの時代の終わり
第2部 輸送
第3部 金融

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