1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. カルチャー

海上自衛隊のエリートが退官し、なぜ“ヨットで世界一周”? 「15分〜2時間の睡眠」「1日5食」「陸での休日と変わらない」謎すぎるその内情…【30年ぶりに日本人最年少記録を更新】

集英社オンライン / 2024年7月30日 8時0分

24歳の若さにして単独・無寄港・無補給でのヨット世界一周の旅を成功させ、30年ぶりに日本人最年少記録を更新という快挙を成し遂げた木村啓嗣さん。一度は自衛隊に入隊、潜水艦の乗組員となり「普通の人生のテンプレにはまった」という彼が、自衛隊を辞め、世界一周に挑戦した理由は「海上自衛隊の離婚率の高さ」だった。いったいどういうことなのか? マイペースに乗り切った単独行について聞いた。

【画像】世界有数の難所・ホーン岬を通過した瞬間…

「明日、目が覚めますように!」と祈って眠る夜もある

──今回の記録がどういうものなのかを教えてください。

木村啓嗣(以下同)
 無寄港、無補給での単独世界一周の日本人最年少記録です。北極と南極を結ぶ縦の線である経線をすべて同一方向に通過すると世界一周として認められます。無補給・無寄港なので、最初に積んだ荷物だけで帰ってこなければならず、燃料も食料も追加できません。さらに難しいのは、近道になる運河は世界一周のために通過することはできないんです。

──厳しいルールですね……。

寄り道、補給OKならば、世界一周した日本人は100人以上いますが、実は無寄港、無補給でも意外と簡単ですよ。みんなが行ったら9割くらいの人は帰ってこれるんじゃないかな?

この温度感が伝わらないんですよね。走るのは人ではなく船だから、難しくないんです。「明日の朝、目が覚めますように!」って祈って眠る夜もあるけど、船が沈まんかったら大丈夫やし。

──無補給ということは、食料をたくさん積んでいくのでしょうか?

1トン分積みました。1日中起きているので、1日5食の計算です。パックご飯にレトルトおかずが基本で、あとはコンロを積んでいるので余裕があるときはボロネーゼパスタを作るくらいかな。たくさん食べたレトルトのなかで、無印良品のものが最高でした。

──ヨットを操縦しなきゃいけないということは、1日中寝られないわけですか?

いえ、オートパイロットを利用して海が穏やかなときをねらって寝ました。15分〜2時間の細切れの睡眠を繰り返す感じです。寝坊するのは別に自由なんですが(笑)、寝る時間が長引くほどなにかにぶつかる可能性が上がります。

危ないのは他の船と浅瀬ですが、船が通るコースを外れていれば結構安心です。やはり睡眠は大事で、結局、睡眠をとっていないと戻ってこれないんですよね。

──難しくないとおっしゃっていましたが、寝られる精神力は必要なんでしょうね。

しんどい、きつい、と思っていると、単独行であることがよくない方向に働いてしまいます。音楽を聴いて、ご飯を食べて、歯をみがいて、いつも通りに過ごせれば、陸の上での1人の休日と変わらないんですよ。「1人でのんびりするのも悪くないよね〜」って感じになれます。

仮にトラブルがあって、船が壊れて直らなくても、初期対応をすませたらいったんご飯食べて歯磨きして寝ちゃいます。

とはいえ、オートパイロットの壊れたメイン機をサブ機に切り替えたら、いきなり水流板(船の進行方向を変える板)を動かす船内のベース(水流板に動きを伝える棒)が吹き飛んでしまい、相当焦りましたね。そのときは、「8時だョ!全員集合」のコント終了時のオチの音楽を流しながら乗り切りました! 

きっかけは、自衛隊の離婚率の高さを知ったから?

──そもそも、木村さんがヨットを始めた理由は。

費用がかからなかったからですね。高校のヨット部が、保護者会の月会費1000円だけでヨットができるところだったんですよ。

──とても世界一周に至ると思えない動機ですね(笑)。

高校2年生のとき、前最年少記録保持者の白石康次郎さんが「ヴァンデ・グローブ」という過酷な単独世界一周のヨットレースに出場したのを知って以来、世界一周したいという気持ちはありました。でも、それって「将来お金持ちになりたい」くらいの夢でしかなくて。

高校を卒業したころは「よくある人生のテンプレ」にはまりつつあって、自衛隊に入り、普通に人生を過ごす予定でした。ところが、自衛隊に入隊して潜水艦乗りになって、先輩たちの離婚率の高さを知って、自分の人生、このままでよいのかと思うようになりました。

──離婚率ですか!?

自衛官になって人生安パイコースかなと思ったのに……。海上自衛官の離婚率は、7割以上らしいです。先輩を見ると奥さんに財布を握られたり、久しぶりに帰宅したら不倫現場に出くわしたり、楽しそうじゃないんですよ。陸上にいない間に奥さんに好き勝手されている先輩たちを見て、結婚前に自分がやりたいことをやったほうがいいと思ったんですよね。

そんな中、潜水艦の修理のために神戸の造船所に1年近く入港していました。西宮(兵庫県)ってヨットの街なんですが、久々の休日に乗りにいったら、ヨットがおもしろくて、ヨットへの愛が再燃し、世界一周したいと思うようになってしまって……。

決意を固めて、潜水艦の修理が終わる前に退職の意を伝えたら、上官に「いったいお前にいくらの税金がかかってると思うんだ」と言われました。確か潜水艦乗り1人育てるために3億円もかかるそうです。

すったもんだありましたが、結局、退官がかなって、2020年に株式会社浜田(環境ソリューション企業)に入社しました。実は今回の冒険はこの会社のプロジェクトとして実現しました。社長はもともと西宮のヨット仲間で力強く応援してくれました。

──潜水艦乗りはエリートなんですね。

というか、適性がある人が少ないんですよ。閉鎖空間に入ってもなんとも思わない人の集まりです。潜水艦は100メートルも潜れば全然揺れないからいいですよ。ヨットより全然乗り心地いいです(笑)。

絶景は裏返せば辛い思い出

──海底から洋上に戻られて、どうでしたか。

いい思い出は、全て絶景にまつわる思い出ですね。雲の隙間から差し込む日光が作る天使の梯子、水面に揺れる月明かりの夜……。

幸運をもたらすアホウドリを見られたのも印象に残っています。船乗りは嵐に遭わなければそれだけで幸せ。他にも、低気圧を避ける海鳥が出てくれば嵐の終わりだとわかります。

──そして、洋上からさらに陸上に戻られたわけですね。

揺れないベッドの上で寝て、はじめて実感しましたね! 10ヶ月ぶりに脱力して熟睡できました。その後取材ラッシュがあって今はちょっと調子に乗っているところで(笑)。このままではまずいと、次になにをしようか考えはじめています。

──では、その次の目標は。

このチャレンジを通して、やりたいことをやり切るのがなにより大事だと実感したんです。やりたいことの規模感は人それぞれで、その指標のひとつに世界一周があるだけ。ジャンル問わず、「チャレンジャー」としてやっていきたいなと。

そして、その挑戦を通じて「自分がやりたいことを達成しよう」ということを発信していきたい。まずは宙に浮くソーラーエアプレーンでの世界一周を目論んでいます!

取材・文/宿無しの翁 写真/木村啓嗣 インタビュー写真/わけとく

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください