<最低賃金、過去最大増の1054円>それなのにパート、アルバイトから大ブーイングのワケ「扶養控除ライン据え置きはオフサイドトラップ」「賃金はオーストラリアの半分」「政治家の報酬だけは世界トップクラス」
集英社オンライン / 2024年7月26日 18時56分
7月25日、厚生労働省の審議会で最低賃金が全国平均で50円を目安に引き上げられる方針で合意した。過去最大の上げ幅となり、市民から歓喜の声が上がる…と思いきや、むしろブーイングが殺到する事態となっている。
【画像】時給1600円超えも「これは高い?低い?」都内のアルバイト求人チラシ
過去最高レベルの賃金引上げに不満の声があがる理由
厚生労働省の中央最低賃金審議会は、今年度の地域別最低賃金額改定の目安についてABCの3ランクに分けている都道府県すべてで、50円引き上げとした。
目安どおりに各都道府県で引上げが行われた場合の全国加重平均は1054円。昨年度は43円の上昇であったがこれを上回り、1978(昭和53)年度に目安制度が始まって以降、最高額となる予定だ。
これを受けて岸田文雄首相は「過去最大の上げ幅となった今回の最低賃金の力強い引き上げ、これを歓迎したいと思います」と述べている。
岸田首相は昨年9月にも、全国平均の最低賃金が1000円を超えた際に、「2030年代半ばまでに、全国加重平均が1500円になることを目指す」とコメントを発表しており、毎年の賃上げについて意欲をみせていた。これは、昨今の急激な物価高を上回るほどの賃上げが狙いとなるが、肝心の国民からはそれほど色よい声はあがっていない。
まず、全国的に最低賃金ギリギリの時給で求人を出していることが多い、コンビニエンスストア。今回の50円アップのあおりをモロに受けてしまうと思われるが、オーナーはどう考えているだろうか。都内の駅近でコンビニを経営する、50代・男性に話を聞いた。
「もちろん賃金アップの分、経費が上がることは事実で、苦しい部分はあります。ただ、賃金アップはもう世の中の流れとして当然と考えていますし、物価高騰の影響もあってウチの売上が上がっている面もあります。だから個人的には仕方ないことなのかなと思っていますね。経費がかかるけど、その分売上を上げて利益をアップさせていくしかないですね。
2030年代には1500円を目指すと聞いていますし、今回の50円アップはその過程の一つでしかないのかなと。上がった分の経費を削減してコストカットをするよりは、売上をアップさせていこうと動いています」(40代 コンビニオーナー)
こうした前向きな姿勢を示している雇用側の立場の人に対して、意外にも複雑な思いを抱えているのが、賃金をもらう側のアルバイトの人たちだという。賃金アップはメリットしかないようにも感じるが、いったいなぜなのか…。
最低賃金アップはまるでオフサイドトラップ
都内の大手飲食チェーン店で働く、20代の男子大学生は「扶養控除の問題があって…」と口を開く。
「僕はまわりの学生と比べてかなりアルバイトをしているほうで、1年間でみると扶養控除ギリギリの103万円ラインまでバイトをしています。月に換算すると、8~9万円ほどです。
そんな事情もあって、バイトのなかでも昇格していって店長からヘルプを頼まれることも多いのですが、そうすると月収10万円を超えてしまう月が何度かあって……。そこで昨年の年末近くには103万円ラインに調整するため、月に2、3日しかでていませんでした。
こんな状態のまま賃金がアップすると、来年は10月くらいからバイトの出勤日に制御をかけなきゃいけなくなりそうです。店長が103万円ラインに調整するように、シフトを頑張って組んでいるのを見ると、なんだが申し訳ない気持ちになります。
賃金をアップするならまず先に、103万円ラインを引き上げなければしょうがないと思います」(20代 大学生)
同じ飲食店でパートタイマーとして働く40代の主婦も、同様の悩みを抱えていた。
「私ももちろん103万円ラインを意識してバイトをしています。しかしこれが意外と簡単に超えてしまって、週3日出ればもうギリギリなんですよ。でもアルバイトの求人ってだいたい、週3日以上の出勤が条件じゃないですか。もうちょっとわりのいいバイトで週3だと、簡単に配偶者控除から外れてしまいますよね。それって皆さんどうしてるんですかね。
10年くらい前まではこの103万円ラインを気にすることなんてなかったのですが、ここ数年はかなり意識していますよ。結局政治家の人たちって、そこら辺のさじ加減が何もわかってない、庶民の生活を理解していないんだと思うと腹が立ちますね」(40代 主婦)
確かに今回の最低賃金アップのニュースを受けて、SNSを見ると〈最低賃金は上がるのに103万円の壁は動かないの謎なんだよな。オフサイドトラップじゃないんだから〉〈上げるべきは最低賃金より扶養控除の上限だと思うんですよ〉〈働きたいのに働けない日本人が大勢いて、『働き手が足りないから外国人労働者を募りまーす!』ってバカかよ〉など辛辣な声があがっている。
国民の給与は最低クラス、政治家の給与は最高クラスの日本
またそもそも、最低賃金が過去最高の上げ幅を記録したとはいえ、先進国の中ではいまだに日本の賃金は最低クラス。お隣の韓国は2025年に、時給1万30ウォン(約1160円)とすることが決まっている。
日本とあまり差がないように感じるが、韓国はわずか10年前の2014年では最低賃金が5千ウォン程度(当時のレートで約500円)であった。たった10年で、倍以上に伸びているのだ。日本はこの間200円程度のアップで比率で言うと、25%ほど。韓国の4分の1の伸び率だ。
また、日本からワーキングホリデー先として選ばれることの多いオーストラリアの最低賃金は、今年の7月1日より時給24.10オーストラリア・ドル(約2500円)になった。これは日本の倍以上で単純計算で8時間フルに働くと、1日2万円。20日出社で40万円、年収は480万円にもなる。
このように給与水準はもはや、先進国とは言えない日本だが、国会議員の報酬だけはトップクラス。2022年時点での世界30カ国ランキングでは、アメリカやオーストラリア、ドイツを悠々と上回って世界3位であった。
こんな状態で賃金をわずか50円アップ、扶養控除ラインは据え置きとなれば、不満が出るのも当然。なぜここまで頑なに、控除額の引き上げを検討しないのだろうか。
取材・文・撮影/集英社オンライン編集部
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