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<パリ五輪男子バレー>日本の”絶対的司令塔”関田誠大。恩師が「あの竹下佳江さんと共通する」と語ったセッターとしての天性の素質とは?

集英社オンライン / 2024年7月27日 12時30分

日本時間7月27日にドイツとの初戦を迎える男子バレー日本代表。近年の好成績もさることながら、見ているだけでワクワクする、強くて面白い日本代表の選手たち。そのルーツをたどると、ひとりの指導者の存在が浮かび上がる。松永理生、元中央大バレーボール部監督であり、現在は東山高校バレーボール部監督。中大では関田誠大と石川祐希、そしてサポートメンバーの富田将馬。高校では髙橋藍を指導した若き名将が語る、日本男子バレーの柱となる選手たちの若き日々――

【写真】石川祐希、髙橋藍、関田誠大を育てた名将・松永理生氏

 誰が入学してくるのかわからなかった 

――松永さんが指導者としてのキャリアをスタートさせたのが中大。その1年目に入学したのが関田選手たちの代だったとうかがいました。当時を振り返り、どんな選手でしたか?



松永(以下同) 監督になるとはいっても、実情は誰が入学してくるのかわからない状態でした。関田、僕は名前で誠大と呼ぶのですが、誠大のことも「いいセッターが入ってくる」とは聞いていましたが、東洋高で日本一になったことも知らなかった。

彼らが入学する前の3月に僕も大学に合流して、初めて誠大のトスを見た時、彼のふわっとしたトスが若干浮きすぎているように見えたので「もう少し頂点を伸ばすトスのほうがいいんじゃないか」と話したのはよく覚えています。

しかもその話をしてからすぐ、彼が求めるトスの軌道を意識して上げてくれた。言われてすぐにできる選手なんだ、というのも強く印象に残りました。

――当時から「いずれは日本代表へ」と思い描いていましたか?

「すぐには無理かもしれないけれど、これほどの技術がある選手なら、いつかは日本代表へ」とは思いました。ただ、誠大が入学した当初は中大にも3年生に上手なセッターがいて、彼を中心にチームを考えていたんです。

でも春季リーグの直前にそのセッターが捻挫をしてしまい、誠大に出場機会が巡ってきた。試合に出るうちにどんどんトスの質もよくなって、トス回しも多彩になった。

2年生まではサーブレシーブがほとんど返らなくて「(乱れたレシーブをつなげるために)こんなに走ったのは初めてです」と本人も言っていたぐらいなのです(笑)。ただ、そうやって必死につなぐ姿や、攻撃の幅などを見れば見るほど、日本代表でプレーさせたいし、行くべき選手だと思っていました。

竹下佳江と共通するセッターとしての素質

――そもそも松永さんが思う「いいセッター」「日本代表へ行かせたい」と思った基準は何でしたか?

僕は現役時代、パナソニックパンサーズ(現大阪ブルテオン)から豊田合成トレフェルサ(現ウルフドッグス名古屋)へ移籍するまでの半年間に、日本代表で女子のコーチを務めたんですが、竹下佳江さんにトスを上げてもらってボールを打っていたんです。

全体練習後、僕もまだ現役だったので、女子のネットの高さを男子のネットの高さに張り替え、自分でトスを上げてスパイクを打っていたら、当時の女子日本代表セッターだった竹下さんが「手伝うよ」と声をかけてくれたんですよ。

ネットの高さも違うので、最初は欲しいトスを伝えてもなかなか合わなかったのですが、何度か伝えたらすぐ「これだ」というトスが上がってきた。

アタッカーからすれば、ただ打てるだけでなく、好きなコースや場所に打てる。まさに理想のトスです。しかも、ただ求める場所に来るだけでなく、トスを出すタイミングも含めて、あんなに打ちやすいトスはなかった。

それまで「名セッター」と言われる方々のトスを打たせていただく機会はたくさんありましたが、あの時に竹下さんが上げてくれたトスが、僕にとっては一番打ちやすかった。

その数年後、大学で選手たちに見せるためにスパイクを打つ時、誠大にトスを上げてもらったんですが、その時の感覚もまったく一緒でした。

竹下さんも誠大も、普段の練習から“同じポイント”を大事にして練習しているんです。投げてもらったボールを、ジャンプして1本1本セットする。何でもない練習に見えるかもしれませんが、そういう積み重ねがあのトスにつながっている。

身長ではなく、「こういう選手こそがいいセッターであり、日本代表へ行かせたいセッターだ」と思い続けていました。

――周囲の方々に関田選手について聞くと、必ずといっていいほど「とにかく練習していた」と聞きます。大学時代も同じだったんでしょうか?

その通りです。全体練習がどうこうではなく、体育館に着いたら自分のタイミングでトスを上げ始めていたし、ボールに触っていない時間がほとんどなかったと思いますね。

僕も中大へ入る前の誠大を知る方から、「あいつは河川敷でもトス練習をする選手だ」と聞いていたのですが(笑)、「本当にその通りだ」と思わされるほど本当にストイックな選手です。

監督になって一番嬉しかった勝利

――松永さんから見る関田選手の性格は?

頑固ですね(笑)。大学時代、僕は彼から「この練習、面白くないです」と言われたこともありましたから(笑)。

――「面白くない」とは?

僕は得意なことをやらせるだけではなく、彼の将来も見据えて新たな可能性も引き出したかったし、学生の枠にはまることなくいろいろなことにチャレンジさせたかった。

当時の日本代表を見ていても、前衛からのスパイクよりもバックアタックが決まっていたので、「これを大学でも活かそう」と思い、誠大に「まずバックの攻撃からサインを出して」と要求したんです。

彼からすれば、「まず前衛にサインを出すのに、何を言っているんだ」と思うだろうし、今でこそ、ひとりの選手がさまざまなポジションをこなしていろいろな場所から攻撃するのも当たり前になってきましたが、当時はその発想もほぼない。

そういうなかで「バックアタックを普通に使うことで、前衛をフリーに動かせろ」と言われる。彼からしたらそれは「面白くない」だったんでしょうね(笑)。でも3年になる頃には、何も文句をつけることがなくなりました。

――指摘することがないぐらい完成されていた?

誠大が3年の時に(石川)祐希が入ってきて、やはり彼は攻撃の中心になるわけですが、僕が「ここで祐希に上げてくれ」と思うポイントと、実際に誠大の上げ時が合致していたので、それも含めて「言うことはなかった」ですね。

ただ、4年時の全日本インカレ前に調子が悪くて、早稲田大と練習試合をした時、全セットを取られたことがありました。「このままじゃダメだ」と思ったので、僕はあえてその場で、誠大たち4年生に対して最上級生としての立ち振る舞いや姿勢を強く叱責したんです。

選手たちも、なぜ僕がそうしたか理解してくれていると思っていましたが、誠大にはもう少しフォローを含めて話をしたかった。

そこで練習試合が終わって、寮に戻ってから誠大に「飯食おうよ」と連絡して、大学の近くにあるファミリーレストランに呼び出したんです。僕は車で向かい、駐車場に入ろうとしたら、お店の看板の下にフードを被って座っている男がいた。

それが誠大でした。お店に入ったあと、インカレ、その後の天皇杯に向けてチームとしてこうやっていこうと話をして。そうしてインカレを勝ち、天皇杯でサントリーサンバーズに勝った時は本当に嬉しかったですね。

もしかしたら監督になって、一番嬉しかったのがあの天皇杯(でのサントリー戦)の勝利かもしれない。

リーグ戦や全日本インカレを勝てた時も嬉しかったですが、メンバーが揃っていた分「勝たなければいけない」というプレッシャーが常にあったので、勝っても一番に出てくるのは安堵感でした。

ただ、誠大がキャプテンを務めたあの代は「一番強いチームをつくりたい」と思って、チーム発足時から「Vリーグに勝てるチームになれば絶対に(大学で)日本一になれる」と言い続けてきたので、勝てた時は純粋に嬉しかった。ファミレスでの時間も僕にとっては濃厚でしたが、誠大はもう覚えていないかもしれませんね(笑)。

――関田選手から、「ミドルを使うようになったのは大学から」とうかがったことがあります。高校時代は柳田将洋選手、大学では石川選手と日本代表で活躍するエースがいても、安易に「最後はエース」としないトスワークや思考も関田選手の魅力。その土台が築かれたのが中大時代かもしれませんね。

誠大の中に「石川ばかりじゃ面白くない」という発想もあったでしょうし、逆に「石川を活かすためにも真ん中を」という意識もあったと思いますね。やると決めたら徹底してやり抜く頑固さもあって、より高いレベルに引き上げていったと思いますし、彼なりに貫きたいことがあるとわかっていたからこそ、あえて僕も面倒なことをさせた。

それも、関田誠大という名セッターをつくりあげた要素になっていたら嬉しいです。たぶん彼の学生生活のなかで、監督に向かって「面白くないです」と言ったことはその時以外ないんじゃないですかね(笑)。誠大にそう言わせたことも、僕にとってはひとつの誇りです。

取材・文/田中夕子

写真/shutterstock

<パリ五輪男子バレー>”歴代最強日本”のエース・石川祐希。恩師が明かした「これほどの選手をどう育てればいいのか」という重圧と、今も残る後悔〉へ続く

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