<パリ五輪男子バレー>「長男が関田、次男が石川、藍は三男です(笑)」日本の攻守の要・髙橋藍。恩師が語る「めんどくさがり屋で、要領がいいエース」が描いた急激な成長曲線
集英社オンライン / 2024年7月27日 12時30分
〈<パリ五輪男子バレー>”歴代最強日本”のエース・石川祐希。恩師が明かした「これほどの選手をどう育てればいいのか」という重圧と、今も残る後悔〉から続く
2019年から母校である東山高バレー部のコーチに就任した松永理生氏。2020年には春高バレーで同校初の全国制覇。その年、主将かつエースとして活躍したのが髙橋藍だ。高橋はその4カ月後には日本代表登録選手に選出され、日体大に入学した直後から目まぐるしい勢いで成長を遂げて2021年の東京五輪にも出場。その後、石川祐希と同じように大学に在学しながらイタリアへ渡り、パドヴァ、モンツァで合計3シーズンを戦った。松永氏が見た髙橋の学生時代とは? 今へとつながる日々を振り返る。
【写真】石川祐希、髙橋藍、関田誠大を学生時代に指導した松永理生氏
選手たちの成長のために「都合よく使ってもらえればいい」
――中央大から母校・東山高のコーチになった際に出会った、髙橋藍選手の当時の印象は?
松永(以下同)祐希よりも身体の線が細かったですね。レシーブは当時から長けていましたが、攻撃面に関してはまだ硬さもありました。正直に言えば、これほどのスピードで成長していくとは思いもしませんでしたね。
――大学では関田選手と石川選手、高校では髙橋選手。「松永さんは、どれだけ名選手を引き寄せるんだ」と見る人もいますが、ご自身ではいかがですか?
彼らが成長する、世界へ飛び出す、自分がしたいことをするために“利用できる人間”が僕であり、そういうタイミングで出会っていると思うんです。だから都合よく使ってもらえればいいと思うだけで、自分が「得をした」と思うことはないですね。
僕のキャリアを振り返ってみてもそう思います。小学生からバレーボールを始めて、中学で選抜に選ばれたけど体が大きかっただけで、本来とは違うポジションに入れられた。
高校ではインターハイベスト8が最高成績で優勝経験はなし。パナソニックパンサーズ(現大阪ブルテオン)に入って、日本代表にも選ばれたけれどすぐに外れて、豊田合成トレフェルサ(現・ウルフドッグス名古屋)に移籍してからも出場機会がなく、肩を痛めて引退した。
下積みもなく、指導者になってからはゼロから築き上げていかなければならないことだらけで、指導者としての経験も浅い。もがいていた時に祐希が中大に来る、という選択をしてくれて、「彼を何とかしたい」と必死だった。その繰り返しです。
東山高に来た時もチームは全国大会から遠ざかっていたので、藍が3年になる時に合わせて「絶対に彼らを全国に連れていく」「日本一になったことがないチームを日本一にする」と。
僕が運を持っているわけではなく、運を持っている人たちが引き寄せて、自らの成長のために利用してくれる。僕の人生はそういうものだと思っています。
めんどくさがり屋で、要領がいいタイプ
――東山高校でエース、キャプテンも務めた髙橋選手とはどう接していましたか?
藍が高校3年生の頃は、日本の高校バレーのレベルが一気に上がっていった時期だと思うんです。当時は駿台学園、松本国際、鎮西、東山の4校が中心。
僕はそのなかで「東山が一番下だ」と思っていましたから、中大でやってきたことや、自分自身のVリーグでの経験から戦術や技術を落とし込んでいきました。
ただ、ようやく形になり始めてきたところでインターハイを迎えた際に、松本国際の速いバレーに度肝を抜かれました。大げさじゃなく、1試合1試合、ものすごいスピードでスキルやレベルが上がっていく。
エースである以上、藍はそういう状況、僕が経験したことがないようなヒリヒリする場面で点を取らないといけない。1本のミスが勝負を分けることがわかっているからこそ、「そこでお前がひるんだらダメだろう」と練習の時から言い続けてきました。
――髙橋選手は、それをどう受け取りましたか?
取捨選択していましたね。もちろん僕は「間違ったことを教えよう」とは思っていないし、必要だと思うことを伝える。特に大学生と比べて、高校生に対してはわかりやすく、ストレートに熱量を持って伝えることが大事だと思っていたので、真正面から話をしました。
藍にとっては、僕はいいことはいい、嫌なことは嫌と言うので「はっきりモノを言う人だな」と思っていたでしょうが……もしかしたら「うるさいな」と思っていたかもしれない(笑)。
僕自身、祐希が大学4年の時に「言っておけばよかった」と後悔した経験があったので、同じ轍を踏まないために、伝えるべきことは伝えた。藍はそのなかから、自分に必要なことをちゃんと見極めて、選んで実戦できるタイプの選手でした。
――髙橋選手の性格は?
祐希とも(関田)誠大ともまた違いますね。社交的だと思わせておいて、自分に理がないものに対しては「もういい」となるタイプ。めんどくさがり屋で、要領がいい(笑)。あの“腹黒さ”もまた、藍の魅力なんですよ(笑)。
――要領がいい、というのは髙橋選手ご自身もおっしゃっていました。
悪いことをしていても隠す。でも、バレる(笑)。いや、僕もすべて気づいていたわけではないから、彼は賢いですよ(笑)。
今思い出しましたが、僕がまだ東山高の教員になる前の話で、学校のルールもわかっていなかった状態でしたが、彼らがまだ学校にいる時間に、その日の練習メニューをLINEで送ったことがあったんです。
当時もバレー部の選手たちは、携帯電話を持つことはOKだけど学校内では使ってはいけないというルールがあったんです。でも僕の「今日の練習、こうやるから」というLINEに、「オッケーです」ってすぐに返事がきて(笑)。真相はわかりませんが、こっそり学校でも携帯を使っていたんじゃないかと……(笑)。
前面に出るようになった「俺がエースだ」という気持ち
――高校3年時の春高で日本一になって、あっという間に日本代表に。そこまで想像していましたか?
春高で急激に伸びましたね。インターハイの時はまだ硬さがありましたが、春高前には“剛”だけでなく“柔”も出てきた。「このまま伸びたら日本代表もあるな」と思っていたのですが、あのタイミングで呼ばれるとは思いませんでした。
もともとコミュニケーション能力に長けていて、新しい環境にも対応できる子なので、ここまで一気に伸びたのかもしれません。
――髙橋選手は高校時代を振り返る時に「石川選手を追いかけてきた」と話しますが、両選手を見てきた松永さんから見る、それぞれの強さはどんなところですか?
2人に共通しているのは、負けず嫌いだということです。以前も話したことがあるんですが、祐希は感覚やイメージをそのまま体現できるのに対し、藍は描いた“設計図”を忠実に再現できる。その設計図は、高校時代に祐希を参考につくったものでした。
でも今は、日本代表で一緒に戦い、ともにイタリアでプレーしたことで、藍も「俺がエースだ」という気持ちを前面に出していますよね。
昨年のOQT(パリ五輪予選)で祐希と藍を見ていたら、それぞれの領域は侵さないけれど、お互いが「エースは俺だ」とプライドをぶつけ合いながら仲間として戦っていた。表現が合っているかわかりませんが、僕から見ると長男が関田、次男が石川、藍は三男。日本代表の三兄弟みたいに見えます(笑)。
――意見を言える、言い合えるというのは強みですね
OQTのエジプト戦なんて、まさにそう。藍はここでトスが欲しいのに、祐希が別の攻撃を選択する。絶対に怒っているな、と画面越しにわかりました(笑)。
でも、祐希がキャプテンとしてそういう環境をつくっている結果であり、藍も必要だと思えば我慢しない。だから藍は“三男”なんです。お兄ちゃんたちはこうだったけど、俺はいくよ、と。これからの成長も楽しみですよね。
――強い日本代表の中心にいる3選手だけでなく、富田(将馬/東山高→中大)選手もパリ五輪に臨みます。
大学に入ってきた時は「アウトサイドヒッターではなく別のポジションで」と言われた選手でしたが、「どこでもできるよう、サーブレシーブをしておくように」と練習に入れたら、めちゃくちゃうまかったんです。「いやいや、これはサイドやろ」と戻して、その結果、今ではサーブレシーブが彼の武器になっている。
ネーションズリーグのアルゼンチン戦でも活躍しましたね。彼も悔しさをバネにして成長してきた選手です。時々チャラいから一喝したこともありましたけど(笑)、根は真面目なので、活躍は嬉しい限りです。
――間もなくパリ五輪が始まります。強くて面白い日本代表、松永さんはどんな期待をしていますか?
個々の選手が成長して、確かな戦術があるなか、それぞれのピースがハマった。メダルは絶対獲ってもらいたいという思いもありますが、それ以上に、見ていてワクワクするゲームを見せてほしい。
今の日本代表は「今日はどんなバレーをするんだろう」と思わせてくれるチームで、本当に面白い。楽しみですよ。ケガなくオリンピックを迎えて、すべて出し尽くしてほしいですね。
取材・文/田中夕子
写真/Shutterstock
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