〈売春島と呼ばれた島③〉「相方のヤクザに200万円で売り飛ばされてここにきた」元娼婦が語る身売りからギャンブル、クスリ漬けの日々…それでも「ここは青春の島やった」と語れる理由
集英社オンライン / 2024年8月1日 17時0分
〈〈売春島と呼ばれた島②〉「窓をのぞくと大人たちが野球拳していた」「島の運動会にはホステスさんも参加していた」渡鹿野島区長が語る“島の歴史”とクリーン化に舵を切った理由、今後の課題とは…〉から続く
慰安旅行に訪れた男たちが、宴会にコンパニオンを呼び、飲んで騒いで気に入った女性と一夜をともにする――。一見すると、昭和バブルの光景に思われるが、これは三重県志摩市の渡鹿野島(わたかのじま)で、およそ10年前まで繰り広げられていた日常だ。集英社オンライン記者は、匿名を条件にかつてこの島の「置屋」(売春斡旋所)で働いていたという元娼婦の女性を取材した。
〈画像多数〉娼婦たちが過ごしたアパート内部やガランとした現在の置屋の内部、廃墟となったホテル、道端でのんびり過ごす野良猫など
元売春婦が語る往時の渡鹿野島
最盛期には島内のあちこちに置屋が乱立し、200人もの娼婦がいたといわれる渡鹿野島。集英社オンラインでは、そんな「売春島」の現状を過去2回(#1、#2)にわたって報じてきたが、この島の歴史について語ろうとする島民はけっして多くなかった。
事実、記者が話しかけると友好的に接してくれるが、身分を明かした途端、あからさまに避けようとする島民もいた。
そんななか取材に応じてくれたのは、この島で長年にわたり娼婦として働いていたというサツキさん(仮名)だ。彼女は「私たちのおかげで島は成り立ってたのに、どうして島民たちは貝になる(黙る)んや。本当の意味で島をクリーンにするなら、そういう歴史も背負っていかなあかんのちゃう?」と怒りをにじませる。
街灯が照らす海岸沿い、かすかにさざなみが聞こえるベンチにゆっくりと腰かける。しばしの沈黙のあと、サツキさんは遠くを見つめながら、その壮絶な半生を語りだした。
「もともとは地方で水商売をやってたんやけど、そこで出会った相方に、ここ(渡鹿野島)に200万円で売り飛ばされたんや。当時はなにも言われずに車で渡船場まで連れていかれたんやけど、やっぱり怖いやんか?
相方はやっちゃん系やったし、『これから私どうなるんや?』と不安だったのを覚えとる。まあ当時は私も、クスリにどっぷり浸かってたから、相方に『クスリの金は出るから安心せえ』と言われて、しぶしぶ(置屋の)女将のもとで働き始めたんや」
当時の渡鹿野島は、すでに最盛期を過ぎていたとはいえ、島内のあちこちに置屋が乱立していて娼婦の数も100人は超えていた。まだ20~30代の日本人女性が在籍していることも珍しくなく、なかにはモデルのような外見の娼婦までいたという。
「あのころ島で一番盛り上がっていたのは、24時間営業のゲーム賭博やな。私を含めてギャンブル依存のホステス(娼婦)たちでいつも賑わってたわ。
稼ぎは日によって変わるけど、当時はショート(1時間)とロング(泊まり)で、1日にだいたい5、6万円はいってたと思うわ。
まあその内の半分は置屋に持っていかれて、借金の返済にも充てられるから手元に残るのは2万円くらいやな。当時は島にも活気があったから毎日がお祭り騒ぎで、気づいたらこの島での生活が楽しくなってたんやわ」
「ここは青春の島やった」
置屋では「チーママ」と呼ばれる女性が娼婦たちの行動を管理。そうして監視される生活に耐え兼ねてか、島から脱走を試みる女性もいたという話を#1にて紹介したが、サツキさんはストレスと無縁な生活を送っていたという。
「私は女将との信頼関係もあったから、生理休暇のときは一人で島外に買い物にも行ってたで。まぁ足抜けしそう(逃げそう)な子に関しては、島外に出るときはチーママが同伴で監視してたみたいな話は聞いたことあるな。
せやけど、同僚の女の子のなかには男に売り飛ばされた子も多くて、同じような境遇だったから一緒に飲みにも行ってたで。そこで新人の子が『もう帰りたい』とか泣き出すこともあって、そのたびに『バンス(借金)返せば帰れるんやから、それまでがんばろうや』なんて励ましてた。まぁ私にとってここは青春の島やった」
そんな「売春島」もバブル崩壊とともに衰退。売春に対する世間からの風当たりも厳しくなっていったが、2010年代に突入しても、まだ置屋は5、6軒ほど営業。全部で4~50人ほどの娼婦が生活していたという。
「その8割近くが若いタイ人で、日本人は4~50代しかおらんかった。だから女将も、よくお客さんに『もう日本人はおばちゃんしかおらへんよ~』なんて言ってた。まぁ実際に、この時期になると団体客もかなり減ったし、飲み会だけやって女の子とは遊ばない人も増えていったからな。
だからショートとロングが1本ずつ入ればかなりいい方やったし、昔みたいに稼げなくなったんよ。それでも馴染み(のお客)さんが元日からの2日間を買い切ってくれたこともあって、重箱に入ったおせちや瓶ビールを持ってサービスしたのはいい思い出やな」
「やっぱり今の状況は寂しい」
その当時も、依然として宴会での過激サービスは健在。裸で踊ったり、太ももと下腹部にできたくぼみに酒を注ぎこみ、自らを酒器とする「わかめ酒」も定番だったというが、そうした置屋商売も2016年を最後に姿を消した。
「(伊勢志摩)サミットが原因やな。島外も警察の検問だらけになったからな、就労ビザの関係でタイ人はみんな逃げていったで。もちろんお客さんもビビッて来ないわけやから、業態としては完全に終わったんよ。
もしかしたら今も、馴染みさんが訪ねてきて『私しか相手する子おらんねん』みたいな感じで(売春を)することはあるかもしれんけど、私が知るかぎりではこの島も本当にクリーンになったで。まぁ当時の盛り上がりを知っているぶん、寂しさもあるんやけどな」
その後も取材を続けるなかで、サツキさんのように過去を懐かしむ島民も少なくなかった。70代の女性も、「やっぱり今の状況は寂しい」と肩を落とす。
「当時はな、置屋が並ぶ通りを歩くと肩が当たるくらい人が押し寄せとった。もちろんアレ(売春)目的で、世間的にはいけないことをしとるのはわかっとったけど、毎日がお祭りみたいで楽しかった。それが今ではな、観光客は少ねえし、島にいるのは私みたいな年寄りばかりよ」
60代の男性も、「もうこうなったら、どこかの大企業が島を丸ごと再開発してくれるのを待つしかないんちゃう?」とあざけり笑う。
「結局のところ、ずっとそういう商売(売春)に頼ってきたからツケが回ってきたんちゃう? こんな状況だからな、周りの年寄り連中も『昔の方がよかった』とか嘆いてるで。オレも兄ちゃんと一緒に島を出たいくらいやわ」
それでも島には踏ん張り現状を変えていこうとする人たちもいる。はたして渡鹿野島が行き着く先とは――。小型船で本土に戻る途中、空はどんよりと曇っていた。
取材・文・撮影/神保英二
集英社オンライン編集部ニュース班
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