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〈パリ五輪「疑惑の6秒」〉もはや誤審は柔道の“お家芸”か? ベテラン公認審判が指摘する2つのミスリード「悪いのは選手でなく審判」「なぜビデオ判定をしなかったかモヤモヤする」

集英社オンライン / 2024年7月29日 17時58分

また誤審——!? 開幕したばかりのパリ五輪で、柔道男子60キロ級準々決勝で起こった「疑惑の6秒」が世界中の茶の間を騒然とさせている。寝技の攻防中、主審の「待て」に反応して力を緩めた永山竜樹選手に対し、スペインのフランシス・ガルリゴス選手が約6秒間にわたって絞め技を継続、“半落ち(失神)”した永山選手に負けが宣告されるというなんとも後味の悪い試合結果になった。敗者復活戦などを経て両選手とも銅メダルを獲得したが、もはや誤審は柔道の“お家芸”ともなりつつある。ベテラン審判員に今回の試合のポイントを解説してもらった。

〈写真で見る・パリ五輪柔道の悲劇〉仰向けでしばし放心状態、握手を拒んだ永山選手、まさかの敗退で号泣する阿部詩選手など…



 

「そもそも主審が“待て”をかけた理由は…」

試合では2分過ぎからガルリゴスの絞め技が始まり、これを永山がこらえてこう着状態とみた主審が「待て」を宣告、この時点で攻防は即座に中断しなければならなかったが、なぜか中途半端に続いた。

これについて全日本柔道連盟(全柔連)公認A級ライセンスの審判員であるAさん(59)は「『待て』がかかった瞬間から、球技にたとえればボールデッドの状態で、インプレーではなくなります。

ですから主審は即座に攻撃を中断させて両者を分けなければいけません。今回、責めを負うべきはあくまで審判であり、選手が批判や中傷にさらされるのは全くの筋違いです」と即答した。

永山は青い柔道着、ガルリゴスは白い柔道着で試合に臨んだ。Aさんに問題になった時間帯の攻防と審理の流れをクローズアップして整理してもらった。

①青の投げ技が効果なく、後ろについた白が絞め技へ移行

②もともと寝技に自信のある白は「袖車(絞め)」を試みながら、抑え技も併用しつつ青をコントロールしようとする

③襟を極められた青は「絞め」をこらえながら、白の抑え込みを防御するという少々複雑な動きを強いられる

④「絞めが極まらず」かつ「抑え込みに至らず」、これ以上進展がないと判断した主審が「待て」を宣告

⑤「待て」の宣告が聴こえたか否か不明だが、白は絞めを緩める動作がなかった

⑥主審、白の顔を覗き込む形で再度「待て」を宣告しようやく解放

⑦白すぐに起き上がるが、青は仰向けでしばし放心状態

⑧「失神した」と判断した主審が「一本」宣告。直後に青の意識回復。この時、第三者による蘇生動作はなく、青が自発的に立ち上がる

⑨白に対して勝ち名乗り

⑩青、畳から降りることをよしとせず「落ちていない」「待ての最中ではないか?」など「一本宣告は無効」としばしアピールするも判定覆らず

 「ポイントは④です。このまま攻め続けても『落ちそうもない』と見極めたからこそ、寝姿勢を解除して立ち技から再開させようと『待て』をかけたわけです」(Aさん)

しかし、④から⑥に至るまでの時間は永山選手の意識を朦朧とさせるに十分なほど長く、最終的には「片手絞め」での一本負けという主審の判定がくだされ、誤審を避けるために導入されたジュリー(審判委員)制度やビデオ判定も活用されなかった。

「一本を宣告する前に、ジュリーに判断を仰いだりビデオ判定を使わなかったことが二つ目のミスリードになりました。グレーな判定をなくすために、ジュリーやビデオを活用してクリアにしていきましょうという流れになっているのに、なぜそうしなかったのかというモヤモヤは関係者だけでなく、観客や視聴者にも残ります」(同)

ガルリコスは「会場の騒音で『待て』には気がつかなかった」

試合直後からネットやSNSは「永山選手とガルリゴスが同じ銅なのほんと納得いかない。同じ銅でもガルリゴスの銅は荒んでると思う」「ガルリゴス結局銅メダルか 待ての後に絞め続けるスポーツマンシップからかけ離れた行為しておいて決勝行けないとか 本当なら銅メダルすら惜しい」などの投稿が相次ぎ、大荒れ。

一方のガルリゴス選手は母国メディアのインタビューに「会場の騒音で『待て』には気がつかなかった」と答えるなど、意図せぬ「場外戦」を審判団の不手際が招いたことは事実だろう。

そもそもビデオ判定の導入は、2000年のシドニー五輪の男子100キロ超級決勝での誤審に端を発する。

篠原信一選手がフランスのダビド・ドゥイエ選手の放った「内股」をかわす「内股すかし」という技で切り返し、畳に背中をつかせたにもかかわらず、それを見逃した主審の判定を副審の1人が支持したことで起こった「悲劇」である。

国際柔道連盟は後にこの際の判定を「誤審」と認め、ビデオ判定導入につながった。これ以外にも柔道競技における「誤審」は枚挙にいとまがなく、細かなルール改正が繰り返されてきた歴史がある。

Aさんは実業団をはじめ様々なカテゴリーで、今も年間20数大会で審判を務める「現役」だけに、公平なジャッジのあり方には常に目を光らせてきた。

今回のオリンピックでは男子60キロ級と並行して行われた女子48キロ級準決勝でも、角田夏実選手と対戦した18歳のスウェーデン選手がわかりにくい形で「反則負け」を宣告されるなど、判定に向けられる注目度は競技初日から高まった。

「大きな大会になると、試合会場の音響や設備面での不具合が運営に影響することも多々あります。

今回の初日の模様をテレビ観戦していて、問題になった試合の後に行われた決勝ラウンドから、主審のマイクの声がクリアに聞こえたので、大会運営側がボリュームを上げたのでしょう。後手に回った印象ですが、そうやってきちんと対処していくことが大事だと思います」

Aさんがこう指摘するように、トラブルが起きたのが競技初日だったことは不幸中の幸いだったのかもしれない。

雨の開会式で始まった花の都パリでの100年ぶりのオリンピック。柔道の発祥国の日本と、柔道競技人口世界一のフランスを中心に織りなす「JUDO」が大会成功に華を添えることを祈る。

 取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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