〈パリ五輪〉かつて「一番下手くそだった」少年が「地獄のような3年間」をくぐり抜けてオリンピック連覇達成…スケートボード・堀米雄斗がもたらした金メダルよりも大きな功績
集英社オンライン / 2024年7月30日 7時44分
〈〈パリ五輪「疑惑の6秒」〉もはや誤審は柔道の“お家芸”か? ベテラン公認審判が指摘する2つのミスリード「悪いのは選手でなく審判」「なぜビデオ判定をしなかったかモヤモヤする」〉から続く
7月29日、パリ五輪では大会4日目にスケートボード男子ストリートが行われ、日本代表の堀米雄斗(25)が金メダルを獲得。堀米は東京五輪に続き、2大会連続で王者となった。
「地獄のような3年間だった」
雨天のため2日延期して開催されたスケートボードの男子ストリートで堀米雄斗がオリンピック連覇を果たした。大会前には苦しい展開を予想されることもあったが、終わってみれば初代オリンピック王者が圧巻の優勝劇を見せつけた。
もちろん連覇までの道のりは順風満帆ではなかった。
パリ五輪の出場権争いが激化したことで、東京五輪の金メダリストも五輪予選シリーズ(OQS)の第1戦では予選落ちの屈辱を味わうなど苦しい状況に追い込まれた。
一時は最大3枠を争う日本代表の選考レースで5番手に転落したこともあった。それでも、今年6月に行われた予選シリーズ最終戦で起死回生の優勝を果たした。
「地獄のような3年間だったけど、乗り越えられて光が見えてきている」
大逆転で五輪切符をつかんだ後に堀米はこう話した。その言葉通り、パリ五輪決勝の舞台でも最終滑走前まではメダル圏外だったが、ラストチャンスで今大会の最高得点となる97.08点をマークし、五輪本番でも大逆転劇を披露した。
「ここまでくるのに諦めかけたこともあったし、オリンピックに行けるかもわからない状況もあった。1%くらいの可能性を最後まで信じて、それが最後に実ってうれしいです」
表彰式後のインタビューでは「地獄のような3年間」をくぐり抜けた晴れやかな笑顔をのぞかせた。
東京五輪で初めて正式種目となってパリが2大会目となる「スケートボード」だが、堀米が日本にもたらしたものは2つの金メダルだけでない。先駆者たちが築いた礎をさらに推し進めて、日本が「スケートボード大国」となるための大きな原動力となっている。
堀米が日本のスケートボード界にもたらしたもの
大会前日、堀米の地元である東京・江東区の協力のもと開設した「夢の島スケートボードパーク」で滑っていた埼玉県在住の鈴木秀幸さん(43)は長年スケートボードに携わってきた中で、東京五輪以降にスケートボードが得た確かな市民権を感じているという。
「堀米くんが東京オリンピックでメダルをとったことで、以前よりスケボーの世間体もよくなりましたし、ちょっとコンビニにスケボーで行ったりしてもまわりからの見られ方が変わったと感じます。9割5分くらいはオリンピックや彼の活躍のおかげじゃないですかね。僕は彼とはやりたいスケートスタイルが違うし、テレビで観戦したりはしませんが、それでも応援してます」
実際、東京五輪が行われた2021年までは国内で243か所だった「スケートボードパーク」は2024年には475か所と3年間で約2倍に急増したことからも、少しずつ行政や市民からの理解を得られていることがわかる。
また、パーク内のハーフパイプで難易度の高い技を披露していた東京都在住の島袋琉哉くん(9)は東京五輪以降にスケートボードを始めたという。
「いちばん好きなのは堀米選手。技とかすごいし、オリンピックで表彰台に立ったときがかっこよかった。ぼくもいつか堀米選手みたいにオリンピックに出たいです」
堀米にあこがれて、いつかは大会で活躍を誓う琉哉くんは現在、ほぼ毎日パークに来て3〜5時間練習に励んでいる。付き添いで来ていた両親は口をそろえていう。
「昨日は堀米選手もお参りしている亀戸の香取神社に『金メダルを獲れますように』とお参りに行きました。五輪競技になったおかげで昔よりスケボーの置かれる環境や世間のイメージもよくなっているし、何より息子が夢中になれることを見つけてくれてよかったと思っています」
堀米自身も6歳のときにスケートボードを始めたが、最初から上手なスケーターだったわけではなかったと、自著『いままでとこれから』で明かしている。
〈小学1年生のときに舞浜にスケートパークができて、お父さんが滑りたいからよく一緒に行くようになった。そのパークにはプロのスケーターがいて、たくさんの子どももいたけど、子どものなかでも僕は一番下手くそだったらしい〉
オリンピック連覇の偉業を成し遂げるまでの道のりは平坦ではなかった。何度も転んで怪我をして、冬の冷たい地面に顔をぶつけて打ちひしがれたこともあったという。多くの挫折を乗り越えて堀米が私たちに見せてくれたものは「奇跡の逆転劇」や「栄光のメダル」だけではない。
社会において必ずしも好意的に受け入れられていなかったスケートボードの社会的認知をアップさせ、多くの子どもたちに夢を与えた。堀米の背中を追いかけて今日もスケートボードに打ち込む子どもたちがいる。新しい道を切り拓いたその功績は計り知れない。
取材・文・撮影/集英社オンライン編集部
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