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「コロナで頭がアホになった」のツイートが話題。コロナ後遺症“ブレインフォグ”の恐ろしすぎる実態「集中力が続かない」「家事の途中で何をしていたか忘れる」対策と最近注目の治療法とは…

集英社オンライン / 2024年8月2日 8時0分

新型コロナの感染がまた拡大している。5類になって感染状況が見えにくくなっているが、東京では12週連続で感染者が増えており、全国的にも同じ傾向にある。そんな中で、新型コロナの後遺症で「頭がアホになった」というツイートが話題になった。「ブレインフォグ」と呼ばれるこの症状は言葉通り、頭にフォグ(霧、もや)がかかったようになってしまい、判断力や思考力が低下することが特徴だ。この恐ろしいブレインフォグの実態、原因、対処法などについて解説する。

コロナ後遺症と間違えられやすい病気と、最新の治療法とは

 

恐ろしいブレインフォグの実態

「ここ一年くらい頭がアホだったので デカ病院でいろいろ検査したら ここ一年くらい脳の血流が低下して頭がアホになるという症状が出ていたことが判明し 正式にアホでございますの烙印を押された」というXの投稿が話題になった。

この「ブレインフォグ」は脳疾患などが原因で起こることが以前から知られているが、2020年後半~2021年ごろから新型コロナの後遺症としても発生することが分かってきた。
このポストのように新型コロナにかかった後、認知機能の低下を訴える患者が増えたのである。

2023年に東京都で行われた調査によれば、新型コロナウイルス陽性と判定された人の4人に1人がコロナ後遺症を抱えており、そのうち7%程度がブレインフォグと呼ばれる状態になっていたと報告されている。

実際にブレインフォグを経験した患者さんにその症状をきいてみた。

「2023年の冬、新型コロナに感染した私は、その後春から夏にかけて徐々にブレインフォグの状態を自覚し始めました。頭がぼんやりして集中力が続かない、家事をしていても途中で何をしていたか忘れてしまったりする、といったことが日常になりました。

特に辛いのが、家族や友人との会話・できごとを覚えていないことです。うまく言葉にできないこともあるため、人に会う時はあらかじめ断りを入れています。以前できていたことができなくなり、周りの大切な人を巻き込んでしまうことが心苦しいです。毎日の不安から、メンタルに不調をきたすようにもなりました」(20代男性)

人によって症状は様々だが、このように日常生活や仕事に大きな影響を及ぼし、周りはもちろん本人もどうしたらよいのかわからないため、人知れず悩んでいる人も多い。

炎症性物質が脳のあちこちにダメージを与えている可能性

ブレインフォグの原因は完全には解明されておらず、ウイルス感染により炎症性物質が脳に広がり、二次的に脳内で炎症を引き起こすことで、脳がダメージを受けるのではないかと考えられている。

ダメージを受ける部位は人によって異なり、匂いや味を感じる部分なら味覚障害、認知機能を司る部分ならブレインフォグ、体を動かす部分なら一過性の運動麻痺など、強くダメージを受けた部位により障害の出方が変わってくるのではないかと推測されている。

ブレインフォグの患者の治療をしている、精神科医で医療法人社団こころみ理事長の大澤亮太医師に、どんな患者が受診するのか話をきいた。

「患者さんの多くは、内科や耳鼻科など他の診療科を経由して心療内科・精神科にたどり着くといった経緯で、特に仕事に支障をきたしているケースが目立ちます。

例えば40代の管理職で、高いパフォーマンスを求められる立場の方が、仕事で重要な会議に出席しても内容を覚えていない、集中できる時間が1/6くらいまで減った、長文を読んだり書いたりするのが難しいといった、これまでのような思考や判断ができないことに苦しみ、来院された例もありました」

それではどう診断するのだろうか。大澤医師が続ける。

「ブレインフォグは医学的な病名ではなく、ぼーっとする、物忘れが激しい、といった症状の総称です。そのため診断名として呼ばれることはなく、あくまでも状態を表しています。ブレインフォグかどうかは、患者さんの病歴や経過、これまでの治療法でよくなったかどうか、などから総合的に見極めていくことが必要です。

また、うつ病などと症状が似ているため、区別がつきにくい、あるいは併発していることも多く、症状の評価や判断には時間がかかることがあります。

これまでにうつ病などで治療した経験がなく、新型コロナウイルス感染後から明らかに以前の生活との差を感じる、今までできていたことができない、という違和感を覚える場合はコロナ後遺症のブレインフォグである可能性があります」

患者は20〜50代の比較的若い方が多いが、高齢の方でも気づかないうちに起こっている可能性があるという。

 治療の中心は薬物療法、新たな可能性としてTMS療法が注目

それでは治療法はあるのだろうか。国際医療福祉大学三田病院の野田賀大氏はこう話す。

「ブレインフォグの治療法は現在確立されておらず、基本的に対症療法となります。不眠や疲労感の強い患者さんの場合には、それに対する薬物療法を行います。うつ病の症状がある場合には抗うつ剤を使用します。

その上で、うつ症状の改善が見られない場合には経頭蓋磁気刺激(TMS)という治療法を紹介することもあります。TMS療法は、身体を傷つけることなく電気刺激を脳の特定部位に送ることで、脳の神経細胞を刺激し、その働きを活性化させる方法です」

この治療法は、もともとうつ病の治療に使われていたもので、うつ病に対して保険適用があります。当院でもうつ病治療でTMS療法を行うなかで、コロナ後遺症にもメリットがあるのではないかという知見が積み上がってきました。

そこで当院では現在、厚生労働省の臨床研究審査委員会(CRB)の認定を受けた特定臨床研究(※1)として、コロナ後遺症に対するTMS療法の治験を行っています。

2022年には、イギリスの論文からコロナ後遺症によりダメージを受けやすい脳の部位がわかってきました。その知見をもとに、脳の特定部位に対してTMS療法を用いた治療計画を進めています。現在までに既に35例がエントリーしており、ひきつづき治験参加者を募集している段階です」

研究は進んでいるものの、残念ながら、今はまだ確立された特別な治療法はない。
奇をてらった方法や名医探しをするのではなく、信頼できる医師と共に科学的根拠に基づいた治療に取り組む必要がある。

しインターネットなどで気になる情報を見つけても、自己判断で取り入れず、まず近くの病院で相談することが大切だ。

また、ブレインフォグは脳の炎症が一因とみられることから、重症化を予防するワクチン接種が効果的である。

前回のワクチン接種から時間が経っている人は、効果が減衰している可能性があるので、追加接種を検討したい。

 ※1 (認定番号:CRB3180027,臨床研究実施計画番号:jRCTs032230291 https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCTs032230291)

医師プロフィール

大澤 亮太(おおさわ・りょうた)
医療法人社団こころみ理事長、(株)こころみらい代表産業医。
山梨大学医学部卒業。国際医療福祉大学にて研修終了後、産業医を意識して精神科医療に進む。精神科単科病院やクリニックにて経験を積み、産業医として20社以上の嘱託産業医を務めた。精神保健指定医、日本医師会認定産業医、健康スポーツ医。
2017年4月に元住吉こころみクリニック開院。2020年2月、医療法人社団こころみ理事長に就任。2024年8月現在、rTMS療法専門医療機関である東京横浜TMSクリニックをはじめ、東京・神奈川に8クリニックを運営。医療法人社団こころみ臨床研究審査委員会を設立し、クリニックにて臨床研究を実践。

野田 賀大(のだ・よしひろ)
国際医療福祉大学三田病院精神科准教授/慶應義塾大学医学精神・神経科学教室特任准教授、東京横浜TMSクリニックTMS学術・技術顧問。
東京大学大学院医学系研究科修了。東京大学医学部附属病院精神神経科や神奈川県立精神医療センター等の勤務を経て、トロント大学精神科Centre for Addiction and Mental Healthにてクリニカル・リサーチフェローとして5年間ニューロモデュレーション研究に従事。帰国後、慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室特任講師を経て、現職。専門はTMSニューロモデュレーションと神経生理学。
東京横浜TMSクリニック開院時よりTMS治療に関する学術・技術顧問を務める。「オールジャパンTMSデータベースレジストリプロジェクト(TReC-J)」実務責任者。
著書に『うつ病に対するTMS療法Up-to-date 自分らしい生き方を求めて』がある。
日本うつ病学会 ニューロモデュレーション委員会委員、日本臨床神経生理学会 神経精神疾患のバイオマーカー検討委員会委員、The International Federation of Clinical Neurophysiology Editorial Board of Clinical Neurophysiology

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