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<パリ五輪>「雄斗には今回も『首洗って待ってます!』ってメールしました」スケボー金メダル・堀米雄斗の恩師が語る少年時代「彼は小さい頃から競技者でありながら表現者だった」

集英社オンライン / 2024年8月1日 8時0分

〈パリ五輪〉かつて「一番下手くそだった」少年が「地獄のような3年間」をくぐり抜けてオリンピック連覇達成…スケートボード・堀米雄斗がもたらした金メダルよりも大きな功績〉から続く

パリ五輪のスケボー日本代表たちの快進撃が止まらない。7月29日に行われた男子ストリートでは堀米雄斗(25歳)がメダル圏外の7位から大技を完璧に決めて最高得点を叩き出し、金メダルを勝ち取って2連覇となった。この快挙を、小学生の頃から堀米選手と親交を続ける恩師やスケボーキッズの親たち堀米選手はどう見たか。

〈秘蔵写真〉東京五輪で金メダルを獲得!恩師の元へと報告へ行く堀米雄斗選手など貴重なショット。少年時代のレア写真も

 

「堀米くんはスケボーのイメージを変えてくれた」

決勝戦では堀米選手を含む8人の選手が45秒の間に決めるベストトリックの得点で競い合う。8人が滑るごとに得点や順位が変わり、より大きな技を成功させた選手が勝ち抜いていく。

堀米選手が大逆転したのは最終トライ。空中で見えない方向に270度回り、板の後ろ側を幅10センチほどのレールに正確に引っ掛けて滑り降りるトリックで、これを着地まで完璧に決めたことで奇跡の金メダルを手にした。

明けて30日、都内のスケボーの聖地、駒沢公園のストリートスポーツ広場には気温が34度にも上る中、スケーターたちが集まっていた。

その中には少年少女スケーターの親御さんの姿もちらほら。近所に住み、突然スケボーにハマりだした息子のコウシロウくん(9)に付き添う母親のコジマさん(42)は言う。

「堀米くんのような爽やかな青年が世界の大舞台で金メダルを取るとスケボーのイメージも変わりますよね。私たちの子ども時代はスケボーってそんな主流じゃなかったし、どちらかと言ったら不良っぽい人の遊びって印象でしたから。

でも、よくよく見たら体幹が鍛えられる立派なスポーツですよね。息子は3ヶ月ほど前からハマり出したんですけど…どうせならキチッと指導を受けたほうがいいのでスクールに通わせようか検討中です」

息子のノボくん(7)を自転車に乗せて来たという、自身も高校生のときからスケーターだという母のリヨコさん(42)にも聞いた。

 「高校のときからイケてる遊びとしてたしなんできたスケボーが競技になったこと自体が驚きでしたが、堀米くんは小学生の頃からストリートで自分のスタイルを貫いてきてアスリートとしてもトップに立ち、次々と現れる若手選手により五輪出場も危ぶまれた中で超大技を完璧に決めたメンタルがすごいし、超リスペクトです。

うちは夫もスケボーやってるから子連れで遊んでるうちに息子もハマり出したけど、あくまで遊び。レッスンとかは受けさせる気はないです。本人がやりたいって言うなら考えますけど」

リヨコさんは「競技化したことで子どもをガン詰めしてる親を見かけることに違和感を覚える」と言う。

「駒沢はまったりしたスケーターが多いけど、他のパークにたまたま遊びに行ったら『何でできないの?』って子どもを怒鳴ってる親が何人もいて。レッスン受けさせてお金もかかってるだろうから期待してるんだろうけど、子どもの自主性が大事なのにって思います」

これに関してはスケボー歴3年の息子を持つアイコさん(39)も同意する。

「我が子こそ未来のプロスケーターだと意気込み、周囲の目も気にせず子どもを怒鳴り、時には手や足が出る親も珍しくないですよ。

自分はプッシュ(スケボーに足を乗せて地面を蹴る動き)すらできないのに。その点、堀米くんのお父さんはスケーターで、堀米くんに滑り方を教えることはあっても怒ることはなかったみたいだし、何より堀米くんは小学生の早い段階から親離れしたみたいですから…自主性を育んだ成功例ですよね」

恩師が語る幼少期の堀米雄斗

堀米選手は一体どんな幼少期を送っていたのか? 堀米選手の初の自伝本『いままでとこれから』(KADOKAWA)でも「ストリートに目覚めたきっかけをくれた憧れのプロスケーター」と紹介する、恩師で現在は埼玉県所沢市のスケボーパーク「SKiP FACTORY」のオーナー、立本和樹さん(48歳)は今回の堀米選手の滑りをどう見たか。そして彼をどう見守ってきたかを聞いた。

「雄斗自身もパリ五輪までは地獄のような3年間だって言ってるように、心身ともにきつかったと思います。でも6月の五輪予選のブダペストでは土壇場で『ノーリーバックサイド270トランスファーテールスライド』を完璧に繰り出し、大逆転で出場権を獲得しました。

尋常じゃないほど集中力を高め、アプローチする瞬間の表情は僕がずっと見てきたガキの頃の雄斗と同じ顔でうれしかったし、本当に感動しましたよ」

このトリックを完璧に仕上げることの難しさについても聞いた。

「まずレールの高さが90センチほどあって、そこに跳んで見えない方向に回りながら感覚でレールに引っかけ、かつ板を立ち上げた状態をキープしながら滑って着地しないといけないんです。

タイミングが少しでも狂うとレールに引っかけられないですし、着地にも支障が出ます。とにかく何回も実践して空間を感知する感覚を掴まないといけないし、練習の過程では怪我もします。あの高さと長さで完成させられるのは世界でも今のところ雄斗しかいないし、スケートビデオにも存在しないですからね」

立本さんが堀米選手と出会ったのは、彼がまだ小学4年生の頃のこと。

「僕がまだ『MAP’S TOKYO(後のムラサキパーク東京、昨年5月閉店)』に勤めてたとき、そこのバーチカル(スノボーでいうところのハーフパイプのようにU字のセクションで、高さは約4メートルある)に雄斗が滑りに来ていて。

雄斗はスケボー小僧で他の遊びは興味ないって感じだったんで『ストリート(まさに五輪種目の階段や手すり、縁石を模したコース)の大会に出ない?』って話しかけたんですよ。

でもその予選前の公開練習でけっこうひどい捻挫をしてしまったんです。痛そうだったから散々やめろと言ったのに『出る!』って言い張って。結果は散々で泣きじゃくってました」

だが、その泣きじゃくっていた少年には明確なビジョンがあった。「将来、どうなりたいの?」と聞く立本さんに、はっきりとこう答えたという。

「『アメリカでプロになって自分のパークと家を建てたい』って言ったんですよ。その夢は20代にして叶えたわけですが、まだ小学生の男の子でそこまではっきりした夢を持ってることに、年齢は関係なく自分たちにも通じるものを感じた。

そこからはもう、僕のブランド『TUFLEG』のデモンストレーションやパート撮影で登校に支障が出ない範囲で雄斗を地方に連れ回し、雄斗のお父さんからは『お任せします』と言われるほどの仲になりました。そういう意味では雄斗は小学生の頃には精神的に親離れしていたように思います」

「雄斗は早い段階で競技者であり表現者だった」 

堀米選手は小学5年生のときに韓国のバーチカルの世界大会に出場し、ジュニア部門で5位の成績を残しているが、このときも両親は付き添わなかったようだ。また立本さんによれば、その集中力の高さは小中学生の頃から備わっていたとも言う。

「たしか小6か中1のときのことですけど、僕のブランドのパート撮影をしてたときに『この角度でこう撮ってほしい』っていうシーンが何度やってもうまくできないときがあったんですよ。

そんなときに雄斗は『ちょっと休憩』なんて絶対言わない。こっちが『気分転換して撮り直そうか』って言ったところで聞かない。結局5、6時間ぶっ通しで撮影して成功しました。とにかく自分を究極まで追い込んでやり切るところがありましたね」

それでいて“オンオフ”の切り替えやスケボーに大事なオリジナリティを見出すのも早かった。

「撮影時の移動はだいたい車なんですけど、一瞬にしてコテっと寝て、目的地に着いたら誰よりも早く車を降りて滑りだすみたいな。365日、24時間、少しでも長く滑ってましたね。よくスケボーのビデオも見てたし、見せ方も考えてたし。

やはりスケボーって大会やコンテストの結果だけでなく、街中で撮影した独自の映像作品を評価されてこそ超一流という一面がありますから。雄斗は早い段階から競技者でありながら表現者であり、その中でオリジナリティを構築していました」

パリ五輪で金メダルを手にした堀米選手とは連絡を取り合ったかと聞くと「DMはしたけどまだ返ってきてない」と立本さん。どんな内容のメール送ったのかも聞いた。

「尋常じゃない集中力で挑んだことへのリスペクトはもちろん、アプローチが決まった瞬間の表情は昔も今も変わってないってこと、そして東京五輪のメダルも首にかけてもらったから…今回も『首洗って待ってます!』って言葉を添えました」

最後にスケボーキッズを持つ親たちの子どもへの“ガン詰め”についても、どう思うか聞いた。

「うちのパークに来て下さる親御さんで子どもが蹴られてぶっ飛んでるのを見たことあります。さすがに『それはおやめください』ってお声をかけます。まあ、パークまで車乗せて連れてきたのにうまく滑れない我が子を見てイラつく気持ちはわかりますが、誰のなんのためのスケボーなのかってことを考えてほしいんですね。

その子がスケボーが好きで、滑るのが楽しくて、自分だけのスタイルを作り上げていく中でその子自身のタイミングで覚醒していくんですから」

取材・文/河合桃子
集英社オンライン編集部ニュース班

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