パリ五輪U-23日本代表は“歴代最強の五輪チーム”なのか? 元日本代表の見解「現時点では東京五輪やシドニー五輪世代のほうが実力は上だけど…」
集英社オンライン / 2024年8月2日 17時21分
〈<パリ五輪>「雄斗には今回も『首洗って待ってます!』ってメールしました」スケボー金メダル・堀米雄斗の恩師が語る少年時代「彼は小さい頃から競技者でありながら表現者だった」〉から続く
8月2日24時(日本時間)からスペイン代表と対戦する、サッカー男子U-23日本代表。大会前の下馬評は決してよくなかったが、グループリーグを終えてみると全勝1位通過で決勝トーナメントを迎えている。なぜ戦前の予想を覆す躍進を見せているのか。そして、このまま勝ち上がり、悲願のメダルと“歴代最強の五輪チーム”の称号を勝ち取る可能性は…。元日本代表・橋本英郎氏に聞いた。
【画像】橋本英郎さんがメダル獲得のキープレイヤーに上げる選手
前評判の低かったチームが大躍進
今回のチームの前評判がよくなかった理由はハッキリある。それは、メンバー招集が思うようにいかなかったことだ。五輪ではメンバー招集に強制力がないため、所属するクラブが難色を示せば、その選手を呼ぶことはできない。
そのため、本来ならこの世代の中心選手となるレアル・ソシエダ(スペイン)のMF久保建英は不出場。ほかにも海外組のブレンビー(デンマーク)のMF鈴木唯人、先日、パルマ(イタリア)に移籍したGK鈴木彩艶らの招集もかなわなかった。
さらに、パリ五輪アジア最終予選でチームの主軸として活躍していたギョズテペSK(トルコ)のMF松木玖生もまさかの選外に。松木はメンバー発表当時、FC東京に所属していたが、7月30日にイングランド・プレミアリーグのサウサンプトンに移籍(その後、ギョズテペSKにレンタル移籍)が発表された。水面下で海外移籍の話が進んでいたため、招集することができなかったと言われている。
さらに、こうして主軸を欠いているものの、オーバーエイジ枠(以下、OA)を使用していない。今大会の五輪出場チームの中で、日本は唯一のOAナシのチームとなり、そのことも期待値を下げることにつながった。
しかし、いざ大会が始まると、初戦で南米予選1位通過のパラグアイ代表に5-0で快勝。2戦目のマリ代表には終始押され気味でヒヤヒヤする展開が続いたものの、終了間際には相手のPK失敗もあって1-0で辛勝。
すでにグループリーグ突破が決まった中で迎えた3戦目のイスラエル代表との試合では、後半アディッショナルタイム(AT)にFW細谷真大がクロスを流し込んで劇的な決勝ゴールを決めて1-0で勝利。3戦全勝で首位通過を果たした。
なぜこのパリ五輪日本代表は、前評判を覆してここまでの快進撃ができているのだろうか。元サッカー日本代表の橋本英郎氏は、「OAを使わなかったことが逆によかった」という。
予選は3戦全勝! パリ五輪世代は“歴代最強の五輪チーム”へ?
「今回の世代は、アンダー世代で15歳から、もしかしたら12歳ぐらいからずっと一緒にプレーしてきているメンバーで、このパリ五輪が集大成の舞台になりました。そのため、団結力が特に強いのが特徴です。
もちろん、団結力だけではなく、海外でプレーしている選手が増えているのも大きい。これまではJリーグでプレーする選手を中心とした構成でしたが、この世代はベルギーやオランダリーグなどで試合に出続け、海外の選手と戦うことがスタンダードになっています。
OAは海外の選手と戦うときに必要とされる経験値を補ってくれる面もありましたが、この世代ではそこがそれほど必要ないんですね」(橋本氏、以下同)
OAをあえて使わず、長年育んできたチームの団結力を優先した結果が、今回のグループリーグ3戦全勝に結びついていると橋本氏はみる。また、OAだけでなく、久保や鈴木といった本来この世代の中心選手が不在であることも、ある意味でいい方向に動いたとも。
「今回のメンバーは、間違いなく久保選手や鈴木選手へのライバル心をもっていると思います。要は競争してるんですよね。
これからこの世代の選手がA代表を目指すとなると、やはりオリンピックで好パフォーマンスを見せないと、その道が開かない。予選リーグの結果は、団結力と競争心がうまくハマったという印象があります」
このまま56年ぶりのメダル獲得への期待も高まる今回のU-23日本代表。SNS上では予選3戦全勝を受けて、〈男子サッカー強い 風格を感じる〉〈普通に優勝あるわこれ〉〈これ最強説あるだろ〉〈今回のサッカー男子代表ひょっとして歴代最強チーム?〉など、ついには歴代最強説まであがりはじめた。
ただ、橋本氏はこの説について、前回の東京五輪代表やシドニー五輪代表のほうが強かったのではないかと指摘する。また、橋本氏の世代は、小野伸二、稲本潤一、遠藤保仁、小笠原満男、中田浩二、高原直泰など日本サッカーのレジェンド選手がそろい、“黄金世代”とも呼ばれた。
「歴代最強は僕らの世代か東京五輪の世代か、どちらか選びきれませんが、とにかく前回の東京五輪のチームのほうが強かったことは確かです。OAを使ってはいますが、今回のチームの上をいっているんじゃないですかね。
予選で3戦全勝したから“歴代最強”と言われるのは時期尚早で、たとえばマリ代表と再戦すると負ける可能性もあると思いますし、2勝1敗だったらそんな言い方はされないのかなと」
橋本英郎のスペイン戦のスコア予想
また、予選リーグはあくまで“試運転”で、強豪国はここから本格的にギアがかかっていくという。スペインは予選の3戦目ではスタメン10人を入れ替えるターンオーバーを行い、その結果、エジプトに敗れて2位通過になった。
予選通過が決まっていた日本も、グループリーグ3戦目のイスラエル戦でスタメン6人を入れ替えたが、スペインほど大胆なターンオーバーはしていない。これには「いい流れの中でできているのをメンバーを変えて崩したくなかったのかな」と橋本氏は推測するが、果たして、スペイン戦の展望はどうなるのか。
スペイン代表とは、2022年のカタールW杯で、A代表が2-1と歴史的勝利したことも記憶に新しい。橋本氏はズバリ、今回もうまくいけば「2-0」で勝利、「1-1」のまま延長に突入しての「2-1」のような展開になると予想した。
「スペインにボールを回される展開にはなると思うんですが、これを“回させている”展開にすることが大事。守備がしっかりと耐えて、前線の選手が刺すときに刺せる流れを90分間出し続ければ、前回のワールドカップと近い展開にもっていけると思います。ただ、守備面には不安もありますが…」
日本代表はグループリーグ3試合を無失点。GK小久保玲央ブライアンの活躍もあって鉄壁のイメージが強いが、逆に守備面に不安を感じる理由があるという。
「今大会、小久保選手が当たっていますが、キーパーが当たってるっていうことイコール、シュートを枠に飛ばされてるということなんです。僕はこのシュートを許している最終ラインに不安を感じています。
簡単に最終ラインまでボールを運ばせないようにファーストライン(FW)、セカンドライン(MF)が粘って、最終ライン(DF)にきたときには相手がストレスを感じていて、簡単にボールが奪える状態まで持っていくのが理想。
これまでの3試合ではDFが、GKに頼っているようなところがあるので、相手にシュートを打たさずに、カウンターに繋がるような流れを作る必要があるのかなと」
スペインに勝利すればベスト4進出、56年ぶりのメダルもハッキリと見えてくる日本代表。ここから先で大事なこと、そしてキーマンになるのは誰か。
個性が強かった昔の選手と比べて……
「まず選手は、予選を全勝したからと言って変に勘違いするのではなく、不安を感じながら戦うことが大事だと思います。慎重に戦う部分と、大胆にいけると思う部分、この両方がないといけない。『全部イケる!』と思うと、落とし穴にハマってしまうことがあるので。
また、決勝トーナメントではFWの細谷選手がキーになると思っています。彼は身体を張ってキープしたり、相手DFの裏抜けなど、いろんなことができすぎちゃいますが、本来はチャンスメーカーではなく、フォワードとして点を取る、ゴール前の駆け引きに注力する時間があってほしいですね。
彼が点をとれば、間違いなくメダルにつながると思っています。3戦目のイスラエル戦でようやく彼に点が入ったのは、期待できる1つの要素です」
現役時代は、黄金世代の個性的で主張が強いメンバーとともに戦ってきた橋本氏。今大会のパリ五輪世代は、そうした強烈な個性をもった選手より調和を保つ選手が多いように感じるが、こうしたメンバー選考もこれからの苦しい戦いでカギになるのではないかと話した。
「現在のアンダー世代を見ていると、JFAの指導方針で、『全員がリーダーだ』という教育方針が落とし込まれてきて、みんながそれぞれ自立してサッカーをしているように感じます。“11人でサッカーをやる”という考え方が昔より増えたのではないでしょうか。
以前は宮本恒靖さんや長谷部誠など強烈なリーダーシップを持った選手がいました。今大会ではまだそこまで苦しい状態になっていませんが、そうした逆境に陥った時にどうするのかという不安はありますね。もしこの先うまくいかなかったら、結果論でそのトピックが出るかもしれません」
なにはともあれ、まずは決勝トーナメント初戦のスペイン戦。このチームが“歴代最強”かどうか、メダル獲得すれば、それが証明されるだろう。本当の意味で試される戦いが始まる。
取材・文/集英社オンライン編集部
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