「12歳ではじめてのオーバードーズ」「家庭用洗剤を飲んで自殺未遂」…仕事のプレッシャーから酒と薬におぼれた25歳女性が、精神科病棟に隔離されるまで
集英社オンライン / 2024年8月7日 11時0分
重度のうつ病、摂食障害、アルコール依存症、ADHD……。谷口麗さん(仮名・女性)は、25歳ながらこれまでさまざまな精神疾患に振り回され続けてきた。一時は自殺未遂をして、精神科の閉鎖病棟に隔離されたものの、現在は克服してうまく折り合いをつけている。波瀾万丈な人生を送ってきた麗さんに、自身の半生を振り返りつつ、アルコールや薬物依存の恐ろしさを聞いた。
【画像】複数の処方薬をちゃんぽんして、オーバードーズ
最初にオーバードーズしたのは12歳
「ADHDのインチュニブ、安定剤のクエチアピン、睡眠薬のニトラゼパム……」
耳慣れない処方薬の名称を羅列しながら、谷口麗さんは、いくつもの薬をテーブルの上に広げていく。現在も、6~8種類ほどの向精神薬を服用している麗さんだが、これでも「かなりマシになったほう」だという。
「一時期は、半月分の睡眠薬を過剰摂取して丸2日眠ったり、ADHDの処方薬を飲みすぎて4日間動けなかったり……。もうあんな散々な思いはしたくないですね」
今だからこそ笑いながら話す麗さんだが、かつては常習的にオーバードーズ(以下、OD)に耽っていた。
なぜ麗さんは薬物依存に陥ってしまったのか。さかのぼって、まずODするようになったきっかけを聞いた。
「私が最初にODしたのは、12歳のときでした。当時は、摂食障害を患っていて、強迫性障害や気分性障害を抑える薬として、安定剤を処方されていたんです。
担当医は毎回1ヶ月分ぐらい出してくれていたので、飲み忘れる日があったり、副作用がきつい日は飲まなかったりとかで、薬が余るようになるんですね。それで服用量の3~4倍ぐらい飲んだらどうなるんだろうとある日ふと思い、つい好奇心で……」
当時は、まだSNSが浸透していなかったものの、麗さんは「2ちゃんねる」などを見て、ODの存在を知っていたという。処方薬を過剰摂取することで、「多幸感を味わえる」、「気分がハイになる」という文句に誘われ、現実逃避の一環として手を出すようになる。
「最初は軽い気持ちで始めたODですが、そのうち深く眠れることに気づき、どんどんハマっていきました。強迫性障害を患っているからか、年中不眠にも悩まされていたのですが、眠りにつくまでの記憶もないほどぐっすり眠れるので、ちょうどよかったんです」
社会人になりアルコールにも依存
当時は、睡眠のために軽いODを繰り返す程度で、薬物依存には陥っていなかったという麗さん。しかし、社会人になってから状況が一変する。就職した施工管理会社での激務によりさらにストレスが溜まり、アルコールにものめり込むように。
「とにかく人がいない職場で、日中は現場監督を任され、夕方以降は事務作業や会計作業をこなし、週6日、7時~22時ごろまで働いていました。高校は田舎の工業高校に通っていたのですが、上京したいがゆえに都内の求人に応募したら、全然待遇がよくなかったんです。
それで仕事のストレスやプレッシャーから、また不眠を発症するんです。仕事で怒られたり、現場でミスして何千万円もの損失を出したりする夢を見るようになり、それならいっそ記憶を飛ばして眠れるようにと、アルコールにも手を出すようになっていきました。
最初は寝るために飲んでいたので、長時間ダラダラと飲む感じではなかったんです。お風呂に入る前に、700mlのウイスキーの角瓶を冷凍庫に冷やしておいて、風呂上がりに冷えた状態でキュっと流し込んで、いい感じに酔ってきたら寝るみたいな」
ただ、日に日に物足りなくなっていったのか、次第にお酒の量は増えていき、毎日ウイスキーの角瓶を半分ほど飲むようになる。
さらに、一人暮らしが寂しかったこともあり、話し相手を求めて、飲み屋で朝を迎える日も増えていった。平日は睡眠不足が続き、週1回の貴重な休みの前日は、睡眠時間を取り返すように寝る前にODして、休日に丸1日寝るような不規則な生活が続いた。
職場には再三、辞職の申し出をしたものの、人手不足から要望が通ることはなく、心身ともに麗さんはすり減っていった。
家庭用洗剤を飲んで自殺未遂
就職して4年目のゴールデンウィーク最終日、連休中に三日三晩お酒を飲み続けていた麗さんは、酔った勢いで職場に辞意の電話をかける。
「もうそのときは、一言『辞めます!』っていって、そのまま一方的に電話を切りました。ほぼバックれたようなものですね。その後は当然、職場や親から散々電話がかかってきましたが、怖かったのでひたすら無視し続けていました」
ただ、困ったのは、自宅に帰れないことだった。職場には自宅が知られており、事情を察した親が自宅に来ているかもしれないと思うと、家に帰宅することはできなかった。そこで知り合いの家に居候して、日中はひたすらお酒を飲み続ける生活を送った。
自分の将来はどうなるのか、親との関係はどうすればいいのか……。正気に戻ると不安に押し潰されそうになるため、麗さんはひたすらODとアルコールで現実逃避を続けた。ただ、次第に自暴自棄な生活も身体がつらくなり、麗さんは自殺未遂をしてしまう。
「酩酊していた夜遅く、風呂場で家庭用洗剤を飲み込みました。そのときは処方薬も切れてましたし、もう人生どうでもいいやと、衝動的に飲み込んだんだと思います」
それから2日後、麗さんは集中治療室(ICU)で意識を取り戻す。幸いなことに、同居人が泡を吹いて倒れている麗さんを見つけ、一命を取り留めたのだ。
「風呂場でいつの間にか意識を失い、記憶が戻ったのは数日後の病室でした。胃洗浄で?吐きすぎで食道が荒れ、気分は最悪でした。もう職場は辞めたことになり、家も家族に解約されていて、退院したら地元に戻るのだろうと思っていました」
ICUから精神科病棟へ転院
ところが、ICUに入院してから1週間後、事態は思わぬ方向へと動いていく。
「ICUから退院する際、担当医から『提携先の内科に強いところへ転院しましょう』と言われたんです。それで転院する運びとなったのですが、なぜか精神科病棟に隔離されました。それまで精神科のことはまったく知らされておらず、新しい病院に着いて、『あれここ精神科だよな……』ってそのまま」
こうして、なかば強引に、麗さんは精神科病棟へ転院となった。
精神科には、本人の意思とは関係なく、家族の同意や精神保健指定医の診断があれば強制入院させられる「医療保護入院」や、自傷や他害のおそれがある場合は指定医と都道府県知事が入院を決める「措置入院」といった制度があるものの、麗さんはいまだに自分がどのような制度で入院させられたのか聞かされていないという。
精神科病棟内の生活は、制約が多岐にわたる。麗さんが隔離されたのは、女性患者限定の棟の4人部屋で、ベッドと簡易式のトイレしかない独房のような部屋だった。
さらに、持ち込める私物は制限が厳しかった。首を吊らせないように、靴紐やパーカーなど50cm以上の紐の持ち込みは禁止で、電子機器は基本的に通信機能のないものしか持ち込めず、外部との連絡手段は遮断されていた。化粧品はアルコールが含有されているものが禁止され、コロナ禍であっても、アルコール消毒液はその都度許可をもらわないと使用できなかった。さらに入院当初は、17時以降の外出は禁止されていた。
精神病棟の実態は秘匿性が高いため、あまり知られていない側面も大きいが、実際はどのような入院生活を送っていたのか。また、そこからどのように社会復帰したのか。後編で詳報する。
取材・文/佐藤隼秀 写真/本人提供
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