「東京チカラめし」が2年ぶりに復活! 社長が語る急激な店舗拡大と大量閉店の背景「同グループの『金の蔵』の優秀な店長を『チカラめし』に集めてしまったばかりに…」
集英社オンライン / 2024年8月7日 11時0分
「東京チカラめし」という名前に懐かしさを覚える人は多いだろう。通常は煮るところを焼いた「焼き牛丼」で一世風靡した牛丼チェーンとして店舗数を急激に伸ばし、2013年には130店舗以上を展開していた。しかし、ほどなくして大量閉店の事態に……。そんな、「東京チカラめし」が今年5月に東京・九段下に復活した。同チェーンを運営するSANKO MARKETING FOODSの長澤成博(ながさわ・なるひろ)社長をゲストに招き、その背景を聞いたポッドキャスト番組『流通空論』の内容をもとに再構成してお届けする。
【画像】今年5月に東京・九段下に復活した「東京チカラめし食堂」の様子
3.11が生んだ「東京チカラめし」
「東京チカラめし」(以下、チカラめし)を運営するSANKO MARKETING FOODSは、居酒屋「金の蔵」などでも知られている。もともと居酒屋に軸足を置く企業が、「牛丼屋」を始めたのはなぜか。
それには、東日本大震災の経験が関わっているという。
「チカラめしが誕生したのは、2011年6月。その3ヶ月前に東日本大震災があり、山手線内に集中出店していた『金の蔵』の店舗では、停電などが起こり、夜の営業が難しくなった。居酒屋業態の脆弱さを思い知ったんです。そこで、居酒屋業態の一本足打法ではなく、日常食の業態を模索し始めました」(長澤氏、以下同)
ではなぜ、牛丼だったのか。
「もともと弊社の祖業は、J R神田駅のガード下で始めた『三光亭』という牛丼屋でした。祖業に帰るという意味でも、牛丼を選んだのです」
こうして、東日本大震災と祖業の「三光亭」が、「チカラめし」を生み出した。
「チカラめし」が急成長した2つの要因
とはいえ、居酒屋業態がメインになっていた同社において、牛丼屋という業態はまったくの門外漢。にも関わらず、「チカラめし」は、創業からわずか2年で133店舗まで店舗を拡大することに成功する。ここまで急成長した理由はなにか。
長澤氏によれば、それは以下の2つの要因に分類できるという。
①「焼き牛丼」という商品の新しさ
②「金の蔵」マネーが支えた、圧倒的な低価格
それぞれ、見ていきたい。
まず、①について。「チカラめし」の代名詞ともいえる「焼き牛丼」が、大きな発明だったと長澤氏は振り返る。
「当初から、牛肉と米を使った『焼肉丼』のようなメニューを作ろうとはしていました。ただ、それではインパクトが薄く、限られたお客様しか来ないと思ったのです。そこで、『焼肉』で勝負せず、すでに多くのお客様がいる『牛丼』と命名することで、牛丼マーケットに進出しました。弊社の名前は、『SANKO MARKETING FOODS』ですが、まさにマーケティングを行ったのです」
「焼肉丼」ではなく、「焼き牛丼」という見せ方。このマーケティング戦略がヒットを呼び込む。
競合他社が真似できないやり方を採る
さらに、これはマーケティング的な意味だけでなく、他社との差別化という意味でも功を奏した。
「肉を焼くには、専用の設備が必要です。他の牛丼チェーンさんの場合、すでに牛肉を『煮る』設備が整っているため、マネしようとしてもなかなか難しく、追随できません。さらに、牛肉を一枚一枚焼くというオペレーションがかなり大変です」
通常、チェーンオペレーションでは「誰がやっても簡単に、同じようにできる」ことが前提となる。しかし、「チカラめし」の場合は、このチェーンオペレーションから離れた運営で、肉を一枚ずつ焼いた。他社にはマネできないやり方なのだ。
結果、その独自のオペレーションと商品によって、初期「チカラめし」の店舗では、その美味しさに感動する人が続出する自体に。
「やはり、『煮る』よりも『焼く』ほうがおいしくお肉をいただけるのではないでしょうか」
単なるネーミング勝負だけではなく、内実も伴った形で「チカラめし」は広がっていったのだ。
「金の蔵」マネーで実現した圧倒的な原材料調達力
さらに、「チカラめし」に人を集めたのが、②「『金の蔵』マネーで実現した圧倒的な低価格」だ。
当初、チカラメシは一杯280円で提供されていた。厨房でていねいに調理された肉が思う存分に食べられて、この価格は驚きだ。どのように実現したのか。
「始めた当初は、牛肉もお米も今よりは安かった。ただ、それだけでなく、当時は弊社の『金の蔵』の業績が好調で、十分なキャッシュがありました。それを使って、牛肉とお米の調達力を高めました」
「金の蔵」は、日本がリーマンショックのあおりを受けていた2009年に、「サラリーマンが気軽に立ち寄れる店に」を合言葉に、「全品270円均一」を掲げて爆発的な人気を生んだ居酒屋チェーンだ。そこで稼いだキャッシュが、「チカラめし」の原材料買い付けに生かされた。
「焼き牛丼」の商品力と、「金の蔵」マネーが可能にした低価格の2つが合わさり、「チカラめし」は、牛丼業界に大きなインパクトを与えることとなったのだ。
「チカラめし」に人材が流出し、「金の蔵」が弱体化した
こうして誕生した「チカラめし」は、当初、多くの店で行列が出来るほどの人気となる。また、SANKO MARKETING FOODSとしては、他の牛丼チェーンに対抗するため、急速に出店を伸ばし、人々の認知度を上げるねらいもあったという。急速出店はメディアも取り上げるところとなり、「チカラめし」は一躍、話題となる。
……が、その顛末は、読者のみなさんも知っている通り。その勢いは2年ほどで衰え、大量閉店が進んだ。「チカラめし」凋落の背景になにがあったのか。
長澤氏は、店舗の急拡大により、十分なサービスが各店舗で行われなくなってしまったこと、さらに牛肉価格が高騰したことを理由に挙げる。しかし、「チカラめし」の衰退には、さらなる要因があったという。
「2014年ごろから『チカラめし』は大量に閉店しました。その背景にあったのは『金の蔵』の弱体化です。なぜ弱くなったか。実は、『チカラめし』を拡大させるにつれて、『金の蔵』の優秀な店長を『チカラめし』に異動させていったのです。『チカラめし』にかける思いが強いあまり、こうした人材配置を生み出してしまいました」
優秀な人材の流出によって、「チカラめし」を支えていたはずの「金の蔵」が弱体化してしまったのだ。当然、『金の蔵』が弱くなれば、その売上が元手の「チカラめし」の運営も難しくなる。最悪の場合、共倒れだ。
こうした危機感を背景に、「チカラめし」の大量閉店が決められたのだという。
「鳥貴族」の勢いを後押ししてしまった「チカラめし」
そして、「金の蔵」自体も、コロナ禍のあおりを受けて、現在では池袋に1店舗を構えるのみとなった。
「金の蔵」と同業態の格安居酒屋として、現在大きな影響力を持っているのは「鳥貴族」だが、実は「鳥貴族」が大きく勢力を拡大した背景にも、「チカラめし」の影響があるのではないかと長澤氏は見ている。
「弊社が『金の蔵』から『チカラめし』へ注力し始めた時期に、鳥貴族さんが出始めたのです。そうした経緯もあり、格安居酒屋といえば、『鳥貴族』というようなイメージがいつのまにかついたのかもしれません」
いずれにしても、「金の蔵」も縮小を余儀なくされ、SANKO MARKETING FOODSは、会社全体として立て直しを迫られる自体に陥ってしまう。
「チカラめし」はリブランディングできるのか
さまざまな要因の中で、大量出店・大量閉店を、わずか数年の間で経験した「チカラめし」。
しかし、SANKO MARKETING FOODSは、「チカラめし」を見限ったわけではない。
「弊社にとって、『チカラめし』は、祖業の牛丼屋だということもあり、とても大事なブランドです」
こうした考えから、「チカラめし」は今年の5月、九段第二合同庁舎内に新規出店を行い、東京に帰ってきた。もともと、SANKO MARKETING FOODは、省庁の食堂事業の一部を受託していることもあり、一般人も入れる九段第二合同庁舎での新規オープンに際して「東京チカラめし食堂」をオープンさせたのだ。
オープン初日には、かつての「焼き牛丼」を求めて、多くのファンが詰めかけた。
「鎌ヶ谷(千葉)にあった店舗が再開発の事情で閉店する際、大阪から高校生がわざわざ来てくれたようです。それぐらい根強いファンが『チカラめし』にはいます。近年は会社自体を立て直さなければいけませんでしたが、やっと落ち着いてきたので、『チカラめし』のリブランディングを進めたいと思っています」
SNSなどでも話題になることが多い「東京チカラめし」。一世を風靡した「焼き牛丼」は再起できるのか。多くのファンの期待の中、その立て直しが期待されている。
構成/谷頭和希 写真/SANKO MARKETING FOODS提供
『流通空論』
ラッパーでクリエイティブディレクターのTaiTanによるPodcast。
「流通」とはなにかを解きほぐしながら、ゲストたちと⾃由連想形式で「空論」を展開する、新感覚の「放⾔ビジネスプログラム」です。
流通にまつわる既存のルールを変えてきたゲームチェンジャーをゲストにお迎えして、ヒット商品誕⽣の舞台裏から新システム浸透の背景まで、「企て」のすべてに迫っていきます。毎週月曜日朝5時に配信。
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