『トップガン マーヴェリック』が大成功したのは思い出消費? これからのヒットの秘訣はシニアの思い出の中にある
集英社オンライン / 2024年8月30日 8時0分
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トム・クルーズの日本における上映映画として過去最高の興行収入137億円超を叩き出した『トップガン マーヴェリック』。シニア世代の「あの頃、楽しんだ熱狂をもう一度味わいたい」という感情を喚起させることにより成功したからこそのヒットだと言われている。
【画像】「知ってるつもり消費」を刺激し、50万部を売り上げた書籍
『「シニア」でくくるな! “壁”は年齢ではなくデジタル』より一部を抜粋・再構成し、思い出(ノスタルジー)消費について解説する。
〝思い出消費〞で大成功した「トップガン」
今どきの高齢者全体に通用するマーケティングのポイントについて言及したい。
まず、現時点でも有望であり、将来的にはよりマーケットが大きくなると予想される領域がある。それが、「ノスタルジー消費(思い出消費)」だ。
シニア世代に共通して言えるのは、全く新しいものにチャレンジしたり、受け入れたりすることは、少しハードルが高いということだ。その代わりに、「見てみたい」「やってみたい」と抵抗感なく飛びつきやすいのが、若かりし頃に一度経験して楽しんだ記憶があり、それがリメークや続編となって再登場してくる商品やサービスだ。
「懐かしい」「あの頃、楽しんだ熱狂をもう一度味わいたい」と、ノスタルジーを感じて、それによって消費の歯車が回り出す。シニアヒットの源泉は、彼ら、彼女らの思い出の中に眠っており、それらをいかに目覚めさせるかが鍵となる。
特に、分かりやすい形で思い出消費によって爆発的ヒットを生むのが映画だ。団塊の世代が30代中盤から後半、その次のしらけ世代が20代中盤から30代前半、そしてシニア予備軍である新人類世代が20代前半、バブル世代が高校生、大学生のとき、日本で大ヒットした1986年上映の米国映画『トップガン』。
2022年5月、続編となる『トップガン マーヴェリック』が上映されると、それらの世代の思い出消費を喚起し、主演のトム・クルーズの日本における上映映画としては過去最高の興行収入137億円超をたたき出した。
映画館には懐かしさに背中を押された多くのシニア、シニア予備軍が足を運び、感動して涙を流す光景も見られた。
感涙する姿は、若者からすると違和感があるかもしれないが、感情に「思い出」が乗る分だけ、感動も2倍、3倍になり、「もう一度見たい」「何度でも見たい」というリピートにもつながりやすい。これが思い出消費の強みだ。
実は、こうした思い出消費を狙った映画は、近年、米ハリウッドではヒットメイクを生む常とう手段だ。2018年、世界的人気ロックバンド「クイーン」のボーカル、フレディ・マーキュリーを描いた伝記ドラマ『ボヘミアン・ラプソディ』。
2019年、グラミー賞5度受賞の世界的ミュージシャン、エルトン・ジョンの自伝的映画『ロケットマン』。2022年、エルヴィス・プレスリーの生涯を描いた伝記映画『エルヴィス』など枚挙にいとまがない。
日本だけでなく、戦後は世界でベビーブームによって多くの子供が生まれ、現在、それらが年齢を重ね、先進国はどこも高齢者が〝固まり〞となって存在する。思い出消費を仕掛けることによって、パイ(母数)が大きい分、爆発的なヒットも生みやすくなっている。
もちろん、思い出消費が有効なのは映画だけではない。若者の間では、数年前から「昭和レトロブーム」と称し、一昔前の喫茶店に行ってスマホで撮った写真をSNSに投稿する行為がはやっている。
つまり、若者は自分たちが〝体験したことがない昭和〞を求めて消費している。一方、高齢者は、自分たちが〝体験した昭和〞を求めて、思い出消費に走る傾向がある。
そうした消費行動が期待できる今、例えば、旅行ツアーであれば、昭和の時代に若者が足しげく通った思い出の場所を訪ねる「ノスタルジー巡礼」といった企画が心に刺さるかもしれない。
あるいは、昭和グルメシリーズ、昭和グルメフェアなど、昔はやったメニューやスイーツを商品化、メニュー化して提供することも考えられる。令和の時代、団塊の世代、団塊ジュニア世代が高齢者となり、国内の高齢者は過去最大のボリュームとなって巨大市場を形成する。今後、思い出消費は高齢者攻略のキーワードとなる。
新書『応仁の乱』が〝知ってるつもり消費〞でヒット
思い出消費の派生形で、ヒットが望める手段は他にもある。その一つが、何となく概要は知っているが、詳しくは理解していないテーマについて、深く掘り下げて提供する「知ってるつもり消費」だ。
『知ってるつもり⁈』とは、関口宏が司会を務め、日本テレビで2002年まで13年間にわたり放送された、言わずと知れた教養番組だ。毎回1人の著名な人物を取り上げ、知られざる生涯について詳しく紹介する。
それと似たような構図で、表面的な知識はあるが、内情を深く把握していないテーマを扱った書籍の人気に火が付く現象が、高齢者マーケティングで巻き起こっている。
その一つのケーススタディーが、2016年に発刊された新書『応仁の乱』(中公新書)だ。室町時代中期に起こり、戦国時代へと移るきっかけとなった内乱で、知名度はあるが、その歴史的背景についてよく知っている人は少ない。
歴史に詳しい読者向けに書いた本だったが、一般の知ってるつもり消費を刺激し、歴史書としては異例の約50万部を売り上げるベストセラーとなった。
2014年から2019年まで「ビッグコミックスペリオール」(小学館)で連載され、巨人の一時代を築いたダブルエースの江川卓と西本聖の相克を描いた実録まんが『江川と西本』も知ってるつもり消費の典型だ。
2017年、テレビ朝日の人気バラエティー番組『アメトーーク!』で司会の蛍原徹が紹介すると、大ブレークして版を重ねた。現在のシニア世代は、「巨人・大鵬・卵焼き」で育った団塊の世代を含め、ジャイアンツ・ファンが多い。
江川と西本のことは当然知っているが、背景までは認識していない。その上っ面の知識をうまく突き、消費に結実させた。シニア世代は人口ボリュームが大きいため、ひとたび火が付くとこうした爆発的なヒットにつながりやすい。
捨てられた高齢者が行きついた「YouTube」
今回の定量調査で明確になったのが、現時点のデジタル高齢者の利用率が比較的高く、情報を届けるメディアとして有効なのが、「YouTube」「LINE」「検索(Google検索やYahoo!検索)」の3つにとどまるという現実だ。
ただし、デジタルリテラシーが高い一部の間で「Facebook」の活用も進んでいる兆候が垣間見られた。今後、新人類世代やバブル世代が高齢者になる時代には、Facebookも有効なメディアとなり得るだろう。
特に、コンテンツの作成や広告の出稿先として、有望となるYouTubeはデジタル高齢者を強く引き付けるツールとして、積極的に活用すべきだ。高齢者へのロングインタビューによる定性調査でも、デジタル高齢者でYouTubeを視聴しているユーザーは非常に多く見られた。
YouTubeの視聴が加速したのは、2つの事象が関係している。1つがテレビがコア視聴率(主に13〜49歳の個人視聴率)を採用し、49歳以下をターゲットとして、高齢者を事実上見放したことだ。
もう1つが、2020年春から新型コロナウイルス感染症によって巣ごもり生活が続き、YouTubeを視聴する機会も時間も増えたことだ。
本来ならコロナ禍ではテレビを見て過ごしていたはずだが、その肝心のテレビが自分たち向けの番組づくりを放棄してしまった。それらの高齢者向けの番組はBSに相次いで引っ越した。
だが、BSを見る高齢者は一定数いるものの、視聴環境を整えている高齢者世帯はそれほど多くない。そこで、行き場を失ったデジタル高齢者が向かった先がYouTubeだった。テレビが見放した高齢者をYouTubeが受け皿となって拾い、視聴回数が一気に上がったというのが要因の一つだ。
写真/shutterstock
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