女性誌の販売部数日本一! 高齢者を知り抜く『ハルメク』独自のデジタル知見とは? 登録フォームには余計な任意項目を設けないことが鉄則
集英社オンライン / 2024年8月31日 8時0分
〈『トップガン マーヴェリック』が大成功したのは思い出消費? これからのヒットの秘訣はシニアの思い出の中にある〉から続く
書店では購入できない定期購読のみの月刊誌ながら女性誌としては日本一の発行部数を誇る『ハルメク』。
書籍『「シニア」でくくるな! “壁”は年齢ではなくデジタル』の一部を抜粋・再構成し、徹底的な調査により、どんな企業よりも高齢者を知り抜く『ハルメク』独自の知見を明らかにする。
ハルメク・エイジマーケティング
高齢者の間でスマホ保有者が増えていることは、公的データでも明らかになっている。しかし、どの程度使いこなせ、どんなふうに利用しているのか、具体的な実態となると、途端に不透明になる。実態が分からないから対策もできず、どの企業もマーケティングに手こずっている。
そうした中、独自のリサーチで知見を積み上げ、大手企業にノウハウを提供しているのが、シニア向け女性誌として知られる『ハルメク』のグループ会社であるハルメク・エイジマーケティング(東京・千代田)だ。
デジタル高齢者を知り抜き、シニア施策に挑む大手企業から引っ張りだこになっている。まずは、同社のすごさと、知られざるシニアマーケティングの現状に迫る。
独自のシニアリサーチで知見をため込む
国内雑誌の凋落が止まらない。そんな中、女性誌で販売部数〝日本一〞(日本ABC協会発行社レポート2023年1〜6月)を誇り、独り気を吐くのがシニア向け女性誌『ハルメク』だ。
シニア女性から絶大な支持を得ている理由は、彼女たちのリアルな声を反映しているからだ。読者に対し、膨大な量のヒアリングを行い、「今知りたいこと」「悩み」「要望」など、リアルな声を徹底的に収集、分析する仕組みを整えている。
それらを反映した企画を立案するからこそ、シニア女性の心を捉えて放さない。毎号、スマホの使い方を高齢者でも分かりやすく紹介する特集など、人気企画が目白押しだ。
だが、雑誌のハルメクは企業の一つの顔に過ぎない。ハルメクグループはシニアマーケティングに特化し、雑誌以外にも通販や店舗、イベント、BtoB支援など手広く事業を展開している。
そのうち、BtoB支援事業としてシニア領域特化型のコンサルティングやオウンドメディア支援を行っているのが、グループ会社のハルメク・エイジマーケティングだ。
独自のシニアリサーチで知見をため込み、日本の名だたる企業にノウハウを提供している。特に、どの企業にとっても喉から手が出るほど欲しい「シニアのデジタル利用の実態」に精通しているのが強みだ。
高齢者に有効なビッグワード
同社では、どのようにシニアのデジタル利用の実態を把握しているのか。そのアプローチは、実は雑誌のハルメクと同様だ。高齢者にじかに接触し、リアルな声や行動を収集するという骨の折れる作業を地道に行っている。
「実際、PCの操作はどのように行っているのか。あるいは、スマホやLINEはどう使って、動画はどうやって見ているのか。ハルメクの読者や通販の会員などから選抜した高齢者に当社に来ていただき、一つひとつの挙動を見たり、ヒアリングを行ったりしながら、特徴や問題点を洗い出し、分析や有効な対策を見いだしていく」と、同社営業局コンサルティング部長の熊倉圭介氏は話す。
そうやって、シニアに対し、繰り返しユーザーテストと分析を行った結果、どこにもない唯一無二のファインディングス(発見)が積み上がっていく。
では、ファインディングスの一端を見ていこう。まず、同社による様々なテストから見えてきたことは、前提として、シニアは文字入力が苦手という事実だ。例えば、検索窓に対する入力では、PCでもスマホでもミスが多い。加えて、「1つの単語で検索する」傾向もある。
入力作業が多くなるため、現役世代や若者のように、複数の単語を入力して絞り込んだ検索を行わない。例えば、銀座でランチの場所を調べる場合、「銀座ランチ」とは検索せず、「銀座」か「ランチ」と入力しがちだ。
さらに、サジェスト機能(検索エンジンで文字を入力する際、キーワードを予測して表示する機能)により、入力途中で候補として表示された単語を押しがちという特徴も見られる。
入力が苦手なため、サジェストに頼るわけだ。結果、当初、頭に浮かんだ単語以外を選んで検索してしまう可能性も出てくる。
こうした行動特性が分かると、具体的な対策が見えてくる。1つの単語で検索するということは、消費者が検索したキーワードに関連した広告を表示させる「リスティング広告」を行う場合、誰もが思い浮かべやすい、いわゆるビッグワード(検索されることが多いキーワード)で出稿するのが効果的ということだ。
また、サジェスト機能の候補単語を押しがちであるなら、入力途中でどんな単語が出てくるかをあらかじめ確認し、必要に応じてその候補単語での出稿も検討対象となる。
関連する行動としては、高齢者は検索結果の一番上に表示されたタイトルや説明文をクリックすることが多いという特性もある。「シニアは検索結果の一番上にあるものほど、良いものであり、自分に合うと考えている。それが広告なのか自然検索で示された項目なのかは気にせずクリックする」(熊倉氏)
実際、検索サービスを提供する他社の調査でも、高齢になるほど、検索広告のクリック率は高くなる傾向を示しているという。つまり、多少費用をかけてもビッグワードで出稿すれば、高齢者はクリックしてくれる確率が高く、現役世代や若者以上にリスティング広告が効くということだ。
高齢者はスクロールが得意
得意な操作もある。その一つが画面のスクロールだ。PC、スマホのいずれでもスムーズに操作でき、そのページがどんなに縦長でも、どんどん下へ下へとスクロールし、最後まで見てくれる。
逆に、1つのページをより短くして、クリック(タップ)することによってページが遷移する仕組みは苦手だ。ページが次から次へと遷移すると、迷子になってしまったとネガティブな感情を抱き、離脱してしまう可能性が高まる。
こうした行動から導き出される対策は、情報量が少ないページを複数用意するのではなく、情報量が多くても1ページに集約することだ。極力ページを遷移させずにコンバージョン(サービスの利用開始)まで完了する導線設計を行うとよい。
そして、入力が苦手にもかかわらず、登録フォームはすべての項目を埋めがちな傾向も見られる。一般的に登録フォームは、任意項目と必須項目が混在している場合が多い。それらに対し、高齢者は全部入力しなければならないと考えてしまい、任意項目までも何とか埋めようとする。
すると、入力回数が多くなる分、ミスも発生する。登録ボタンや送信ボタンをいくら押しても、間違いがあるために次の画面で入力エラーの表示が続き、途中で登録を諦めてしまうのが往々にしてあるパターンだ。
したがって、高齢者向けの商品やサービスの登録や申し込みフォームでは、余計な任意項目を設けないことが鉄則となる。全角や半角の自動変換機能によって、そのどちらで入力しても表記が統一され、エラーを発生しにくくする工夫も必要だろう。入力後、その場ですぐに誤りが分かるような表示も、入力ミスが多い高齢者の手助けになる。
写真/shutterstock
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