〈終戦79年〉出撃前の特攻隊、原爆のきのこ雲、火炎放射器で焼かれる沖縄…AI技術と対話をもとにカラー化した写真が繋ぐ“過去と現在”
集英社オンライン / 2024年8月12日 8時0分
AIの最新技術と人の手によってカラー化した戦前〜戦後の写真を約350点収録した『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』(光文社新書)。2020年7月に出版され、発行部数6万部を記録し好評を博している。当時の写真をカラー化することの意義、書籍化への想いを、担当編集者・高橋恒星さんに聞いた。
〈写真多数〉1937年ごろ広島市の名所「岩鼻」で撮影された写真など
本書出版までの道のりを、実際に掲載されたカラー化写真と共にお届けする。〈サムネイル写真/1945年8月6日8時15分。広島市への原子爆弾投下〉
太平洋戦争終結から79年目の夏、今年も日本は「終戦の日」を迎える。
ロシアによるウクライナ侵攻は出口が見えず、ガザではイスラエル軍による虐殺が続いている。国際情勢が緊張を増す中、かつての戦争を振り返り、「いかに平和を守るか」について考えることは、今の時代を生きる私たちの義務ではないだろうか。
戦争と平和を考えるにあたり、関連書籍を手に取る方も多いだろう。
戦前〜戦後の貴重な白黒写真をカラー化して掲載した書籍『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』(光文社新書)は、写真集としては異例の発行部数6万部を記録し、大きな反響を呼んだ。原爆投下や各地への空襲だけでなく、当時を生きた人々の“日常”にもスポットを当てた写真が、約350点収録されている。
「形あるものとして留めたい」書籍化への思い
本書にかけた想いと出版までの道のりを、担当編集者の高橋恒星さんに聞いた。
「歴史的・軍事的な視点から戦争を振り返るような書籍はたくさんありましたが、それだけでは不十分だと感じており、別の方法で戦争に対してアプローチしたいという気持ちがありました。
そんな折、著者の渡邉先生が“〇〇年前の今日”としてTwitterで毎日発信されていた写真を見て、『これを写真集にできないか』と考え、先生にコンタクトを取りました」
SNS全盛の今、ネット上で誰でも気軽に写真を載せたり、見たりすることが可能だ。そういった写真を、あえて一冊の本にまとめることに意味があったのだという。
「本書は、決して“ネットありき”の企画ではないんです。よく『フロー(Flow)とストック(Stock)』という言葉が使われますが、ツイートだとそのまま流れて、明日にはみんな忘れてしまう。“フロー”ではなくて、形を持って留まることはすごく大事なことなんじゃないかと思います。
いわゆる“バズらなかった”写真の中にも大切なものがあり、それらを全て並列的に扱えるという点でも、書籍というスタイルで写真を残すことには意味があったのではないでしょうか」
戦火だけではない「普通の生活」から伝わること
著者の庭田杏珠さんと渡邉英徳さんが、共同プロジェクト「記憶の解凍」などを通して集めた写真の数は膨大だ。その中から掲載する写真の選定にも気を配ったという。
「写真を選ぶ基準は何点かありましたが、とにかく“暮らし”が分かるものをちゃんと入れましょう、という話をしましたね。普通に選ぶと、どうしても戦闘機や戦艦の写真ばかりになってしまうんです。それだけではなく、軍人などではない銃後(一般国民)の人々の生活が分かる方が、より伝わるものがあるのではないかと思いました。
カラー化した時に目を引くようなもの、いわゆる“映え”ももちろん意識しましたが、できるだけ全国各地の写真を並べたり、海外も含め、歴史的に見て重要な事件に関わる写真も掲載することで、幅広く訴えかけるものにしたかったのです」
今と“地続き”になる…写真のカラー化で繋がる過去と現在
そうして選ばれた写真は全て、AIで自動色付けの後、関係者への聞き取りや図鑑での照合を経て手作業で調整されたものだ。
「AIが自動カラー化した画像は、一見そのまま使えそうなほど"それっぽく“なります。しかし実のところ、服装や軍人の徽章、原爆のきのこ雲など、"それっぽく"なっているだけで、実際とは異なるところも多いのです。
それらを修正するためのアプローチはさまざまです。資料を確認したり、専門家の知恵を借りたり、当事者と対話したり。地道な作業で場合によっては一枚の写真のカラー化に数ヶ月かかる場合もあります。著者の二人はこうしたプロセスを通じた、"なぜ"カラー化するのかという意味の部分をとても大事にしています」
対話と調整を積み重ねてカラー化された写真が、多くの人の心を捉えるのはなぜなのか?
白黒の世界で「凍りついて」いた過去の時が「流れ」はじめる――著者の渡邉英徳さんは本書中でこう表現している。そこに映る人々に体温を感じ、今の自分と繋がる。
担当編集者の高橋さんが考える、カラー化写真の“意義”とは。
「写真をカラー化することで、“想像力が繋がる”ような感覚が生まれます。例えば、特攻隊の写真を改めて見た時、同じ時代に生きていてもおかしくない、ただの若者や少年だったんだ、と感じました。彼らの境遇や気持ちを想像し、他人事じゃなくなるんです。
私たちが5年前・10年前のことを考える時、確かに『現在まで続いている』と感じるのに、80年前の話になると急に時の流れが途切れてしまうのは何故でしょうか? この本の中では『地続きになる』という言い方をしているんですけど、戦争というものが切り離された世界の出来事ではなく、戦前〜戦中〜戦後という流れの中で今と繋がっているんだ、と感じられるところに、カラー化の意義があるのだと思います」
次ページからは戦前の広島や真珠湾攻撃など、今までモノクロでしか見ることができていなかった写真を本書から抜粋するかたちで掲載する。
戦前の広島、中島地区にあった丸二屋商店
1932年ごろ。中島地区(現在の広島平和記念公園)にあった、丸二屋商店の写真。元安橋と本川橋を結ぶ中島本通りにはたくさんの商店が建ち並んでいた。丸二屋商店は本川橋東詰め付近に所在し、石鹸と化粧品の卸問屋だった。新商品が出るたびにチンドン屋(編集部注:原文ママ)が雇われ、店頭を賑わせていた。
戦前の広島、幼稚園のお遊戯会
無得幼稚園のお遊戯会。園児たちが輪になって国旗を振る。無得幼稚園は、誓願寺(現在の広島平和記念資料館・本館南側の広場に立地)内に位置していた。
戦前の広島、中島地区にあった「濵井理髪館」前
1936年5月2日。中島地区(現在の広島平和記念公園)にあった「濵井理髪館」前の濵井德三さんと母イトヨさん。片渕須直監督のアニメ映画『この世界の片隅に』の冒頭シーンには、この写真を元にした理髪館と家族が登場する。濵井さんは、原爆で亡くなった家族に会うために、何度も映画館を訪れたという。
戦艦「大和」
1941年10月20日。開戦の50日前。豊後水道・宿毛湾沖合付近を公試航行中の戦艦「大和」。
日系人強制収容
1942年4月25日。日系人強制収容のために、サンフランシスコの市民統制センターに行列する人々。
真珠湾攻撃
1941年12月7日(現地時間)。真珠湾攻撃により太平洋戦争が始まった。写真は爆発炎上する駆逐艦「ショー」。
硫黄島の戦い
1945年2月21日。硫黄島・摺鉢山北側の日本軍陣地に向けて、37mm砲で攻撃するアメリカ兵。
東京大空襲
1945年3月10日。東京大空襲。B-29約300機が来襲、約1700トンの焼夷弾を投下。死者8万人以上、罹災者100万人以上。写真は空襲後の空撮写真。
呉軍港への空襲
1945年3月19日。呉軍港空襲。アメリカ軍の艦載機約350機が来襲。空母「龍鳳」が炎上、その他の艦も小破などの損害を受けた。写真は灰ヶ峰上空方面から江田島方面を撮影したもの。
アメリカの空母「フランクリン」
1945年3月19日7時8分ごろ、日本近海にて日本軍機の緩降下爆撃を受け、右舷に大きく傾斜する空母「フランクリン」。
特攻機の見送り
1945年4月12日。知覧飛行場にて。特攻に向かう穴澤利夫少尉の「隼」を見送る知覧高等女学校の生徒たち。
激戦地となった沖縄
1945年5月11日。沖縄戦にて、火炎放射戦車で日本軍を攻撃するアメリカ兵たち。
出撃前の特攻隊
1945年5月26日。子犬を抱く特攻隊員。中央が荒木幸雄伍長。鹿児島の万世飛行場にて、出撃予定時刻の2時間前に撮影。悪天候のため翌日出撃、戦死した。
広島へ、原子爆弾投下
1945年8月6日8時15分。広島市への原子爆弾投下。当時の推定人口35万人のうち9万〜16万6千人が、被爆から2〜4ヶ月以内に死亡したとされる。写真は呉市の吉浦町(現・若葉町)にあった海軍工廠砲煩実験部にて、尾木正己さんが撮影したきのこ雲。
降伏へ、日本の使節団
1945年8月19日。沖縄・伊江島を経由し、正式降伏文書受理のため、マニラに向かう日本の使節団。
痩せ細った日本兵
1945年9月15日。終戦直後にマーシャル諸島で撮影された日本兵たち。おそらくウォッゼ島かマロエラップ環礁タロア島で撮影されたもの。
戦後、国内の様子
取材・文・構成/集英社オンライン編集部ニュース班
写真/『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』より出典
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