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『これは経費で落ちません!』など、デビュー20周年・青木祐子の仕事歴

集英社オンライン / 2022年6月20日 12時1分

テレビドラマ化された『これは経費で落ちません! 〜経理部の森若さん〜』や、ヴィクトリア朝を舞台にした『ヴィクトリアン・ローズ・テーラー』などのヒットで知られる作家の青木祐子。今年デビュー20周年を迎えた青木に、働く女性をモチーフにした代表作2作について語ってもらった。

【会社員から専業作家の道へ】

――青木さんが小説家を目指したきっかけを教えてください。

小学生の頃から小説は書き続けていましたが、作家を目指したのは会社員だった20代後半になってからです。このまま会社勤めを続けていくのかと悩み、自分が本当にやりたいことは何だろうと考えた末に辿り着いたのが、プロの小説家になることでした。それまでは無理だろうと諦めていたけど、一生に一度くらい人生の岐路に立ってみよう、挑戦したうえで駄目なら諦めがつくと、小説の投稿を始めました。



――そして2002年に『ぼくのズーマー』でノベル大賞を受賞、作家デビューします。なぜコバルト文庫の新人賞に応募されたのでしょうか?

当時は長編小説が書けなくて、中編でも投稿可能な賞という理由で選びました。とはいえ、以前からコバルト文庫の読者で、中高時代は氷室冴子さんや新井素子さん、久美沙織さんの作品などをたくさん読んでいました。

――デビュー3年目で専業作家になるという大きな決断を下されます。

あの頃のコバルト作家は年に3~4冊新刊を出していたけど、会社員を続けながらそのペースで書き続けるのはしんどかったです。他の本を読んだり、調べ物をする時間も全然取れず、自分の中がどんどん枯れていく。デビュー当時から書き続けていたファンタジー小説に限界を感じていたこともあり、一度リセットしてやり直そうと決意しました。

20代後半で大きな決断をしたのに、今仕事を辞めたら次がないかもしれない30代でまた覚悟を決めなければいけないのかと思ったけど、それでも自分自身に賭ける道を選びました。幸いなことにその後『ヴィクトリアン・ローズ・テーラー』(以下、『ヴィクロテ』)がヒットし、専業作家としてやっていけるようになりました。

8年間でシリーズ全29巻の大作

【どこにでもいる平凡なOLの物語】

――話がやや前後しますが、まずは青木さんの代表作の『これは経費で落ちません!』(以下、『経費』)シリーズについてうかがいます。本作はどのような経緯で生まれたのでしょうか。

オレンジ文庫の創刊時に主人公の年齢が高めでもよいと言われたので、これまでは書けなかった会社員の話にしようと決めました。小説なので変わった職業の方がよいだろうと、入浴剤の開発室を舞台にした『風呂ソムリエ 天天コーポレーション入浴剤開発室』を書いたけど、職業が変わり種すぎたし、自分としてもあまり手応えを感じない。

理想のお風呂を作りたい、風呂をめぐるOLストーリー

そこでようやく、本当に書きたいのはどこにでもいる平凡なOLの話だと気づいて、同じ会社の経理部に勤務する森若沙名子を主人公にした『これは経費で落ちません!』を執筆しました。

――経理というモチーフに着眼された理由を教えてください。

事務職であればどの職種でもよかったのですが、最初に勤めた会社にとても仕事のできる綺麗な経理のお姉さんがいて、彼女からヒントを得て森若さんというキャラクターが生まれました。当初は事務の女の子の日常を中心にした物語として展開するつもりでしたが、1巻の発売後に「もっと経費をめぐる謎が出てくるのかと思った」という感想を読んで、そのアイディアは面白いなと思って、ストーリーにミステリーの要素を取り入れました。

――リアリティのあるお仕事描写や人間模様が共感をよんでいますが、作品にはご自身の経験が投影されているのでしょうか。

そこは投影していますね。森若さんのキャラクター造形以外でも、皆で一冊の書籍を共有する時には貼り付ける付箋の色を個人別に決めておくというエピソードや、仕事中にコーヒーだけを買いに行くのは駄目だけど用事にあわせてならよいというルールなど、細かいところに自分の経験が反映されています。

読者のレスポンスを反映させたストーリー作り

――作中では、個性豊かなキャラクターが登場します。

森若さんは生活まわりの細かい描写を書くのが楽しいし、太陽くんは単純で表裏のない男の子で可愛いなと思っています。中途入社の経理部員・麻吹美華は当初は嫌われ者の立ち位置でいく予定でしたが、予想外に人気が出たので路線を変更して今のような人物像になりました。他にも経理部員では森若さんの上司の田倉勇太郎がお気に入りで、つい試練を与えたくなってしまいます。

――読者の声を積極的に拾って作品に反映されているようですが、それが青木さんの執筆スタイルなのでしょうか。

すべての作品でこういう書き方をするわけではありませんが、『経費』に関しては、読者のレスポンスを意識しています。特にリアルに組織で働いている人たちがどう思うかは気になりますね。森若さんと太陽くんのロマンスについては、コバルト文庫を書いていたときと同じように、恋愛っていいなと思ってもらえるように書きたいと思っています。

最新刊の9巻では二人の関係が重要な局面を迎えますが、シリーズを続けるうえでこの話を避けては通れません。とはいえ、人生の選択肢はひとつではありません。何が良い悪いではなく、何を選ぶかである、という森若さんの姿勢は崩さないつもりです。

――『経費』はテレビドラマ化されて好評を博しました。メディアミックスをきっかけに読者層も広がったのではないでしょうか。

読者層の主力は働いている女性ですが、会社が舞台のお話なのでサラリーマンの方が買ってくださったり、ドラマがきっかけで普段は本を読まない方や、ジャニーズファンの方も手に取ってくれました。そうした方が今も読み続けてくださっているのがとてもありがたいですね。

【働く少女の物語をコバルト文庫で】

――コバルト文庫時代の代表作『ヴィクロテ』は、イギリスのヴィクトリア朝を舞台にした物語です。なぜこの時代をモチーフに選ばれたのでしょうか。

『ヴィクロテ』以前はファンタジー小説を書いていましたが、完全に行き詰まっていて、違う路線を模索する中で自分の好きなヴィクトリア時代というモチーフが思い浮かびました。コバルト文庫で谷瑞恵さんの『伯爵と妖精』という、ヴィクトリア朝を舞台にした作品がヒットしていたのも後押しになりました。

妖精の姿が見える少女・リディアの痛快冒険ファンタジー

――本作は恋を叶えるドレスを作ると評判のクリスと、公爵の息子シャーリーを中心とした、お仕事もの×ロマンス小説です。今でこそお仕事小説が流行っていますが、『ヴィクロテ』がスタートした2005年の時点では、手に職をもった少女主人公という設定は珍しかったと思います。

海外では働く女性を主人公にしたライトな小説がいろいろあります。とりわけソフィー・キンセラの作品が好きでした。こういうのが日本でもあればよいのに、私も働く女の人を書きたいけどコバルトでは無理だよね、と作家仲間と話していた時に、コバルトでもいける設定の職業にすればよいのではとアドバイスをもらいました。そこからアイディアを広げる中で、仕立屋『薔薇色(ローズ・カラーズ)』を営むクリスというキャラクターが生まれました。

――クリスが店主でドレスを作り、友人のパメラが販売や経理を担当する。女の子二人が役割分担をして共同経営するお店という設定もユニークです。

クリスのような芸術家肌な性格の人が一人でお店をやるのは無理なので、帳簿をつけたりマネージャー的な役割を担う人が必要だなと思い、パメラが生まれました。元会社員なので、こういうところはファンタジーにはせずに、現実的に考えてしまいます。黒髪でおとなしいクリスと金髪で華やかなパメラの対比は、ヴィジュアル面でもよい効果を生んでくれました。

――1巻の表紙ではヒーローのシャーリーが登場せず、クリスとパメラの女の子コンビが描かれているのがとても新鮮でした。

イラストを担当してくださったあきさんに、女女コンビにしてくださいと私の方からお願いをしました。当時のあきさんはまだ無名で、男性キャラしか出てこない同人誌を見てイラストを依頼しましたが、期待通りに女の子もとても可愛く描いてくださりました。

現代を生きる女性たちに読んでほしい働く女性を描いた小説

――『ヴィクロテ』は労働者階級のクリスと貴族階級に生まれたシャーリーの、身分差を越えた恋も読みどころの一つとなっています。

お金持ちの男性と結ばれるというシンデレラストーリーではなく、異種の者同士が恋に落ちた時に生まれる化学変化や面白さを書きたいと思っていました。シャーリーも本来であれば身分差の結婚に反対する立場なのに、それでもクリスを好きになってしまったという葛藤を掘り下げていきました。シャーリーに関しては私もちょっと悪ノリをしましたが、いい感じに育ってくれて、読者からの人気も高いキャラクターになりましたね。

――『ヴィクロテ』は1巻から好調だったのでしょうか。

じわじわと売れて、発売一ヶ月で重版がかかりました。『経費』のドラマ化が決まった時も嬉しかったけれど、『ヴィクロテ』1巻重版の知らせを受けた時が、20年間の作家生活の中で一番嬉しかった出来事かもしれません。

――クリスが作る「恋のドレス」や、身に纏った者を死へと誘う「闇のドレス」まわりの描写も読み応えがありました。

闇のドレス関連のエピソードはもう少し書きたかったのですが、そうすると読者は脱落してしまうだろうなと思ってやめました。後半は二人のロマンスを求める読者が多かったし、その判断は間違っていなかったと思います。

――全29巻の中で、とりわけ思い入れの深い巻はありますか?

シャーリーの家に初めて二人で行く『恋のドレスと陽のあたる階段』は、自分でも書いていてすごく楽しかったです。発売された時期に東日本大震災があって、読者の方に読んで元気をもらいましたと言っていただけたのも忘れられない思い出になりました。シャーリーの婚約者候補・アディルとクリスの決着がつく『聖夜の求婚』も、よく書けたと気に入っています。

シリーズ中盤の2作品がお気に入り

――『ヴィクロテ』と『経費』、時代設定は違えども、働く女性を描いた両作品はいずれも現代を生きる女性たちに寄り添った小説です。最後に青木さんのファンへのメッセージと、今回のインタビューで初めて作品に触れた方へのメッセージをお願いします。

読者の方には、本当にありがとうございますとしか言いようがありません。これからも物語に浸っていただけたら嬉しいです。『経費』も『ヴィクロテ』もハードルは高くないので、未読の方はぜひこの機会に読んでみてください。

取材・文/嵯峨景子

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