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「販売店に不当ノルマ」でハーレーダビッドソン日本法人に立ち入り検査…問題の元凶は車体へのこだわりを捨てた“マーケ偏重戦略”にあった

集英社オンライン / 2024年8月23日 8時0分

無印良品が強気な価格改定でも深刻な客離れを起こさない3つの理由。食品や家具で平均25%の値上げも業績好調を支えるブランドの底力〉から続く

ハーレーダビッドソンの日本法人が、販売店に対する不当なノルマを課した疑いがあったなどとして、7月30日に公正取引委員会が立ち入り検査に入っていたことが明らかになった。通常の営業活動では決して達成できないような目標を課されたため、販売店によっては自分たちで新車を購入して数字を底上げする、“自爆営業”もあったようだ。一連の騒動はアメリカ本社の販売戦略の失敗が、日本でも悪い形で表出しているのではないだろうか。

【図】バイクのタイプ別出荷台数

未開拓ライダーの獲得を狙ってマーケティング戦略を重視

ハーレーダビッドソンは2020年5月にヨッヘン・ツァイツ氏をCEOに迎えた。ツァイツ氏は30歳にしてドイツのスポーツブランド、プーマのCEOに任命されたやり手のビジネスマンだ。トップ就任後は財政難に陥っていたプーマを再編。8.6ユーロだった株価は最高350ユーロに達したことで知られている。

ツァイツ氏が就任する前のCEO・マシュー・レヴァティッチ氏は機械工学や経営を学んだ後にハーレーダビッドソンに入社し、2009年から2015年まで経営トップを務めた人物だった。

ツァイツ氏のバックボーンはマーケティング。会社のトップが理系出身からマーケティングの専門家へと移ったことが、ハーレーダビッドソンという会社の転換点をよく物語っている。

ハーレーは2020年2Q(4-6月)に1億1600万ドルの営業損失に転落。コロナ禍で営業活動が制限されたことで、10年ぶりの赤字となった。ただし、その前から業績は低迷していた。

レヴァティッチ氏は中国メーカーと提携して初のOEM(「Original Equipment Manufacturing(Manufacturer)=他社ブランドの製品を製造すること、あるいはその企業を指す)に取り組むなど、価格を引き下げて販売数の拡大を狙っていたが、結果として販売台数は振るわなかった。

ツァイツ氏が率いるハーレーダビッドソンは、2021年2月に5か年計画「ハードワイヤー」を発表。未開拓のライダーを取り込んで顧客の裾野を広げることを重点施策の一つに掲げた。

その結果として誕生したのが、アドベンチャーバイク「パン・アメリカ」や、水冷Vツインエンジンを搭載した「スポーツスターS」だ。

2023年度は営業減益で着地

ハーレーはブランドの強みに焦点を当てて新たな顧客開拓を行おうとした。それ自体は決して悪いことではない。ハーレーは「空冷Vツインエンジン」を積んだアメリカンと呼ばれるスタイルが主流で、映画『イージーライダー』や『ターミネーター2』などで登場するイメージが消費者の頭に強烈に刻み込まれている。

それがブランドの熱烈なファンを生んだのは間違いないが、年齢層は中高年が中心だ。そのため長期的に見ればジリ貧になるのは間違いない。ブランドの強さを堅持しつつ、消費者が想起するイメージを転換するという難易度の高い領域にチャレンジしていた。

2021年度の業績は急回復を期待させるものだった。売上高は前期の1.3倍となる53億ドル、営業利益は91倍の8億ドルに跳ね上がったのだ。しかし、翌期から停滞感が漂い始める。

2023年度は売上高が前年度比1.4%増の58億ドル、営業利益は同14.3%減の7億ドルだった。売上高は微増、1割超の営業減益である。営業利益率は15.8%から13.3%まで2.5ポイント下がった。

2024年度2Q(4-6月)の売上高は前年同期間比12.6%増の13億4800万ドル、営業利益は同8.9%増の2億ドルだったものの、営業利益率は18.5%から17.9%へと下がっている。

2021年に販売を開始したアドベンチャーバイク「パン・アメリカ」は、市場に出回り始めた当初こそ四半期で4000台前後を出荷していたが、現在は2000台にも届いていない。2023年は年間の出荷台数がわずか5128台だった。

また、同社の「スポーツスターS」も出荷台数は振るわない状態が続いている。

新品同様の車体が80万円引きで買える

2021年式「パン・アメリカ」は、国内の希望小売価格が230万円を超える高級モデルだ。しかし、オートバイの中古サイトを覗くと、走行距離わずか10キロの同じモデルが車両価格150万円台で販売されている。

一方で、アドベンチャーバイクで人気の高いBMWの「R1250GS」は、希望小売価格が220万円ほど。中古価格を見ると、数千キロ走っていても200万円台で取引されているものが多い。こちらは人気がまるで落ちていないのだ。

1250ccの「パン・アメリカ」は、間違いなくBMWのGSシリーズの市場を奪うべく開発されたものだろう。

BMWのGSシリーズはエンデューロと呼ばれる自然の地形を生かしたダートコースに最適化したもの。BMWは世界一過酷なモータースポーツ競技と言われるダカール・ラリーで1981年に初優勝し、このブランドの走破性と耐久性の強さを世界中に見せつけた。アドベンチャーバイクの分野では、先頭を走りつづけてきたメーカーだ。

強力なブランド力で市場を奪える自信があったハーレーはそこに殴り込みをかけたわけだ。しかし、アドベンチャーバイクの愛好家の間では、同じ排気量と価格、性能であれば、BMWを選ぶ人が多い。長年培った信頼があるからだ。

その上、ハーレーブランドに親しんだ人は、異形とも言える出立ちの「パン・アメリカ」に手は出さないはずだ。「ハーレー」の代名詞ともいえるアメリカンタイプとはまるで違うイメージだからだ。

ハーレーダビッドソンは安売り路線を改めたが、新規参入であるアドベンチャーバイクは例外とするべきだった。BMWと同様の価格設定にするのは無理があると言わざるを得ない。

パリダカでBMWと激しくやりあったホンダのアドベンチャーバイク、「アフリカツイン」は希望小売価格が150万円と安い。スズキの「Vストローム1050」も希望小売価格は160万円ほど。国内メーカーは価格によって競争力を高めている。

「パン・アメリカ」は女性ライダー(YouTuber)が、試乗して感想を語る動画を多く見かける。ハーレーがプロモーションでオートバイ初心者を取り込もうと苦心している状況が浮かぶが、実際に販売台数を見る限りは成功しなかった。その結果、販売不振となってディーラーへの過剰なノルマとなり、圧力をかけることに繋がったのだろう。

過去モデルと競合他社から何を学んだのか?

同様に水冷エンジンの「スポーツスターS」も鬼門となっている。希望小売価格は200万円近いが、中古サイトは走行距離10キロのものが車両価格130万円台で販売されている。

他にもハーレーのスポーツスターシリーズには「XL1200NS」(通称アイアン)と呼ばれるモデルがある。2018年から2021年まで販売されていたものだ。このモデルは中古市場で未だに200万円前後で取引されている。同時期に販売されていた「XL1200X」(通称フォーティエイト)に至っては、200万円台後半で販売されているものも多い。

スポーツスターの人気は地に落ちてしまったのだ。

いずれ空冷から水冷に移行しなければならないのは、時代の流れからも当然だが、ハーレーと言えば空冷。消費者に醸成されたそのイメージは、どこかで乗り超えなければならない。「スポーツスターS」の不振は、ハードルが長年培ってきたイメージからの脱却があまりに高かった証拠なのか。

ハーレーの水冷エンジンモデルはすでに市場投入されていた。2001年から2017年にかけて製造されていた「Vロッド」シリーズである。このシリーズは、現在でも中古市場で200~300万円台で取引されているほどの人気がある。

このモデルは冷却水の放熱を行うラジエーターを車体デザインに取り込み、エンジンに空冷のようなフィンを刻んでいる。そのため、見た目は水冷らしくなく、“ハーレーっぽさ”を保っている。一方、「スポーツスターS」にはそのような造形が少ない。特にエンジンのフィンのデザインは重要な要素にも関わらずだ。それは多くのメーカーがすでに証明していた。

日本で絶大な人気を誇るカワサキの「Z900RS」や、イギリス屈指のバイクメーカー・トライアンフの往年の名車を象った「ボンネビル」は、水冷エンジンにも関わらずフィンを設けている。これは空冷エンジンファンを意識し、飾りとしてつけているものだが、レトロ感を醸成してライダーを惹きつけている。

現在のハーレーはマーケティングを重視するあまり、車体へのこだわりが薄くなっている印象を受ける。

この苦境をいかにして乗り超えるのか、5か年計画の後半戦に注目だ。

取材・文/不破聡 サムネイル/Shutterstock

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