「日本にこんな場所が…」窃盗犯が住み着いた部屋、暴走族に破壊しつくされたラブホテル…廃墟データベース運営に聞いた“魅力”と忘れられない4つの「部屋」
集英社オンライン / 2024年8月26日 17時0分
〈「子どもだけで行かないで!」と小学校で禁止令が出た足立区の“ピンクすぎる館”には何がある?館長に「なんで始めたんですか?」「そもそも何でピンクなんですか?」と聞いてみた〉から続く
なぜ人は“廃墟”に惹かれるのか。日本では30年ほど前に“廃墟ブーム”なるものが到来して以降、今でも根強いファンが大勢いる。WEBサイト『廃墟検索地図』を運営するHaikenさんに、その魅力と特に印象に残っている場所を聞いた。
【画像】ガラスの破片が飛び散ってモノが散乱した静岡県にある某研究施設
2600箇所以上もの廃墟を見てきたマニア
『廃墟検索地図』は、地図から朽ちた建物や産業遺構などを見つけ、概要や歴史、写真を探せるアーカイブ・データベースだ。Haikenさんはもともと、廃墟ブームのときに出版された書籍や、WEBサイトを見る一読者だったが、Google Maps APIが公開され、多くの個人開発者がこれを利用したスモールサービスを立ち上げていたのを受けて、自身もサイトを立ち上げることにしたという。
「私は以前、システム開発関係の仕事をしており、また地図自体が昔から好きだったため、趣味と実益を兼ねていろいろ地図関連のサービスを開発していました。そこで『廃墟と地図を合わせたら面白いものができるのではないか?』と思い立ったのが、現在のサイトの原型になっています。
ただし、もともと廃墟ファンの間では位置情報を秘匿する習わしがあったため、位置の公開にはさまざまなご批判をいただきました。そのため、徐々に公開情報などを調整するようになり、現在ではかなり公開範囲等を調整しています。センシティブな内容を含むため、廃墟コミュニティの意見をうかがいながら慎重な運営を心がけています」(Haikenさん、以下同)
今では業界でも指折りのデータベースサイトとなった『廃墟検索地図』。廃墟を見つける方法は、「サイト利用者やフォロワーからの情報提供、廃墟業界の友人知人からの情報」「ネットで公開されている断片的な写真等から位置を特定」「空中写真を眺めて怪しい場所に行ってみる」「年中日本中を旅しているので、ある廃墟を目指して行く途中で別の物件を見つける(廃墟の多いエリアというのがあり、1つ見つけると芋づる式にというケースがある)」の主に4パターンがあるという。
2011年にサイトを開設し、これまでに2600以上もの廃墟を現地で見てきたというHaikenさんに、中でも印象に残っている場所をあげてもらった。
1つ目は、静岡県の高所にある研修施設跡だ。
暴走族に破壊しつくされたラブホテル
「企業から請け負った自己啓発セミナーのようなものが行われていた宿泊研修施設で、研修生たちは数日間、山の中に閉じ込められたようです。この建物の一番奥に、まったく窓がなくドアも外からしか開けられない部屋があります。洗脳用(?)の“監禁部屋”として使われていたようです。今では屋根が崩れ落ちていて、本気になれば十分脱出可能ですが……」
写真を見ると、中はガラスの破片が飛び散ってモノが散乱し、鉄製の部分はサビだらけ。中には落書きも多く、まさに、多くの人が思い描く“ザ・廃墟”という様相だ。
2つ目は、長野県某所のラブホテル廃墟。外観はそれほど朽ちているようには見えないが、中はかなり荒れ果てている。
「ホテルそのものは暴走族などに破壊し尽くされたよくある廃墟なのですが、隣に残されていたオーナー宅が“夜逃げ”そのものという感じで実に寒々しかったです。金目のものは盗まれた後でしたが、ほかの生活用品などは綺麗にそのまま残され、ついさっきまで人がいたような生々しさがありました」
「正直、こうした場所はあまりにも私的空間で、個人的には気が進みません。一応、使命感で見ることは見てしまいましたが……。こういう夜逃げ廃墟的なものはほかにもたくさんあって、静岡県某所のラーメン店兼住居は、二階の子ども部屋がまったく手つかずで残っていて、なんとも言えない気持ちになりました。こういう場所はそっとしておいてあげてほしいものです」
こうして話を聞いていると、そもそも“廃墟”とは一体何なのか……という疑問も浮かび上がる。病院や遊園地など公共の空間があれば、人が暮らしていた私的な空間もある。Haikenさんも、「自分自身が気になって問い続けているものです」と、その定義をハッキリとは言い表せないながらも、廃墟とは文化的な“発明品”なのではないかと論じている。
「不使用となり一定年数以上が経過し、管理が行われず放置されて外観も朽ちていること」が大前提であるが、それに加えて「外観や施設の全体または一部のビジュアル、バックストーリーなど、何らかの形で人々に訴える魅力がある」ことが、廃墟ファンが定義する“廃墟”の大きな要因だという。
さて、話を戻し、3つ目は茨城県の宗教施設跡だ。
居場所をなくした窃盗犯が住み着いた部屋
「霊視商法などが問題になった新興宗教の寺院跡で、法人は解散命令を受けています。ここには信徒らのノートなどが大量に残されていて、そのご家族のことなどを考えるといたたまれない気持ちになりました。
部屋とは違うかもしれませんが、一間だけの小さな堂宇は壁一面に位牌が並べられていて、それが長年の風雪で雪崩のように倒れかかっているのが圧巻でした。霊視商法自体はただのインチキでしょうが、そこにすがった、すがらざるを得なかった人々の思いは本物です。そういう念の降り積もった姿のように感じました」
ここは火災の跡があり、これまでの中でもとくに惨い形を残している。人のいた痕跡と、今ではどう頑張っても住むことができないほどにボロボロに崩れ落ちた建物のコントラストが印象的だ。
最後、4つ目は千葉県のホテル。
「ここはホテルが貸別荘に転用された、あるいはその逆に貸別荘が後に宿泊施設に使われたらしい建物で、7階建てもあるのに各室に浴室がなく、1階の共同浴場も家庭の風呂くらいのサイズしかない、わけのわからない建物でした」
「この建物の最上階の1室に、明らかに閉業後に人が生活していた痕跡がありました。残されていた郵便物や書類などから、窃盗犯が住む場所を失って暮らしていたようです。
裁判所からの通知などもあったため、逃亡というよりはすでに捕まって出所してきた後にホームレスになったのでは、という印象です(逃亡潜伏中だったら凄いですが)。1つの部屋は生活部屋として割と綺麗に整頓されていて、隣の部屋はゴミで一杯になっていました」
「おそらくこの人も好きでこそ泥などやっていたわけではないでしょうし、もしすでに償って出てきた後なら、この放浪生活はあまりに不憫です。犯罪はいけませんが、更生した人が再び罪を犯すことのないよう、再出発を応援できる社会であってほしいです。まぁ、実際会ってみたら同情の余地もないクズ人間なのかもしれませんが……」
前述のように廃墟には人が住み着くこともあり、廃ホテルなどにはホームレスが住み着いていることがよくあるという。実際にHaikenさんは、遭遇したこともあるそうだ。
「向こうは熟睡、こちらも静かに行動していたため、踏んでしまいそうになるほど近づくまで気がつきませんでした。起こさないようにそっと立ち去りましたが、今までに廃墟を見てきた中で、これが一番のびっくりでしたね」
また廃墟といえば、霊的な怖さも想像してしまうが、Haikenさん自身は霊感などはなく、そこに関心もないという。そのため、超常現象に出会った経験もないが、遺体が発見されたことで知られる宮崎県の某ホテルでは、廃墟慣れしたHaikenさんでもなんともいえないイヤな圧力を感じ、「一刻も早く立ち去らなければ……」と思ったことがあるとか。
探索中の危険な体験 野犬と遭遇して…
「心霊現象があるのかないのかは当方の知るところではありませんが、探索にはそれよりも遥かに大きな危険がいくつもあります。クマ、ヘビ、スズメバチなどの獣、踏み抜きによる転落などの事故、道迷い等は、霊的なものよりよほどリアルで怖いですし、実際死亡事故なども起きています。
クマについては距離のある状態でしか遭遇経験がないので、今のところ命拾いしていますが、某山道を歩いていたところ、カーブを抜けたところでばったり野犬と会ってしまいました。向こうも食事中だったのかこちらの気配になかなか気づかなかったようです。こういう“出会い頭”が一番危ないです。明らかな敵意をもって唸ってきたので、目線を切らないようゆっくり後ずさりしてなんとか見逃してもらいました」
「後で気が付いたことですが、その場所の近くに動物霊園がありました。おそらく霊園に犬猫を捨てていく人がいるのでしょう。当方は愛犬家でもあるので、犬を粗末にする人間は許せません。あの野犬も好きであんな環境に生きていたわけではなく、わたしの出現にさぞびっくりしたことでしょう。犬に罪はありません」
ただ廃墟を撮りにいくといっても、その裏では数知れない苦労がある。なぜこれほどまでに大変な思いをしてまで廃墟に行くのか。Haikenさんにとって、廃墟の魅力とはなんなのだろうか。
「廃墟と言ってしまうといかがわしいイメージが先行しますが、詳しく来歴などを調べていくと、時に郷土史に連なるものが立ち現れます。また開業から閉業に至るまでの歴史を辿ると、時代時代のムードや日本経済の変動などを映していて興味深いものがあります。そこには大きな時代のうねりと、土地土地に根ざした経済人たちの奮闘の軌跡があります。
私が廃墟に魅力を感じるのは、廃墟が“人工物(=人に求められて誕生したもの)であるにも関わらず、人の経済活動の中で価値や意味を失ったもの、人がいなくなったもの”であり、物質そのものがむき出しになっているからです。その人工物が自然に侵食されていく様の美しさがあります。廃墟美の半分以上は、要するに自然の美しさなのです」
廃墟を訪れる人への注意喚起
そして最後に、廃墟を愛するものとして、たくさんの廃墟をめぐってきたものとして、Haikenさんは活動についてこう話す。
「現在に至るまで当方が細々と活動を続け、サイトが運営できているのは、多くの廃墟ファンの皆様のご理解・ご協力があってものです。廃墟を探索するうえでは、とにかく地元に迷惑をかけないように行動することを心掛けています。大変残念なことですが、廃墟には破壊行為や盗難、さらに放火のような事例がたびたび見られます。普通の廃墟ファンは絶対にそういうことをしないと信じています」
廃墟に興味を持つ人が増えるのはいいが、くれぐれもマナーをしっかりと守り、節度ある行動を心掛けてほしい。
取材・文/集英社オンライン編集部 写真/Haiken
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