〈どうなる令和の“米騒動”〉「少し待てば新米が出回ります」のアナウンスも高騰した米の価格は高止まりのまま⁉ 犯人はインバウンドではなく… 農水省は 「政府備蓄米を出すほどではありません」
集英社オンライン / 2024年8月22日 18時45分
首都圏を中心に米がスーパーの商品棚から姿を消した。円安やウクライナ戦争の影響で食品価格が上がるなか、比較的値上がり幅が小さかったことから需要が増え、そこに昨夏の高温による生産量の減少や南海トラフ地震への警戒心からの買いだめが重なったためとみられる。政府や専門の米穀店は今年収穫した新米で2、3週間後には品薄は解消されると期待するが、今回の品薄によって高騰した価格は高止まりする可能性がある。
〈一目でわかる〉スーパーの棚から米が消えた理由
「店頭で『売ってるタイミングに遭遇できたらラッキー』って感じですね」
都内のスーパー。米コーナーには「1家族様2点まで」という販売制限の張り紙があるが、棚に品はほとんどなく、コロナ禍初期のマスクのコーナーを思わせる光景だ。
レンチン用のパックの米を並べたり、別の商品で埋めて米コーナー自体をなくした店もある。
大型スーパーの店員は「いつ入荷するかわかりません。不定期で突発的に若干入ってきたりしますが、本当にまれにという感じです。新米が9月半ばに入ってくるので、まだ1ヵ月くらいは今の状況が続くと思います。需要があるうちにたくさん売りたいのはやまやまなんですけど(笑)、問屋が卸してくれないんですよね。どこのスーパーさんも入荷できない状況です」と話す。
業務用スーパーの担当者も「今出しているのはタイ米ともち米だけです。普通のお米は次回いつ並ぶのかもわかりません。うちは米の取引業者が2、3社あって週3回入荷日があるんですけど、発注できても10個発注して2、3個しか入らないような状況です。入荷して店頭に並ぶ時間は日によってまちまちなので、お客様が店頭で『売ってるタイミングに遭遇できたらラッキー』って感じですね」という。
小学生の娘を持つ40代の主婦は「やっぱり主食なので、ないと困りますよね。最悪、家になければ定食屋とか牛丼屋に行けばお米は食べられるけど、ニュースを見てるとお店すらお米を確保できないんじゃないかってくらい危なそうじゃないですか」と困惑気味だ。
しかしこの女性は「でも1ヵ月くらいで解消するって話なので、たまに麺とかをはさめばしのげると思います。冷やし中華とかそうめんとか冷たいうどんもよく食べるし、そんなに悲観してません。ウチの子もお米じゃなきゃ嫌だってタイプではありませんから」とも言い、他にも食べるものはあるという。
実際のところ、米はいつ商品棚に戻ってくるのか。
政府の統計では、昨シーズンの米の生産量(昨年7月から今年6月末まで)は、玄米ベースで粒の径が1.85ミリ以上ある主食用米や加工用米が696万トンで、前年から横ばいだった。だが粒がこれより小さく、業務用の弁当などに使われる米が32万トンと、前年より19万トン減った。その原因は夏の高温にあったとみられる。
「暑いと米が成長しすぎて中に栄養が入らず、中身がスカスカな状態になることがあります。こうなると粒は大きくなりますが、中が詰まっていないので精米するときに砕けてしまって食用にならないものが出てきます」と農林水産省で米を扱う農産局企画課の担当者は説明する。
中がスカスカな粒ができたため、粒が大きい696万トンの米のなかでも主食用米の691万トンから取れた精米の量も減った。「わかりやすくたとえると、普段なら100の精米を取るために110の玄米が必要なところ、120が必要になるという状況です。昨年の米でこうした現象が起きました」(同担当者)
円安でパンや麺の価格が上がったが米はこれまで…
これに加え、予想外の米の需要増加も起きた。米の需要量は下降線をたどっており、2005年に865万トンだったのが昨年は691万トンに。近年は年ごとに約10万トンずつ減り続けているため、これに合わせた生産量の抑制が行なわれてきた。ところが今年の需要量は702万トンと、予想に反して増えたのだ。
「昨年来、円安などでパンや麺の価格が上がったのに比べると、米の上昇幅は最近まで小さく、“お値頃感”があったため米を食べる機会が増えたのではないかとみています」と農水省。
総務省の消費者物価指数では、2020年の平均を100としたとき、今年6月にパンは121.3に増えた。食料全体では116.3だったのに対し、米は106.7で値上がりが抑えられている。
需要が増えたのは、増加したインバウンド客が米を食べているからだという見方もあるが、これはどうか。
「訪日外国人は今年6月末までの1年間に、前年の同じ期間の2.3倍である3213万人を記録し、平均泊数も8.8泊から10.1泊に増えました。そこで、ちょっと期待を込めて彼らが1日2回お米を食べたと仮定すると、試算では消費量は前年の1.9万トンが5.1万トンになり、3.2万トン増えたことになります。ただ全体が702万トンあるので、これが全体に影響するほどかどうかは何とも言えないですね」(農水省)
いずれにせよ、米の出来が良くなかったことと、近年にない消費量の増加が重なったことで米の「余裕」がなくなった。今年6月末時点の米の民間在庫量は156万トンと、1999年以降では最少に。
これを受け市場での価格が上がり、相場の目安になる農協と卸売業者間の取引価格である「相対取引価格」の全銘柄平均価格は6月の時点で15865円と、昨年同月より約14%高くなった。
「しかし、庶民により関係するのは、業者間で条件が合うたびに売買が行なわれていく“スポット取引”です。これは『余ったので買ってくれない?』とか『ちょっと足りないので回してくれない?』といったやり取りで回っていくもので、その時々の需給と価格がもろに反映されます。
米がだぶついているときは、生産者に近い側が売り先を求め安売り競争が起きたりして、これを仕入れたスーパーは特売価格で売り出せますが、今のような需給量が接近しているときは商品の取り合いになって品薄と価格高騰が起きます。今の値上がり幅は相対取引価格の上昇幅よりはるかに大きいです」(業界関係者)
ブランドでもない米が既に5キロ3000円台の半ばに…
新米が出回る9月を前にした8月は、もともと米の供給の端境期だが、今年はさらに「コロナ禍明け」「災害」という要因も加わった。江戸時代から続く都内の老舗で、農協や農家との年間契約で今も在庫を維持している米穀店関係者も今年の異常さを話す。
「コロナ禍明けで飲食店が稼働するようになったのもあって、消費がすごく増加した状態になってて、それでお米が全く店頭に並ばないんです。
あとは最近、地震とか台風が相次いで、特に地震は南海トラフが来るんじゃないかなんて言われていますから、皆さん備蓄米として貯められるんですよ。天候とかインバウンド需要とか、そういったところに災害が重なって一気にダダっと売れちゃった感じです」
実は政府は91万トンの政府備蓄米を確保しているが、農水省は「需給がひっ迫している状況ではないという認識をしています。
秋までつなげられる量は、全体としてはあるということで、今のような需給環境下で放出をすると、どうしても市場への影響が出てしまうので今は放出は考えませんが、秋の収穫量が極端に悪くなったりして供給量が需要量を下回るとの見通しになれば当然検討します」との立場だ。
同省関係者は「例えば、大手コンビニのお弁当やおにぎり、飲食チェーンの米が品薄になった実感はありませんよね。これは、コンビニなどが卸や産地ときっちり結びついて、年間需要量を見越して2、3年前からの契約で確保しているためです」と話し、あらゆる米が足りなくなっている状況は起きていないと話す。
食卓に届く米も、早場米(通常より早い時期に出荷されるお米)で有名な宮崎、鹿児島産米は8月上旬から市場に出始め、首都圏では盆すぎから千葉産の米の流通も始まっている。農水省は早場米の出来映えは順調だとみており、9月に新米が本格的に出回り始めれば品薄感はかなり解消すると展望している。
ただ、先の老舗米穀店関係者は「これから新米がザッと入っては来るんですが、今までの価格よりは間違いなく高くなると思います」と心配する。
別の都内の米穀店店主も「品薄はあと2、3週間で解消するでしょう。でもこれだけ上がった値段はもう下がらないかもしれない。ブランド米でもない早場米が既に5キロ3000円台の半ばとか、めちゃくちゃな値が付いて回り始めている」と話す。
米価はそもそも生産者が生きていけないほど安くなっているとの指摘もあり、生産者側からは適度な上昇を望む声もある。大きな値上がりは生活をいっそう苦しめることになるが、今回の米騒動は米産業をどうすれば安定的に維持できるのかを考えるきっかけにもなりそうだ。
※「集英社オンライン」では、「令和の米騒動」について、情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(旧Twitter)まで情報をお寄せください。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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