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「7イニング制」「ドーム球場での開催」…酷暑対策まったなしの夏の甲子園。高野連はなぜ選手たちに意見を聞かないのか

集英社オンライン / 2024年8月24日 11時30分

「高校野球ってなんで坊主なんですか?」慶応“サラサラヘア旋風”から1年…球児が望まない「丸刈り」は人権侵害か〉から続く

今年も酷暑のなかでの戦いとなった夏の甲子園。高野連は「7イニング制」を検討するなど、大会自体がひとつの曲がり角に来た感もあるなか、夏の甲子園はどこに向かっていくのか。小説家の早見和真さんと、ノンフィクションライターの中村計さんが語った改革案とは。

【写真】夏の甲子園の熱中症対策は待ったなし

高校野球における大人の役割とは

中村 新型コロナウイルスの流行下、早見さんにインタビューさせてもらったことがありました。そのとき、とても印象的だったのは球数制限など、高校野球のルールを決めるときに、なぜ選手に意見を聞かないのかとしきりに話していたことなんです。



もう充分、判断できる年齢にあるのに、と。そのとき、僕は賛同するフリをしていましたけど、ピンときていなかったんです。なんでそんな面倒なことをしなければいけないんだ、と。そのことも『高校野球と人権』の中に書いているんですけども。

早見 読みました。えー、中村さん。ピンときてなかったの⁉ って。

中村 早見さんが人権というものをどこまで明確に意識していたかはわからなかったのですが、いずれにせよ、この人は人権の意味をすでに捉えていたんだなということがようやくわかったんです。

早見 いやいや、そんなしっかりした意識ではなかったですけどね。でも、つい最近、そういう感じのコラムを日経新聞(7/28付「その声は、誰の声?」)で書いたんです。

そうしたら、概ねいい反応が返ってきたんですけど、いくつか「寝言言ってんじゃねえよ」とか「高校生に判断なんてできるわけないだろ」みたいな意見があって。驚いたのは、そういう意見の多くが教員からのものだったんです。

こんな人が先生をやってるからダメなんだよという気持ちにもなったし、現場で実際、高校生と接しているとそういう感覚になるのかなとも思うんですけど、でも、いずれにしても立ち返るのは高校時代の自分たちでした。

あのときの僕たちには思考できる力が間違いなくあったし、それを言葉にすることもできたと思うんです。ただ、それを表明させてくれる空気だけがなかった。そこを作るのが大人の役割だと、僕は本気で信じています。

中村 今年も日本高校野球連盟が7イニング制導入の議論をしていることが明るみになり、それに対する高野連関係者や監督の意見は報道などでいくつか見聞きしました。ただ、それはメディアの責任でもあると思うのですが、やっぱり選手に聞こうというふうにはならないんですよね。結局、主役であるはずの選手がどう考えているかが見えてこない。

早見 高野連は全校一斉アンケートを実施したらいいと思うんですけどね。ただ、絶対条件がひとつだけあります。それはチームメイトと話し合って書くなということです。他の選手に「どうする?」って聞いたら、その瞬間に何らかの集団心理が働いてしまう。あなたはどう思うかということだけを聞きたいんです。

「僕はドーム球場でやる高校野球を少し観てみたい」

中村 聞いてみたいですよね。球数の問題もそうだし、甲子園以外の球場でやることをどう思うかということもそうだし。

早見 選手たちは暑い甲子園でやりたいと思うんだけどな。それに憧れて高校野球を始めた選手が大半なんですから。

1998年夏のPL学園と横浜の延長17回が今のようにタイブレーク制で延長10回で終わっていたら、きっとスーパースターのうち誰かは出てきてないと思うんですよね。それは大谷翔平君かもしれないし、藤浪晋太郎君だったかもしれない。

2006年夏、早実の斎藤佑樹君と駒大苫小牧の田中将大君が投げ合った延長・再試合が仮に札幌ドームでやっていたらどうですかね。誰かは出てきてないという気がします。

僕は高校野球の正体は「憧れの再生産」だと思っています。なのに今、大人たちは「選手のため」という大義名分のもと、その憧れを奪おうとしているようにも見える。

もちろん選手たちの健康を守るという絶対的な条件は必要ですが、同じように憧れを奪うこともしてはいけない。100年後の高校野球のことも考えなければいけないと思うんです。

中村 でも僕はドーム球場でやる高校野球を少し観てみたい気もしているんです。どうなるんだろう、と。

早見 それは丸刈りに対して違和感を覚えていなかったときも、そう思っていましたか。

中村 そういう思いはあったかもしれませんね。おそらく僕は早見さんほど甲子園に近づけた経験がないので、そこまで憧れが強くなりようがないんですよ。そこは大きな差だと思うんです。

早見 たしかにドーム球場で、ベストコンディションでゲームをすることにも意味はあると思います。ただ、少なくとも高校時代の僕らは、周囲の大人たちが訳知り顔で「ドームでやろう」みたいなことを言い出したら、「部外者は引っ込んでろよ!」って言っていたと思います。

だってドームに憧れたことなんてないですもん。僕らは全国大会に出たかったわけじゃなくて、甲子園に出たかったわけですから。

中村 早見さんがコロナ禍の星稜と済美の野球部を描いたノンフィクション作品『あの夏の正解』の中にもそのシーンがありましたけど、2020年の夏の大会がなくなって、その年の春、選抜大会に出場することになっていた高校が1試合ずつ甲子園で試合ができることになったじゃないですか。

選抜も中止に追い込まれ、彼らは甲子園で試合ができなかったので。そのとき、優勝がかかってない試合になんの意味があるのかと思ったら、ほとんどの高校が大喜びしていたじゃないですか。明徳義塾の馬淵史郎監督も、あんなに甲子園に出ているのにすごく喜んでいて。「今日は焼き肉パーティーや!」って。

高野連は球児に全国一斉アンケートを

早見 僕もまったく同じことを思っていました。辞退するチームが出てくるんじゃないかなと思ってたくらいなんで。僕はそのとき星稜に密着していたんですけど、素直に大喜びしていたんですよね。あれはびっくりしたな。

中村 甲子園の常連校は勝利至上主義に毒されているみたいな言われ方をすることもありますけど、そんなことぜんぜんないんだと思わされました。

早見 それくらい大きくて、懐の深い器なんでしょうね。甲子園は。

中村 ただ、アンケートをとるにあたって難しいのは、高校野球って本当にいろいろな高校があるじゃないですか。なにせ3500校近くあるわけですから。同じようでぜんぜん同じじゃない。私は30年以上前、千葉で野球をやっていたんですけど、当時はまだ出場校数が170校くらいあったので、全体の6割から7割くらいの高校は甲子園なんて行けるわけないと思っていたと思うんです。

早見 そう考えると、全校一斉アンケートも意味を成さないのかな。甲子園に近い上澄みの1、2割の高校と、それ以外の高校ではぜんぜん違う結果になる気もしますね。甲子園に出るために週7回練習している高校の「甲子園でやりたい」という1票と、週1回しかやってない高校の「甲子園じゃなくてもいい」という1票が同じだというのも何か釈然としないですよね。

中村 これだけいろいろな高校が集まっているところで誰もが納得するルールなんて不可能な気もしてしまいます。プロ野球みたいに12球団しかなくて、しかもほぼ同じレベルのチームが集まっていてもなかなかまとまらないわけですから。

早見 だから全校一斉アンケートをとったら、いろんな角度から検証してみればいいんじゃないですか。各都道府県のベスト8以上のチームと、それ以外のチームの意見を比べてみるとか。上から1000チームずつレベルを分けて、各層の意見を比較してみるとか。

中村 それ、見てみたいですね。

早見 どんな改革も、最初の一歩はそこですよ。とにかく当事者の声に、選手自身の声に耳をかたむける。それは絶対だと思います。

中村 今はものすごくピンときています。

撮影/下城英悟 

アルプス席の母

早見 和真
アルプス席の母
2024/3/15
1,870円(税込)
354ページ
ISBN: 978-4093867139

まったく新しい高校野球小説が、開幕する。

秋山菜々子は、神奈川で看護師をしながら一人息子の航太郎を育てていた。湘南のシニアリーグで活躍する航太郎には関東一円からスカウトが来ていたが、選び取ったのはとある大阪の新興校だった。声のかからなかった甲子園常連校を倒すことを夢見て。息子とともに、菜々子もまた大阪に拠点を移すことを決意する。不慣れな土地での暮らし、厳しい父母会の掟、激痩せしていく息子。果たしてふたりの夢は叶うのか!?
補欠球児の青春を描いたデビュー作『ひゃくはち』から15年。主人公は選手から母親に変わっても、描かれるのは生きることの屈託と大いなる人生賛歌! かつて誰も読んだことのない著者渾身の高校野球小説が開幕する。

高校野球と人権

中村 計 松坂 典洋
高校野球と人権
2024/8/6
2,090円(税込)
216ページ
ISBN: 978-4041149935

日本人に愛される「高校野球」から日本人が苦手な「人権」を考える

甲子園から「丸刈り」が消える日――
なぜ髪型を統一するのか
なぜ体罰はなくならないのか
なぜ自分の意見を言えないのか
そのキーワードは「人権」だった
人権の世紀と言われる今、どこまでが許され、どこまでが許されないのか
高校野球で多くのヒット作を持つ中村計氏が、元球児の弁護士に聞いた
日本人に愛される「高校野球」から日本人が苦手な「人権」を考える
知的エンターテインメント

【目次】
はじめに ~人権の手触り~
第一章 丸刈りと人権
第二章 逃走と人権
第三章 表現と人権
第四章 体罰と人権
おわりに ~友よ、許せ~

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