膵臓がんで最愛の夫を亡くした倉田真由美のもとに、「今月末でアパート解約したけん」と突然押しかけてきた23歳の姪。奇妙な共同生活がもたらしたものは…
集英社オンライン / 2024年8月29日 11時0分
SNSでつぶやけば、すぐに記事になることの多い漫画家の“くらたま”こと倉田真由美さん。今年2月、夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎さんを膵臓がんで喪った。まだ56歳だった。そんな彼女のもとに「私が一緒に住んじゃるよ」と23歳の姪っ子が突然やってきた。今どき女子との暮らしが、喪失感の中にいる倉田真由美にもたらした変化とは?
【画像】夫・叶井俊太郎さんについて語るとときおり涙ぐむ、くらたまさん
夫の死の翌月、「今月末でアパート解約したけん」と押しかけてきた姪
──夫である叶井俊太郎さんを膵臓がんで亡くされた後、姪御さんと暮らされているそうですね。同居の経緯を教えてください。
倉田真由美(以下同) 夫ががんを公表したのは昨年9月ですが、一昨年には余命半年と告げられていて、昨年8月からは入院生活を送っていました。その頃から姪に「私が一緒に住んじゃるよ」と言われていて、でもまさか本気だとは思わないですよね。ところが次に話したときにはもう「今月末でアパート解約したけん」って完了形で。結局、3月下旬から一緒に暮らしています。現在は中3の娘と23歳の姪と3人暮らしです。
──2月に叶井さんが亡くなった後すぐだったんですね。
夫は明るくてマメで育児にも積極的だったので、彼の存在はやはり家の中で大きくて。自分でもこんなに引っ張るとは思っていなかったのですが、なかなか光が見えてこないです。一昨年に亡くなった父のときも悲しかったですが、夫となるとここまでショックを受けるのかと。日々、彼の存在の大きさを感じています。
そういった喪失感を姪の存在が埋めてくれている部分はありますね。私や娘はあまりおしゃべりではないのですが、夫と同じでおしゃべりな姪がいることで会話が生まれたりもするし、家がにぎやかになりました。姪の明るさには救われています。
姪はたまにしか、うちで晩ご飯を食べないのですが、少しでも食事を出すのが遅れると、娘と2人して「育児放棄だ!」と騒いだりして。娘と姪が共闘するのでお母さんは仕方なく従っています。ほんとに図々しくて可愛いですよ(笑)。
──娘さんにとってもよかったのかもしれないですね。
歳の離れたお姉ちゃんができて喜んでいます。ただ、夫のことに関しては娘は意外なほど気にしていないですよね。寂しがってはいますが、亡くなってすぐにお風呂から鼻歌が聞こえたりして、屈託がないんですよね。部屋に安置してあった骨壷の置き場所を変えたときも「あれ、父ちゃんどこ行った?」なんて。私はそれを聞いて泣きそうになって、自分ひとりがメソメソしているような気がしました。
娘は夫が病気になってから1度も泣かなかったんですよ。あっけらかんとして、末期がんを宣告されたというのにそれを公表前からみんなにべらべらしゃべってて(笑)。そういうところは父親に似たんですね。
「こんな可愛くておもしろい姪がいて、叔母ちゃんは幸せ者やね」
──行動力のある姪御さんのようですが、どんな方なのでしょうか?
妹の娘で昔から仲よくしているのですが、小さい頃は大変な悪ガキでした(笑)。妹は元銀行員の真面目キャラなのに、姪はどこをどう間違ったのか破天荒でおもしろい子なんですよ。そのまま漫画のキャラクターになるような性格で、夫と一緒ですね。見た目は売れっ子の韓国俳優みたいな華やかな感じなんですが、地元・福岡の方言はまったく直す気なしです。
──今回上京されてきたのでしょうか?
もともと就職で福岡から上京してきて、都心に近いというのが売りの、ほとんど窓がなくて独房みたいな4畳のアパートに住んでいたんですよ。そこにバスタブを買ったって言うから見に行ったらタライみたいな大きさで、バスルームはそれを置いたらいっぱいいっぱい(笑)。うちに来てからは、生活費を入れてくれていますが、今は「我が世の春」って感じで遊び歩いてますね。
──そうすると、さほど一緒にすごす時間は多くないですか?
そうですね。娘は受験生ですし、起きる時間も違ったりして、決まって一緒にいる時間というのはないかもしれません。でも、先日は娘の運動会に一緒に行きましたよ。
──いとこに優しいお姉ちゃんですね!
そのへんが謎なんですけど(笑)。運動会前夜はベロベロに酔って帰ってきたくせに、「運動会に行きたいけん、絶対に起こして!」と頼まれて。二日酔いなのに「なんでわざわざ?」と思っていたら、ヘアメイクばっちりで会場にやってきて自撮りしまくり!
要するに「歳下のいとこの運動会にわざわざ行く健気なお姉ちゃん」の自分を撮って、SNSに投稿するためなんですよ。そんなことのために行動できるのが理解できない(笑)!
──なんだか今どきの若者ですね。姪御さんは社交的なのでしょうか。
そうですね。私の仕事仲間との飲み会にも2回ほど乱入してきたことがありますよ。姪はお酒が入ればいつも通りのハイテンションになれるし、私の仕事仲間(オジサン達)は若い子が来てうれしいし、大盛り上がり。なんなら私が1番最初に帰って姪は残って飲んでいたこともあります(笑)。
彼女は人をからかうのが上手なんです。この間なんか、私のとっておきの靴を勝手に履いてわざわざ写真を撮って「叔母ちゃんがそういう態度やけん、勝手に大事な靴履かれるんよ」とかLINEしてきて。
こういう悪ふざけっておもしろがれるかどうかの相性が大きいと思うのですが、私は姪とぴったり合うんですね。実は夫もそうで、ステージ4のがんの闘病中なのに病院のベッドで死んだフリをしてきたこともあるんです。そんながん患者います!?
夫も以前の奥さんには本気で怒られていたようですし、姪の母である妹は姪の冗談に付き合いきれないみたいです。私は「本当にバカだな〜」と呆れながらも楽しんでいます。姪本人も、「こんなに可愛くておもしろい姪がいて叔母ちゃん幸せ者やね」と言ってきますし(笑)。
前を向かせてくれたのは、自分とは真逆の姪だった
──10代、20代、そして50代の倉田さんと3世代で暮らされているわけですが、食べ物の好みとか合うんでしょうか?
みんなが好きなのは果物かな。果物って、みんな好きなのに剥いてやらないと食べないですよね。夫もそうでした。
食べたいときに果物を剥いたり、飲みたいときにお茶を淹れたり、そういうちょこちょこっとした身の回りのことを最後までやれたのが彼と結婚して1番よかったことです。特別じゃないけど、余裕がないとできない生活の彩りですよね。それは夫との思い出でもあり、今子どもたちにしてやりたいことでもあります。
──3人での生活を通して、姪御さんや娘さんに年長者として教えたいことはありますか?
「楽しく生きろ!」ということですね。常にやりたいことをやり尽くして、人生がいつどこで切れてしまっても心残りがないように。
これは夫が体現していたことなんです。やりたいことをやってきたから、余命宣告されても、「死にたくない」と生にしがみついて悲観せずにすんだ。娘に対しても向き合ってきたから「あいつなら、オレがいなくても大丈夫!」と言えていました。読んでる漫画の続きとか、『プレデター』の新作が見れないとか、そういう未練はあったみたいですけどね(笑)。
──倉田さん自身が今やりたいことはありますか?
姪と一緒にお店を出したらおもしろいかもって考えているんですよ。スナックのママって昔からやってみたくて。今、人と会っているときが楽しいし、1番やりたいことなんですよね。じっとしていたら誰とも会わないでドヨーンとしてきちゃって、このままだとここから先の人生楽しくないなと思うんです。お店だったら私と話したい人が向こうから来てくれて都合がいい(笑)。
こうやって前向きなことを考えられるのはやっぱり姪がいるからかな。彼女はめちゃくちゃ人あしらいが上手くて、いつでもどこでも楽しそうなんですよ。
「田舎に引っ込んで畑でもやって、誰とも会わないで暮らしたい」と願うときもあるんですが、姪を見ていると、人と関わって楽しい人生にすることもできそうな気がしてくるんです。
取材・文/宿無の翁 写真/わけとく
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