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イスラエルメディアが自国の攻撃に異議を…パレスチナで民衆が殺されるほど、ハマスはより強大になる…イスラエルが即刻戦争をやめるべき理由

集英社オンライン / 2024年9月17日 8時0分

「家を建てても爆撃で壊される」「一日中肉体労働をしても800円しかもらえらない」若者の9割が欧州への渡航を夢見るガザの絶望的な現実〉から続く

2024年8月にBBCが発表したデータによると、ガザ地区での死者数は4万人を超え、その多くが子どもや女性、高齢者だという。23年の12月にイスラエル軍によるジェノサイドに対してイスラエルの自国メディアからも疑問視する声が上がっていたが、日本でそれが報道されることはあまりなかった。

【画像】10月7日のハマスによる越境攻撃の際、人質にされたイスラエル人たち

もうすぐ1年が経とうとしている武力衝突だが、ハマスはイスラエルの攻撃を経てさらに強大になることが予想されるという。救いのない現実を『ハマスの実像』より一部抜粋・再構成して解説する。

イスラエルのメディアが自国の攻撃に疑いを示す

2024年3月25日、国連安全保障理事会はイスラエルとハマスに停戦を求める決議を採択した。それまで停戦案に繰り返し拒否権を行使してきた米国は棄権した。その時点でガザの死者は3万2000人を超え、そのうち1万3000人が子供という惨状であり、対応の遅さは国連安保理の無力さをさらけ出した。

その2か月前の1月26日、国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)は南アフリカがイスラエルをジェノサイド(集団殺害)条約違反で提訴したのを受けて、イスラエルに対してガザのパレスチナ人へのジェノサイドを防ぐ「あらゆる措置」をとるよう命じる仮処分を出した。

最終決定が下されるまでの間、一定の措置を示すことが必要と判断したもので、事態の深刻さを認識したうえでの暫定措置命令である。

イスラエルはガザの住宅地や民間地への攻撃について、「ハマスが民衆を人間の盾にとっている」と繰り返してきた。

しかし、攻撃から1か月を過ぎてガザの死者が1万人を超えたころから、イスラエルの攻撃の異常さに対する批判が世界のメディアで出始めた。2023年11月25日付の「ニューヨークタイムズ」紙は「イスラエル軍の集中攻撃の下で、ガザの民間人の殺害は記録的な増加」というタイトルの記事で「ガザから報告された死傷者数を控えめに読んでも、イスラエル作戦中の死者数の増え方は今世紀に入ってからほとんど前例がない」という軍事専門家の見方を伝えた。

この時点で死者1万4000人、子供と女性の死者が1万人。民間人の死者の多さについて、同紙は超大型爆弾の使用を指摘し、軍事専門家は「イスラエルが密集した都市部に超大型兵器を多用している。高層マンションを破壊できる米国製の2000ポンド(約1トン)爆弾も含まれており、驚くべきこと」と語った。

イスラエルの有力メディアである「ハアレツ」紙は12月9日、ガザ攻撃について「イスラエル軍はガザでの自制を失い、前例のない殺戮がデータで明らかに」という検証記事を掲載し、「今回の攻撃で民間人の死者の割合がこれほど高いのは、戦闘員と非戦闘員を区別する原則が守られなかったからではないか、あるいは(軍事目標を達成するために過度に民間の犠牲が出ることを禁止する)均衡性の原則を軽視していたからではないかと疑われるかもしれない」と書いた。

軍民を区別しない無差別攻撃と、軍事的に不均衡な攻撃は戦争犯罪を構成する要素であり、「ハアレツ」紙は自国の攻撃に戦争犯罪の疑いがあることを示したのである。

イスラエル軍が、ハマスの戦闘員とイスラエル人の人質を一緒に銃撃して殺害した

米国、英仏独、日本など「西側主要国」は、ハマスによる民間人殺害をテロとし、イスラエルの「自衛権」を認めるとしてガザ攻撃を支持した。しかし当初、1400人の市民が殺害されたとイスラエルが発表したハマスの攻撃の中身は、時間経過とともに変化した。

イスラエルは攻撃から約1か月後の11月10日に、死者数を1200人と下方修正した。死者の中に200人余りのハマス戦闘員が含まれていたという。

イスラエルメディアによると、12月初めまでイスラエル当局は1133人の死者を確定、死者は兵士274人、警察官57人、地域の治安関係者38人で、残る764人が民間人と認定した。

さらに、イスラエル軍による制圧作戦に巻き込まれ、かなりの数のイスラエル市民がハマス戦闘員とともに殺害されたことが、警察発表やメディア報道で明らかになってきた。

襲撃で生き残ったユダヤ人女性から「駆けつけたイスラエル軍が、ハマスの戦闘員も、イスラエル人の人質も一緒に銃撃して殺害した」という証言がイスラエルのオンラインラジオのインタビューで流れた。

また、米CNNはイスラエル政府から出た「ハマスが多数の乳児を惨殺した」と報じたが、その後、根拠がないと否定した。イスラエルが主張するハマス戦闘員が多数の女性をレイプしたという情報を裏づける証拠も2024年6月末の時点で出ていない。

ハマスが越境攻撃でイスラエルの民間人を殺害したことは疑いようがないとしても、詳細な事実については戦闘終結後の調査に委ねられる。

イスラエルはガザを統治できない

ガザの人々の多数がハマスを批判せず、支持し続けていることを考える時、ハマスの越境攻撃以前のイスラエルの占領の実態を知る必要がある。

イスラエルの人権組織ベツェレム(B’Tselem)は、2000年からハマスの越境攻撃前の2023年9月までの、パレスチナ紛争によるすべての死者の氏名と死亡場所、死亡時の状況を集計している。

ベツェレムの集計では、同期間のイスラエル軍によるパレスチナ民間人の殺害数は1万1559人、逆に、パレスチナ人によるイスラエル民間人の殺害数は881人となっている。

第2次インティファーダ期(2000年〜2005年)の6年間と、インティファーダ後(2006年〜2023年9月)に分けてみると、インティファーダ期は、パレスチナ人がイスラエル国内で民間人を殺害する「テロ」による死者数は683人。

一方、イスラエル軍によって殺されたパレスチナ人は3458人。双方の死者数には5倍の開きがある。

そして、インティファーダ後の17年間でパレスチナ側によるテロが激減したためにイスラエル人の死者は93人と急減したのに対して、イスラエル軍によるパレスチナ人の死者は6542人で、死者数の比率は約70倍となった。

インティファーダが終わってパレスチナ人による暴力が急減したにもかかわらず、イスラエル軍による暴力は緩和されない。つまり、パレスチナ人が占領下でおとなしくしていても、イスラエルの占領政策が穏便にはならないことを示している。パレスチナの人々は、この数字を日々、イスラエルによる占領の過酷な現実として生きているのである。

日本では「イスラエルの大規模攻撃によって、ガザのハマス体制が揺らぐ」とか「人々がハマスから離れる」という見方があるが、前述した2024年3月の世論調査では、停戦後の統治に何を望むかという問いについて、ガザ住民の回答は「ハマスが戻る」59%、「自治政府が戻る」33%で、「イスラエルがつくる地域政権」2%、「イスラエル軍支配」0%である。

ガザの人々の「民意」を見る限り、ハマスを排除してイスラエルがガザを支配しても、実効性のある統治になるとは思えない。

世論調査から分かることは、イスラエルの占領や封鎖が続く限り、ガザの人々の多数がハマスから離れることはないということである。ハマスは過去の経験から、指導部を海外に置いている。イスラエルの攻撃で幹部が殺害され、イッズディン・カッサーム軍団の戦闘員の多くが死んでも、海外指導部が残っている限り組織が消えることはない。

ハマスの影響力はむしろ増していく

イスラエル軍の殺戮と破壊は連日、世界に発信されており、いったん、戦闘が終われば、世界に20億人いるイスラム教徒の間の国際的なネットワークを通して、慈善援助がガザに集まるだろう。

父親を失ったり、家を失ったりした子供たちや家族への支援、病院や貧困家庭への援助はイスラム教徒の義務であり、イスラムの喜捨として、世界のモスクを通して、あるいはパレスチナのハマス系社会慈善団体を通してガザの人々に渡る。

それとは別に、ハマスの政治部門や軍事部門であるカッサーム軍団への資金援助も、膨大な額が集まるだろう。2014年7月から8月に50日間続いたイスラエルの攻撃でガザでは2251人が死に、10万戸近い住宅が被害を受けた。

しかし、その後ロケット・ミサイルの開発や現地生産が加速され、一方で地下に500キロメートル以上の戦闘用トンネルも掘られた。それだけの資金がハマスの軍事部門に集まったということである。

ハマス指導部が公言したように、ハマスは社会組織への援助を流用する必要はないのだ。ただし、政治・軍事部門に集まる資金は民衆を助けるためには使われない。その資金すべてをイスラエルとの「聖戦」のために使うというのが原則だ。それを認めているのが、占領との戦いをハマスに託しているパレスチナ民衆の意識であろう。

激しいイスラエルの攻撃の後も、ハマスがパレスチナ人の多数に支持され、アラブ世界の民衆からの支援、さらに世界のイスラム教徒の支援を受けて、より強大となるという見通しは、多くの日本人にとっては想像もつかないことかもしれない。だが、ハマスとパレスチナ社会、イスラム世界の関係を考えれば不思議なことではない。

2024年のガザは年齢中央値19.5歳の若い社会であり、ガザ戦争で家族や兄弟を殺された子供たちはすぐに銃を持てる若者となり、復讐のためにハマスの戦闘員に志願するだろう。

ハマスは弱体化するどころか、パレスチナ社会での影響力をさらに増すことになると私は見ている。

イスラエルのネタニヤフ首相は「ハマス壊滅」を掲げているが、イスラエル軍の報道官さえ「ハマスの壊滅は不可能」とメディアに発言するようになった。ガザ戦争が終われば、イスラエルの占領と戦わない自治政府を主導するファタハに代わって、ハマスがパレスチナ人の多数の支持を得て、かつて武装闘争をしていた時のPLOのような存在になるだろう。

一方で米国、英独仏の欧州主要国、そして日本も、政府のレベルでは、ハマスを「テロ組織」としている。しかし、ハマスの政治目標は、「イスラエルの破壊」ではなく、パレスチナの民衆が求める「イスラエルの占領終結」である。ハマスを排除する限り、占領下で苦しむパレスチナ人と国際社会の乖離は大きくなる。今後、日本や日本人がパレスチナ問題と関わろうとすれば、ハマスについて知ることから始めるしかない。

写真/Shutterstock

ハマスの実像

川上 泰徳
ハマスの実像
2024年8月9日発売
1,155円(税込)
新書判/288ページ
ISBN: 978-4-08-721326-3

2023年10月、ハマスがイスラエルに対し大規模な攻撃を仕掛け、世界は驚愕した。
しかし日本ではハマスについてほとんど知られておらず、単なるテロ組織と誤解している人も多い。
ガザの市民の多数が支持するこの組織は一体どんなものなのか。
何を主張し、何をしようとしているのか。
そしてパレスチナとイスラエルの今後はどうなるのか。
中東ジャーナリストの著者が豊富な取材から明らかにする。

●社会に根を張るハマスの「慈善組織」
●軍事部門を支える豊富な資金の意外な出所
●精神的指導者ヤシーンが著者に語った「自爆攻撃」
●政治部門と軍事部門が分かれている理由
●若者をハマスに向かわせる占領の絶望的状況
●ハマスが望むイスラエルとの「共存の形」 etc.

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