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〈甘かった百条委員会の追及〉兵庫パワハラ県知事、答弁拒否が許されない場で「コメントは差し控える」“公開処刑”によって自死に追い込まれた県幹部への処分は「適切だった」と主張変えず

集英社オンライン / 2024年9月2日 19時17分

〈ついに証人尋問〉兵庫パワハラ知事「記憶にない」「私も完璧でない」委員会もドン引きした、あきれた言い訳の一部始終。お仲間“号泣元副知事”にも付箋をぶん投げ「知事として仕事をさせて」と辞任は拒否〉から続く

数々の違法行為疑惑が指摘される兵庫県の斎藤元彦知事。証人尋問を受けた8月30日の県議会調査委員会(百条委)で、県職員を怒鳴りつけるなどした過去のふるまいを突きつけられたが、弁舌巧みにそれをかわし、パワハラを認めなかった。だが一度だけ証言を拒んだ場面があった。疑惑を告発した後、自死に追い込まれた元県民局長Aさん(60)の処分に絡む質問に対してだ。Aさんの処分は、告発者を早期に潰そうと法規違反を積み重ねたうえで出された疑いがある。

「オレは偉いんだぞという意識が言動の端々に感じられ…」公表された兵庫県職員アンケート中間報告

Aさんの死と引き換えに百条委が実現

Aさんは3月12日、斎藤知事のパワハラやタカリのほか、側近と行なった公金不正支出や選挙への不当な公務員動員など計7項目の疑惑を書いた告発文書をメディア関係者ら10人に送った。

斎藤知事の説明などによれば、知事は3月20日に文書の存在を把握すると、片山安孝副知事(7月末に辞任)や井ノ本知明総務部長(総務部付)ら側近に対応を指示。

メールの送信記録の解析からAさんに目星をつけた片山氏らが、3月25日にAさんから公用パソコンを取り上げたうえ、告発文書を書いたとの供述を確保した。

そして県は2日後の3月27日にはAさんを西播磨県民局長から解任し、同月末に予定されていた定年退職を認めない決定を出した。

Aさんは文書を書いたことは認めながらも、内容が虚偽とは認めず、精査するよう片山氏らに求めていた。

しかし、解任と同じ3月27日、斎藤知事は記者会見で「(Aさんが)ありもしないことを縷々(るる)並べたような内容をですね、作ったっていうことを、本人も認めてますから」と、事実と違うことをまくしたて、「嘘八百」「公務員失格」とAさんの人格を貶めた。

Aさんは県条例に基づく公益通報者としての保護を求め、4月4日に手続きを取るが、この結果が出る前の5月7日、県はAさんに停職3ヶ月の懲戒処分を出す。

「それだけではありません。問題が拡大し百条委が設置される過程では、片山副知事が『自分が辞めるから百条委設置だけはこらえてくれ』と県議会最大会派の自民党に泣きついたり、Aさんのパソコンから抜き出した私的なデータを井ノ本総務部長が県議に見せて回ってAさんが信用できない人物だという印象を振りまいたりしました。

知事選で斎藤氏を推した維新の県議は、私的なデータも全部公開しろと主張していました」(地元記者)

こうした中でAさんは7月7日に自ら命を絶つ。「一死をもって抗議する」「百条委を最後までやり通してほしい」と書いた遺書を残して。百条委は、Aさんの公務員人生と命とを引き換えに実現したと言っていい。

8月30日、その百条委に斎藤知事が証人として初めて出席し、まずパワハラ疑惑に絞って質疑があった。

 百条委が約9700人の全県職員相手に行なったアンケートでは、少なくとも1750人が知事のパワハラを見聞きしたと回答し、具体例も多く挙げられた。これらの指摘が事実かどうか聞かれた斎藤知事は「記憶にない」を連発。

被害者の県幹部自身が「怒鳴られた。理不尽な叱責を受けたと思っている」と百条委で証言するなどし、言い逃れできなくなった3回の傍若無人な行為だけは「当時の認識としてはやむを得なかったが不快な思いをした人がいたら申し訳ない」などと言動の一部を認めた。

だが、「パワハラと認めないのか」との問いには「私ではなく百条委などが判定すること」と繰り返し、認めることはなかった。(#12

最大のピンチを乗り切った斎藤知事だが…

同じ日の百条委で挙げられたもう一つの問題が、Aさんの処分の妥当性についてだ。3月27日の「公務員失格」などの発言が、Aさんの公務員人生を全否定する「究極のパワハラ」(百条委メンバーの竹内英明県議)だとの認識が広がっていたためだ。

そもそもAさんは、4月4日に県の窓口で公益通報手続きを取る以前の、3月12日に告発文書を郵送した時点から公益通報者保護法の保護対象として不利益を与えてはならない存在だった。

「文書の存在を把握した斎藤知事が片山氏らに行なう指示は、告発が事実かどうかの確認であるべきだったのに、知事は最初から“犯人探し”を求めました。不正が指摘されたのが自分だったからでしょう」(フリー記者)

斎藤知事は、告発文書は「誹謗中傷性が高い」「真実相当性が低い」と非難し、このためA氏には公益通報者保護法は適用されないとの独自の主張を続けている。この言い分に絡む問題は9月6日の次回百条委で知事本人に質される予定だが、8月30日の同委でも関連する質疑があった。

質疑では、斎藤知事が3月27日の記者会見で「Aさんを懲戒処分する方向なのか」と聞かれ「今後の調査結果次第ですが、本人も作成と一定の流布を認めているので、懲戒処分を行なうことになると考えています」と答えていたことが俎上に載せられた。

県の懲戒処分指針では処分の公表は事後と定められ、予告は認められていない。「知事発言は禁止された予告ではないか」と尋ねられた斎藤知事は、「違反するかどうかは今コメントをすることは差し控えたい」と答弁を拒否した。

百条委設置の根拠である地方自治法100条は、証人が証言を拒めるのは本人か配偶者、それらの近親者らが刑事訴追を受ける恐れがある場合などに限られている。答弁拒否の理由を質されれば知事はこれを理由に挙げるしかなく、緊張は一挙に高まったはずだ。

ところがこのとき、当の質問者も奥谷謙一委員長も答弁拒否の理由を確認しようとしなかった。エアポケットにはまり込んだかのように知事はこの日最大のピンチを切り抜けていった。

だが、問題の会見があった3月27日前後に知事や側近がAさんを潰しにかかり、規定に外れたことをした痕跡はほかにもある。

百条委メンバーの丸尾牧県議が入手した3月26日付人事決裁書類によると、Aさんの県民局長職解任や3月末に決まっていた定年退職を認めないとする決裁は部長や局長が行なっているが、県の規定ではAさんのレベルの幹部の異動や退職の決裁権者は知事と定められている。

決裁の日付はAさんのパソコンを押収した翌日だ。急いで決裁を進める中で、定められた知事決済を省略したということなのか。斎藤知事は証人尋問で、当時の心中を説明している。

「私は最初にあの文書(Aさんの告発文書)を見たときに大変ショックでした。もともと私も彼(Aさん)とは(かつて知事が総務省勤務中に出向していた)宮城県にいたときくらいから知っていた仲で、よく飲んだりもしてたんですけど、どうして同じ仲間で一緒に仕事した人がこういう文書を書いて撒いたんだろうと、本当に悔しい、つらい思いがありまして、ああいった表現を3月27日にさせていただいたということです」(斎藤知事)

Aさんへの処分は適切だったと言い張る知事 

「ああいった表現」とは、Aさんを「公務員失格」と言ったことを指す。この暴言を弁解するために知事はわざわざ委員会で発言を求め、当時の心境がこうだったと同情を買おうとした。

だが、この弁明は告発文書が示す数々の疑惑が知事の言うとおり「核心的な部分で事実でない」場合には通じるが、実際には疑惑は「おおむね事実として浮かび上がっている」(奥谷委員長)状況だ。公金不正支出などの重大な疑惑も含む告発を一刻も早く握りつぶそうと、Aさんの即時更迭と極悪人扱いが知事主導で行なわれたのではないのか。

3月27日の記者会見の直前、県人事課はAさんの人事に関する質問に備えた想定問答として「今回の人事異動は県民局長にふさわしくない行為があったので県民局長の職を解くものである。詳細については調査が必要ですので申し上げられない」との文言を知事に上げていた。

しかし、斎藤知事はこれを考慮することなく、懲戒処分を予告した。「文書を見た直後の知事は怒りまくって、周囲が止める声に耳を貸さなかった時期があると聞いている」と県関係者は証言しており、知事の言動に合致する。

斎藤知事と県が行なったこれらのAさんへの仕打ちを、百条委メンバーの藤田孝夫県議は「人事異動ではなく公開処刑だ」と称した。Aさんは比喩でもなく、命をなくすことになった。

「不快に思わせてしまったとしたら過去は取り戻せないですから、そこは直接お詫びしたりとか、申し訳なかったということは言いたいですし、一方でこれからは、そういったことを踏まえて、もっといい知事としての在り方をやっていきたいなと思っています」

百条委で県職員への対応を諭された斎藤知事はこう答え、“やり直し”を図るつもりだと強調したが、Aさんの処分は「適切だった」と言い続けた。

斎藤知事がAさんに詫びなければならないと思う日は来るだろうか。その日が来たとしても、どう償うことができるというのか。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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