Amazonファーマシーの登場で「薬局は今より減って薬剤師が大量に余る」は本当か? 処方箋のオンライン販売化の是非
集英社オンライン / 2024年9月6日 8時0分
今年7月にAmazonが開始したサービス「Amazonファーマシー」。ネット上では “薬局が減少し、薬剤師も大量に余る”との懸念が指摘されているが、はたしてこのサービスによってどのような影響があるのか。長野県にて「ららくま薬局」を経営する薬剤師の熊谷信氏に聞いた。
【画像】約2500店舗の薬局がAmazonファーマシーに対応
「Amazonファーマシー」は薬局・薬剤師たちにどんな変化をもたらすのか
「Amazonファーマシー」は、医療機関で取得した電子処方箋をAmazonショッピングアプリ上にアップロードすることで、オンライン上で薬剤師による服薬指導を受け、処方された薬を自宅もしくは最寄りの薬局で受け取ることができるというサービスだ。
同サービスに対応する薬局は、「アインホールディングス」や「ウエルシアホールディングス」、「新生堂薬局」など9つのグループ薬局で、全国41都道府県にある約2500店舗の薬局が対象となっている。
薬局での待ち時間削減や、薬局に出向くことが難しい人たちにとっては大変便利なサービスだが、〈街の薬局が無くなるのでは…〉〈全国の薬剤師が失業する〉など、ネット上ではこんな懸念点を挙げる人もいるが、果たして本当にそうなってしまうのか。
薬局は緩やかに減少、オンライン処方が進むと薬剤師の需要が減る可能性も
まずはAmazonファーマシーの登場によって薬局のビジネスモデルがどう変化するのだろうか。
「現在、薬局の業態としてメインとなっているのは、患者さんがクリニックで受診した後に、近くの薬局に処方箋を持って行き、薬剤師に処方薬の説明をしてもらい薬を受け取るという『門前薬局』のスタイルです。
Amazonファーマシーの場合、この薬局で行う過程をすべてオンラインで可能にしたというところがポイントです。
こうした医療のオンライン化は、病院が少なく、なかなか診察に行けないような地域に住む人々にとっては重宝するサービスですし、医療問題のひとつの解決策になるでしょう。今後さらにオンライン診療やオンライン処方は増えていくと予想されますので、門前薬局のビジネススタイルが崩れていく将来はそう遠くないのではないかと思います」(熊谷氏)
薬局が減少していくことは確定的だと語る熊谷氏だが、薬剤師に関してはどうか。
「薬局の減少が、直接的に薬剤師の需要の減少につながるとは考えづらいです。なぜなら、薬局には員数規定があり、処方箋40枚に対して薬剤師1人の配置が必要だからです。
オンライン化が進んでも発行処方箋枚数が急激に減少することは考えにくいですから、今後薬局が減ったとしても、薬局に出勤せずテレワークで働く薬剤師が増えるなど、働き方は大きく変わるかもしれませんが、直ちに薬剤師の需要が減りはしないと考えられます」
一方で熊谷氏は、薬剤師の需要が減ってしまう要因として“薬局の減少”ではなく、“調剤業務の外部委託の普及”が最大の懸念だと話す。
「先程の員数規定ですが、もう少し詳しくお話しますと、薬局薬剤師の場合、厚生労働省が定めた配置基準があり、薬局(店舗型)に配置する薬剤師が1日に処理できる処方箋の枚数は1日平均40枚までとなっています。例えば1日平均100枚の処方箋があれば、最低2.5人の薬剤師を雇用する必要があるということです。
しかし現在進められている調剤業務の外部委託が一般的になれば、員数規定の見直しの話が必ず出てきます。そして仮にAmazonがプラットフォームの提供に留まらず、薬の取り揃えや服薬指導などの調剤業務に乗り出すようなことがあれば、その影響は甚大です。そうなれば、薬剤師の需要が減る可能性は十分考えられるでしょう」
門前薬局のビジネスモデルが普及している現在だからこそ薬剤師の意義は保たれているが、Amazonファーマシーのようなオンライン処方が今後増えれば、薬剤師の意義は大きく揺らいでしまうことになるだろう。
Amazonファーマシーが広まることで薬局の裁量が小さくなる可能性も
薬剤師として薬局を経営する熊谷氏は、Amazonファーマシーに対して感じる“脅威”についてこう語る。
「この新サービスに対応する薬局は、Amazonファーマシー側に処方箋1枚あたりの仲介料を支払うことになっているようです。今後オンライン処方の需要が増えていけば、Amazonファーマシーは業界大手として、こうした仲介料の相場などの業界水準を作っていく立場になり、制度設計に影響するほどの大きな力を持つでしょう。
そうなると薬局側は言われるがまま。裁量は小さくなり、現在より利益も減少していくのではないかと危惧しています」
では薬局は、今後迎えるかもしれない危機をどう乗り越えるべきなのだろうか。
「現在多くの薬局では、冒頭で説明した『門前薬局』のビジネススタイルが主流となっていて、保険医が交付した処方箋に基づき保険薬剤師が薬局で薬の調剤を行なう『保険調剤』がメインの事業となっています。
しかし今後は保険調剤がオンライン処方にシェアを奪われていく可能性があると考えると、保険調剤以外の収益の源となる事業を見つけなければ、薬局が生き残ることは厳しいのではないかと思います」
「保険調剤に偏重している現状のままでは、薬局としての意義が薄れていく一方である」と語る熊谷氏。しかし薬局が既存のビジネスモデルに依存している現在、新たなビジネスを開拓することは容易なことではないともいう。
Amazonファーマシーの登場は想像以上に薬局や薬剤師たちに大きな影響力を与えていたが、今後この新サービスがどのような生活の変化をもたらすのか引き続き注目していきたい。
取材・文/A4studio/瑠璃光丸凪 サムネイル/Shutterstock
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