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〈自民党選挙裏金疑惑〉「陣中見舞いだったと思う」自民党・甘利氏が河井夫妻への100万円の“裏金”提供を認めた! 裏付けられた“河井メモ”の信ぴょう性

集英社オンライン / 2024年9月24日 9時0分

「安倍政権の幹部4人が河井夫妻に現金6700万円の裏金を提供か?」スクープした中国新聞VS自民党、その戦いの裏側〉から続く

2019年、自民党の衆院議員だった河井克行が妻である案里の参院選出馬に際し、地元の議員らに現金を自ら配って回った買収事件。ともに公職選挙法違反の疑いで逮捕され有罪となったが、克行氏が自宅に残した一枚のメモをきっかけに再びその事件が動き出すことになる。

【画像】「総理2800 すがっち300 幹事長3300 甘利100」 河井克行の自宅から押収されたメモの内容

自民党の裏金問題を追及する中国新聞取材班はメモをもとに甘利明衆議院議員に取材を試みた。『ばらまき 選挙と裏金』より一部抜粋・再構成してお届けする。

なんとハードルの高い取材になることか

河野(中国新聞の記者)が東京入りしたのは2023年9月6日の午後だった。荒木から事前に電話があり、メモに書かれていた菅、二階、甘利の3人に直撃する役目を担うことになっていた。「なんとハードルの高い取材になることか」。羽田空港に向かう飛行機内ではあまり希望を持っていなかった。

東京支社時代の経験から言って、多忙な国会議員に直接取材するのは簡単ではないと分かっていた。普段から出入りしている顔なじみの記者でなければ、事務所に面会の約束を取ろうとしてもなかなか取れない。

まして菅、二階、甘利はいずれも大物といっていい国会議員だ。会合の前後でつかまえられたとしても、「1対1」になれる場面をつくるのは困難が予想され、メモの存在と現金提供の事実を確認することは至難の業だと思っていた。「この取材は駄目元であり、取材できなくて当然」と考えると、逆に気が楽になっていた。

飛行機が羽田空港に着くと、国会記者会館にある記者室に向かった。そこには東京支社の中川が険しい表情で待っていた。明日から一緒に菅、二階、甘利への直接取材を試みることになるメンバーだ。中川もきっと河野と同じことを感じていたのだろう。「どうすればいいのだろう」。ため息をつきながらも、どこかわくわくした感情がわいていた。

国会では1月から6月にかけて通常国会が開かれる。予算案や法案の審議のため、国会議員が本会議や委員会に出席している。この通常国会が終わると、多くの国会議員が地元に帰り、国会にあまり姿を見せなくなる。9月上旬は国会議員会館の各議員の事務所には秘書がいるだけで、議員がいないことが多い。

故人となっている安倍を除き、メモに書かれていた3人の地盤は菅と甘利が神奈川県、二階が和歌山県。もし3人とも地元にいる場合はどう取材すればいいのだろうか。中川といろいろ考えた末、まずは3人の国会議員事務所を訪ねてみることにした。

9月上旬はちょうど内閣改造と自民党役員人事が行われるというニュースが永田町を駆け巡っていた。そういう取材の一環だと思われるタイミングだったため、怪しまれずに3人の予定を聞き出せるかもしれない。駄目元で中川と3人の国会議員事務所を訪ねてみた。

3人の事務所を回ってみると、唯一、甘利の日程だけヒントを得られた。甘利の事務所を訪ねると、翌7日に党本部で、自身が責任者を務める党の会合に出席することが分かった。その会合に出席するタイミングで甘利には直接取材できる可能性が出てきた。ほかの2人の事務所からは情報を全く得られなかったが、一歩前進したような気がした。

「やれることは全てやろう」

6日の夜、取材班を組む7人の記者が日比谷公園前の日本プレスセンタービル内にある中国新聞東京支社に集まった。7日の役割分担を決めるためだ。「やれることは全てやろう」。そう話し合い、二階、菅、甘利の事務所へ直接取材を求めるための依頼書を作った。

これを分担して7日午前に3人の事務所へ持って行く。取材の約束を取り付けるのは難しいとしても、やれることは全てやるべきだと考えた。甘利が出席する党本部の会合や、二階が出席する派閥会合の取材態勢の打ち合わせも入念にして解散した。

河野にとっては、唯一気がかりだったのは無派閥の菅だった。3人のうち唯一、菅だけは直接取材の見通しが立っていないままだった。

7日は午前10時から手分けをして、3人の事務所に取材依頼書を持って行くことになっていた。河野が担当することになったのは甘利だった。河野は東京支社時代に、甘利を2回直接取材したことがある。

広島で河井夫妻が大規模買収事件を起こした2019年の参院選で、甘利は自民党の選挙対策委員長を務めていた。どういう経緯で、克行と案里への資金提供がされていたかを尋ねるため、河野は国会内で甘利を直撃取材したことがある。核心部分は語らなかったが、知っていることはいろいろと答えてくれたと記憶に残っていた。

甘利の事務所に取材依頼書を持って行くと、秘書からの答えはやはり予想通りだった。取材依頼書には、メモの細かい内容まで記載していなかった。「何の取材かよく分からないのに、応じられない」と断られた。

「当然だな」。河野はそう思った。午後には甘利が出席する党本部の会合がある。そこに全力をかけようと思い、国会記者会館へ戻っている途中だった。国会内の廊下の向こう側に、甘利が姿を見せた。

秘書や他社の記者は随行しておらず、甘利は1人ですたすたと歩いてこちら側に向かってきた。全く予想していない場面で直撃するチャンスがいきなりやってきた。躊躇はなかった。

東京支社時代に取材した経験から、甘利は話すことが好きであることは知っていた。ただ選挙の戦略は記者には話せないことも多い。まして選挙資金のことになると、なおさらだ。取材結果には期待を持っていなかった。

甘利はうそをつく人ではない

「中国新聞の河野です」。名刺を差し出すと、甘利は立ち止まり、片手で受け取ってくれた。いつものやや不機嫌そうな表情だった。「河井克行、案里夫妻の買収事件のことで伺いたい」。そう伝えると、甘利は「うん」とうなずき、こちらの質問に応じてくれた。

――事件で新たに河井克行氏のメモが押収されていることを知っていますか。

「そうなの?さあ」

――「甘利100」と書かれていたそうです。参院選で河井氏に100万円を提供しましたか。

「うん」

――それは選挙対策委員長として?

「うん。選挙対策委員長として。陣中見舞いだったと思う」

――ほかの候補にも一律に100万円を提供したのですか。

「うん。ほかにも一律に持って行っていると思う」

――それは党の政策活動費ですか。

「政策活動費?どうだったかな」

――党からのお金ですか。

「党からのお金」

――それは政治資金収支報告書に記載しなくていいのですか。

「うーん。どうなのかなあ」

――メモには「総理2800 すがっち500 幹事長3300」とも書かれています。そういうお金が提供されたことをご存じですか。

「そうなの。うーん」

こう話すと、甘利はそそくさと去って行った。100万円を提供したことをあっさりと認めたのだった。この時、甘利が100万円の提供を認めたことへの興奮は河野にはほとんどなかった。認めるにしろ、否定するにしろ、現場の記者は淡々と取材して、メモを上げて記事を書くだけだ。ハードルの高い直接取材が1つこなせたことでほっとした気持ちだった。

7人の取材班メンバーは、各所で進む取材の情報を共有するためのチャットを開設していた。河野はすぐに甘利の取材結果を書き込んだ。「甘利さん、100万円提供を認めました」。そして、国会記者会館の会議室へ戻った。

河野は東京支社時代の取材経験から、甘利はうそをつく人ではないと思っていた。知っていることは話すが、知らないことは知らないとはっきり言うタイプの政治家だ。ただ受け答えであいまいだったところもある。100万円の原資が政策活動費かどうかという質問には、首をひねりながら「どうだったかな」と答えた。

あの表情から、ごまかそうとしているとは感じなかった。党の選対委員長として地方へ応援に入る際に、党本部から渡された配布用の資金があるのかもしれない。100万円を政治資金収支報告書でどう処理したのかも甘利自身は「どうなのかなあ」と覚えていない様子だった。とぼけたのか、本当に知らないのか。どちらなのか分からなかった。

河井夫妻の逮捕に向けて検察が詰めの捜査を進めていた2020年5月、東京支社の記者だった河野が甘利を直撃取材した時、甘利は「お金の使い道は河井が勝手に決めた。ほんとに河井はばかだ。党本部からお金を配る指示を出していない」と吐き捨てた。そして党本部からの資金提供額を決めるのは「幹事長と事務方でしょう」と語っていた。

2019年の参院選当時の幹事長は二階だ。そして「総理からは私に指示はなかった」とも語り、当時の安倍総理大臣が資金提供額を決めていないとの見方を示していた。

一気に口が重くなった甘利

現場の記者たちが取材に駆け回っている間、デスクを務める荒木は国会記者会館の会議室で留守番をしていた。頻繁にチャットを見ては、各記者の取材の状況を見守っていたが、そこに書き込まれていた投稿を見て、目を疑った。

「甘利さん、100万円提供を認めました」

書き込んだのは河野だった。念のために確認のメッセージを送ると、甘利は本当に認めたという。この日の取材は二階、菅、甘利からコメントが取れたら御の字で、現金の提供は当然否定されるものと想定していただけに、信じられない気持ちだった。同時に、胸が高鳴った。

その後、荒木は広島の本社にいる高本ら編集局幹部に現状報告のメールを送った。二階、菅の2人にはまだ当たれていないものの、甘利が100万円の提供を認めたと報告した。「甘利さんから引き出せたのは大きい。メモの信ぴょう性を裏付けてくれる」「よくぞ甘利さんを落とした」とうれしいメールが返ってきた。

そして午後。今度は河野と中川の2人が自民党本部で予定されている会合に向かい、甘利を待ち受けた。甘利の写真を撮影し、チャンスがあれば、克行への提供を認めた100万円が買収資金だったかを再確認するのが狙いだった。

写真撮影はうまくいった。ただ、会合後に河野が国会内で甘利に再び直撃すると、口は一気に重くなっていた。言ってはならないことを言ってしまった、と察知したのだろうか。

――河井氏に提供したお金が買収に使われたという認識はありますか。

「おれに聞かれても分かんねえよ」

今度は立ち止まることなく、そのほかの質問には全く答えず、去って行った。このやりとりをした後に、東京支社時代に聞いた甘利の言葉を思い出した。「お金の使い道は河井が勝手に決めた」。知らないことは知らないとやはり答えたのかもしれないと思った。

甘利への取材は想像をはるかに超える成果が得られ、取材班の士気は上がった。

その一方で、菅への直接取材はめどが全く立っていなかった。菅のスケジュールが分かっておらず、国会にいるのか、地元の神奈川県にいるのかも分かっていなかった。甘利の取材を終えてから国会内を回ってみたが、足取りはつかめなかった。

ばらまき 選挙と裏金

中国新聞「決別 金権政治」取材班
ばらまき 選挙と裏金
2024年8月21日発売
1,100円(税込)
文庫判/464ページ
ISBN: 978-4-08-744685-2

政治家夫妻が自ら現金を配って回った前代未聞の買収事件から発展し、政府・自民党の不透明なカネの問題に切り込んだ、渾身の調査報道!

「事件はまだ終わっていない」

自民党衆院議員が妻の参院選出馬に際し、地元の議員らに現金を自ら配って回った前代未聞の買収事件。その額は100人で計2871万円にのぼる。なぜ、この事件は起きたのか。本当の“巨悪”は誰なのか。広島の地元紙が総力を挙げて「政治とカネ」の取材を続けるうち、買収の資金源とも目される自民党の巨額「裏金」問題へと繋がってゆき――。政権中枢の問題をあぶり出した取材とその裏側を描く、執念のノンフィクション。

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