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〈自民党選挙買収〉「血の滴るスクープを」中国新聞がすっぱ抜いた「自民党の裏金問題」河井夫妻の買収原資は自民党幹部が提供していた?

集英社オンライン / 2024年9月26日 17時0分

〈自民党選挙裏金疑惑〉「幹事長3300」と書かれたメモの存在を問われた瞬間、口ごもった二階氏、そして繰り返された「案里って何者なのよ」…中国新聞、渾身の調査報道の舞台裏〉から続く

自民党の衆院議員が妻の参院選出馬に際し、地元の議員らに現金を自ら配って回った買収事件。広島の地元紙が総力を挙げて「政治とカネ」の取材を続けるうち、買収の資金源とも目される自民党の巨額「裏金」問題へと繋がっていった。

【画像】「総理2800 すがっち500 幹事長3300 …」 河井克行の自宅から押収されたメモの記載内容

昨年の秋に世間を騒がせた事件の深層を『ばらまき 選挙と裏金』から抜粋・再構成してお届けする。事件はまだ終わっていない。

「買収原資か メモ押収 河井元法相宅で検察」

このスクープは、2023年9月8日の中国新聞朝刊1面のトップを飾った。記事は以下のとおりだ。

「買収原資か メモ押収 河井元法相宅で検察」「総理2800 すがっち500 幹事長3300…」の大見出しが躍った。「決別金権政治」取材班の署名記事も脇に載せ「政権中枢の闇 解明を」と切り込んだ。

2019年7月の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件で、検察当局が20年1月に河井克行元法相(60)=服役中=の自宅を家宅捜索した際、当時の安倍晋三首相をはじめ安倍政権の幹部4人から現金計6700万円を受け取った疑いを示すメモを発見し、押収していたことが7日、関係者への取材で分かった。

検察当局は、元法相が広島県内の地方議員や後援会員に現金を配り回った買収の原資だった可能性があるとみて捜査していたという。

関係者によるとメモはA4判。上半分に「第3  7500万円」「第7  7500万円」と書かれ、それぞれ入金された時期が付記されている。その下に「+現金6700」と手書きで記され、さらにその下に「総理2800 すがっち500 幹事長3300 甘利100」と手書きされていた。

「第3  7500万円」と「第7  7500万円」の記載について東京地検特捜部などの検察当局は、自民党本部が参院選前の19年4~6月に克行氏の自民党広島県第三選挙区支部と妻の案里氏(有罪確定)の党広島県参院選挙区第七支部に振り込んだ各7500万円(計1億5000万円)と分析。

「+現金6700」は1億5000万円に加えて6700万円が現金で提供され、「総理 2800」などの記述は内訳を記しているとみている。

「総理」は安倍首相、「すがっち」は菅義偉官房長官、「幹事長」は二階俊博自民党幹事長、「甘利」は甘利明党選挙対策委員長=いずれも肩書は当時=で、数字は提供した金額を万円単位で示しているとみて克行氏を追及したが、捜査は進展しなかったとみられる。

安倍氏ら4人と克行氏の主な政治団体や政党支部の政治資金収支報告書には、このメモに記された資金のやりとりは載っていない。公選法違反(買収)や政治資金規正法違反(不記載)に当たる可能性もある。

安倍氏は昨年7月の参院選の街頭演説中に銃撃され亡くなった。7日の中国新聞の取材に対し、二階氏は現金提供を否定した。

一方、甘利氏は克行氏に100万円を提供したことを認め、選対委員長として他の候補にも一律に配った陣中見舞いだったと説明した。菅氏の事務所には同日午前に取材を申し込んだが夕方までに回答はなかった。

克行氏は、21年10月に懲役3年の実刑判決が確定し、栃木県内の刑務所で服役している。

克行氏を巡っては、現金を配った地方議員や後援会員の名前や金額を記したリストを自宅に保管。検察当局が家宅捜索で押収したことから、100人に計2871万円を渡した前代未聞の買収事件の摘発に発展した。

買収の資金に関し克行氏は自身の公判で、党本部からの1億5000万円ではなく「手持ち資金を使った」と供述していた。

中国新聞は、政権中枢から提供された裏金が買収に使われた疑いがあるとの情報を得て、関係者への取材を続けてきた。(「決別金権政治」取材班)〈2023年9月8日〉

「ヤフトピ」やXのトレンドに

この日の早朝、中国新聞はこのスクープ記事をヤフーニュースに配信した。大手ネットメディアへの記事掲載は、朝刊や中国新聞デジタルの購読者だけではなく、多くの有権者に読んでもらえる絶好の機会となる。地方紙の存在感を高め、記者としてのやりがいにもつながる。

中でも期待するのは、主要記事が掲載されるヤフーニュースのトピックスに入ることだ。業界では「ヤフトピ」と呼ばれる。そこに入るかどうかは、記事のニュース性や面白さで判断される。

午前5時。前夜の取材の興奮で寝付きが悪かった中川は早々と目が覚めた。寝床ですぐにスマホでヤフーニュースを見たが、残念ながら記事はヤフトピに入っていなかった。

これほどのスクープをヤフー側が見逃すわけがない、と信じて待った。同じ頃、荒木も起きてスマホの画面を見つめていた。

ヤフトピに入れば記事が拡散されるのはもちろん、全国に伝える価値のある記事と認められたようで、率直にうれしい。ただ、それだけではない。全国各地の人からコメントが寄せられ、その反響を知ることで次の取材のヒントが得られることも多い。1票を投じる有権者が「裏金」の存在にどう思うのか、次の取材に何を求めているのか。それを一番知りたかった。

8時40分時すぎ、ヤフトピに載った。荒木はすぐに取材班へ伝えるため、チャットに書き込んだ。ヤフー上では、次々にコメントが寄せられていた。「さあ、今日も頑張ろう」。モチベーションは一層高まった。

X(旧ツイッター)でも「安倍政権中枢」「すがっち」がトレンド入り。「これ、とんでもないスクープじゃないか」などと高評価の投稿が続いた。作家や政治家も続々と投稿していた。

小説家の平野啓一郎(@hiranok)

〝これはスクープ。何故、この事実が握りつぶされていたのか。改めて自民党の責任が追及されるべき〟(2023年9月8日)

野党の国会議員からも投稿が相次いだ。

立憲民主党参院議員杉尾秀哉(@TeamSugioHideya)

〝これも忘れてはいけない、自民党の「政治とカネ」を巡る問題。本件について誰一人説明していない。このカネの元々の出所はどこだ?〟(2023年9月8日)

共産党参院議員山添拓(@pioneertaku84)

〝「総理2800 すがっち500 幹事長3300 甘利100」─甘利氏は認めたとも。政治とカネの問題が続く。自民党の責任で明らかにすべきだ〟(2023年9月8日)

ネット上では記事に反響するように、さまざまな投稿、コメントが湧き出ていた。どこから「裏金」を作り出したのか。検察は何をしているのか。自民党政権の重大な疑惑に国民の怒りが渦巻いていた。

中川は、次の取材のポイントが見えた気がした。

和多も興奮から夜明け前に目が覚め、ホテルのベッドの上でかつての上司の言葉を反芻していた。「血の滴るような特ダネを書いてみろ」。駆け出しに警察担当をしていた頃、こう教えられた。当時はその意味がよく分からなかったが、経験を積む中で自分なりに解釈していた。記事が取材相手の人生に影響を及ぼすことは多い。それは決して良い話だけではない。

書くことで相手を追い詰め、想定外の悲劇を生む場合もある。だからこそ、取材対象を記事で斬りつける時は、真正面から返り血を浴びる覚悟を持たないといけない。多分、元上司はそうした気概を持てと、出来の悪い「サツ回り」記者に伝えたかったのだろう。「血の滴るスクープを書け」と。

今回のスクープはどうだろうか。和多は手応えをつかめたようで、決定的な物足りなさも感じた。やはり克行本人に取材するしかない─。そう確信していた。

岸田さんがネタをくれるなら、どんなに楽だろう

ネット上では中国新聞のスクープが拡散され、期待以上の展開となった。一方で、在京の新聞、テレビは後追いの報道をしなかった。中国新聞をはじめ全国の地方紙に記事を配信している共同通信社も後追い記事を出すことはなく、沈黙していた。

今回のスクープは、安倍政権幹部が大規模買収事件の主犯の元法相に多額の裏金を提供した疑惑を示すメモを検察当局が押収していたという事実を報道した。しかも、閣僚や自民党の要職を歴任してきた甘利がメモに記載された通りの事実を認めている。速やかに国民に知らせるべき事実だ。

どこかの社が追いかけてくるだろうと考えていた荒木にとって予想外だった。「地方紙の報道は無視すればいいと考えているのだろうか、それとも単純に裏取りができず、追いかけられないのだろうか」。検察取材で長年の蓄積があり、ネタ元を持っているはずの全国紙と通信社が後追いしてこなかったことは不可解だった。

一方で、永田町では耳を疑うような情報が駆け巡っていた。広島の地元紙である中国新聞のスクープは、広島選出の総理大臣である岸田文雄サイドが情報を流したとの憶測だった。支持率低迷が続き、政権運営が危ぶまれる岸田サイドが、菅や二階をけん制するために情報をリークしたというものだった。

荒木はあきれるしかなかった。「岸田さんがネタをくれるなら、どんなに楽だろう」とも思った。と同時に、権謀術数が渦巻く永田町の闇の深さをあらためて痛感した。その後、ネット上には一部メディアによる岸田リーク説の憶測記事も流れていた。「うそ八百を書く記者っているんだな」。マスコミの世界に身を置く記者の端くれとして、情けない思いも湧いてきた。

それでも、中国新聞がやるべきことは変わらない。取材班のメンバーは2日目の仕事へ頭を切り替えた。

2日目はまず、唯一取材ができていない菅に当たる必要があった。朝から和多が神奈川の菅の自宅マンションに張り込んだ。

河野は、菅が国会を出入りした時に直撃できればと考え、午前中から国会内で待機していた。ただ、期待は全く持てていなかった。既にネット上では中国新聞のスクープが拡散していた。朝刊には二階と甘利の一問一答の記事も載っていた。「菅さんは警戒して国会には現れないのではないか」。そう考え、菅の自宅に向かった和多が直撃できる可能性が高いのではないかと感じていた。

そう考えていた時に、国会内の廊下に菅が突然現れた。菅は、隣にいる他社の記者1人と話しながらゆっくりと歩いてきた。やや機嫌が悪そうな表情だった。中国新聞のスクープを既に読んで、機嫌を損ねていたのかもしれない。

ばらまき 選挙と裏金

中国新聞「決別 金権政治」取材班
ばらまき 選挙と裏金
2024年8月21日発売
1,100円(税込)
文庫判/464ページ
ISBN: 978-4-08-744685-2

政治家夫妻が自ら現金を配って回った前代未聞の買収事件から発展し、政府・自民党の不透明なカネの問題に切り込んだ、渾身の調査報道!

「事件はまだ終わっていない」

自民党衆院議員が妻の参院選出馬に際し、地元の議員らに現金を自ら配って回った前代未聞の買収事件。その額は100人で計2871万円にのぼる。なぜ、この事件は起きたのか。本当の“巨悪”は誰なのか。広島の地元紙が総力を挙げて「政治とカネ」の取材を続けるうち、買収の資金源とも目される自民党の巨額「裏金」問題へと繋がってゆき――。政権中枢の問題をあぶり出した取材とその裏側を描く、執念のノンフィクション。

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