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〈ファミレス消滅の危機〉北九州のソウルフード「資さんうどん」運営会社を「すかいらーく」が買収した狙いとは? 業界トップ丸亀製麺との全面対決か

集英社オンライン / 2024年9月11日 8時0分

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すかいらーくホールディングスが、資さんうどんの運営会社を240億円あまりで買収すると9月6日に発表した。関東エリアでの知名度は今一つだが、北九州市のソウルフードともいえるほど親しまれている人気チェーンだ。根強いファンを持つブランドを手にする意味は大きいが、今回のM&Aはすかいらーくによる「ファミリーレストラン」というビジネスの転換点を示唆するものでもある。

【画像】資さんうどん名物「肉ごぼ天うどん」

減少を続けるガストとジョナサンを業態転換、売上増のすかいらーく

すかいらーくは「資さんうどん」の運営会社、資さんの全株を取得して完全子会社化すると発表したが、驚くべきは240億円という株式の取得額だ。

資さんの2024年8月末時点の純資産額は、25億円程度が見込まれており、PBRは9.6倍だ。

PBR(「Price Book-value Ratio」の略)とは株価純資産倍率のことで、株価を1株当たりの純資産で除した数字。株価が割安か割高かを判断するのに用いられる。

丸亀製麺のトリドールホールディングスが3.5倍、はなまるうどんの吉野屋ホールディングスが3.3倍。一般的に数値は低いほうが割安と判断されるのだが、今回のケースだと、すかいらーくは資さんを相当割高な水準で手にしたことがわかる。

それだけ資さんの成長に期待ができるからということだが、高額買収ができるのも、すかいらーくの業績がコロナ禍を経て安定したからに他ならない。

2024年度上半期における、本業での稼ぎに該当する事業利益は118億円、利益率は6.2%。前年同期間の3.3%から急回復している。なお、コロナ禍を迎える前の2019年度の利益率は5.5%だった。すかいらーくの稼ぐ力は回復しきっているのだ。

近年の飲食店は、客数を犠牲にしても値上げによる客単価の上昇で、何とか増収を達成するケースが多いにも関わらず集客も好調そのものだ。

2024年1-8月の既存店売上高は前年比111.6%。客数は107.2%で客単価は104.2%。客数と客単価の両方が前年を上回り、売上増に貢献している。

なお、既存店とはオープンから一定の期間が経過した店舗を指す。新規開業効果が働かない分、その店の本質的な集客力を見ることができる。ただし、主力である「ガスト」などファミリーレストランは店舗の整理に余念がない。

ガストの2024年8月末時点の店舗数は1248。1年前から33店舗減とし、緩やかな縮小が続いているのだ。

この状況は都市型のファミリーレストランである「ジョナサン」も同様である。2024年8月末の店舗数は163で、前年から25店舗減少した。

すかいらーくは2023年度に41店舗の業態転換を行っている。今年度は57店舗の転換を実施済みだ。

すなわち、ファミリーレストランのガストやジョナサンを、「しゃぶ葉」といった別業態へと転換して売上増を達成しているのである。

サイゼリヤと比べるとガストは割高に…

飲食店などに対するモニター体験のマッチングサービスを行う“ファンくる”は、2022年1月から2023年1月にかけて「ファミリーレストランについての意識調査」を実施した。

それによると、「コロナ前後でファミレスの利用頻度は変わりましたか?」という質問に対して「減った」との回答は37%に及んでいる。「増えた」はわずか4%だ。

消費者の外食頻度が落ちたのは、何もファミリーレストランに限ったことではない。しかし、消費者の好みは贅沢ができる専門店などの単価が高い店か、手ごろで安い店かの二極化が進んでいる。

先ほどの調査で、ファミリーレストランを利用したいと思う理由で最も多い回答は、「手ごろな価格だから」(69%)だ。

ガストは、2023年11月に主力メニューのチーズINハンバーグなど30品目の値下げを行った。しかし、原材料や人件費高騰の影響を排除しきることができず、2024年4月に6割の商品で値上げを実施している。いくら大量仕入れができる大手とはいえ、インフレ下において手ごろな価格を維持するのは簡単ではない。

これによりガストは、贅沢な気分が味わえるわけではなく、単価も安いわけではないという、消費動向の空白地帯に陥る可能性があるのだ。

しかも、すかいらーくの最大ライバルは海外事業で十分な利益が出ているサイゼリヤだ。同社は国内においては徹底的に値上げを行わない姿勢を前面に出している。ファミリーレストラン業界が消耗戦の様相を呈するのは必至。すかいらーくは、戦い方を少しずつ変える必要性に迫られているというわけだ。

ロードサイド型ファミレスは「資さんうどん」になる可能性が大

すかいらーくは2027年度までの中期事業計画の中で、成長戦略の一つに「M&Aの推進」を掲げていた。3年間で3~5件程度実施するというものだ。資さんうどんの買収はこの一つに該当することになる。

資さんは、幹線道路沿いに出店するロードサイド型と繁華街のビルイン型を得意としている。すかいらーくはロードサイド型のファミリーレストランが多く、転換が必要なエリアに新ブランドが加わる意味は大きい。

すかいらーくには、ガストとジョナサンのほかに、バーミヤンやしゃぶ葉、夢庵などの業態があるが、どれもターゲットはファミリー層で顧客の食い合いが起こりやすい。資さんも子ども用のメニューを用意するなど幅広い層をカバーするが、さっと食べられる麺類となればドライバーや建設作業員などの移動が多い労働者の利用にも期待ができる。

さらには資さんには固定ファンが多く、顧客の8割は月に何度も足を運ぶ常連客だという。労働者層との相性もいい。

将棋の藤井聡太竜王・名人は、2023年10月26日の竜王戦で、勝負メシに資さんうどんの「肉ごぼ天うどん」を選んで話題となった。その前に、北九州市などが参加する実行委員会は、食の魅力を全国に発信しようと市内の事業者を対象に勝負メシを公募している。その中から選ばれたのが、資さんのメニューだったわけだ。つまり、市を代表する食の一つに挙がるほど、地元では親しまれていることになるので、味はお墨つきというわけだ。

東京では、2024年7月13日から3日間限定で神田にポップアップレストランをオープンさせ、400人以上の行列ができた。そして今冬には、都内1号店を両国に出店することが正式決定。期間限定の店舗で感触を試し、底堅い人気を確信して出店を決めたのだろう。

出汁と麺の勝負の行方は?

資さんは2018年に投資ファンドのユニゾン・キャピタルに買収されている。その数年前に、事業承継を背景として福岡銀行傘下の投資ファンドである福岡キャピタルパートナーズが資さんを取得していた。

ユニゾンといえば、回転ずしの「あきんど スシロー」を国内トップに引き上げた実力者だ。

ユニゾンが買収した年の2018年に、佐藤崇史氏が資さんの社長に就任した。ボストン・コンサルティング・グループを経て、ファーストリテイリングの経営変革を推し進めた経歴を持つ人物だ。

資さんの2016年8月期の売上高は70億円あまりだったが、直近の売上高は150億円を超える見込みだ。投資ファンドとプロ経営者のもとで急成長を遂げ、今回のすかいらーくの買収で全国区のブランドとなる土台を一気に築き上げた。

ユニゾンが全株を手放していることからも、240億円という金額は納得できるものだったのだろう。

今後の注目のポイントは、丸亀製麺などのライバルにいかにして差をつけるかだ。

資さんは、鯖や昆布などからとった出汁と、100種類以上というメニューの豊富さが最大の特徴。特に出汁へのこだわりは強い。麺をセールスポイントとする、丸亀製麺と真っ向勝負を仕掛けることになるのではないだろうか。

文/不破 聡

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