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日本が外国人から旅行先に選ばれる最大の理由…「ビッグマックがたった480円」欧州最貧国グループのルーマニアよりもマクドナルドが安く食べられる日本の現状

集英社オンライン / 2024年9月13日 8時0分

コロナ禍の落ち着きとともに訪日外国人観光客が戻りつつあり、2024年上半期の入国者数は過去最高となった。彼らは何を求めて日本を訪れるのだろうか。そして、こうした状況は今後も続くのか。

【画像】単品で1200円超もある海外のビッグマック

『観光消滅-観光立国の実像と虚像』(中央公論新社)より一部抜粋・再構成してお届けする。

インバウンドが回復しない国々

2024年になって外国人観光客が回復傾向にあり、1~6月の入国者数は1778万人と過去最高、年間で3500万人が視野に入ってきた。

一方で減少の最たる要因と言ってよいのは、中国である。コロナ前と比べた回復率はマイナス74.7%(959万4400人→242万5000人)、つまり4分の1にとどまっている。続いて、ウクライナ侵攻で日本との関係が悪化したロシアがマイナス65.0%12万0000人→4万2000人)の減少率である。

日本とロシアを直接結ぶ航空便は2024年5月現在1本も飛んでおらず、そもそも日本と欧州を結ぶ航空機は、主要ルートであったシベリア上空を飛ぶことすらできない状況が続いている。

実は、コロナにより実質的な渡航禁止となった2020年春には、成田空港と極東のウラジオストクを結ぶ新たな直行便が就航したが、すぐに運航停止となった。仮にウクライナ戦争が終結しても、すぐにロシアからのインバウンドが戻ることは考えにくい状況である。

ほかにイギリス、フランス、マレーシア、台湾、スペイン、そして北欧諸国が10%以上減らしている国・地域である。ヨーロッパ諸国の場合、猛烈な物価高や先述の航空ルートの遠回りにより、運賃も所要時間も増加していることが関係しているだろう。

これらの数字を円グラフに置き換えてみると、中国の減少と韓国の増加がやはり目立つ(図表3)。中国の減少は団体旅行が2023年8月まで解禁されなかったことや、福島第一原発の処理水の放出に国として反対し、関係が良好とは言えない時期だったことも一因だろう。

国の施策が大きく影響するため予想を立てるのは難しいが、日本へのインバウンド、言い換えれば観光立国の成否のカギを握っているのは、中国の動向である。

2024年2月の春節シーズンには、中国人の個人旅行での来訪者が大きく増加したが、それでも訪日客数はおよそ45万9500人と2019年の6割程度にとどまり、長期休暇も追い風にはならなかった。

中国からのインバウンドは戻る?

もともと中国は膨大な人口を抱えている。農村部でも経済力が高まり、海外旅行に行けるだけの中間層が増加すれば、さらにインバウンドは劇的に増えることが予測されていた。

しかし、不動産バブルの崩壊などによる経済不振やそれに伴う若者の就職難などに加え、人口減少が始まっている現状からは、再び訪日客が増加するという楽観的な予想は立てにくい。勤務先の大学に大勢来ている留学生に聞いても、中国での就職は極めて難しいとか、給与が下がり続けているといった悲観的な話が多い。

他方、東南アジア諸国、具体的にはタイやマレーシア、シンガポールでは、中国人の短期滞在者に対してビザ免除を行ったため、そちらに中国からの観光客が流れたとも考えられる。中国の旅行会社は、日本渡航の伸び悩みとして福島第一原発の処理水の海洋放出や能登半島地震などの影響も指摘している。

他の国からの訪日客増加が見込めれば、中国に頼らなくてもインバウンドはさらに伸びるとも考えられる。だが、いずれにせよ、これまでインバウンドを支えた国(2019年では30%を占める)の動向は、観光立国の成否を大きく左右する。中国の経済低迷は、デフレの進行や消費性向の低下にもつながり、海外渡航にお金を使う状況には簡単に戻れない恐れもある。

とはいえ、2024年に入ると、中国からの訪日客はかなり回復しており、上半期(1~6月)には台湾を上回るまでに伸びている。政治・経済両面の影響を受けやすい国だけに距離感がつかみづらい状態が続きそうだ。

「円安」日本旅行を満喫している外国人訪日客へのインタビューをテレビ番組などで見ていると、きっかけはアニメだったり、自国で食べた寿司やラーメンなどの日本食だったりする。そして、「本場」の日本食の洗礼を受けて感激する。あるいは、24時間営業で品数豊富なコンビニエンスストアやバラエティ豊かな自動販売機、正確かつ快適な新幹線などの虜(とりこ)になる。

こうした様子を見るのは、日本人としても誇らしい気持ちになる。しかし、その陰にはもう少しシビアな面もある。それはいうまでもなく「円安」の影響である。

日本が旅行先に選ばれる最大の理由

コロナ前、2019年との為替レートを確認する。1米ドルは同年3月の約111円から、159円(2024年6月)となった。30.2%の円安である。アメリカからの旅行者は、これまで1110円の商品を10ドルで買っていたが、今なら6ドル98セント程度で買える。

しかも、同じものを(もしあればだが)アメリカで買おうとすると、20~30ドル程度する可能性が高い。もし、たくさんあっても困らない商品なら、1個で我慢していたものを3~4個は買える。交通費や宿泊費も同様である。

為替レートの変化は、米ドルだけでなく、ユーロが同時期の比較で125~126円→170円、シンガポールドルが80円→118円、韓国ウォンが0.10円→0.11~0.12円と、韓国は少し穏やかだが、他の通貨でも同様の円安を記録している。

国際的な価格比較でよく引き合いに出されるビッグマック指数(世界規模で展開しているマクドナルドのビッグマックの価格を比較することで、各国の物価や経済力を知るための指標)では、2024年1月の価格が日本は3.04米ドルとなっている。これは韓国4.11ドル、タイ3.78ドルに大きく水をあけられている。日本に近いのはベトナムの3.01ドルである。

中国は日本より高く(3.47ドル)、永らく欧州の最貧国グループとして知られていたルーマニアでも日本より高い(3.42ドル)。中東諸国やラテンアメリカの国々よりもマックの商品が安く食べられるのは、ここで暮らす私たちには一見朗報に聞こえる。しかし、私たちは日本の物価に慣れきっていて、ビッグマックを「安い!」と思う人はあまりいない。

いまや日本は、欧米はもちろん、東南アジア、中東、ラテンアメリカよりも「安い」国に成り下がってしまっている。必ずしも日本が魅力的だからインバウンドで賑わっているわけではなく、もし今度為替レートが大きく円高に振れたらどうなるのか。様々なシミュレーションをしておく必要がある。

ちなみにこのビッグマック指数は、ある時点での価格に基づくものなので、実際にはさらに格差が開いているケースもある。

日本の100円ショップはオーストラリアでは300円

2024年3月にオーストラリアを訪れたとき、実際にマクドナルドの店頭を覗いてみた。第2の都市メルボルンの中心街にある店舗では、ビッグマック単品が12.85豪ドルという表示であった。

この時の豪日の為替レートが、1豪ドル97~98円だったので、日本円でおよそ1285円ということになる。

帰国して早速近所のマクドナルドに出かけて価格を確かめてみると480円(税込み)であった。オーストラリアのビッグマックは、円安の状況でおよそ2.7倍。ビッグマック指数のデータでは、オーストラリア770円、日本450円となっているので1.71倍。実際には、データよりもさらに大きな物価の差が生じているのである。

メルボルンでは「DAISO JAPAN」という店にも足を運んだ。そう、100円ショップの代表格のダイソーである。ここでは基本(最低)価格が3豪ドルであった。約300円である。やはり3倍近い価格差があるようだ。この感覚でオーストラリア人が日本に来たらさぞかし安く感じるであろう。

文/佐滝剛弘

『観光消滅-観光立国の実像と虚像』(中央公論新社)

佐滝剛弘
『観光消滅-観光立国の実像と虚像』(中央公論新社)
2024年9月6日
990円(税込)
240ページ
ISBN: 978-4121508218
東京、京都、ニセコ……訪日観光客の増加によるオーバーツーリズムの弊害が日本各地で問題となっている今、日本政府が目指した「観光立国」とは一体何だったのか、検証すべき時期に来ている。人口減による人手不足や公共交通の減便といった問題をはじめ、物価の高騰、メディアの過剰報道など、観光を取り巻く環境は楽観を許さない。観光学の第一人者が豊富な事例をもとに、改めて観光の意義と、ありうべき日本の観光の未来を問い直す。

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