〈立憲代表選〉「進次郎に勝てるのは野田だけだ」“壊し屋”小沢一郎が側近を切り捨て“因縁”の野田佳彦とまさかのタッグ結成…「政権交代を果たさなければ死んでも死にきれない」異常な執念
集英社オンライン / 2024年9月15日 8時0分
自民党総裁選と並行して行われている立憲民主党の代表選。元首相の野田佳彦氏、前代表の枝野幸男氏、現代表の泉健太氏、若手の吉田晴美氏の4人が立候補し、野田氏が最有力と目されている。だが、最重鎮とされる小沢氏が野田氏と手を組むことで党内では混乱も生じているという…。立憲民主党議員と関係者に話を聞いた。
「君とはもうここまでだ」
次の総理大臣を決めることになる自民党総裁選に向けて永田町が揺れ動く中、同時並行で立憲民主党の代表選も行われている。
来たる解散総選挙も想定して、新総理に対抗できる代表を掲げるために舌戦を繰り広げているが、実はその裏で最重鎮の小沢一郎氏が側近を絶縁するという事件が起きていた。
その背景には、立憲代表選の本命候補と言われる野田佳彦元首相を巡る危うさが見受けられる。政界の「壊し屋」と言われた男が、ついに自分のグループさえも壊してしまうのか。
9月2日の夕方、衆議院議員会館にある小沢氏の事務所には、長年連れ添ってきた最側近が訪れ、自身の「親分」と向き合っていた。小沢氏が率いるグループ「一清会」で取りまとめ役である会長代行を務めている、牧義夫衆院議員だ。
この日、小沢氏は一清会のメンバーに、代表選では野田氏を支援すると電話で伝えていたが、それに対して牧氏は「納得できない」と直談判に来たのだ。立憲関係者は語る。
「牧氏は民主党政権下の2012年、野田首相が消費税増税の法案を提出したことに対して、抗議の意味を込めて厚生労働副大臣を辞任している。その後、増税法案の採決では反対票を投じ、民主党に離党届を提出した。野田体制は離党届を受理せずに牧氏を除籍処分に。
しかも、同年の衆院選では牧氏の地元である愛知4区に刺客候補も送っている。その結果、牧氏は落選しており、野田氏への恨みは大きい。いくら小沢氏の意向といえども、代表選で野田氏を応援することはできなかったのだろう」(立憲関係者)
牧氏は「野田氏を支援することはできない」と伝えたが、それに対して小沢氏は「残念だ。君とはもうここまでだ」と絶縁を突き付けた。
事務所を後にした牧氏は周囲に「野田氏を応援するなんて地元の支援者に説明できない。こうなってしまうのは仕方なかった」と漏らしたという。
もう一度政権交代を果たさなければ『死んでも死にきれない』
だが、そもそも2012年に野田政権が進めた消費税増税に対して反旗を翻し、造反を主導したのは小沢氏本人だ。実際に小沢氏も増税法案に反対票を投じ、牧氏と同じく除籍処分を受けている。
このときに小沢氏が立ち上げた新党が「国民の生活が第一」で、牧氏も参加し幹事長代行を務めた。
それから紆余曲折を経て、野田氏も小沢氏も今は同じ立憲民主党に籍を置くことになったわけだが、こうした経緯から、小沢氏が野田氏を応援することは、じつに異様だといえる。2人の“恩讐を超えたタッグ”はなぜ実現したのか。
「小沢氏はそもそも1994年の選挙制度改革を主導し、衆院選に小選挙区制を導入した。その心は、同じ選挙区で自民党同士が争うなどの派閥による疑似政権交代ではなく、政党による本当の政権交代を実現することにある。
そして、2009年には実際に民主党による政権交代を果たしたわけだが、残念ながら短命に終わってしまった。小沢氏はもう一度政権交代を果たさなければ『死んでも死にきれない』と周囲に語っており、そのためなら宿敵である野田氏とも手を組めたというわけだ」(立憲中堅議員)
自民党は裏金問題で大逆風となり、派閥が次々と解散され、それ故に大乱立の総裁選が巻き起こっているが、一方で野党による政権交代の兆しは見えない。
その理由の1つに、野党が乱立し、選挙で自民党を利してしまうという状況がある。小沢氏はこれまで、共産党との選挙協力を進めて選挙区による候補者の一本化を目指してきたが、しかし最近は日本維新の会が党勢を伸ばしており、選挙で戦う上で無視できない存在になっていた。
そこで、小沢氏は立憲の中でも保守系で、維新との関係が良好な野田氏に目を付けた。
「野田氏は裏で維新の馬場伸幸代表と会食をするなど一定の縁がある。維新は表では選挙協力を否定しているが、野田氏が代表になれば選挙区ごとの裏取引に応じる可能性は高いだろう。そこに、これまで共産との選挙協力を進めてきた小沢氏が一緒になれば、共産から維新まで幅広く候補者を一本化する体制が作れるかもしれない」(立憲中堅議員)
共産から維新までの候補者一本化。もちろん両党と全国一律の選挙協力に持っていく事は不可能に近いが、個別の選挙区であればそれぞれ調整できるところもあるかもしれない。
いずれにせよ、小沢氏が野田氏を応援した背景には、政権交代に向けた執念が見え隠れする。
野田vs小泉なら勝てるのか?
そんな立憲代表選だが、実際に野田氏を本命視する向きが強い。
時事通信が9月6日から9日にかけて実施した世論調査では、「立憲民主党の次期代表に誰がふさわしいか」という質問に27.5%が野田氏と答え、前代表の枝野幸男氏が14.5%、現代表の泉健太氏が8.5%、若手女性議員の吉田晴美氏が3.0%と続いた。
立憲支持層に対象を絞った場合も野田氏が46.8%で首位、次点の枝野氏23.4%に大差をつけている。その背景にあると見られるのが、自民党総裁選を小泉進次郎氏が制し、次の総理大臣になるのではないかという想定だ。
立憲関係者は「小泉氏は圧倒的な知名度と刷新感があり、自民党に新風が吹く中で、立憲が現代表の泉氏や前代表の枝野氏を選んだのでは衆院選でなかなか立ち向かえないだろう。だが、野田氏は首相経験者であり、政治家としての重厚感がある。若くて軽い小泉氏と、重鎮で重厚な野田氏の戦いであれば、野田氏を選ぶ国民も一定数おり、何とか選挙戦を乗り切れるのではないかと考える議員や支持者は多い」と語る。
ただ、野田氏が立憲代表になることには危うさもはらんでいる。首相時代に消費税増税を進めた過去が、未だに議員間での亀裂を生んでいることは前述の通りだ。
立憲議員の一人は、「野田氏に恨みを抱いている議員は今の立憲内にも一定数いる。また、保守寄りの立場であることから、リベラル系の議員でも受け入れられない人がいるだろう。そんな野田氏がトップになって立憲は1つにまとまることができるのか。支援者が離れてしまわないかも心配だ」と吐露した。
自民党総裁選後の早期解散が予見される中、誰なら衆院選で新総理に対抗できるかを考えるのは非常に大切だ。
一方、新しい代表のもとで議員がバラバラになってしまったのでは元も子もない。立憲は新体制で一致団結することができるのか。
それは、代表選を通して国会議員や支持者の多くを納得させる論戦を展開できるかにもかかっているだろう。党の命運を左右する9月23日の投開票は刻一刻と迫っている。
取材・文/宮原健太
集英社オンライン編集部ニュース班
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