「あの人に出会わなければ私は弁護士にも議員にも市長にもなれていない」泉房穂が明かす“国会の爆弾発言男”との深い絆
集英社オンライン / 2024年9月18日 8時0分
「国会の爆弾発言男」と呼ばれた元衆議院議員・石井紘基氏は、2002年10月に暴漢によって命を奪われた。彼を「正義の政治家」と評する泉房穂は、遺志を引き継ぐ決意表明として『わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇』(集英社刊)を上梓した。石井氏とはどんな人物だったのか。今も国民の暮らしを蝕み続ける、日本の官僚政治の問題点にも迫る。
「私があなたを選挙に通してみせます」
──石井紘基氏との出会いは、泉さんがテレビ局のディレクターとして働いていた20代の頃だったそうですね?
泉房穂(以下、同) 石井さんは当時、社会民主連合というミニ政党の事務局長を務めていました。名前なんか誰も知らない、いわば無名の人。ただ、本人なりに国会議員になることを決意して、その理由を『つながればパワー 政治改革への私の直言』(創樹社、1988)という本にまとめて出版したわけです。
高田馬場の芳林堂書店でたまたま手にした私は「こんな人おるんや!」と感動しました。タイトルの“つながればパワー”とは、“市民と市民がつながれば世の中を変えられる”という意味。
当時は今以上に大政党や業界団体に担がれないと立候補すらできない時代でした。そんなときに市民を信じて立候補しようとしている大真面目な大人がいると知って、20代の私は「あ、見つけた!」と思いました。すぐに「あなたのような人に政治家になってほしい」と手紙を書いたのです。
──泉さん自身も、子供の頃に貧困と差別という理不尽に直面し、10歳で「将来、明石市長になる」と決意されたそうですが、まだ具体的なロードマップは描けていなかったのでしょうか?
当時は悶々としてたなあ。政治家を志しながらも、そんな活路は見出せないと思っている状況の中で手にした本だったから、石井さんに自分自身の夢を託すというか。市民を信じるというスタンスでも政治家になれることを、石井さんを通じて証明したいと思ったことが大きかったと思います。
石井さんから思いがけず手紙の返事が来て、初対面でいきなり「選挙を手伝ってくれないかな?」と言われたときは驚いたけど、二つ返事で「私があなたを選挙に通してみせます」と言いました。すぐに仕事を辞めて石井さんの家の近くに引っ越したんです。どうかしてるよね(笑)。それから1年間、スタッフとして行動を共にしました。
「国会の爆弾発言男」
──泉さんが手伝った1990年の衆議院議員選挙は次点で落選しますが、1993年に初当選。オウム真理教の地下鉄サリン事件の被害者救済、統一教会の立退運動への参加、特殊法人への不正追及で注目を集め、「国会の爆弾発言男」と呼ばれるようになります。
まさに市民を信じ、国民を信じ、正義に燃えた政治家だったね。石井さんは「不惜身命」という言葉が好きだったんだけど、不正追及と弱者救済のために、「身も心も一生もすべて国民にささげる」とほんまに言ってました。それくらい腹をくくっていたからこそ、国会でも厳しく追及できたんだろうね。政治家の矜持を教えてもらった気がします。
石井さんに出会っていなければ、私は弁護士にもなっていないし、国会議員にも明石市長にもなれていません。石井さんの教えに忠実に、その後の人生を歩んできました。石井さんが殺されたのは61歳のとき。私も今年の8月19日で61歳になりました。
『わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇』は、石井さんが救いたかった国民への使命、やりかけのことを私が引き継いでいくという、改めての決意表明なんです。そういう意味では、思い入れたっぷりの本やね。
──タイトルにもある“官僚国家”とは?
今の日本の課題は、政治が官僚の軍門に下って機能していないこと。本来の政治は国民に選ばれた政治家が、選んでいただいた国民のために、必要な政策を官僚に指示することなんです。
それなのに今は官僚が政治家に指示をして、国民に負担を課している構造。日本社会を根本から変えるには、この構造を変えなければいけません。
トップに立つ政治家の仕事は、「方針決定権」と「予算編成権」と「人事権」、この3つを行使すること。私が明石市長のときにしたことです。
私はまず「子供を応援する」という方針を決めて、子供に関する予算を2.4倍まで増額。もちろん市民負担を増やさずにやりくりをしました。そして子供を担当する職員数を4倍にしたんです。
子供を応援したら地域経済全体が回り出して税収増にもつながるし、その結果、高齢者施策の充実にもつながります。子供への施策は明石市民全員の幸せにつながるんだという哲学を持って実行に移しました。
明石市ができたことは全国どこででもできるし、国でもできること。財務省はお金がないと言っているけど嘘ですよ。国の予算は額が違う。余りまくっとるわ。国民が5割負担する国なんか他にあるかいな。
異常なほど国民負担が重く、庶民が苦しむ国
──お金が余っている、というのは?
しなくていいことにお金を使って、必要なところに使っていないだけ。家計と一緒です。給料の額がたとえ減ったとしても、光熱費や家のローンを払った後の残ったお金で家計をやりくりするのは、どの家庭でもやっていること。そのために父親がスナック通いを減らしたり、母親が冬の新しいコートを諦めるじゃないですか。
明石市は「18歳までの医療費無料」、「第二子以降の保育料無料」、「中学校の給食費無料」「公共施設の遊び場無料」「おむつ定期便(満1歳まで)無料」という子育てに関する5つの無料化をしました。予算は34億円。市の年間総予算2000億円のうちのたった1.7%です。
世帯年収600万円強の共働き家庭に比率を当てはめると、月8500円程度。子供が大きくなって塾や習い事に行きたいと言ったら、親は頑張って月謝代を出すでしょう。時代や状況に応じてお金の使い道を変えるだけや。
まして国の予算は額の大きさが違うんだから、楽やん。金がないなんて宗教じみたフィクションに染まっているけど、「あろうがなかろうが、その中でやりくりせい」ということだと思うよ。その気が官僚にないだけ。
──それはなぜでしょう?
官僚は国民に選ばれていない、ただ就職しただけの人たちです。だから組織防衛するのは当たり前なんです。組織の拡大と自分の保身が目的だから、過去にやってきたことを否定しない。前例主義の官僚制は肥大化するんです。
財源に余裕がある右肩上がりの時代であればいいけど、右肩下がりになった瞬間に計算が合わなくなる。そこでどうするかというと、財務省は増税し、厚生労働省は社会保険料を上乗せする。結果、国民負担増や。
つまり、日本という国は異常なほど国民負担が重く、庶民が苦しむ国なんです。「官僚主権から国民主権への転換」を早くから訴えていたのが、石井紘基さんでした。
取材・文/松山梢
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