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〈0歳児を段ボール箱で隔離〉手足口病の園児への対応に「虐待が疑われる不適切保育」と指導…仕事と家庭の両立に追われる共働き世帯と保育園との間に対立はあるのか?

集英社オンライン / 2024年9月17日 18時30分

今年7月に福岡市の認可保育園で、手足口病に感染した0歳児を段ボール箱に入れて隔離していたことが、親の訴えにより判明した。福岡市は“不適切な保育”として口頭で指導し、園に改善を求めた。手足口病の患者数が過去最多となった今年、他人事ではないと感じた親世代も多いだろう。なぜ園児を”段ボールに入れる”事態が起きたのか。子どもの心への影響は……都内保育園の園長、保育園児を持つ親、児童の精神科を専門にする医師、それぞれに話を聞いた。

【閲覧注意・画像】手足口病になったリンさんのお子さんの感染状態…

「出社日だったら無理して行かせていたかも」

“仕事と家庭の両立”と言うのは易しいが、行うのは難しい。

2022年度の厚生労働省の調査(※1)によると、2021年の共働き世帯は1247万世帯で、夫婦がいる世帯全体の約7割にあたる。



そんな共働き世帯のサポートには欠かせない保育園だが、体調不良の子どもは受け入れてもらえない。

親たちは子どもの急な体調不良というリスクに、どう対処しているのだろうか。

二児の母である会社員のリンさん(仮名・38)は、「今年に入り、子どもたちが2人とも手足口病にかかってしまった」という。当時の話を聞いた。

“手足口病”とは手足や口に発疹ができる、ウイルス性の感染症のことを指す。主に子どもが感染するが、ときには大人がかかることもあるといわれている。国立感染症研究所によると、今年7月1日から7日までの1週間に全国およそ3000の小児科の医療機関から報告された患者数は3万5960人で、過去10年で最多となる(※2)。

リンさんは自身の子どもが手足口病を発症した経緯を、こう話す。

「週末に6歳の長女が友達と遊び、その子からうつりました。週明けにうっすらポツポツと発疹ができていて、熱は37℃と微熱。たまたま会社は在宅デーだったので、念のために保育園は休ませました。すると夕方には38℃まで熱が上がりましたね」(リンさん、以下同)

「感染2日目は出社日だったのですが、上司に頼んで在宅にさせてもらいました。長女は発疹が服や床に擦れると痛いみたいで、ずっと機嫌が悪かったです。夜には一気に発疹が増えてきました」

「感染3日目には口の中にも発疹ができて、食べられるのはアイスやゼリーだけ。水泡がかなり目立ってきました」

「感染4日目には水泡は増えなくなり、ピークはすぎた……と一安心していたら、次は8歳の長男に移ってしまったんです。長男は学校を休まなくてはならなくなり、結局2人とも休ませました」

感染4日目は出社日だったので、夫に頼んで在宅に切り替えてもらい、子どもたちを家で見てもらっていたという。リンさん自身は、仕事を引き続きリモートでできなかったのだろうか。

「やっぱり会社にいいにくいですよ。それと、その日は物理的に対応しなきゃいけない業務があったので、出社はマストでした。他の人に代わってもらうわけにはいかなかったですし。あのときは、本気でフルリモートの職場に転職しようかと迷いましたね」

今回の「園児を段ボール箱に入れて隔離」した事件については「子どもの年齢によっては、判断ができない親もいるのかもしれない」という。当時、この園児は0歳7ヶ月だったというが……。

「0歳児は『ここが痛い』といえないから、親は手足口病だとわからずに保育園に預けてしまったのかも。うちの場合は長女が6歳、長男が8歳なので『ここにぶつぶつができて痛いの』ってはっきりいえるからわかりましたけどね」

職場も夫も理解があるリンさんは、比較的恵まれた環境といえる。しかし、そのような環境の親ばかりではない。子どもの看病を押し付け合った経験がある世帯もあるはずだ。

最後に、彼女は「これは炎上するかもしれませんが……」と前置きをして、こう語った。

「手足口病だとわかっていても行かせる、問題のある親もいるでしょうね。ゆるい園なら受け入れてくれるでしょうし。私も長女の症状が出始めた日は在宅デーだったので休ませましたが、出社日だったら無理して行かせていたかもしれません」

預ける親でなく、預かる園側の問題?

一方、都内の保育園で園長を務めるサチコさん(仮名・55)は、こう語る。

「子どもを受け入れるガイドラインは、私立なら厚生労働省によって、区立なら区によって明確に定められています。うちは簡単にいうと『熱が出ていなくて、食事が食べられればOK』。発疹があっても受け入れますね。じくじくしていたら、その場所をガーゼで覆います」(サチコさん、以下同)

その際、園児を別室に隔離をする必要はあるのだろうか。

「いえ、いつも通りお部屋で遊ばせてあげます。集団行動がきつそうだったら、別室に移動して、看護師か保育者についていてもらいますよ」

今回の事件では「親は預けるべきではなかった」と、親の責任を問う声も多数あった。親は預けたいが、保育園は預かりたくない……こういったトラブルはよくあるのだろうか。

「ありがたいことに、ほとんどないです。入園のときにしっかり預かる条件を話しておけば、保護者も納得してくれますよ」

園長は今回の事件の原因は親ではなく「保育者の感染症への知識が浅かったせいでは」と推察する。

「30年近くこの園で働いてきましたが、職員に手足口病がうつることはほとんどなかったです。手洗いうがいを徹底していれば、だいぶ防げると思いますよ。福岡の保育園の報道を知ったときは保育者がうつされたくない一心で、段ボール隔離を選んだのでは、と感じました」

子どもにとって「トラウマになることもありえる」

今回の事件で、当該保育園の園長は「最初は段ボールの箱の上に座らせていたが動き回るのでふたを開けて段ボールの中に入れた。今思うと、“もの”のように扱ったと思われたのかもしれない」と話したという。

「段ボールに隔離」される子どもの心に与える影響を、専門家はどう考えるのだろうか。

話を聞いたのは、かいこころクリニック西荻窪の院長を務める片倉勲人先生。台東区の「こころの相談室」にて、親子の来所相談や学校・幼稚園の訪問相談を受けていて、児童の精神科医として活躍している。

片倉院長は「子どもにとって、自分を見守ってくれる大人がいない環境に置かれることに不安を感じてしまいます。段ボールのような『箱』に隔離されることは、閉所・暗所への恐怖を掻き立てられ、それがトラウマになることもありえます」と語る。

「感染症対策と子どものメンタルケア、そのバランスを考えてあらかじめ対応策を園内で決めておくとよいかもしれません」

――「保育園に行かせる親に問題がある」という親と、「保育園側の対応に問題がある」という園。そこにはあるのは対立構造でなく、それぞれの役割を一生懸命全うしようとしている姿だった。
 

出典元
※1 「令和4年版 厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保-」 P.161  
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/21/dl/zentai.pdf
※2 国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/hfmd-m/hfmd-idwrc.html


取材・文/綾部まと

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