“若者のディズニー離れ”は幻想だった? 今なお、修学旅行先に選ばれ続ける理由を現役教師が語る「保護者の方から意見が…」
集英社オンライン / 2024年9月18日 11時0分
夏休みが明け、全国各地の学校で修学旅行シーズンに突入しつつある。小中学校の修学旅行先の定番の一つが、東京ディズニーリゾートだが、そもそもなぜ、修学旅行でディズニーに行く慣習ができ、今もずっと続いているのだろうか。
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複雑化して“ガチ勢”御用達になるディズニーランド
この時期、SNSを見ると、〈明日修学旅行行ってきまーす!! 2泊3日でTOKYO行きます! ディズニー楽しみ(千葉県)〉〈修学旅行でディズニー行くんですけどハロウィン期間中らしいです、楽しみ〉〈来月修学旅行でディズニー行く~! おすすめの推しのグッズとのおしゃれな写真の撮り方教えてほしい〉〈まじでディズニーも中華街も国会議事堂も全部楽しみ 早く修学旅行行きたい〉など、修学旅行でディズニーランドに行くことを楽しみにしている学生たちの声を多く確認できる。
学校や住んでいる地域にもよるが、小学校か中学校のどちらかの修学旅行でディズニーに行き、素敵な思い出を作った人は多いだろう。
ただ最近のディズニーはシステムの複雑化などが進行し、初心者が楽しみづらくなっているとの指摘もある。はたして今の時代、何も知らない子どもたちが、ふらっと修学旅行でディズニーに行って、楽しむことができるのか。
また、そもそもなぜ、学校側はやたらと修学旅行先にディズニーを選ぶのだろうか。神奈川県在住の30代男性・小学校教員に、その辺の詳しい事情を聞いた。
「確かに昔から今でも変わらず、関東に近い学校 では修学旅行といえば東京。どこの小学校もだいたい1日は上野と浅草と国会議事堂に行き、もう1日はディズニーorキッザニアあたりが定番として選ばれています。ではなぜそもそも東京に行くのかというと、これにはきちんとした理由があります」(30代・小学校教員、以下同)
「学習指導要領の中の宿泊行事の目標として、『平素と異なる生活環境にあって、見聞を広め、自然や文化などに親しむとともに、よりよい人間関係を築くなどの集団生活の在り方や公衆道徳などについての体験を積むことができるようにする』とあって、地方の学校にとっては東京という場所がこれに当てはまるのです。特に、“公衆道徳”という点で、東京(都会)はどの場所でも人が多いことと、電車などの公共交通機関を使って移動できる点などから、選ばれる理由になります」
そもそもなぜ、修学旅行で東京に行くの?
経済や交通、文化、流行などの中心地である日本の首都・東京が、どんな街なのか実際に行って見ることは、社会科を中心に学習したことを、実体験を伴いながら改めて習得するのに効果的という観点から、選ばれる理由にもなっているという。
ただ、ここまではあくまで修学旅行先に“東京が選ばれる理由”であって、ディズニーを選ぶ理由ではない。なぜ、学校はディズニーを旅行先に選ぶのだろう。
「実は学習指導要領の中には、『楽しい思い出をつくる』という項目もあるのです。これを手っ取り早く満たせるのが、ディズニーというわけです。また、さきほどあげた“公衆道徳”の点でも、多くの人が利用するテーマパークはそれに当てはまるため、教員たちがディズニーを選ぶのです」
しかし最近のディズニーは前述したように、システムの複雑化が進行している。行く前には入念な下調べをしてルートを決め、効率よく回らなければ普通に楽しむことすらままならないとまで言われている。
例えば、人気アトラクションを楽しむためには、有料のディズニー・プレミアアクセス(DPA)、無料のプライオリティパス、スタンバイパス、エントリー受付などを駆使しなければならないが、詳しくない人がこのワードを聞いてもチンプンカンプンだろう。
さらに、初心者が新エリアに入ろうなんて夢のまた夢で、人気のエリアはパークの勝手を知り尽くし、お金も時間も思う存分かけられる“ガチ勢”たちに占領されている状態だ。
今年6月6日には、東京ディズニーシーで、新エリア「ファンタジースプリングス」がオープンしたが、こちらに入園する権利をめぐっては、今なお熾烈な争いが白熱。SNSでは〈あそこは条件満たした人以外は入れない〉〈今のディズニーはマジで情報戦だから事前準備は必須だよ〉〈ディズニーに行ってまでスマホとずっとにらめっこで疲れた〉といった声があがっている。
スマホがない小学生でもディズニーランドを楽しめるのか問題
こうした現状を考えると、予備知識ナシの小学生たちがディズニーで気軽に遊べるかは定かでない。特にパーク内では、アトラクションに乗るためのパスをとったり、レストランに向かうための道を調べたりなど、何をするにしても“スマホ必須”なのだが、ほとんどの小学校では修学旅行では“スマホNG”という。
「私の勤務する小学校でも、たとえ修学旅行でもスマホは絶対ダメと指導しています。ですがディズニーでは実は、スマホがなくてもキャストにパークチケットを見せたらファストパス的なものを発券してくれます。
なので、教員たちは事前に子どもたちに、『アトラクションの入り口近くにいるキャストさんにパークチケットを持って声をかければいいよ』と伝えています。ただそれ以上のことは特に伝えず、あとは子どもたちに任せていますね。そもそも、われわれ教員だって、ディズニーにそこまで詳しくありませんから」
道に迷ったとしても、ディズニーではキャストに聞けば親切に道案内をしてくれる。ただ、いちいち人に尋ねるこの方法では、どうしてもスマホを使ってテキパキ行動する取る人よりは出遅れてしまうため、アトラクションに乗る回数は減ってしまう。さらに修学旅行では時間制限もあるため、効率よく回ったとしても、子どもたちは2つのアトラクションに乗るので精一杯なのだとか……。
「ほかにも、子どもたちは各自で、パーク内でご飯を済まさないといけません。混み具合を考えて時間と場所を選ばないと、そこでもかなりの時間を無駄にしてしまいます。慣れている子どもがいるグループは、道沿いにあるホットスナックみたいな軽食を選んで待ち時間を短くし、アトラクションに並んでいる間に食べるといったこともしています。
しかしこれは、何度か行ったことがある子どもにしかわからないこと。家庭環境によっては遊園地すらあまり行ったことない子もいるので、人によってはホントにパークのエンターテインメントに圧倒されている間に時間が過ぎちゃうことがあるのも事実です」
話を聞いていると、やはり修学旅行にディズニーを選ぶことが最善策とは思えない。こういった現状を知っていても尚、教員たちがディズニーを選び続ける理由はなんなのか。
最近では「キッザニア」も台頭
「ディズニーでは前述したさまざまな苦労があったとしても、旅行を終えた多くの子どもたちが『楽しい思い出ができた!』『最高だった!』と笑顔で感想を言ってくれます。また、そんな子どもたちの話を聞いた保護者が、他の保護者にも話を伝えることで、『うちの子の学年でもディズニーに連れて行ってほしい!』という意見が毎年必ず上がってくるのです。
もちろん、『そこまで楽しめなかった』という子も一定数いるので、そんなことも考えて、誰もが簡単に楽しめて、キャリア教育もできるキッザニアを選ぶ学校も増えています。私たち教員は、修学旅行先を選ぶときには、子どもたちと保護者の意見を加味しつつ、学習指導要領の目標を達成できるような行程を旅行会社と相談しながら決めています。ただ、よほど大きなトラブルが無い限りは、前年度踏襲の内容になることが多いので、ディズニーが選ばれ続けるのです」
先日、“若者のディズニー離れ”がネット上でバズったほか、お金と情報を持った人がパークを制すシステムになりつつあることから、ディズニーを資本主義の権化として“修羅の国”と呼ぶ人まで出てきている。しかし子どもたちにとっては今でも、ディズニーが“夢の国”のひとつであることに違いはないようだ。
取材・文/集英社オンライン編集部
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