〈総裁選討論会で議題に挙がらず〉「教育費が重すぎて、子どもを産み育てることができない」岸田政権が成果とアピールする「異次元の少子化対策」の問題点とは
集英社オンライン / 2024年9月23日 9時0分
〈〈総裁が変われど絶望的な未来〉自民党裏金問題、公選法違反疑惑…三代目の“世襲政治家”に日本の未来を期待できない5つの理由〉から続く
自民党総裁選の投票日が迫っている。退任する岸田首相は現政権の成果のひとつとして「異次元の少子化対策」を挙げるが、果たして政策の実行は新政権に引き継がれるのか。9月21日に行なわれた「自民党総裁選2024ネット討論会」では上川陽子外相が「少子化を私の内閣で止めます」と宣言したものの、各候補者から闊達な議論が交わされることはなかった。現在、日本の最優先課題といっても過言ではない人口減少、少子化対策として掲げた「異次元の少子化対策」の問題点とは。
【画像】先進国42カ国の中で下から5番目…公的教育にお金をかけない日本と先進国の比較
『裏金国家 日本を覆う「2015年体制」の呪縛』(朝日新聞出版)より一部抜粋・再構成してお届けする。
異次元の少子化対策
あまりに人口減少が急激なので、岸田政権は批判に応えて、2023年12月に通称「異次元の少子化対策」なる「こども未来戦略」を打ち出した。「こども未来戦略」にはたくさんの政策項目が並んでいるが、目玉としているのは次に挙げることだと考えられる。だが、後で述べるように、いまや女性の社会的地位の飛躍的な向上を図らないかぎり、少子化は克服できなくなっている政策を中心に、問題点を検討しておこう。
第1に目玉とされたのは、所得制限を撤廃して、児童手当の支給期間を高校生年代まで延長する政策である。すべてのこども・子育て世帯について、0歳から3歳未満は月額1万5000円、3歳から高校生までは月額1万円を給付し、つぎに第3子以降は月額3万円を給付するという内容である。
まず問題なのは、これは旧民主党政権時代に行われた所得制限抜きの子ども手当と同じだということである。それは単なる政策のパクリではすまない。自民党は旧民主党による所得制限抜きの子ども手当を「ばらまき」だと批判してきたが、その反省がまったくない。実際、自公両党の激しい攻撃の下で、2012年4月に所得制限付きの元の児童手当に戻したが、その後、少子化が一層進んでしまった。
さらに問題なのは、所得制限抜きの児童手当の拡充のための財源調達方法にある。児童手当の適用を高校生まで広げたのはよいとして、高校生に対しては児童手当拡充の見合いとして高校生に対する扶養控除を縮小する。その結果、児童手当額の増加額より控除撤廃による損失額の方が上回る事例が発生している。おまけに第3子までの給付額を1万5000円から3万円に引き上げるのに必要な予算額約4兆円の財源として、健康保険料に1人当たり500円を上乗せして、残りはつなぎ国債としているのである。
教育費負担が重すぎる
それは健康保険制度を破壊する。先述したように、大企業の健康保険組合(組合健保)でさえ、2023年度の赤字は5623億円を超え、2024年度の赤字額は6578億円となる見込みである。すでに後期高齢者医療制度への支援金などが重しになっており、健康保険財政は悪化している。新たに子育て支援金の負担が加わると、保険料負担の余力を失っていく。これは事実上の「増税」であるが、子ども支援金は医療の保険料ではなく、いわば窓口負担と同じで、「国民負担率」には含まれないという奇妙な正当化がなされている。
加えて、先述したように、職業別年齢別に分立した公的医療保険制度ごとに、大きく負担率が異なっている。子ども支援金の負担金は2026年度から徴収を開始し、2028年度に満額に達するが、2028年度の被保険者1人当たり月額保険料は、中小企業の従業員らの協会けんぽでは700円、大企業の社員らからなる組合健保では平均850円、公務員の共済組合では950円、75歳以上の後期高齢者医療制度では350円、自営業者らの国民健康保険では1世帯当たり600円とばらつきが大きい。
少なくとも同じ年収で保険料が一律になっておらず、非常に不合理である。しかも「1人当たり保険料負担」には保険の対象になる赤ちゃんも含まれているのである。まっとうな税源から賄うのが筋だろう。
第2の目玉は、高等教育費の負担軽減策である。具体的には、2024年度に、①授業料等減免と返済の必要のない給付型奨学金を子ども3人以上の多子世帯や私立理工農系の学生等の中間層へ対象を拡大する、②大学院修士段階における授業料後払い制度を創設する、③貸与型奨学金における毎月の返還額について減額制度の年収要件等を柔軟化するといった内容である。2025年度から多子世帯の学生等について、所得制限なく、国が定める一定額まで大学等の授業料・入学金を無償とする。
教育費が重く子どもを作れない社会
高等教育の無償化ないし負担軽減自体は悪くはない。だが、欧州において広く行われている大学学費の無償化や給付型奨学金と比べると、いかにも形だけの拡充策にすぎない。たとえば、3人以上の多子世帯でも、大学に進学しているのが1人だけではもらえず、子どもが同時に大学に進学していないと適用されない。さらに、出世払い制度(授業料後払い制度)や貸与型奨学金返還額における減額制度の年収要件等の柔軟化などは、極めて矮小で大きな効果を期待できない。
どう見ても、政府の予算の優先順位がおかしい。防衛費は世界3位になろうとするが、2019年時点でOECD(経済協力開発機構)の一般政府総支出に占める公的教育支出の割合を見ると、42カ国中、日本は下から5番目になっている。
経済効果を正確に計って比較することはできないが、一般的に軍事費は消耗的であり、生産に寄与する程度は低い。教育も目に見えるわけではないが、技術開発や労働者の知識や技能への寄与度が大きい。資源のない日本にとって教育は極めて重要であり、もっと政府支出を増やさなければならない。
一方、教育費を負担する側から見ると、教育費の私的負担が重すぎて、子どもを産み育てることができない。日本では高校から私立大学の理系学部に入れると、1000万円を超える費用がかかるという調査がある(日本政策金融公庫の令和3年度「教育費負担の実態調査結果」2021年12月20日)。
これでは、教育費が重く子どもを作れないだろう。以上のように、教育が持つ経済効果と教育を受ける側の経済効果という両面から見て、給食費無償化はもちろん、高校・大学まで学費無償化ないし給付型奨学金の飛躍的拡大が最優先の課題となっている。
文/ 金子勝
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