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1996年に統一教会の世田谷進出を阻止、2002年に特殊法人の闇を看破、その年に殺された政治家・石井紘基とは?

集英社オンライン / 2024年10月18日 7時0分

2002年10月、右翼団体代表を名乗る男に襲撃され命を落とした政治家・石井紘基(こうき)。当時、石井は犯罪被害者救済活動や特殊法人関連の問題追及等で国会の爆弾発言男として、注目を浴びていた。

【画像】1997年6月26日「地下鉄・松本サリン事件の被害者救済の集い」での石井紘基氏

そんな彼を師と仰ぐ元明石市長の政治家・泉房穂が語る、特殊法人を石井が国会で追求する一幕を書籍『わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇』より一部抜粋・再構成してお届けする。

国会の爆弾発言男

石井さんは、1993年の第40回衆議院議員総選挙で、当時ブームを起こしていた日本新党から立候補して、トップ当選。

当時は政権交代、政界再編でめまぐるしい時期でしたから、石井さんもその後、自由連合、新党さきがけ、民主党と、所属を替えていきますが、不正を許さず、国民のほうを向いた政治姿勢は、生涯変わりませんでした。

国会議員2年目の1994年、石井さんは羽田孜連立内閣において、総務政務次官に就任。特殊法人の住宅・都市整備公団(現・独立行政法人都市再生機構)による、子会社への工事発注操作の疑惑を追及し、メディアでも取り上げられます。

この国会質問を受けて総務庁(現・総務省)は、同公団への行政監察を行ないました。それまで、公共事業の主体として、当たり前のように存在していた特殊法人に、石井さんは初めてメスを入れました。

翌1995年は、阪神・淡路大震災とオウム真理教による地下鉄サリン事件が起きた年でした。石井さんは、カルト宗教問題に取り組んでいる紀藤正樹弁護士と連絡をとり、「オウム真理教問題を考える国会議員の会」を発足。統一教会の世田谷進出に反対する住民運動にも参加します。

1996年、衆議院議員に2回目の当選。1997年、オウム真理教の「地下鉄・松本サリン事件の被害者救済の集い」を開催。そしてこの年、統一教会が世田谷進出を断念して、施設から撤退します。政治家と市民がともに戦い、勝ち得た勝利でした。

1998年には、防衛庁の装備品調達における贈収賄、背任疑惑を国会で追及。共謀して工数の水増し請求を行なった取引先4社と、調達費の過払いに関与した防衛庁の関係者は、のちに東京地検により逮捕・起訴されます。

翌1999年には、衆議院行政改革特別委員会で中央省庁等改革関連法案と地方分権1括法案に対する質疑を行ない、日本道路公団(現・特殊会社NEXCO3社)および、住宅・都市整備公団の不透明な業務内容を例に、特殊法人の問題点を追及。

「特殊法人は1200社以上ある。丸投げするための子会社まで含めたらもっと多い。公益法人にしても職員51万に対し役員49万人。これらが民間と同じビジネスを行なっている。ここにメスを入れなければ、行革の意味がない!」と官業による民業の圧迫、特殊法人と子会社の癒着、そこで起きている官僚の天下りを痛烈に批判しました。

独自の調査で権力の中枢に踏みこみ、国民が知らなかった事実を暴露する石井さんは、「国会の爆弾発言男」と呼ばれるようになります。

特殊法人とはなにか

特殊法人は、「公共の利益または国の政策上の特殊な事業を遂行する」として、特別法によって設立された法人です(『大辞泉』)。主に第2次大戦後の経済復興のため、道路、住宅、鉄道など基本的な社会資本(インフラ)を整備するために作られました。

公団(旧・日本道路公団、旧・住宅・都市整備公団など)、公庫(旧・住宅金融公庫など)、特殊会社(電源開発株式会社など)などの形態で、戦争によって壊滅的な打撃を受けた日本社会を建て直すため、一定の役割を果たしました。

歴史的には、1960年代から高度経済成長をめざして、重工業主体の産業政策が推進され、この間、民間企業が大きく成長しました。石井さんは、池田勇人内閣(1960〜1964)の国民所得倍増計画がその目標を達成した1970年代前半には、「本来であれば特殊法人は解散して、経済を市場に委ねるべきだった」と考えていました。福祉や教育、外交など、政治は次なる目標に向かうべきであったと。

しかし実際には、政・官・財の癒着が壁となり、民間経済をサポートし、活性化させるという本来の役割を終えた特殊法人はその後も残り、自己増殖を始めました。

政・官・財の権力システムは、「〜開発法」「〜整備法」など後付けの根拠法を次々と作り、公共の投資事業のための「特別会計」を増やし、行政指導の権限と経営規制を拡大して、金融・建設・住宅・不動産・流通・保険などの事業分野、鉄道・空港・道路その他の交通運輸産業、農業・漁業・林業の分野、さらに通信・電力など、ほとんどすべての産業分野で、市場を寡占するようになります。

その後も経済発展とともに特殊法人は増加し、政治家と官僚は、財団法人や社団法人なども含む膨大な数の、子会社、孫会社を作りました。これらのいわゆる「ファミリー企業」は、下請け発注業者である特殊法人から優先的に仕事を回され、事業を寡占します。定年を迎えた官僚は、管轄下の特殊法人やファミリー企業へ続々と天下り、法外な給料や退職金を何度も手にします。

これでは民間にお金は回ってきません。

石井さんが最後に調査した2001年の時点で、特殊法人は77団体。関連会社・法人は約1200社、そしてファミリー企業まで含めると2000社以上、役職者数は少なくとも100万人。

さらに、特殊法人の公益事業や委託業務で生計を立てている民間企業や地方自治体まで含めると、特殊法人関係の実質就業者数は300万人規模で、これは当時の日本の全就業人口の5パーセントになると推定しています。

石井さんの追及はここから「特別会計」に及び、国会での爆弾発言となります。

誰も知らなかった「本当の国家予算」

「国の予算というのは、御案内のとおり、一般会計予算と特別会計の予算、それから、最近では財政投融資計画というのも国会にかけられるようになりまして、その御三家といいますか、その〝3つの財布〞があるというふうに思います。

とくに、一般会計でもって通常議論されるわけでありますが、実は、一般会計というのは、カムフラージュというような性質のものでございまして、一般会計のうちの大部分、つまり、81兆なら81兆のうちの50兆以上は特別会計にすぐ回ってしまうわけですね。

特別会計の規模は、御案内のとおり、最近ではもう380兆というような規模になっているわけですね。そこで、〝3つの財布〞をそれぞれ行ったり来たりしておりますから、(中略)非常に複雑きわまりない構造になっておりますが、そういう中で、果たして、国の歳入歳出という面からいったら幾らになるか。

これは純計しなければなりません、これらの財布を。それがすなわち我が国の国家予算なんです。年間の国家予算なんです。それは、到底、80兆やそこらのものじゃありません。それを、私は、今からちょっと計算してみたいと思うわけであります。

そこで、申し上げましたように、一般会計は14年度81兆です。特別会計は382兆。これを純計いたしますと、248兆円でございます、行ったり来たりしておりますからね。

それで、さらにその中から内部で移転をするだけの会計の部分があるんですね。(中略)この部分約50兆円でありますから、これを除きますと、純粋の歳出は約200兆円であります。(中略)これはアメリカの連邦政府の予算にほぼ匹敵するというか、アメリカの連邦政府の予算よりちょっと多いぐらいの規模でございます」(図1参照)

これは石井さんが亡くなる4カ月前に行なった、2002年6月12日の衆議院財務金融委員会での質問の一部です。特殊法人の予算である、特別会計。石井さんは、それまで国の予算と思われていた「一般会計」を表向きのカムフラージュと見破り、誰もが見過ごしていた「特別会計」に目をつけて、純粋な歳出として200兆円を割り出し、「本当の国家予算」へと迫っていきます。

日本では市場のおよそ半分を「官制経済」が占めている

すこし長くなりますが、このまま続けます。

「一方でGDPは名目で約510兆円ぐらいですね。そうすると、このGDPに占めるところの中央政府の歳出というのは、何と39%に上ります。ちなみに、アメリカの場合は連邦段階で18%、イギリスの場合は中央政府で27%、ドイツも12.5%、フランス19%、大体そんなふうになっているわけです。

さらに、これに、政府の支出という意味でいきますと、地方政府の支出を当然含めなければなりませんから、我が国の場合、これも純計をして、途中を省きますが申し上げますと、大体これに40兆円超加えなければなりません。そうすると、一般政府全体の歳出は約240兆円というふうになるんです。これは何とGDPの47%であります。(編集部註:図2、3参照)(中略)

これは実は、市場というものと権力というものとの関係において、我が国では権力が市場を支配している。(中略)その結果、市場経済というものを破壊しているというところがあるんです。こうした我が国の実態というものが、先ほど申し上げました分配経済と呼ぶべきものですね。

私の言葉で言えば、私は『官制経済』というふうに申し上げているわけであります。これは、ここでは本質的に資本の拡大再生産というものは行われない、財政の乗数効果というものは発揮されない、こういう体制にあるんです」

GDP(国内総生産)における、国の純粋の歳出(特別会計を含む国家予算に地方政府の支出を加えたもの)の比率は、47パーセント。

つまり日本では市場のおよそ半分を、特殊法人系列による「官制経済」が占めていることになります。図2、3を見てもわかるように、欧米と比べて民業が極めて圧迫されている状況で、市場経済が正常に機能していないことになります。質問は熱を帯び、最後に「本当の国民負担率」が明かされます。

「一方、国民負担率というものは、我が国の場合は、私はもう今既に限界に達しているんだと思うんですね。財務省の数字によりますと、潜在的な負担率も含めて48%と言っておりますが、しかし、これは先ほど申し上げました特殊法人等から生ずる負担というものがカウントされておりません。財務省が昨年9月に出したところの特殊法人等による行政コストというのは、年間15兆5000億円くらいあると言うんです。

こういうものを含めると、国民負担率、これは当然、例えば電気にしても、ガスや水道なんかのそういう公共料金、運賃や何かも含めて、こういうものは特殊法人という、認可法人や公益法人も入りますが、総称して特殊法人というものによって、このコストが乗ってくるわけでありますから、そうした将来にかかるコストと、現実に日常的にかかるところのコストというものがオーバーラップしてあります。

こうしたものを含めた国民負担率というものは、もう60%に近づいているだろうというふうに考えられます。日本の不安定な社会保障の実態というものとあわせて考えると、これは6割近い国民負担率というものは非常に異常な状況であると言わざるを得ないと思います。

(中略)

今まで申し上げましたことについて、財務大臣の御認識を伺いたい。どうですか」

塩川正十郎財務大臣
「御意見としてお述べになりましたのでございますから、私が否定するようなこともございません」

誰も気づかなかった裏の国家予算「特別会計」を掘り起こし、「本当の国家予算と国民負担率」を開示した石井さん。前年の国会では、経済財政政策担当大臣の麻生太郎と、財務大臣の宮澤喜一に、「本当の国家予算」についてズバリ聞いていました。

「そこで、麻生大臣にちょっと聞いてみたいのは、日本の国家予算というのは、歳出でもいいですし歳入でもいいのですが、幾らぐらいなんですか」

麻生経済財政政策担当大臣
「81兆で、出ているとおりだと思いますが」

石井
「では、宮澤財務大臣にひとつ教えていただきたいのですが、日本の国家予算のトータルというのはどのぐらいの規模ですか。何兆円という単位で結構でございますが」

宮澤財務大臣
「一度調べまして、お答えいたします」

(2001年4月4日衆議院決算行政監視委員会)

麻生さんは単純に、一般会計の81兆円を国家予算と思いこみ、旧大蔵省のエリート官僚出身の宮澤さんは、答えられなかった。ふたりとも首相候補と目されていた政治家です。

国家の中枢を揺るがす「爆弾発言男」石井紘基。このころからすでに、エスタブリッシュメント(体制側)に警戒されていたのかもしれません。

わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇

泉 房穂
わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇
2024年9月17日発売
1,045円(税込)
新書判/256ページ
ISBN: 978-4-08-721330-0

志半ばで命を奪われた男の、よみがえる救民の政治哲学!

◆内容紹介◆
2002年10月、右翼団体代表を名乗る男に襲撃され命を落とした政治家・石井紘基(こうき)。
当時、石井は犯罪被害者救済活動、特殊法人関連の問題追及等で注目を浴びていた。

その弱者救済と不正追及の姿勢は、最初の秘書・泉房穂に大きな影響を与えた。
石井は日本の実体を特権層が利権を寡占する「官僚国家」と看破。
その構造は、今も巧妙に姿を変え国民の暮らしを蝕んでいる。
本書第Ⅰ部は石井の問題提起の意義を泉が説き、第Ⅱ部は石井の長女ターニャ、同志だった弁護士の紀藤正樹、石井を「卓越した財政学者」と評する経済学者の安冨歩と泉の対談を収録。
石井が危惧した通り国が傾きつつある現在、あらためてその政治哲学に光を当てる。

◆目次◆
はじめに 石井紘基が突きつける現在形の大問題
出版に寄せて 石井ナターシャ
第Ⅰ部 官僚社会主義国家・日本の闇
第一章 国の中枢に迫る「終わりなき問い」
第二章 日本社会を根本から変えるには
第Ⅱ部 “今”を生きる「石井紘基」
第三章 〈石井ターニャ×泉房穂 対談〉事件の背景はなんだったのか?
第四章 〈紀藤正樹×泉房穂 対談〉司法が抱える根深い問題
第五章 〈安冨歩×泉房穂 対談〉「卓越した財政学者」としての石井紘基
おわりに 石井紘基は今も生きている
石井紘基 関連略年表

「国会で重大なことを暴く」と宣言した日に殺害された政治家・石井紘基…「動機の解明は困難」という不可解な判決文と見つからない資料の謎〉へ続く

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