財務省vs厚労省「不毛な抗争の歴史」…国民から集めた金を配ることで権限を得る財務省、社会保険料をしぼり取る厚労省
集英社オンライン / 2024年10月21日 7時0分
〈「国会で重大なことを暴く」と宣言した日に殺害された政治家・石井紘基…「動機の解明は困難」という不可解な判決文と見つからない資料の謎〉から続く
元明石市長で政治家の泉房穂さんは2003年と2004年に衆議院議員を務めている。そのとき彼を応援していたのは財務省の官僚だったという。しかし、彼らには厚労省を潰すという目的があり…。
任期中に目の当たりにした何とも無駄な財務省と厚労省の戦いの様子と、戦後からの歴史を書籍『わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇』より一部抜粋・再構成し紹介する。
財務省対厚労省、抗争の歴史
弱者救済のための議員立法に駆け回っていた議員時代。法務省、厚労省、内閣府の委員会など、各関係省庁の官僚と仕事をしましたが、当時の私を応援していたのは、なんと財務省でした。この背景には「財務省対厚労省」の省庁間の抗争があり、財務省は私を使って、「厚労省潰し」を画策していたのです。
当時、やたらと私の部屋に来る財務官僚がいました。事あるごとに彼は、秘密の情報を私にくれます。その情報は、なぜか厚労省の不備や不始末に関するものばかりでした。「なぜそんなことを?」と不審に思ったのですが、私に情報を流すことで、厚労省潰しのリークを目論み、また私のことも自分たちの配下に置こうとする。
官僚組織の権謀術数を目の当たりにして、私は呆れつつも「すごいなあ」と妙な感心をしたものです。
戦後の政治の歴史は、「財務省対厚労省」の抗争の歴史でもあります。戦後の復興予算を一手に握ってきた旧大蔵省(財務省)は、つねに中央省庁のトップに君臨してきました。
国民の税金は全部自分のところに集めて、他の省庁に対しては、自分たちに頭を下げた人間に金を渡していく。戦後一貫して、財務省は税金を源泉とした巨大な権力を行使してきました。
ところが厚労省は、それが許せませんでした。
つまり、財務省がお金を集めたところで、道路やダム、港湾建設などの公共事業に優先的に流れていき、福祉は後回し。だから、自分たちで財源を確保しようということで、厚労省は保険制度に活路を見出し、1961年の医療保険、国民年金に始まり、さまざまな保険を作り、2000年には介護保険を作りました。
保険制度は、財務省とは直接の関係がありませんから、厚労省は別ポケットで、自分たちのお金(国民の保険料)を集めることができます。実際は、年金も現行制度の財源は保険料と税金のミックスで、介護保険も、財源の半分は税金ですから、財務省と無関係ではないのですが、そうは言っても別ポケットの財源です。
そのように財務省と厚労省との戦いがあり、政局の裏側にも、「財務対厚労」の戦いがありました。
国民そっちのけの、財務省対厚労省の戦い
1993年に石井紘基さんが初当選したときの、日本新党・細川護煕首相は、財務省派(当時大蔵省)の議員でした。大蔵省をバックに細川首相は、「国民福祉税」の名目で消費税増税を目論みますが、福祉を管轄する厚生省(現・厚労省)と世論の猛烈な反発を受けて頓挫、細川政権は退陣となります。
その後、「厚生族のドン」と呼ばれた橋本龍太郎が1996年に首相となり、厚生省が力を持つようになります。橋本首相は介護保険法を成立させましたが、橋本内閣では前厚生事務次官が汚職で逮捕され、実刑判決を受けます。
これは財務省によるリークで、厚労省潰しを目的としたものでした。2000年代以降も、年金に関する国会議員の不祥事がリークされ、2007年には「消えた年金問題」が明るみに出て、厚労省は力を失います。そして2009年に、自民党から民主党への政権交代が起こります。
財務省は、自分たちの手元の金を増やそうとして増税をする。厚労省は、財務省に負けじと、国民に負担を課して保険制度の拡充をはかり、保険料を上げていく。だから今も現在進行形で、増税と保険の負担増が続いているのです。
国民そっちのけの、財務省対厚労省の戦い。私たち国民からすると、官僚が頑張れば頑張るほど、負担が増える構造です。官僚も政治家も、国民のことなど見てはいません。
事業仕分けを主導していた財務省
1993年と2009年に、自民党系ではない2度の政権交代が起きていますが、注目すべきは93年の細川政権も、09年の民主党政権も、「財務省派の政権」だったということです。
細川政権では「国民福祉税」の名目で、消費税の7パーセントへの引き上げを目論み、民主党政権では、「社会保障と税の一体改革」として消費税10パーセントの負担を国民に課すことを決めました。消費税10パーセントを「実行」したのは、その後の安倍政権ですが、「決定」したのは財務省主導の民主党政権のときです。
また民主党政権では2009年、「事業仕分け」の名目で、国家予算や公共事業の見直し、そして石井さんが追及していた公益法人、独立行政法人の廃止・移管などが行なわれました。
しかし、その実態は財務省の言いなりで、財務省がかねてより仕分けようとしていた各省庁の予算や部門をカットするにとどまり、利権は温存されたまま。国民にとってなんのプラスにもならない仕分けでした。
たとえば、児童虐待に関する研修センターが仕分けの対象になりました。当時から、虐待で数多くの子どもの命が奪われ、専門性のある職員が必要な状態でした。
本来ならば都道府県ごとに作る予定だった研修センターは、当時全国に1カ所しかなかったのに、それさえ財務省は「ムダ」と判断して、仕分けの対象にしたのです。「そのような施設など潰してしまえ」ということでしょうか。
それから10年以上、研修センターは新設されないのですが、2011年に私が明石市長となり、かねてより親しくしていた自民党の塩崎恭久さんが2014年に厚労大臣となった際に、塩崎さんに研修センターの必要性を説き、力を貸していただきました。
土地は明石市が提供し、施設と人件費は国が予算を持つという関係性で、2019年に、全国で2カ所目となる「西日本こども研修センターあかし」を設立する運びとなったのです。
行政改革の名の下に、子どものための施設を仕分けようとする。財務省が主導して、民主党政権が実行した事業仕分けが、国民の側に立っていなかったことの1例です。他にも重箱の隅をつつくような仕分けが行なわれ、本当に必要なところにはメスを入れず、石井さんが指摘していた利権の本丸は温存されたままでした。
当時の民主党の主流派の議員は財務省派でした。現在の「野党第一党」である立憲民主党が、減税に消極的なのも財務省に気をつかっているからでしょう。
若手の優秀な財務官僚は、与野党問わず有力な政治家の担当となり、情報を提供します。政治家も官僚を可愛がり、知らぬ間に財務省の価値観に染まっていきます。もし政治家が楯突くようなことがあれば、官僚がその政治家のスキャンダルをリークして、潰します。中央省庁に君臨する財務省には、各省からの情報が集まるし、直下の国税庁も動かすことができます。
政治家にしてみれば、財務省に頭を下げれば出世できて、怒らせると首が飛ぶ。財務省は与党と野党の首根っこを押さえて、政権がどちらに転んでも、盤石の体制を築いています。したたかな組織です。
石井さんが「官制経済」と喝破した日本の官僚主権国家では、官僚がつねに政治の上にいるため、官僚の軍門に下っている与野党が政権交代をしたところで、国民は救われないのです。
官僚主権を支える信仰の理由
官僚国家である日本には政治家がいません。ドイツの社会学者マックス・ウェーバー(1864〜1920)が言っているように、「最良の官僚は最悪の政治家」で、官僚というものは、選挙で選ばれていないから国民を見る必要もないし、国民に対する責任も感じていません。
右肩上がりの成長をめざし、前例主義でこれまでどおりのことを続ける。お金が足りなくなってくると、国民に負担を押しつける。財務省は税金を上げる。厚労省は保険料を上げる。
それまでやってきたことを見直す発想もない方々ですから、官僚に任せていると経済は当然肥大化するし、国民からすると負担が増えるに決まっているわけです。
それに対して、本来であれば政治の立場にある者が主導して、方向転換をめざすべきなのですが、日本の場合は、官僚にものを言える政治家がいません。政治が機能していない、政治家がいないという状況が戦後ずっと続いてきているので、余計に官僚の権限が強まり、現在のように、政治家が財務省の軍門に下っている状況となっています。
建前では国民主権と言いながら、実態は官僚主権の国である日本。選挙で選んでもいない官僚が、選挙で選んだ自分たちの代表であるはずの政治家に指示をして、国民に負担を課している構造。
「官僚主権から国民主権への転換」を早くから訴えていたのが石井紘基さんであり、その考えは現在の私の「救民内閣構想」にもつながるのですが、そもそも「官僚主権」の原因とはなんなのでしょうか?
いくつかの要素が複合的にあると思いますが、一番強いものは「思いこみ」でしょう。日本は受験エリートのランキングがある非常に珍しい国です。子どものころから受験競争をやってきて、勝ち残った者が東京大学に行き、東大の中でも「文一で法学部」という文化がいまだにあります。
そして東大の文一を出て官僚となった者の中から、最も優秀な人間が財務省に行き、財務省の中で最も優秀な人間が主計局に行きます。財務省主計局は、官僚社会のエリート中のエリート。官僚主権国家・日本のシステムの中枢にいるのが、彼らです。
世の中のことを知らない、社会性も身につけていない受験エリートが競争を勝ち抜き、財務省に属している。競争を勝ち抜いた財務省主計局に対する、周囲からのエリート信仰。
身も蓋もない話をすれば、競争の途中で脱落した周囲の者たちによる「主計局は賢くて、自分たちは議論しても勝てない」みたいな思いこみが、日本の官僚主権を支えているような気がします。
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