泉房穂が市長を辞職することになった発言の真意と「明石市にお金がない」は嘘だと言い切れる理由
集英社オンライン / 2024年10月23日 7時0分
〈裏の国家予算・特別会計は436兆円…なのに「日本に金が無い」は本当か? ムダ遣いに明け暮れる国土交通省の実態〉から続く
2019年明石市長を務めていた泉房穂さん。過激な物言いが問題となり批判にさらされたが、暴言の真意がわかると市民の反応は変化。一度は辞職したものの、その後再選を果たした。なぜ暴言を吐くに至ったか、そこには公共事業に対する怒りがあった。
書籍『わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇』より一部抜粋・再構成し紹介する。
「火つけてこい!」の背景
公共事業に関しては、金額だけでなく、スケジュールも「長ければ長いほどいい」というのが、官僚の価値観のようです。たとえば幹線道路の拡幅工事なども、5年計画というと大体10年はかかります。
「火つけてこい!」の暴言で、2019年に私が市長を辞職することになった一件もそうでした。
あのときは、国道拡幅工事に伴うビルの立ち退き交渉が進んでいなかったことに対して、私が担当職員に暴言を吐いたことが問題となりました。
しかし、あの騒動の本当の事情としては、職員が「5年計画の工事を10年もかけて進めようとしていた」ことに対する怒りがあったのです。
問題となっていた明石駅前の道路では、道幅の狭さが原因で、人が亡くなる交通事故が起きていました。市民の命を守るために一刻も早く、工事を行なう必要がありました。
にもかかわらず、当初の計画から7年たっても、当該のビルの立ち退き交渉は一向に進んでいなかったのです。そこで思わず出てしまった暴言でした。
「道路工事は、当初の予算の2倍のお金をかけて、2倍の工事期間でやるもの」。日本の公共事業には、そのような暗黙の了解が存在しているのでしょうか。
5年計画なら10年、5億の予算なら10億です。「お金を使うこと」が工事の目的で、「今はなくてもよい道路も造ること」が慣習になっているからでしょうか。
あのとき、私は職員に「7年間、なにをしていたのか!」と言いましたが、工事はたまたま遅れたのではなく、最初から10年かけるつもりでいたようです。
そして国は、予算やスケジュールなどで、自治体が言うことを聞かなかったら、途中で予算を止めることもできます。そうすると工事全体が中断してしまいます。
国の言うことを聞かないと、お金を止められる構造になっているので、地方自治体は国に頭が上がりません。これが官僚国家・日本の地方行政の実情なのです。
明石市に「お金がない」は噓だった
公共事業に関しては、私は明石市長になってすぐ、市営住宅の新築を中止。戦後何十年と続いてきた明石市の市営住宅建設は、私をもって終わりました。
そして20年間で600億円の予算で進められていた下水道整備計画も、150億円に削減。100年に1度の豪雨での、10世帯の床上浸水対策に、600億円もかける必要はないとの政策判断です。
どの方針決定も、やってしまえば簡単でしたが、そこに至るまでの市職員の抵抗には、半端ないものがありました。「いま必要な仕事」というより、前例を踏襲してお金と時間を使っていた、役所組織の仕事です。「それは本当に必要か?」という前例を疑う私の問いかけ自体が、市役所の中では「愚問」でした。
先述のとおり、市長に就任した当初から「お金がない」と聞かされていましたが、増税もせずに政策展開ができて、市民サービスの向上をはかり、財政は好調になり、私に対するアンチによる「泉市政では明石のインフラが壊れる」という批判も的外れでした。
歴代市長が放置してきた、土地開発公社の100億円の隠れ借金も払い終わり、子どものための「5つの無料化」(子ども医療費の無料化・第2子以降の保育料の無料化・中学校の給食費無償・おむつ定期便・公共施設の入場料の無料化)を行ない、人口は10年連続で増加、地価も上昇、市の貯金も70億円から100億円台に増やしました。
市長を12年やった結論として、「お金がない」は噓だったと言えます。お金がないわけではありません。お金の「使途」「優先度」の問題なのです。
コストバランスも考えず、緊急性も代替手段も考えず、必要性の乏しい事業を漫然とやり続けていたから、お金がないように見えていただけです。
財務省が頑張るほど国民負担が重くなっていく
市営住宅や下水道など、すでに整備されているインフラを対象とした公共事業では、新設でなく適正管理に注力し、その代わり今の時代に必要な、「国民の生活を支える」とか、「子育てを応援する」といった部分に予算を配分する。
明石市はこうして若い世代の人口も増え、まちの好循環を拡大していきました。
国の財政に関しても、国民負担率ほぼ5割の国において、お金がないわけがないでしょうと、私は自信を持って言うことができます。
エコノミストの森永卓郎さんが書いた『ザイム真理教─それは信者8000万人の巨大カルト』(三五館シンシャ、2023年)が話題になりましたが、「お金がない」という考え方は財務官僚にとって宗教の教義のようなもので、彼らは先輩の言ってきたこと、やってきたことを否定できません。
官僚が気にしているのは自分の出世と、組織の先輩や同僚との関係性。そして関係のある政治家の顔色。気にするのは、我が組織と政治家だけで、国民のことは気にしていません。
「右肩上がりの成長」をいまだに信じていて、「予算額は増やすべきもの」という価値判断が働いているから、コストを抑えるなどという発想は、感動するぐらい持ち合わせていないようです。
とくに財務官僚は、官僚の中の官僚ですから、組織の論理に非常に忠実です。各省庁に一度つけた予算は削ることが難しく、国家予算は膨らむ一方。その財源は国民の血税ですから、財務省が頑張れば頑張れるほど、国民負担が重くなっていくのは一種の宿命といえます。
言うなれば、財務官僚は国民の負担を増やし続ける生き物です。そこに悪気はないからタチが悪い。さらに言えば、省益を守ることで、個々の官僚が直接的利益を得ているとは限らないのです。
官僚は自らの使命に忠実なだけですから、私としてはやはり、官僚機構の暴走に歯止めをかけられない今の政治家、そして官僚の言い分を垂れ流しにしているマスコミに問題があると思っています。
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