〈3度目の逮捕〉芸能界、財界、ヤクザまで…「キーマンの懐に入るのが絶妙にうまかった」“希代のワル”羽賀容疑者の処世術と「社名」が象徴する哀しい生き様
集英社オンライン / 2024年9月28日 10時0分
タレントの羽賀研二容疑者(63)が逮捕された。虚偽の不動産登記によって強制執行を妨害したとする強制執行妨害目的財産損壊等などの疑いで、愛知県警が身柄を取った。羽賀容疑者は2007年に詐欺容疑、2019年には強制執行妨害目的財産損壊(仮装譲渡)容疑で逮捕されている。なぜ、羽賀容疑者はカネの魔力にとりつかれて人生の軌道から外れ続けるのか。戦後沖縄を生き抜いた沖縄の女性たちの生き様を追った「パラダイス」(大洋図書)で、出所直後の羽賀容疑者を取材したジャーナリストの安藤海南男氏は、その理由を彼の複雑な生い立ちと重ね合わせる。
〈秘蔵写真〉芸能界デビュー当時、輝いていた羽賀研二
父と別れ、夜の街に出るようになった母
「なんでも聞いてください、安藤さん」
2022年4月、沖縄を訪れた筆者を羽賀容疑者は屈託のない笑顔で出迎えた。取材場所として指定してきたのは、沖縄・北谷町のカフェ。
今回の事件の舞台ともなった、羽賀容疑者が所有するビルがある街だ。かつて米軍基地だったこの街は1980年代に飛行場として使われていた当時の名前を引き継ぎ、「ハンビータウン」と呼ばれる商業都市に生まれ変わった。
筆者は、「アメリカ世」と呼ばれる米軍統治の時代の記憶を刻む街で、沖縄の歩みと符号するような生い立ちを持った羽賀容疑者と相対した。
「親父も彼のように若いときに沖縄に赴任してきたんでしょうね」
テラス席のそばを通り過ぎていった米軍人らしき若者に視線をやりながら、羽賀容疑者は言った。
羽賀容疑者の父親はアメリカ人で、米空軍の管制官として嘉手納基地で勤務していたという。そこで米軍基地内にある宿舎の「ハウスキーパー」つまり、メイドとして働いていた日本人の母親と出会った。
米軍統治時代の米兵、それも白人の米兵のプレゼンスは高い。家族は不自由のない生活を送ったが、任期を終えて本国に戻った父親と離れた途端、暮らし向きは一変したという。
「アメリカ兵の待遇は抜群によかったですから。オヤジと住んでいたころは衣食住に困ることはなかった。
でも、(母親は)オヤジと別れてからはハウスキーパーの仕事だけではとてもやっていけないと思ったんでしょう。夜の街に働きに出るようになりました」
母親は、当時は「コザ」と呼ばれていた沖縄市で米兵相手の「Aサイン」で働くようになった。
1950年代は朝鮮戦争、60年代から70年代にかけては、ベトナム戦争の前線基地となっていた嘉手納基地。その門前町だったコザは戦争特需で活況を呈した。
生活のために身を粉にして働く母親の姿を羽賀容疑者はこう振り返っていた。
「お袋も相当稼いだと思います。当時は、1000ドルあれば家を建てられた時代。お袋も、Aサインで働き始めてからしばらくしてコザに家を買った。
でも、相当無理をしてたんだと思います。お酒のにおいをさせて帰ってきたと思ったら、部屋の隅で静かに泣いている姿もよく見ていましたから」
いじめの原因となった要因が、芸能界では武器に
米兵の優越的地位が担保されている日米地位協定に絡む問題などが今も横たわる沖縄だが、米軍統治時代は、沖縄の住民はより多くの不条理にさらされた。
在沖米軍トップの高等弁務官は強大な権力を有しており、住民は強権的な政策に翻弄された。
「自治は神話だ」
1961年から64年まで高等弁務官を務めたポール・キャラウェイ氏が残した言葉が、支配者然とした米軍の立場を象徴するものとして今も語り継がれる。
畢竟(ひっきょう)、圧制下にある沖縄の住民らには反米感情が根付き、そうした反感は羽賀容疑者のような「混血児」に向けられた。
父親から彫りの深い顔立ちと立派な体躯を受け継いだ羽賀容疑者にも、そうした「アメリカー」に対する敵意が向けられた。
「いじめは本当にひどかった。俺だけじゃない、俺の同年代の頃のハーフっていうのはもうとにかく悲惨でした。
よく袋だたきに遭うっていうけれど、まさにそういう状況で。よってたかってボコボコにされるんです」
羽賀容疑者は当時をこう振り返っている。
ただ、沖縄社会では反感の対象となった羽賀容疑者の容姿は芸能界では武器になった。
羽賀容疑者は高校卒業後の1981年にデビュー。82年にはフジテレビ系のバラエティ番組「笑っていいとも!」のいいとも青年隊に起用されて人気を博した。
当時は珍しかったエキゾチックな顔立ちもさることながら、接した人間を魅了する天性の「人たらし」としての素質も羽賀容疑者は持ち合わせていた。
羽賀容疑者を知る芸能プロダクションの関係者はこう証言する。
「羽賀は各業界でのキーマンの懐に入るのが絶妙にうまかった。絶大な影響力を持つ芸能界の大物に取り入ったのを皮切りに、大物の周辺にいた財界の実力者やヤクザの親分とも関係を築いてうまく立ち回っていた」
「希代のワル」が抱く、母への思い
芸能界でのキャリアは、俳優・梅宮辰夫の愛娘・アンナ(52)との交際スキャンダルに見舞われるなど、浮き沈みの激しいものとなった。
ある種の「イロモノ」として独特の認知度を得た羽賀容疑者には、カネ絡みのトラブルも付きまとった。
2000年代中頃には、今回の事件の舞台ともなった北谷町で飲食店オーナーを務めたが、その後、飲食店は閉店の憂き目に遭った。
2007年には未公開株の売買をめぐる詐欺事件に関与したとして大阪府警に逮捕され、最高裁まで争ったあげくに懲役6年の実刑判決が確定し、沖縄刑務所に収監された。
2019年に再び逮捕され、21年に出所。それからわずか3年で3回目の逮捕となった。
梅宮アンナとのスキャンダルの渦中、アンナの父・梅宮辰夫は羽賀容疑者を「希代のワル」と罵倒したが、その言葉通りに人生の軌道を外れ続ける羽賀容疑者。
ただ、取材時に筆者に明かしていた母親への思いは確かだったようにも思うのだ。
米国に帰る父親についていかずに沖縄に残る選択をした母親について聞いたとき、羽賀容疑者はこう話した。
「お袋が、なんであんな風に1人でがんばってたのか。オヤジについていけばよかったんじゃないかと言うかもしれない。
でも、そうしなかった。やっぱり俺のことを考えてくれてたんだろうと思うんです」
羽賀容疑者は、芸能界デビュー直前の1980年に宜野湾市で2階建ての家を建てている。
数々の事件で芸能界を追われた羽賀容疑者は、この家で年老いた母親と同居していた時期もあったという。
登記簿を確認すると、何度かの差し押さえを受けながらも自宅を所有し続けている。物件には一時、羽賀容疑者が代表を務める会社が抵当権を設定していた。
社名は、「リッチアンドフェイマスインターナショナル」。馬鹿馬鹿しいほどにあけすけなその名前は、虚飾にまみれ、カネに翻弄されながらも、這い上がろうとする羽賀容疑者の哀しい生き様を象徴しているかのようだ。
取材・文/安藤海南男
集英社オンライン編集部ニュース班
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