〈パルワールドはポケモンのパクリなのか〉「炎上ビジネス」にあらがう、任天堂の“特許網”の行方…「8ヶ月での提訴は異例」
集英社オンライン / 2024年9月28日 9時0分
9月19日、任天堂とポケモンは、ポケットペアが開発したゲーム『Palworld / パルワールド』が特許権を侵害しているとして、東京地方裁判所に訴訟を提起した。パルワールドは発売時より、ポケモンに類似したキャラクターデザインが話題となっていた。パクリかパクリでないかは、コンテンツを作る上でもジャッジが難しいとされている。ゲームの開発者はなにに気をつけているのか。ゲームクリエイターと、知的財産権や著作権を専門に扱う弁理士に話を聞いた。
【画像】「ポケモンに類似」バルワールドの販売直後、ポケモンから出されたリリース
「無から有を作ることは、もうたぶん無理です」
「パルワールド」は、2024年1月にリリースされたモンスター収集・育成型サバイバルゲームである。
プレイヤーは「パル」と呼ばれる生物を捕まえながら、広大な世界でサバイバル生活を送る。Steam版(PC)とXBOXに対応し、 PS5版も発売予定(発売時期は未定)。発売から2カ月で692億円を売り上げた。
今回の事件について、ゲームクリエイターとして数々のヒット作に携わってきたコウジさん(仮名)は、こう語った。
「そもそも無から有を作ることは、もうたぶん無理です。私たちクリエイターは、既存の作品、映画、アニメ、漫画、ゲーム、さまざまなエンタメから少しずつ要素をすくい上げて、新しい作品として世に出していきます」
ゲームを開発する際、どのようにしてパクリにならないよう気を付けているのだろうか。
「僕たちはゲームを作ることにおいてはプロなので、開発段階では『これくらいはいけるだろう』というのが肌感覚でわかります。
あまり過敏になりすぎたら開発が進まないので、適度にパクリにならないように気をつけながら開発を進めます。
完成したら、法務的にOKか否か、表現的に対象年齢が上がらないか、などエラーや不具合を見つけるための『デバッグ』作業も含めて、世に出す前にさまざまな部署へ精査に出します」
パルワールドは販売当初から「ポケモンに似ている」とXで炎上したが、ポケットペアは法務の精査に出さなかったのだろうか……。
「もし、ポケットペアが任天堂から告訴されないと思っていたのなら、あまりに浅はかです。“ケンカ慣れ”している任天堂に勝てるわけがない。
ボクシング初心者が井上尚弥さんに挑むようなもの。瞬殺です。でも、ポケットペアには別の目論見があったのかな……と思います」
その目論見とはなんなのだろうか。
「炎上ビジネスですよ。迷惑系YouTuberと同じで『やったもん勝ち』な時代が、ゲーム業界にも来ている気がします。
あれはやりすぎですが、告訴されると分かっててやったんじゃないかな。もちろん損害賠償はでかいし、社会的信用は落ちますが……」
そこまでしてヒットをさせたい理由とは。
「ゲーム開発会社は『一本目を当てないといけない』という文化があります。ポケットペアは見事当てたわけです。
そうなると、業界では、ポケットペアはノリにノリまくっていると見られるようになります」
実際ノリにノリまくっているからか、コウジさんのもとにも、ポケットペアからスカウトが来たという。
「おそらく2本目、3本目の開発、パルワールドのアップデート、追加コンテンツに着手するタイミングで人を集めているんじゃないですかね。僕にもオファーがありましたが、断りました」
断った理由のひとつに「ポケットペアで働くと、ポケモンのファンから攻撃されそうで怖いので……」と打ち明けた。
「原作には熱狂的なファンがつくから、特にIP(知的財産)ものは慎重にキャラを作らなくてはいけないんです。
パルワールドの場合は、IPではないですが、ポケモンのファンから見たらパクられたと思うのも同然。実際に、怒っているユーザーもSNS上で多く散見されます。」
「“特許網”を張り巡らせて、複数の特許で引っかからせる」
弁理士法人アイピールームの代表弁理士である打越佑介さんは、特許の出願代理や知的財産に関するコンサルティングを行っている。
今回のような裁判は、日本では多いのだろうか。
「米国や中国と比べたら少ないですね。だからこそ、任天堂のような大企業がアクションしたことで話題になったのではないでしょうか」
急成長した新参企業を、大手が訴えるかたちとなった今回のケース。打越さんはこれが業界に与える影響に注目しているという。
「今回の結果は、任天堂以外のゲーム会社にも影響する可能性があります。これからゲームを作るスタートアップも、開発のやり方が変わってくるかもしれません」
パルワールドは1月に発売され、任天堂の提訴は9月。8ヶ月の沈黙は長いように思えるが……。
「一般的にはいえませんが、過去の事例と比較すると早い方だといえます。
たとえば2021年2月24日に『ウマ娘』をリリースしたCyagmes(サイゲームス)に対し、2023年3月31日にコナミが特許権侵害で提訴するまで、約2年が経っています。
また2014年7月14日に『白猫プロジェクト』をリリースしたコロプラに対し、2017年12月22日に任天堂が特許権侵害で提訴するまで、約3年半も後になります」
上記を踏まえて、「この8ヶ月で任天堂は周到に準備をしていたのでは」と打越さんは推測する。
「任天堂は、数年前に出した特許※4の書類の中に書かれている内容の一部を、別の特許として出願して、特許の数を増やしていた経緯が公開情報から分かります。
こうして『親の特許』を分割して『子の特許』を生み、『特許網』を張り巡らせた後に、今回ポケットペアが複数の特許に引っかかっているとして訴えたようです」
「もう少しわきまえろ」という声もあるが「認めたら不利」
本来、訴訟された以上はひとつずつの特許に「引っかかっていない」という証明をしなくてはならないはずだが、ポケットペアは依然として強気な姿勢を見せ続けているようだ。
これに対し、ゲーム業界からは「もう少しわきまえろ」という声もあがっている。
「このまま何事もなかったかのようにポケットペアが営業し続ける可能性もあります。『(侵害を)認めたら不利』なので、基本的には認めない姿勢を崩せないでしょうね。最終的に結果がどう転ぶかは、裁判の行方次第ですから」
特許権侵害以外にも、このようなゲームに関する裁判は過去にあったのだろうか。
「MARIモビリティ開発(旧社名:マリカー)が『マリオカート』の略称『マリカー』を社名に使用して、マリオやルイージなどのキャラクターのコスチュームを貸し出していた事件がありました。
こういった任天堂のブランドに相乗りするような行為が不正競争防止法に違反するとして、任天堂の勝訴が確定しました」
一方で、一見、訴える側が有利に思えるが、著作権侵害が認められず「逆転敗訴」となった事件もあったそうだ。
「GREEはDeNAの『釣りゲータウン2』がGREEの『釣り★スタ』(主に「魚の引き寄せ画面」)に酷似していると主張しました。
しかし二審(知的財産高等裁判所)では『釣り★スタ』の『魚の引き寄せ画面』が“ありふれた表現”“アイデアの範疇”に属するため、DeNAの『釣りゲータウン2』は著作権侵害にあたらないと判決しました。
すなわち、GREEの逆転敗訴が確定しました」
特許を含む知的財産に関する争いは、訴訟のように表面化せず、交渉が水面下で行わるケースも多いのだとか。
「よほどの敵対関係でなければ、いきなり訴えるということは考えにくいです。
おそらく任天堂も、事前に注意喚起や交渉をしていたのではないか。ここに行き着いちゃったのには、なにかそれなりの理由があったのかもしれません」
──「バズりは正義」「売れたもの勝ち」という風潮になって久しい。
アイデアや表現をどう保護するべきか、考えるべき時が来たのかもしれない。
出典元
※1 株式会社ポケモン・任天堂株式会社 「株式会社ポケットペアに対する特許権侵害訴訟の提起について」
https://www.nintendo.co.jp/corporate/release/2024/240919.html
※2 株式会社ポケットペア「当社に対する訴訟の提起について」
https://www.pocketpair.jp/news/news16?lang=ja
※3 株式会社ポケモン「他社ゲームに関するお問い合わせについて」
https://corporate.pokemon.co.jp/media/news/detail/335.html
※4 特許情報プラットフォーム
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7545191/15/ja
※5 判例
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/735/088735_hanrei.pdf
取材・文/綾部まと
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