【チャゲアス全曲サブスク解禁】「SAY YES」「YAH YAH YAH」のメガヒットの裏にある、CHAGE and ASKAの冒険…“変革と実験の時代”を担った知られざる楽曲たち
集英社オンライン / 2024年10月1日 7時0分
“チャゲアス”ことCHAGE and ASKAが、10月1日にデビュー45周年を記念して全曲サブスク配信を解禁する。「SAY YES」「YAH YAH YAH」といった大ヒットのイメージが強い彼らだが、それらの発表の前後にはUK録音の実験性が高い作品を数多く発表している。その魅力を、ビート&アンビエント・プロデューサーのTOMCが解説する。
【画像】「SAY YES」に次いで、ダブルミリオンを達成した衝撃的名曲
CHAGE and ASKA といえば、シングルCD200万枚以上を売り上げた国民的ヒット2作「SAY YES」「YAH YAH YAH」を想起する方は多いだろう。
彼らの1990年代以降の快進撃を知らない世代からすれば、もしかすると「その2作しか知らない」という方もいるかもしれない。
近年、中田裕二 (ex. 椿屋四重奏) や澤部渡 (スカート) をはじめ、玄人筋の支持を集める国内のロック/ポップのミュージシャンたちからも、その緻密なコードワークや楽曲構成へのリスペクト表明が相次いでいる。
そうした再評価の機運が高まるなか、2024年10月1日、満を持してストリーミング配信が開始された。
いわゆる“サブスク解禁”のこのタイミングで、前述のダブルミリオンヒットに留まらない、彼らの奥深い音楽性を改めて多くの方に知っていただけたらと思う。
セールス絶頂期に残したUK録音の金字塔『GUYS』
CHAGE and ASKAがイギリスの音楽シーンと深い関係性を築いていたことは、あまり知られていないかもしれない。
彼らがイギリス・ロンドンの音楽家たちと生み出した作品には以下が挙げられる。
・『ENERGY』(1988) ※レコーディングは東京
・『SEE YA』(1990)
・『GUYS』(1992)
・『ONE』(1997) ※ASKAソロ
・『NOT AT ALL』 (2001)
ここでは、「SAY YES」(1991)の国民的ヒットを経てリリースされたアルバム『GUYS』に着目したい。
コード進行の妙技もさることながら、そのサウンドデザインや録音、アレンジ面で、日本のメインストリームでは異例の色褪せない美しさを今なお放っている。
現地のミュージシャンを率い、当時のUK R&B的な音楽性を極めた名盤だ。
参加ミュージシャンに少し触れると、例えば主要アレンジャーとして過半数の楽曲に関与したジェス・ベイリーは、スパンダー・バレエ『True』(1983) やシンプリー・レッド『Stars』(1991) への参加でも知られる名うての鍵盤奏者。
ほぼ全曲のドラムを担ったニール・コンティは、UKの至宝ともいうべきポップバンド、プリファブ・スプラウトのメンバーであった。
“バラードのチャゲアス”の到達点と、その後
彼らの武器であるボーカルの音量はやや抑えられ、楽器の音はややオフマイク気味に、スタジオの生の残響・部屋鳴りを取り込んだ柔らかな音像が採用されている。
コンプレッサーの処理を抑え、同時代の他のCD作品と比べて音量をあえて絞った、メリハリを強調したサウンドデザインが実に挑戦的だ。
具体的な楽曲を挙げると、極太のベースが牽引するアシッドジャズ的なグルーヴィ・チューン「HANG UP THE PHONE」は、世間一般のスタジアムロック的なCHAGE and ASKAのイメージを覆すであろうクールな1曲。
他に、現地スタッフの強烈なレコメンドで先行リリースが決まったという瀟洒なミディアムR&B「no no darlin’」や、アンビエントとも見紛うほど深い残響のなかで歌われるジャジーなスローバラード「WHY」も白眉だ。
CHAGE and ASKAは、第二のダブルミリオン・シングル「YAH YAH YAH」(1993) 以降も「Sons and Daughters 〜それより僕が伝えたいのは」(1993) や「You are free」(アルバム『RED HILL』(1993) 収録) といったR&B系のナンバーをリリースしているが、徐々に「YAH YAH YAH」の勢いを反映してか、彼ら元来の魅力であるダイナミックでステージ映えする作風に立ち帰っていった。
当時の彼らは「SAY YES」後のパブリックイメージである“バラードのチャゲアス”の払拭に懸命だったとの噂もあるが、もし彼らが『GUYS』の作風を貫いていたら、のちに渡米した久保田利伸や小室哲哉プロデュースの諸作、UA〜宇多田ヒカルら“ディーバ”が築いていった日本のメジャーシーンにおけるR&B史は、少しだけ違ったものになったかもしれない。
とはいえファンにはご存知の通り、彼らはR&Bに留まらない、国内メインストリームを代表していたとは思えないほど“突き抜けた”、ときに摩訶不思議とも呼びたい音楽性を持ち合わせていた。
ここからは、そうした世間一般に浸透している“スタジアムロック”で“パワーバラード”な彼らのイメージとは異なる、メガヒット時代前夜の音楽性に迫っていこう。
「Trip」「WALK」が映す“変革”の時代
前述した、CHAGE and ASKAで初めてイギリスの音楽家たちと制作したアルバム『ENERGY』で先行シングルに選ばれたのが「Trip」(1988) だ。
冒頭のASKAの雄叫びのような絶唱に始まり、都会的なスムースさとニューウェイヴ方面に通じる妖しさを織り交ぜたアレンジは、例えば当時の井上陽水が試みていたブライアン・フェリー的なアレンジにも通じるが、特有の入り組んだコードワークやダイナミックさが加わることで無二の領域まで昇華されている。
なお、他の彼らのCHAGE and ASKA作品でも見受けられるように、この曲はシングル版、アルバム収録版、その後のベストアルバム収録版のいずれもバージョンが異なる。
なかでも『ENERGY』収録版のアレンジは特筆もので、本編ラストのコーラスから高速のラテン調のビートが立ち現れ、ASKAのスキャットが乱舞する──という圧巻の内容だ。
一見唐突なようでいて、聴き手を強烈に惹きつけるドラマティックな魅力〜説得力に満ちた、こうした“攻め”のアレンジを採用できるところにも、当時の彼らの好調ぶりが伺い知れる。
当時、光GENJIのプロデュースワークで知名度を高めていたことを思うと、あえてその裏をかくような挑戦的なリリース内容にも驚かされる。
このアーティスティックな方向性のひとつの頂点が「WALK」(1989) だ。
のちに「SAY YES」後の時代にリリースされた『SUPER BEST II』(1992) から再シングルカットされ、初出時を上回るオリコン3位を記録したことで、より多くの方に知られることとなった本曲。
アンビエントを思わせる深いリバーブの効いた音像の中で、当時としては極めてスローなテンポ感でASKAが美しい声の伸びを聴かせる。
そこから太いビートが入り、意表を突く「La la la...」のハイトーンコーラスを経て、ダイナミックなブリッジから印象的なサビへと流れ込む。
単純にバラードと呼ぶにはロック的な力強いドラムが目立ちが強く、かといってパワーバラードと呼ぶには繊細かつ複雑な(マニアックで珍しい)アレンジが施され、それでいて多くの人々の心を打つ真っ直ぐなメッセージも持ち合わせている。
こうした唯一無二のバランス感覚こそ、彼らが時代に埋もれることなく語り継がれてきた所以だろう。
安住を拒むように挑戦を続けた
このフェーズを経たCHAGE and ASKAは、前述したUK録音の『SEE YA』からASKA流の魔術的コード×メロディーの真骨頂である「DO YA DO」、そしてメガヒット期への布石となる永遠の名曲「太陽と埃の中で」を経て、「SAY YES」以降の時代へと突入していく。
その後の活躍は多くの方が知る通りだが、そうしたなかでも静謐なアレンジと渦巻くようなコード進行を織り交ぜた「river」(1996) など、彼らの音楽的冒険は留まるところを知らない。
初のセルフプロデュース作『NO DOUBT』(1999) ではまさかの挑発的なインダストリアル・ロック「higher ground」や、アンニュイなダウンテンポ/トリップホップ「熱帯魚」を生み出すなど、彼らは2009年の無期限活動休止に至るまで、安住を拒むように音楽性を拡張し続けた。
また、本稿では「Trip」以前の音楽性には触れていないが、例えば、2010年以降のアンビエントR&Bと共振するような「オンリー・ロンリー」(1985) や「Key word」(アルバム『TURNING POINT』(1986) 収録)、「WALK」と並んでプログレッシヴな「風のライオン」(アルバム『RHAPSODY』(1988) 収録) といった楽曲の存在も見逃せないだろう。
今回のサブスク解禁により、彼らの唯一無二の音楽性やキャリアが、少しでも多くの音楽ファンに知られていくことを願いたい。
文/TOMC
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