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<不登校支援業者の闇>「平均3週間で不登校を解決」「再登校率は90%以上」をうたう業者を利用した母親の懺悔。息子は泣きながら「僕をいじめるお母さんなんて大嫌い」と反発し…

集英社オンライン / 2024年10月5日 11時0分

間中あゆみさん(仮名・40代)は、2年前から息子が不登校であることに頭を抱えていた。なんとか息子を再登校させたい──。その一心で辿り着いたのが、インスタグラムで見つけた民間の“不登校支援業者”だった。「平均3週間で不登校を解決」「再登校率は90%以上」。こうしたうたい文句に希望を抱き、利用料の45万円を払った。しかし、いざプログラムを遂行し始めたところ、間中さんが直面したのは思い描いていた理想とはまったく違う惨状だった。(前後編の前編)

【画像】「平均17日で再登校」「再登校率90%以上」をうたう不登校支援業者のサイト

夏休み明け、突然の登校拒否

文部科学省のデータによると、2022年度の小中学生の不登校児童・生徒は約30万人にのぼり、過去最多を記録している。

とりわけ夏休みなどの長期休暇明けは、これまで学校でしんどい思いをしてきた児童・生徒が、登校するプレッシャーを強く感じるタイミングで、自殺や不登校の割合が多くなることも周知の事実だ。

2022年の夏休み明け、当時小学2年生の息子が、ランドセルを背負いながらも「学校に行きたくない」と泣きじゃくり、間中さんは玄関前に突っ伏すしかなかった。

「息子からのSOSは突然だったので、頭が真っ白になったのを覚えています。もともと息子は繊細で感受性が強く、教室で誰かが怒られていると自分のことのように錯覚したり、体育の時間になると緊張して体が強張ってしまうと明かしていました。

いま思えば、息子は学校生活を窮屈に感じて、ストレスが蓄積していたのだと思います」(間中さん、以下同)

少し休んだらまた学校に戻ってくれるはず……。当初はそう考えていた間中さんだが、1ヶ月が経過しても息子は登校するそぶりを見せなかった。

むしろ学校に行けないことを負い目に感じたからか、自分の髪の毛をむしったり、自分の指を強く噛んだりと、自傷行為めいた行動を取るようになった。

「息子は『なんで自分は学校に行けないんだ』と悩んでいました。本人も学校に行きたい気持ちはあるのに、いざ通おうとすると足が動かない。そのジレンマに苦しんでいたのだと思います」

夫の反対を押し切り、45万円を支払い

もがき苦しむ息子をそばで見ていた間中さんは、藁にもすがる思いで、ネットやSNSで不登校について調べるようになる。

その一環で辿り着いたのが、インスタグラムで見つけた「スダチ」という不登校支援業者だった。

「スダチのホームページには、『平均3週間で不登校を解決』『再登校率は90%以上』といった実績とともに、肯定的な口コミが多数書かれていました。

実際に、無料面談を受けてみると、熱血そうなスタッフが対応してくれました。当時、周りに同じような境遇のママ友もおらず、誰にも悩みを打ち明けられないでいた私は、精神的にも不安定で揺らいでしまったんです。

夫は『そんなの効果あるのか? 騙されてるぞ』と強く反対していたのですが、子どものためなら端金だと、夫の言い分を押し切って入会しました」

こうして2022年秋に、およそ45万円を払い、サポートを受けることを決めた間中さん。

スタッフと間中さんがオンラインで、そのつど家庭の状況を報告しつつ、スタッフが改善策を提示するスタイルで、再登校のアプローチを進めていった。

「スダチからは、『起床から就寝まで時間を決めて家族全員で同じ生活リズムを送る』『スマホやパソコンなどのデジタル機器を取り上げる』『子どもを1日10回以上褒める』といった具体的な指示がありました。

スタッフからは、『デジタル依存によって生活習慣が乱れ、睡眠障害やうつ病などの精神疾患、注意や遂行能力の低下を引き起こす』と指摘されました。

また、『デジタル機器を取り上げることで生活リズムを立て直し、社会に出るための準備をしましょう』と提言されました」

「主導権は親が握ること」

しかし当然ながら、スマホを取り上げたことで、息子は反発するようになる。

「息子には『あなたが学校に行くまでのルールだから』と、断りを入れて制限をかけました。

それでも息子は大暴れして、家の家具や壁などあらゆるものを破損して、『僕をいじめるお母さんなんて大嫌い』って何回も泣き叫ぶんです。

もちろん息子に可哀想なことをしているという良心の呵責もありました。

そのことを、スダチのスタッフに相談したところ、『子どもが抵抗するのはどの家庭にもあることで、お母さんの努力が足りないんです。再登校のため毅然とした態度でプログラムを遂行しましょう』と激励されました」

実際に、スダチのスタッフと思わしきSNSアカウントには、再登校を実現した家庭の成功体験が綴られている。

そこには「警察へ通報するなど~」「ベランダに足をかけたり暴言を吐いたり〜」といった、不登校児童が強く反発しているにもかかわらず、登校刺激を与え続けた報告が散見される。

また、利用者に提供されたスダチの資料によれば、「主導権は親が握ること」「家庭の中のボスは親・子どもの奴隷にならない」といった文言も確認できた。

こうしたアプローチには、子どもを追い込む側面もあるといえる。SNS上では、娯楽を取り上げられた子どもが反抗する事例だけでなく、反対に子どもが無気力になったり、会話をしなくなったりしたことを嘆く親の声もあった。

ただでさえ学校に居心地の悪さを覚える児童・生徒が、家庭でも窮屈な生活を強いられれば、親への不信感を募らせ、より閉塞感を覚えてしまうはずだ。

スダチのプログラムでは、親子関係を構築する重要性が謳われているものの、これではかえって親子関係も破綻してしまうだろう。

たしかに「学校に行くまで」というルールで再登校を促せば、一時的に学校へ復学する子どもも出てくるはずだ。

ただ、再登校後も、子どもに植え付けられた親への不信感や、家庭への絶望感は残り続ける。

スダチの利用者の中には、再登校に至った子どもが、後に自傷行為に走ったと明かす保護者もいた。

保護者側も自己嫌悪に

精神的に追い詰められるのは保護者も同じだ。子どもを過度に厳しくしつける負い目と、それでもプログラムを遂行しないといけない義務感との狭間で、焦燥感に追い込まれていく。

間中さんは「再登校率90%以上」という数字もプレッシャーになり、自己嫌悪に陥っていったという。

同様に、別の30代の保護者も、登校刺激により、親子関係が悪化した弊害を明かす。

「最初は希望を抱いて入会しており、再登校して欲しいと強く願っているので、『向こうの指示通りにプログラムをやり切らないといけない』という思考になる。

スタッフからは『親が強く働きかければ子どもも変わる』と発破をかけられ、その通り毅然とした態度で接したら余計子どもに反発されて嫌われる。

そのうち親子関係も悪化して、これから子どもと一緒にどうやって生活していけばいいのか……と、不登校の支援をお願いしているはずなのに、私まで孤独で不安定な想いをしました」

結局、間中さんは、これ以上息子が荒れるのを危惧して、2週間ほどでスダチのプログラムの遂行を止めた。

「息子を押し付けるようなスダチのアプローチが逆効果だったので、いまはまったく違うスタンスを取っています。

現在は不登校当事者の家族会に参加するなどして、自発的に子どもが復学するのを見守ろうと考えています」

板橋区が不登校支援で迷走

そんなネガティブな側面も懸念されるスダチが、いま物議を醸している。2024年8月5日、スダチが「板橋区と連携し不登校支援を強化」とプレスリリースを発表したのだ。

それから数日後に、板橋区の教育委員会も「一部学校で試行」と説明するなど、両者が連携を匂わせる動きを見せた。

一連の動きに対し、SNSを中心に懸念の声が広まった。「無理に登校を促すのは逆効果」とスダチの事業内容を批判する声や、「区の教育委員会が特定の団体と連携するのはいかがなものか」と板橋区の運営体制を疑問視する意見が目立った。

さらに、上記に対して、NPO団体や保護者団体、居場所事業の主宰者、精神科医や心理士の医療職などを含む有識者らが、区長と区教育長宛に公開質問状を提出する事態にまで発展。連携の経緯や、区の不登校児童・生徒に対する方針に関する内容が問われた。

スダチから発表されたリリースは同月13日に撤回され、現在は板橋区から公開質問状の返答が得られているものの、不可解な動きには混乱が残る。

これらの騒動はなぜ起こったのか、板橋区は事の経緯をどう感じているのか。

後編では、公開質問状を提出した面々に件の問題点を解説してもらいつつ、多方面からひもといていく。

取材・文/佐藤隼秀

まちがいだらけの“不登校対策”で板橋区が迷走「家庭の中のボスは親・子どもの奴隷にならない」をうたう民間業者との連携を模索していた? 精神科医は「はっきり申し上げて時代錯誤」〉へ続く

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