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まちがいだらけの“不登校対策”で板橋区が迷走「家庭の中のボスは親・子どもの奴隷にならない」をうたう民間業者との連携を模索していた? 精神科医は「はっきり申し上げて時代錯誤」

集英社オンライン / 2024年10月5日 11時0分

<不登校支援業者の闇>「平均3週間で不登校を解決」「再登校率は90%以上」をうたう業者を利用した母親の懺悔。息子は泣きながら「僕をいじめるお母さんなんて大嫌い」と反発し…〉から続く

板橋区の不登校対策が迷走している。8月初頭に、「3週間で再登校」を謳う民間企業が、板橋区と連携するとプレスリリースを発表。するとSNS上では、数々の懸念が指摘される特定の企業と行政が連携を図ろうとした事実や、再登校を強要するかのようなプログラムに対して、不安視する声があふれた。その1週間後に板橋区がこのリリースを否定。いったい、板橋区になにが起こっていたのか。

【画像】板橋区との連携を相談なしに発表した不登校支援業者のプレスリリース

「平均3週間で不登校を解決」「再登校率は90%以上」──。

こうしたうたい文句で、不登校児童・生徒の支援を掲げる株式会社スダチ。サイトには「顧客満足度97.8%」という数字が目立つ一方、再登校を促すことで不登校児童・生徒が拒否反応を起こし、親子関係が悪化するケースも報告されている。

このスダチが8月5日に「板橋区と連携して不登校支援を強化する」といった内容のプレスリリースを発表し、物議を醸した。

現在プレスリリースは撤回されているものの、NPOや不登校支援団体、居場所事業の主宰者、精神科医や心理士の医療職などが連盟で、区長と区教育長宛に公開質問状を提出する事態にまで発展したのだ。

不登校支援を巡り、迷走した板橋区だが、一連の経緯ではなにが問題視されていたのか。また、板橋区の教育委員会事務局ではなにが起こっていたのか。

「家庭の中のボスは親」

まずは板橋区と連携をとる予定だったスダチとはなにか整理したい。

スダチは前述の通り平均3週間での再登校を掲げ、子どもと直接対峙することなく、完全オンラインで保護者に指導を行なう。

そして子どもの生活習慣を整えるため「スマホなどのデジタル機器や娯楽を制限」「1日のタイムスケジュールを厳格に決める」などのアプローチを採用している。

一方で、問題視されるのは、親子間で上下関係を敷くことを念押しされた点だ。

実際にスダチを利用した保護者によれば、たとえデジタル機器を没収された子どもが反発しても、保護者は毅然とした態度でプログラムを遂行することが求められた。

スダチのマニュアル内には、「家庭の中のボスは親・子どもの奴隷にならない」といった文言も確認できた。

「1から10まで間違っている」

こうしたスダチと連携する板橋区に異議を唱えたのが、公開質問状を提出したNPOや有識者らだ。

NPO法人 登校拒否・不登校を考える全国ネットワーク共同代表・中村みちよ氏は、スダチの問題点を次のように総括する。

「そもそも不登校を訴えた時点で、子どもはかなり切羽詰まった状況にあり、家庭に安寧を求めたいはず。それにもかかわらず、一方的にデジタル機器を取り上げるなどすれば、子どもは家庭に居場所がないと感じてしまう。

無理に学校に行かせるアプローチは、のちに自傷行為や自死にいたる割合が高いとの研究結果もあり、それらの懸念を考えていないのはとても危険です。

また、親御さんの多くは、周りに子どもが不登校であることを知られたくないため、身近な人に相談する心理的なハードルが高い。

さらに、プログラムの内容を口外禁止にして、違反した場合は賠償金を支払う契約にしているのも悪質で、問題が起きた際の返金対応がないことにも疑問を感じます」

続けて、有識者として名を連ねた精神科医の斎藤環氏も、「スダチのやり方は1から10まで間違っている」と一蹴する。

「2020(令和2)年度に文部科学省が行なった調査によれば、小中学生が不登校にいたる主な要因には、先生の体罰や相性の悪さ、同級生からのいじめや嫌がらせが挙げられています。

加えて文科省は、子どもが不登校にいたるにはさまざまな背景があり、『不登校を問題行動と見なしてはいけない』と明言しています。

つまり、不登校児童・生徒が再登校できたところで、学校環境など外的要因が改善されなければ、根本的な不登校の解決にはならない。

不登校という一部の現象のみにフォーカスせず、学校生活において子どもを揺さぶる問題全体に視野を広げ、児童・生徒のメンタル全体の調和を考えるべきなのです。

そう考えれば、スダチのようなアプローチは根本的には無意味です。むしろ再登校を是として登校刺激を与えるプログラムは、子どもに悪影響を与える悪夢のようなものでしかありません。

かつて不登校であることは、発達障害などパーソナリティの問題として捉えられ入院治療の対象だった時代もありました。

それが1980年代から、不登校は教育システムや社会の在り方の問題として捉え直され、文科省のガイドラインも改訂されたのです。そうした歴史を踏まえても、スダチのアプローチは完全に時代錯誤といえます」

「行政は透明性を担保してほしい」

当然、上記の懸念が指摘されるスダチと連携を図ろうとした板橋区にも疑問が残る。同じく質問状を提出したNPO法人 フリースクール全国ネットワーク・中村尊氏が指摘する。

「今回、板橋区とスダチが連携した実績が残ってしまうと、他の自治体にも同様の取り組みが波及してしまう可能性を自覚してもらいたいです。

それに不登校支援に取り組む我々からしたら、支援先を1カ所に絞るのは危険なこと。

もしかしたら板橋区は、他の民間団体ともやり取りをしていたのかもしれないですが、表面的にはスダチのみと協力しているような印象を与えてしまった。

我々のような非営利団体も、不登校問題に取り組んでいくためには、行政や民間と協力していかなければならない。

それゆえに、行政は透明性を担保してほしいのですが、なぜ区の不登校ガイドラインの方針と異なるスダチだけと提携しようとしたのか……。

一連の説明をしないと、安心して行政を頼ることができなくなってしまいます」

板橋区が想定外だったこと

では、板橋区の見解はどのようなものか。一連の経緯や公開質問状を受けたことについて、板橋区教育委員会指導室の冨田和己室長に話を聞いた。

──今回の件について、どのような経緯があったのか。

和己​氏(以下同) きっかけは2023年の10月31日に、とある区議会議員からスダチを紹介されました。我々のような行政としては、生活リズムや親子関係などにまで踏み込んで不登校支援のアプローチをするのは難しい。

そこでスダチのように、保護者に働きかけて親子関係を改善しつつ、子どもを自立させるやり方について、ご意見をうかがいたいという運びとなりました。
 

──スダチが板橋区と連携するプレスリリースを出したことについては?

スダチがリリースを出したことは、想定外のことで驚いています。リリース公開日や文面などに関する事前説明がなかったことに加え、我々としても連携を強化するという認識はなかった。文面や文書で誓約を交わしたわけでもなかったです。

──実際のところ、スダチとはどこまで話が進んでいたのか。

板橋区としては、スダチのプログラムを全校規模で展開したり、そのために区が予算をつけたりすることは考えていませんでした。

実際のところ、研究段階の取り組みとして、今年6月に学校長の理解をえられた区内の2校をスダチに紹介しました。

その後7月に、1校の保護者9名にチラシを配布し、そのうち1名がスダチの説明を聞きたいという申し出があったという段階でした。

──今回の騒動についてどう説明するか。

板橋区としては、スダチの実情を理解していない状態で、慎重に話を進めていかなかったことを反省しております。

区教委としては、少しずつアプローチしていきたいという段階で、細部にわたっての内容確認が不十分でした。そのためスダチとの合意や共通理解がえられず、多方面にご迷惑をおかけしてしまいました。

スダチは取材拒否

その後、板橋区は公開質問状に対する回答を発表。不登校対応方針について、「不登校児童・生徒への支援は、『学校に登校する』という結果のみを目標にするのではなく、将来、児童・生徒が豊かな人生を送れるよう、社会的に自立をすることをめざすものである」と明言した。

一方、スダチは、一連の流れをどう思っているのか。筆者が回答を求めたところ、代表の小川涼太郎氏から下記の返信が来た。

「今は一部を切り取りネガティブな意図を持って拡散をされる状況にありますので、特に多方面の取材を元にした記事についてはお断りしております。

単独での取材や弊社の事業へネガティブな目線ではなく、フラットな取材についてはお受けしております。また機会がございましたらご取材いただけますと幸いです」

現在、小川氏のXのアカウントは削除され、スダチの公式アカウントの投稿も消えている。また、板橋区は、今後のスダチとの関わりを否定している。

2022年度の文部科学省のデータによれば、小中学生における不登校児童・生徒は約30万人と過去最多を記録した。

一連の取材を通じて、不可解なしこりは残るも、1人でも多くの不登校児童・生徒が、適切な支援につながってほしいと切に願う。

取材・文/佐藤隼秀

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