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「ありかも!」長澤まさみのCMで認知度爆上がりの中国の電気自動車「BYD」 高性能なのに日本で苦戦している理由とは?

集英社オンライン / 2024年10月2日 8時0分

長澤まさみさんが「ありかも!」と微笑むCMを見たことがあるだろう。中国のEV(電気自動車)メーカー、BYDの広告である。テスラとも肩を並べる世界的EVメーカーだが、日本ではまだまだ売れているとはいいがたい。その理由を企業のマーケティングに詳しい永井竜之介氏に解説してもらった。

【写真あり】BYDの人気車種 ATTO 3の車内インテリアをみる

「ありかも、BYD!」

「Build Your Dream」の頭文字を組み合わせた名の中国EVメーカー「BYD(比亜迪)」は、「ありかも、BYD!」とほほ笑む長澤まさみさんの高い好感度のおかげで、日本で知られ始めている。

2024年4~6月に展開されたこの広告は、2024年度上半期CM指名検索スコアランキング(ノバセル株式会社による調査・発表)で第3位に入るほどの高い注目を集めることに成功した。

広告展開前には約20%だったBYDのブランド認知度は、2倍の約40%に急上昇すると予測されており、ディーラーへの来店客数や販売台数も増加傾向にある。※1

大きな成果をあげた広告は9月から再展開されているが、中国メーカーの品質を不安視する声も大きく、賛否を含めた注目になっている。

客観的な事実として、BYDは中国国内の熾烈なEV競争を勝ち上がり、欧州への本格進出も進めるなど、EVの本命と言える存在だ。

「中国のあやしいEVが日本に来た」といった印象を抱いているとしたら、それは大きな誤解であることは強調したい。事実、世界のEV市場ではアメリカのテスラと中国のBYDが激しい首位攻防戦を繰り広げている。

さらに、円安の影響もあり2024年4〜6月の連結決算が1兆3084億円と同時期では過去最高益を記録したトヨタでさえ、中国市場では売り上げを伸ばせておらず、BYDの好調ぶりに手を焼いているのだ。

テスラのパクリ?

1995年に中国の深圳で、もとは携帯電話用バッテリーを製造する電池メーカーとして誕生したBYD。そのEVの品質や安全性の評価は決して低くない。

自動車のデータ解析を専門とするアメリカのケアソフト社は、BYDの自動車を分解して品質を分析した結果、BYDの低価格帯EVが、アメリカ製の高価格帯EVに匹敵する品質を備えていることが分かったと報告している。

同社スタッフは、当初、BYDを「テスラのパクリ」と考えていたというが、実際に分解して分析してみると、製造技術、装備、外観、内装、走行性能、安全性能、いずれも高水準で、「もし米中間の貿易障壁が無ければ、海鴎(BYDの車種)は米国市場で大きな競争力を持つことになる」と評している。

他にも、欧州のAUTOBEST「Best Buy Car of Europe 2024」で優勝するなど、BYDのEVは世界から高い評価を得ている。

それでは、日本では本当に「あり」なのか、それとも「なし」なのかを検討したい。

日本の市場や消費者の特性を踏まえれば、現時点では、まだ「あり」と言える段階にはないと言わざるを得ない。

自動車に限らず、食品・家電・生活用品・住宅など、多くのジャンルで日本の消費者は「完璧主義」で「安全第一」である。

新しい商品・サービスは「最初から完璧」であることが求められ、どんなに新しくて面白くても、「なんか危なそう」と少しでも思われればアウトだ。

少々話が飛躍するが、この「なんか危なそう」と敬遠する感覚が強いために、日本では多くのデジタルテクノロジーが停滞している。

生成AI・自動運転・スマート家電・メタバース・NFT・ビットコインなど、アメリカや中国では市民権を得ているものが日本でイマイチ普及しない理由のひとつは、「なんか危なそう」で企業も消費者も手を引いてしまうからだ。

「まず安全、次に便利、そしてお得」、これが日本市場の優先順位だ。まず安全がないと、そこで足切りされ、どれだけ便利さやお得さがあっても利用が進まない。

「なんか危なそう」という認識を完全に払拭することこそが、日本における新商品の普及には重要となる。

「まず安全」を確立するための壁は高い 

話を戻すと、自動車という市場では、日本はトヨタ・ホンダ・日産など世界的メーカーを有する自動車大国であるが、EVでは後進国でもある。自動車に対する評価はとてもシビアで、EVを受け入れる姿勢もまだできていない。

こうした日本の特性を踏まえると、「ありかも!」でアピールするBYDの広告は、話題にはなったものの、日本のユーザーの心を掴むには不十分と言える。

日本での普及を進めていくには、完全に「あり!」と思わせなくてはいけない。

BYDは長澤まさみという稀代のタレントを広告起用しながらも、ブランドイメージを先行させたり、オンライン販売を強化したりするのではなく、地道にディーラーを拡大していく方針を取っている。

2025年末までに100店舗体制の構築を目指しており、製品力に自信のあるEVを店舗で試乗してもらい、品質や安全性を納得してもらいながら、じっくりEVを広めていく戦略だという。

この戦略自体は適切だと考えられるが、「まず安全」を確立するまでの道のりはとても長いだろう。

なによりも日本人には、中国ブランド全般へのネガティブなイメージや先入観があるからだ。「BYDが世界で評価されている」と聞いても、その先入観はなかなか覆らない。

更にメディアやSNSでは、ネガティブ情報の方が目立ちやすく広がりやすい。また、完璧主義の日本の消費者は、基本的にネガティブ情報を探して気にするクセがついている。

EV自体が「まず安全」を確立するための壁は高く、中国ブランドのBYDの前にはさらに高い壁が立ちはだかっている。

あるいはBYDが日本市場に定着することができたのであれば、中国ブランドへのネガティブなイメージが払拭されたことの証明になるかもしれない。


文/永井竜之介
写真/shutterstock

※1 日経クロストレンド「長澤まさみCMの中国BYD、大当たり 来店客86%増で爆売れ現象」を参照。
※2 36Kr Japan「中国BYDの高コスパEVは「米国には作れない」 車両の分解で明らかにされた驚きの理由」を参照、および引用。
※3 日経ビジネス「BYD、日本車の牙城アジアを席巻する世界最大級のEVメーカー」

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