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なぜ人は霊感商法にダマされるのか? 高額な壺を買えば悩みが解決すると思い込ませる巧妙な手口

集英社オンライン / 2024年10月10日 10時39分

“少しだけ”知っている人のほうが初対面より話しにくいのはなぜか? 自分の中に存在するイマジナリーな他者を現実の他人に投影してしまう理由〉から続く

認知科学の概念「プロジェクション」とは、自分の内的世界を外部の事物に重ね合わせるこころの働きのことである。“推し”の存在に生きる意味を見出すようなポジティブな面がある一方、他者によってこころを操られることで、霊感商法などに利用されてしまうというネガティブな側面もある。

【画像】特定の宗教で、とんでもない金額で取引されているもの

今回はなぜ法外な価格の壺を買わされるような被害が起きるのか、書籍『イマジナリー・ネガティブ』より一部を抜粋・再構成し、そのメカニズムを解説する。

霊感商法の手口とプロジェクション

そもそも霊感商法とは、どのようなプロセスでなされるのでしょうか。霊感商法の首謀者が狙うのは、なにか解決しがたい悩みや不安、トラブルを抱えて苦しんでいる人です。そのような状態がある程度の期間続いていたとしたら、人は精神的に不安定になってしまいます。

大きな悩みや不安がなく、精神的に健康な状態であれば、霊能者や占い師などを訪ねてみようという気持ちにすらならないかもしれません。

しかし、そうではない時、なかには、自然を超えたなにかにすがりたくなる人もいるでしょう。霊感商法の首謀者たちは、そうして近づいてきた対象者の精神的な不安定さを巧妙に利用するのです。

ある程度の規模で組織的な霊感商法を実施するグループのばあい、首謀者と協力者が複数人でチームを組んで対象者を取りこんでいくやり方が多く見られます。

まずは、協力者が対象者と知り合いになり、徐々に交友を深めていきます。親しくなると、何気ない会話のなかで、困りごとや悩みについて水を向けられたら、対象者は協力者につい話してしまうこともあるでしょう。

そこでたとえば、肩こりがひどくてつらい、などと言われたら「たかが肩こりと甘く見てはいけない。もしかしたら大きな病気につながるかもしれない」「実は、すごくいい人を知っているのだけど」と霊能者や占い師を紹介します。

「特殊な力で悪いところを見つけてくれて、肩こりを治してくれる」「人助けが趣味のような人だから、料金はかからない」「お願いする人が多いから、ふだんは何ヶ月も先まで空きはないけれど、今回はキャンセルがあったので特別に会えるチャンス」などと言葉巧みに誘います。

最初はあまり乗り気でなかった対象者も、「この人が熱心に誘ってくれるから」「料金がかからないなら」「せっかくのチャンスなら」まあいいか、というくらいの気持ちで首謀者たちのところへ向かいます。

そうして対象者が自分たちのところへやってきたら、しめたものです。霊能者や占い師は、対象者と初対面であるにもかかわらず、ひどい肩こりに悩まされていることをズバリと言い当てます。

それどころか、家族や仕事のこと、ふだんの行動傾向や好きなことなども、初めて会ったのに、どんどん当ててみせます。当てられた対象者がとても驚いて、この人の特殊な能力はすごい、と思うのも無理はありません。

タネ明かしは簡単です。対象者と親しくなっていた協力者がすでに聞きだしていたさまざまな情報を、事前に霊能者や占い師が把握していたにすぎません。けれど、対象者はそんなことなど夢にも思わないので、まるで上手な手品を見て「これは魔法か?」と驚くような気持ちです。

最初は霊能者や占い師に対して、どうということはない心持ちだった対象者が、この霊能者(や占い師)はすごい人だという意味づけをおこない、目の前の霊能者(や占い師)への気持ちが劇的に変化します。ここで、これまでになかった強いプロジェクションがなされたというわけです。

あなたが救われる方法がひとつだけある

ここからは、プロジェクションとの関連で、詳細なプロセスを見ていきましょう。目の前の人物には特殊な力があると信じこんだ対象者に、「○○をすれば、すぐに肩こりは治りますよ」とアドバイスをします。

信じている対象者は○○をしてみますが、肩こりは一向に良くなりません。それはあたりまえ、アドバイスはなんの根拠もないインチキなのですから。しかし、あの人はすごい霊能者だ、という強いプロジェクションをしている対象者は、アドバイスがインチキであるとは考えません。

治らないのは、なにかほかの原因があるのではないか、あの人ならそれも教えてくれるかもしれない、と考えます。

そうして再び霊能者や占い師と会うことになったら、いよいよ首謀者たちは本気で対象者をからめとる作業に入ります(先ほどの簡単なアドバイスのプロセスを省略して、初回からこの段階に進むことも多いです)。

不安を抱えたままの対象者に対して、霊能者や占い師は「たしかに原因はほかにある。なんと先祖の悪行が支障をきたしている」「このままではもっとひどいことが起こる」「家族もろとも不幸になる」などと告げます。自分がすごいと信じている霊能者や占い師から、突然そんなことを断言されたらどうでしょうか? おそらくとても動揺してしまうはずです。

もともと精神的に不安定な状態だったところへ、このようなことを「指摘」されたら、言い知れない不安でいてもたってもいられないくらいでしょう。いったい私はどうしたらいいのだろうと、途方に暮れてしまうはずです。

そこへすかさず、首謀者たちの真の働きかけがなされます。「大丈夫、あなたが救われる方法がひとつだけある」と。そうやって提示される方法が、法外な値段で壺や数珠などを購入することなのです。

なぜ自分の不幸がこの壺を買うことで解消されるのか、そこに合理的な説明はまったくありません。けれど、そんなことは問題ではないのです。すごいと信じている人が目の前にある壺について「これには特別な力を授けておいた」と言えば、なんの変哲もない壺に対して、自分の不幸を解消してくれる特別な壺である、というプロジェクションがなされます。

そうなると、その壺は自分にとって特別なものですから、高額の支払いをするだけの「価値」を見いだすことになります。

自分の内的世界のもやもや

それにしても、肩こりなんてものをきっかけにこうなるだろうか?と思う人もいるかもしれません。たしかに、本当に肩こりで困っているなら、しかるべき病院などに行けばいいのですから、病院に行かない程度の肩こりは、それほど深刻な悩みではないともいえます。

しかし、ここで重要なことは、病院に行くほどでもないけれど「なんとなく気になっている」という点です。このように、本人は悩みとは思っていないようなことにわざわざ注意を向けさせ、それがさらに大きな問題を引き起こすかもしれないという不安を吹きこむのです。

なんとなく気になっていたことがぼんやりした不安として大きくなり、どうしたらいいのか困惑している時に、鮮明な解決策として登場するのが壺です。これがまさに、プロジェクションが大きく関わっているところだといえます。

さらに違う例でも考えてみましょう。大切な人や家族がなにかの問題で深く悩んでいる、けれど自分が直接それを解決することはできない、大切な人や家族の苦しみを前にして自分はどうしたらいいのかわからず八方塞がりのなかにいる、そんな苦しみがあります。

そんな時に、「この不幸の原因は先祖の祟り」「けれど大丈夫、特別な力が宿っているこの壺を買って手元に置くことでお祓いができる」「買わないともっと大変なことになる」などと言われたらどうでしょう。

藁にもすがる思いで、いいえ、もしかしたらやっと光明を見つけたという安堵とともに、なんの変哲もない壺に大金を支払うかもしれないのです。

病院に行くほどでもないが気になる身体の不調と、大切な人や家族の苦しみでは、悩みの本質が異なるのではないかと思われるかもしれません。しかし、プロジェクションという視点からとらえてみると、それらには共通点があります。

自分ではどうしようもないからどうしたらいいのかわからないことや、原因が複雑なうえに解決策がはっきりしないのでぼんやりした不安が大きくなることなどです。

プロジェクションとは、自分の内的世界を外部の事物に重ね合わせるこころの働きです。

外部の事物とは、現実に存在していますから具体的ではっきりしています。一方で自分の内的世界とは、言葉にすらできないようなイメージでもありますから、はっきりとしたなにかではなくもやもやしています。

そのもやもやが外部の事物に投射された時、自分の内的世界をはっきりとしたなにかとしてとらえることができます。これはプロジェクションがもたらす効果のひとつです。

ずっとあなたを苦しめていたことの原因は○○だと断定し、解決策は目の前の壺という具体的な物体の購入として示す、霊感商法がやっていることはつまり、内的世界のもやもやと解決策を目の前の壺に投射させるプロジェクションのプロセスです。

霊感商法は法外な金額こそが問題

これを買わないともっと大変なことになる、という呪いともいえる脅しは、内的世界のもやもやを故意に増長させて、これしかないという解決策を、よりはっきりと印象づけるために効果を発揮します。

たとえば、私はとても視力が悪いので、メガネやコンタクトレンズをつけていないとほとんどなにも見えません。ぼんやりした視界ではなにをするにも不安です。しかし、メガネやコンタクトレンズをつければとたんに世界がはっきりして、なによりもまずは安心します。霊感商法で壺を見せられた人は、そのような気持ちなのかもしれないと想像します。

私が許せないと思うのは、霊感商法がそもそもつかみどころのない不安を増大させたり、あろうことか故意に植えつけて、そこに生じるプロジェクションというこころの働きを利用し、大金を詐取していることです。そして、霊感商法が社会的な問題となるのも、まずはそのような法外な金額です。

ある時、子どもが私にお土産をくれました。出かけた先で「お守り天然石」というものを買ってきてくれたのです。パッケージを見ると「この石を持っていると、仕事にやる気がでて意欲的に取り組めるでしょう」と書かれています。

子どもが「本がうまく書けない時は、この石を撫でるといいんじゃない?」と言うので、原稿がなかなか進まなくて苦しい時(それはしょっちゅうですが)、私はやる気がでるように念じながらこの石を撫で回しています。そして、なんとなくやる気がでたような気がしないでもないと思うのは、間違いなくプロジェクションの効果です。

これが霊感商法と異なるのは、むやみに不安を煽ったりしないのは当然としても、この石が300円だからです。ただの石だと思うとちょっと高いかもしれませんが、お守りだと思えば妥当な価格です。

私も300円分のやる気がでればありがたい、くらいの気持ちで撫で回しています。神社やお寺で売られているお守りやお札、お金を払ってやってもらうお祓いの儀式なども、プロジェクションとしては霊感商法の壺と同様です。

それが霊感商法とは異なり世間で問題とならないのは、先ほどの石と同じく常識的な感覚として価格が妥当だからです。

写真/shutterstock

イマジナリー・ネガティブ 認知科学で読み解く「こころ」の闇

久保 (川合) 南海子
イマジナリー・ネガティブ 認知科学で読み解く「こころ」の闇
2024年9月17日発売
1,012円(税込)
新書判/224ページ
ISBN: 978-4-08-721332-4
認知科学の概念「プロジェクション」とは、自分の内的世界を外部の事物に重ね合わせるこころの働きのことである。
プロジェクションには “推し”の存在に生きる意味を見出すようなポジティブな面がある一方で、霊感商法、オレオレ詐欺、陰謀論、ジェンダー規範など、他者によってこころを操られたり自分自身を無意識のうちに縛ったりすることでネガティブな問題を生じさせる面もある。
実際には起きていないことや存在しないものを想像して現実に投射できるがゆえに生まれる「イマジナリー・ネガティブ」を認知科学の視点で考察する一冊。

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