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「私が彼の一番になる」逮捕者続出でもホストやメン地下にハマってしまう若い女性が後を絶たない理由「ロジックが霊感商法と同じで…」

集英社オンライン / 2024年10月11日 17時6分

なぜ人は霊感商法にダマされるのか? 高額な壺を買えば悩みが解決すると思い込ませる巧妙な手口〉から続く

飲食代金を立て替えた「売掛金」の回収のため、ホストやメンズ地下アイドル(メン地下)の当事者、関係者が客の女性を威圧的に脅したうえで消費者金融にお金を借りさせたり、売春を強要して逮捕されるという事件が相次いでいる。なぜそもそもお金に余裕がない少女たちがそれらにハマってしまうのか?

ホスト店を宣伝する歌舞伎町の看板

書籍『イマジナリー・ネガティブ』より一部を抜粋・再構成し、被害に遭ってしまうロジックを解説する。

ホストやメン地下にハマる少女たち

最近、ホストクラブのホストや経営者、ライブハウスを中心に活動をおこなう男性アイドル「メンズ地下アイドル(メン地下)」やその運営関係者が逮捕されるという事件が、相次いで報道されています。

たとえば、ホストクラブのホストが、飲食代金を立て替えた「売掛金」の回収のため、客の女性を威圧的に脅したうえで消費者金融に借り入れを申しこませたとして逮捕された事件や、女子高校生に酒を提供したとしてホストクラブ経営者が逮捕された事件、ライブハウスなどで活動しているメン地下の写真撮影会で男性アイドルに女子高校生の胸をさわらせたとして、芸能事務所の社長と役員が逮捕された事件などがあります。

これらの事件で注目されたのは、数10万から数100万という多額の料金と、お客である女性たちが10〜20代と低年齢であることでした。

先の事件で、ホストクラブで飲酒した女子高生は、同店で働いていた20代のホストに「ナンバーワンになるために毎日来てほしい」と言われホストクラブに通うようになったそうです。クラブ側が実施する年齢確認の際は、ホストから渡されたニセの身分証を使っていたとのことで、女子高校生がクラブで使った約170万円は、ホストの指示により路上売春で稼いでいたというのです。

2023年の1月には、警視庁少年育成課が「メン地下」への過剰な推し活について、Twitter(現X)で注意を呼びかけています。警視庁少年育成課によると、メン地下はメジャーなアイドルに比べ、物理的に非常に距離が近いことから、精神的に未熟な年代が夢中になりやすいといいます。

ライブ会場におけるチェキの撮影会では、その購入金額に応じたポイントが付与され、たまったポイント数に応じた特典を受けることができる仕組みがあります。なかには、10万〜100万円以上の現金をつぎこまなければ得られない特典もあるのです。

警視庁には、2020年頃からメン地下に関する相談が寄せられるようになり、2022年中には相談件数が前年の約3倍に急増しました。年齢は10代後半が多いそうです。また、警視庁が検挙した違法な性風俗店で働いていた女子高校生のなかには、メン地下の応援のために働いているという少女が複数いたということです。

なぜ、少女たちはホストやメン地下にハマってしまうのでしょうか。

少女たちがメン地下に夢中になる理由について、警視庁少年育成課は「相手は、優しく話を聞いてくれる、褒めてくれる。児童の寂しさを埋め、自己肯定感を高めてくれることが一因として挙げられます。保護者は平素から子どもとコミュニケーションを図り、何でも相談に乗れる関係性を構築することが大切だと考えます」と分析しています。

これはホストに夢中になる理由としても同じことでしょう。

ホストと霊感商法は同じロジック

一昔前でしたら、ホストにハマるのはお金に余裕のある年配女性というイメージでした。お客とホストという関係に擬似恋愛をプロジェクションすることも、おたがいに十分承知していることが前提だったことでしょう。

ところが、まだ恋愛経験が少なく人間関係も狭いような若い人であれば、恋愛を装って積極的に働きかけてくるホストやメン地下に対して本当に恋愛感情を抱いてしまうのも無理のないことです。

一般的なアイドルなどとは異なり、直接会うこともできれば話すこともでき、お金をだせば少しの時間でもその人を独占できるとなれば、なんとかしてそうしたいと思うことでしょう。

プロジェクションの視点から見ると、ホストやメン地下へのいれこみは、お客とホスト/ファンとアイドルという関係に擬似恋愛を異投射しているといえます。

これは、霊感商法とも共通した構図であると考えられます。対象に投射される表象が、呪いからの解放か恋愛関係かといった違いはありますが、プロジェクションの働きを利用することによって継続的に大金を搾取されるという点では同じです。

霊感商法と同様に、ホストやメン地下の搾取対象となる女性は、彼女たちがそういうプロジェクションをするように、ホストやメン地下が、そして彼らを雇っている経営者や運営側が、うまく操っているのです。

擬似恋愛と競争と他者へのマウンティング

しかしここでは、擬似恋愛と課金というプロジェクションの構図を考えるのではありません。ここで考えてみたいのは、ホストやメン地下にハマる擬似恋愛だけではない側面、お客/ファンのコミュニティ内での競争と他者へのマウンティングについてです。

前述の事件にもあったように、ホストのお客には、担当のホストの店での順位を上げる、という使命が課されます。課金額が大きいほどホストの順位は上がるので、お客はそのために店で多額の注文をします。

実際にお金がなくても、借金をしたり売掛金として処理したりして工面をします。なぜそこまでして課金をするのか、もちろん自分の担当ホストをなんとかして応援したいという気持ちもありますが、お客同士の競争もあります。

今月はお客として誰が一番お金を使ったのか、はっきりとわかるようになっています。一番お金を使ったお客がホストから一番いいあつかいをされるばかりでなく、お客同士のコミュニティのなかでも他者を差し置いて一番になれるというわけです。

このような他者へのマウンティングは、通常であれば1対1でおこなわれるような恋愛の関係とは、一線を画した側面であるといえるでしょう。

メン地下にも、ファン・コミュニティでの競争があります。「推し」であるアイドルから応援してねと言われたら、自分の推しがデビューできるように応援したい、自分の推しがグループにいたなら、グループのなかでより人気のある存在にしたい、そんな動機で人気の指標となるグッズ購入などに多額の課金をします。

しかし、競争とはそれだけではありません。ライブとともにおこなわれる撮影会や一緒に出かけられるようなオプションでは、課金の大小で推しをどれだけの時間、独占できるかが決まります。

一番お金を使ったファンがコミュニティのなかでも他者から抜きんでて一番になり、推しを一番独り占めできるというわけです。このような課金やマウンティングも、そもそも1対1になるためにおこなわれているという点で、通常の恋愛関係とはかなり異なっています。

ホストやメン地下のような対象は、本来は自分の現実生活圏には存在していないという意味で、実在する人物ながらも非現実的な存在です。だからこそ、日常を離れたところでの楽しみや癒やしをもたらしてくれます。

「推しのため」の推し活

ゼミ生の田畑里菜さんと、「推し」のような非現実的な対象に感じるリアリティについて、そのファン・コミュニティの規模との関連から研究をしました。

アニメやマンガのキャラクターのようなフィクションである2次元の推しがいる人と、アイドルやスポーツ選手のように実在する3次元の人物を推している人を対象に、推し活の内容と心理状態について詳細なインタビュー調査をおこないました。

すると、推し対象が2次元か3次元かという差異は、推し活の種類へ実質的な制限をもたらすものの、課金額や時間、労力の違いにおいては、次元の差異よりも個人差のほうが大きいことがわかりました。

また、ファン・コミュニティの規模については、推しのファン・コミュニティの規模が大きいばあい、推し活は「自分の楽しみのためにしている」という回答が多く見られました。一方で、ファン・コミュニティの規模が小さいばあい、課金などの推し活は「推しを応援するため」「推しに喜んでほしいから」という回答が見られました。

ファン・コミュニティの規模の大小によって対象との物理的な距離感が変化し、推しへ「現実に」干渉できる可能性や程度が変わるため、推しとの心理的な距離感も変わると考えられます。

そのような物理的/心理的な距離感をファン本人が感知しているから、推しに対する意識や推し活の内容にも影響するのでしょう。

そして、推し本人からファンに対して応援などの要請があったばあいは、ファン・コミュニティの規模にかかわらず、「推しのため」という意識が高まることも示唆されました。

このことから、ファンが感じる推しのリアリティの強さとは、単に推し対象が2次元か3次元かということではなく、推し活をするファン・コミュニティのなかで感じる対象との物理的/心理的距離の近さや、対象からの直接的な働きかけと関連していると考えられます。

ホストやメン地下のお客/ファン・コミュニティは、いわゆるアイドルなどと比べてずっと小さいはずです。

だからこそ、自分の行為がダイレクトに反映され、他のお客/ファンの行動もよく見えます。対象からの働きかけも個別になされるうえ、頻度や強度が高いでしょう。

通常の推し活が、現実生活とのバランスをとりながら「自分のため」になされるのとは対照的に、ホストやメン地下へのいれこみは、本来は非現実である存在のリアリティが強いため現実世界が侵食され、「推しのため」の推し活になっているといえるのです。

写真/shutterstock

イマジナリー・ネガティブ 認知科学で読み解く「こころ」の闇

久保 (川合) 南海子
イマジナリー・ネガティブ 認知科学で読み解く「こころ」の闇
2024年9月17日発売
1,012円(税込)
新書判/224ページ
ISBN: 978-4-08-721332-4
認知科学の概念「プロジェクション」とは、自分の内的世界を外部の事物に重ね合わせるこころの働きのことである。
プロジェクションには “推し”の存在に生きる意味を見出すようなポジティブな面がある一方で、霊感商法、オレオレ詐欺、陰謀論、ジェンダー規範など、他者によってこころを操られたり自分自身を無意識のうちに縛ったりすることでネガティブな問題を生じさせる面もある。
実際には起きていないことや存在しないものを想像して現実に投射できるがゆえに生まれる「イマジナリー・ネガティブ」を認知科学の視点で考察する一冊。

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